第11話 差別
実話を元にしています。
祝日の早朝、突然ドアを激しく叩く音がした。
「何です乱暴な」
「ここに男のくせにスカートを履いて学校に通っている奴がいると聞いた。出せ。出さないと家捜しして引きずり出すぞ」
お母さんが固まっている。
僕は警察に電話した。
しばらくして警察が来た。
「何だお前たちは」
「俺たちは正義の味方だ。この家に変な奴がいると聞いたから根性を叩き直してやりに来た」
「一緒に来てもらいます」
「俺たちは正義の味方だぞ」
揉み合う音がした。
「公務執行妨害で逮捕する」
静かになった。
しばらくして、「彼らは署まで連行します。もう大丈夫ですよ。しばらくはパトロールを強化します。」と言って警官は去って行った。
お母さんの顔色は真っ青だ。
「連れて行ったって。もう大丈夫だよ」
お母さんは腰を抜かしていた。
リビングに連れて行く。
インタフォンが鳴った。
「こちらのお子さんの学校の教員です」
「何の用ですか?」
「お子さんが女子の制服を着て通学しているのをご存じですか?神は男と女しかお作りになっていない。そして神は男が女の服を着る事を禁じられた。。あなたのお子さんは神の律法に反する事をしているのです」
「お帰り下さい」
「あなたも神に逆らうのですか?」
担任の先生に電話した。
玄関先で演説している教員のところに担任が来た。
「先生、ご迷惑ですよ。さ、行きましょう」
「私は神の教えを説くという神聖な仕事をしているのです」
何人かで来ていたらしい。
「私から手を離しなさい。無礼ですよ」とか喚いていた。
さっきの連中をそそのかしたのも、この教員らしい。
静かになった。
お母さんは震えていた。
ミルクを温めて差し出した。
「ああ、怖かった」
もう大丈夫そうだ。
僕はパジャマからブラウスとスカートに着替えた。
しばらくお母さんのそばでテレビを見ていた。
「もう大丈夫よ」
しばらくしてインタフォンが鳴った。
お母さんが身構える。
やって来たのは同じクラスの女子だった。
「先生から電話があったの。大変だったわね。様子を見て怯えている様だったら励まして連絡して欲しいって」
「ありがと。お母さんが怯えていたみたい」
「あの先生にも困ったものね」
「何かあつたの?」
「神社に行って『人々を惑わすのは止めなさい』と言ったり授業中にお寺の子に『淫祠邪教を広める悪魔の子』と言ったりして問題になってるの。聞いた事無かった?」
「何か聞いた事ある様な」
「もう辞めさせられるんじゃ無いかって言ってたわよ」
「ふーん」
「あなたみたいな性分化障害の人?は入れない教会もあるって聞くからねぇ。でも、大丈夫そうでよかったわ」
「うん。僕負けない」
くすっふふふふふふふふふ。
また、インタフォンが鳴った。
「あ、俺たち。変なのが来て困ってるって聞いたからボディガードしに来た」
目が潤んできた。
実際は怖かったのかな。
受け入れない人がいても、受け入れ入れてくれる人がいて嬉しかった。
みんなで賑やかに遊んでいたら、お母さんも落ち着いたみたい。
この前もらったドレスとウイッグを着て見せたら
「おーっ女の子だな」
と変な事を言って赤くなる男子がいた。
「何で赤くなってんの?」聞いてみた。
「いや、僕と結婚式を挙げてる姿を想像しちゃって」
呆れた。
「まだ男の子を好きになれないから」
そう言うと、残念そうにしていた。でも
「まだなんだよな。期待して良いよな?」
そんな事を言うから
「勝手にすれば」と言ってやったら、嬉しそうな顔をしていた。
ふと、ウェディングドレスを着て並んでいるところを想像してしまった。
「いや、それは無いから」
翌日、学校に行ったら、あの先生の姿は無く、机も片づいていた。
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