第24話 本性 2
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膝をついた姿勢のまま、シドニウスは背後に顔だけを向けて声を飛ばした。
「アクセル殿にデイジー殿。それに、皆様も。こちらに、お越しになられたのですね」
「ああ、爆発音が聞こえて、モカも叫んでいたから飛んできたんだ。しかし……あいつらは?」
アクセルの視線の先には紫色の獣たちがいた。
「魔人が召喚した毒の獣です……!」
そんな説明を終える事を待つことなく、二匹のプラークタイガーが迫って来た。
「き、気を付けてください……! あれらは毒です。触れただけで消耗します!」
そんなこちらの言葉に、勇者たちは、顔を見合わせた後、
「ああ、そうなんだ。じゃあ、焼き尽くしちゃえばいいんだね」
「なら、オレたちの得意分野だな、触れなきゃいいんだ」
前方にいたバーゼリアとデイジーがそれぞれ、片手を構えた。
「【煉獄の竜息!】」
「【錬成:大地からの圧殺球】」
瞬間。
一匹は、バーゼリアが放った火焔により、燃え尽き。
もう一匹は、大地から生み出された鉄球により押し潰された。
「な……んという、火力……」
驚くシドニウスを前に、サキはふむ、と頷き、
「……今の所、私の出る幕はなさそうですが――アクセル、そちらの手は足りてますか?」
背後を向いた。
そこではアクセルが何人もの人に肩を貸し、起こしていた。
「問題ないから敵に集中していい。……アンタらは動けるな? 今の内に、負傷者を倉庫街の外まで下げたいんだが、行けそうか?」
「そ、それ位は可能だ。か、かたじけない、アクセル殿」
「良いって。さあ、行ってくれ」
バーゼリアたちが攻撃している間に、救助をしてくれていたのだろう。
倒れていたギルドのメンバーや、騎士団員たちは、もうほとんど見えない。
「あとは……あんまり動けそうにないのは、シドニウスと数名か」
こちらを見ながら言ってくるアクセルに対し、有り難いと思いながら、シドニウスは頭だけを軽く下げた。
「す、すみません、アクセル殿。お手を煩わせて。私の事は気になさらず、まず部下の方を運んでいただければ……」
「……分かった。動けない奴らは、俺が後ろまで運んでおく」
そんな風に受け答えをしたアクセルは怪我人を後退させ始める。
そんなやりとりの中、前方にいる憑虎君が、にやりと笑った。
「中々いきなり騒々しいが。このワタシの……魔人・憑虎君の前によくぞ来たな、勇者共」
そんな声を発する憑虎君に、まずサキが笑みで応対した。
「自己紹介ありがとうございます、魔人さん。しかし、貴方は私たちの事を知っているのですね」
「勿論。戦争時代から、貴様らの脅威は知っている。ただの憑虎君として、戦った記憶もあるし……毒に対しての耐性スキルを持っている事もな。今回はついでに、そこの勇者アクセルの名を持つ運び屋の厄介さも、今回プラスされたが、まあ、些細な事だ」
く、と憑虎君は喋りながら笑みを見せる。
「笑うだなんて、随分と余裕を見せてきますね、魔人さん」
「当然だとも。ここで貴様らを倒せると思うと、笑いが止まらないからな。魔人・憑虎君ベインの名のもとに、貴様たち勇者を滅せる。これほど素晴らしい事はない」
抑えきれないように、くく、と憑虎君は声を零す。
勇者が二人。更には竜王が一人いて、攻撃可能な距離にいるという状況にも拘らず、憑虎君の笑みは止まらなかった。
「なんだお前……。この状況で追い詰められているのはお前だってのに。何か手でもあると――」
言うのか、と。
そんな風な言葉をデイジーが言い終える前に。
「けふっ……?」
「……え?」
