表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/177

第23話 本性 1



 大爆発が起き、紫色の煙が辺りにまき散らされる中、モカは前方から目を離さずに、声を飛ばした。

 

「気を付けて、シドニウスさん!」

「分かっています! 戦闘用意! ――動けないモノは後方に下げよ!」

 

 その声に従って、爆発で吹き飛ばされなかった騎士団員たちが武器を構え始める。

 その音を聞いてからシドニウスは、こちらに声を掛けてくる。

 

「大丈夫ですか。モカ殿」

「ああ、どうにか、ね。戦える位の足は残せたわ……」


 お互い、咄嗟に魔法やスキルで防御はしたものの、爆風による火傷を幾らか追っていた。

 しかし、動けない程ではない。 


 警戒して、戦えない訳ではない。

 そんな状態で、モカは前を見続けていた。

 

 紫色の煙の中、揺らめく一つの影を。


「……【転身解除】」


 その影から一つ声が響くと同時、煙が張れた。

 するとそこには、白衣を纏っていたベインではなく、


「ああ、久しぶりの外だ。懐かしいな」


 虎のような頭と、手足を持った人型の生物がいた。

 

 見た目は虎型の獣人に近い。

 が、その身は、三メートル近い巨体となっている。

 

 また、着用していた白衣はいつの間にか、色合いが反転しており、更には豪奢な軽装鎧となって彼の身を覆っていた。更に特筆すべきは、その背中に見えるサソリの様な尻尾だ。

 

 明らかに人外が持っている尻尾。それを振りながら、眠たげにベインは伸びをする。


「トリガーが発動してくれたのは良いが、やる事が少し多いな。まあ、一つ一つやっていくか」


 とぼやく彼の顔の横に、

 

「――」


 ブ、とペネトレイトビートルがやってきて、止まった。

 それを見て、ベインは、口を開く。


「ああ、貴様達は予定通り、上で科学魔法ギルドの相手をしていろ。……なあに、人員的に貴様達だけで勝てないだろうが、ワタシが行けば終わる話だ。それまでの時間を稼いでいるがいい」


 その様子を見て、モカ達は、眉をひそめた。


「魔獣と話している……? ベイン、貴方は一体……!」

「その姿といい、普通の獣人ではない……。まさか魔獣……いや、魔人か……!?」

 

 そんなこちらの発言に、ベインは細めた目を向けてくる。

 

「おいおい、モカ所長。それに騎士団長。ただの魔獣や魔人と一緒にされるのは心外だな。ワタシは古代種の力を得た、真なる魔人。魔人・憑虎君ベインだとも」


 名を誇るかのようにベインは、憑虎君は言ってくる。


「魔人ですって……? ベイン……貴方にも記憶検査薬で調査したのに……」


 記憶検査薬は、魔法科学ギルドが作った秘薬の一つだ。


 検査薬を飲んで貰った後、特殊な感応紙に触れて貰う。そうする事で、その人が持つ特定のキーワードに関係する記憶が自動的に書きだされる。そういう仕組みだ。

 

 そして今回、外部から研究員を招き入れるにあたって、魔人や魔獣についての記憶について調査させて貰った。その中にベインだっていた。なのに、 

 

「どうやって本性を隠して潜り込んだの……」

 

 歯噛みしながら言うと、ベインは、ふん、鼻で笑った。


「大切な道具を消費して、手間暇をかけて念入りに記憶を移管し続けたのでな。それ位は出来るさ。――全く、モカ所長、貴様には苦労させられたよ。外部から来たものには常に目付として、元からギルド職員だった者を同行させてくるのだから」

 

 ベインのセリフに、モカは眉をひそめる。

 そう、外部から来た人たちには一人一人、自分の信頼できる研究員を付けて動いて貰っていた。

 目的の半分は、この地での研究をスムーズに進めるため。もう半分は、念のためのお目付け役だ。平