デイジーは口元から血を零した。いや、デイジーだけではない。
「あ……れ……」
バーゼリアも同じく、血を吐いていた。
そして、二人はがくりと、膝から崩れ落ちた。
●
サキは、自分の両隣で、仲間の二人が倒れる姿を見た。
「げほっ……体が、固まって、動かない……?」
「くっ……ふっ……なんだ、こりゃあ」
二人の体表には、紫色の爛れや、蚯蚓腫れのような症状が広範囲に出ている上に、その腫れはスライムのように蠢いていた。まるで毒そのもののように。
それは、向こうで倒れている騎士たちや、ここで弱っているシドニウスとは似ているが違う症状だ。
「こ、これは、デイジー殿ほどの毒耐性があっても、喰らっているのですか……?」
シドニウスは呻くように声に、サキは眉をひそめる。
「……いや、ただの毒程度では、竜やカーバンクルが持つ対毒性を突破できない筈です」
幻魔生物とは、魔法や魔法毒に対する抵抗力がそもそも高い。
更には、竜王と、錬成の勇者だ。
自分もそうだが、毒に対抗できるだけのステータスと、スキルは持っている。
そもそも毒の獣を倒す際に触れてもいないのに。
だのに、こうなるとは、
「……普通の毒を打ってきた、という訳ではないのですね」
呟くと、前方にいた憑虎君がにやりと笑う。
「はは、気付くか。どうだ? ワタシが十年超、研究と研鑽を積み重ねて作り上げた、特製の調合毒は」
「自慢ですか」
「そうだとも。長年かけたのだから、自慢位させて貰うさ。……とはいえ、惜しむらくは、自律性を持たせられなかったところと、人間種には殆ど効果がないという所だが。まあ、その辺りのお陰で、この辺りにばら撒いていても、気付かれづらいという特性も出来たし。一長一短だが、今後の課題という所だ」
その言葉でサキは理解した。
いつの間に攻撃をしたのか、と思っていたけれど自分たちがこちらに来る前に行っていたのだ、と。
「けほっ、えほっ……。自然解毒スキルじゃ、駄目、みたい……」
「でしょうね。貴方達の体に侵食している毒と、奴の体が、魔力の線で繋がっていますから」
紫色の腫れに体を蝕まれ、今も血を吐いているバーゼリアやデイジーと、憑虎君を見比べながらサキは言う。
「流石は魔術の勇者。そこまで見えるか。……ご明察通り。ワシこそが、その毒の核だとも」
最早ばれているからか、ペラペラと種明かしまでしてくる。
だから、というわけではないが、自分も周りに理解させるために、見たものを共有しておく。
「毒と、奴の身体から出ている魔力は繋がっている……。ということは、どちらかの生命が尽きれば、効力は失われる仕組みのようですね」
「解析までが早いな。その毒は、ワタシが死ぬまで解けん。が……弱った貴様らにはワタシは殺せんさ。――そしてまあ、まだまだ、続行だ。【プラークタイガー】
憑虎君が一度指を打ち鳴らすと、彼の周囲に複数のプラークタイガーが一気に生まれた。
その数は十を越えている。
「ぐ……やっと倒した者どもを、……こんなにあっさりと、大量に再召喚するなんて……」
シドニウスは剣を杖代わりにして体を支えながら、歯噛みしていた。
確かに、この状況はよろしくない。そう思って、サキは前に出る。
「ほお、魔術の勇者が来るか。まあ、後ろの輩はじっくりと死に行く様でも、見させて貰えればよいから――」
な、と憑虎君が口を開こうとした。
刹那。
「……!」
言葉を言い終える前に、憑虎君に肉薄したアクセルの剣が、
「――ッ!?」
憑虎君の顔面を袈裟懸けに切り降ろした。
●
「――い、いつの間に」
いきなりの。無言で。
容赦のない一撃を行ったアクセルに、シドニウスは驚愕していた。
……み、見えなかった……。
先ほどまで後ろで騎士団員たちを送っていた筈なのに。
自分達を飛び越えて、周辺のプラークタイガーすらも通過して、察知する事も出来ぬほどの速度だった。
今更になって、プラークタイガーは、アクセルから距離を取った。
いきなり現れた敵として戦いたのだろう。
そして、接近直後に放たれた刃の一撃は、憑虎君の胴体まで切り裂いていた。
「一瞬で、あそこまで深く斬ったのか…………」
シドニウスの言葉が零れる間に、憑虎君の頭部がずれ落ちる(・・・・・)。
頭が半分になっていき、上半身もずれていく。
頭部に核があろうが、心臓に核があろうが、普通の魔獣ならば致命傷だ。無論、人ならば絶命していて当然の傷。それを見ているからか、
「これで毒は解けたか?」
アクセルはこちらを向かず、声だけ飛ばして来る。
そうだ。憑虎君はこれで死ぬ。
……奴の言が正しければ、毒は消えた筈だ。
そう思って周りを見たが、
「ぐ……」
未だバーゼリアやデイジーの皮膚に、紫色の変色は残っていた。
いや、蠢いて、更に増殖していた。更には、
「ま、まだ……です。毒も……憑虎君も生きています!」
再びアクセルの方に視線を戻すと、頭部を半分ずらしたままになっている憑虎君が口を動かしているのが見えた。
「無駄……だ……!!」
「……致命傷なのに……、修復されていく……!?」
明らかに千切れかけていた体の肉が、ずれていた頭部が新造され、治っていく。
そのまま、あっという間に傷は閉じ、痕すら残らない。
そして、直った体で、バックステップを踏み、アクセルから距離を取る。
「運び屋。貴様の動きには驚いたが、それだけだ。何をしようと無駄な事よ。大地にいる限り、ワシは無敵だ……!!」
にやりとした表情を浮かべながら憑虎君は言った。
「確かに、大地から魔力を吸い上げてますね……」
《騎士団長》として、回復系の魔法も使えるシドニウスは、サキの言葉を聞いて、少しだけ理解した。
紫色と緑が混じった光が線となって、憑虎君と大地を繋げているのが、うすぼんやりと見えているのだ。
……あれは、自分たちが、大地から力を貰って回復する魔法スキルに似ている……。
そして目の前で起きた現象を見るに、自分が持っている回復魔法よりも効果が高いのだ、とも。
「恐らく、あの線が繋がっている限り、回復するのでしょう」
「そんな……そんな馬鹿な……!」
魔術の勇者の言葉に、シドニウスは首を横に振った。
毒に加えて、大地にいる限り無限の回復を得るだなんて。
そんなのは反則だ。
「分かっただろう? 貴様らはワタシには勝てない。ああ……十年の探究と数十年の鍛錬を費やせば、勇者たちに越えられる! 何と素晴らしい。これまでの鬱憤が全て晴れるようだ」
陶酔にも近しい表情でこちらを見据えてくる。
「さあさあ、どうした? 掛かってこい。勝負をやろうではないか。貴様らが弱り切るまで、私は付き合ってやるぞ」
その上で、手招きまでしてきた。
これは、挑発だ。
絶対的に優位な位置から、攻撃をさせようとしている。
乗ってはいけない。何か、攻撃されて得な事が向こうにあるのだから。
だが、それを除いても、体が毒で縛られている自分では攻撃する事さえ出来ない。
……強すぎる。
神林騎士団として、それなりに鍛えてきた。
戦争にも出て、生きて戻ってきた。そんな自分達だけで、対処できないなんて。
……反則だ……!
シドニウスは、悔しさと共にそう思った。
だが、しかし、
「なるほど。そういうスキルか」
前にいるアクセルは、平然と落ち着いて、そう言った。
フラットに、事実を何事もないかのように受け入れている様子だった。そして、
「よく分かった。じゃあ俺と勝負をしようか。魔人・憑虎君ベイン」
そういうのだった。




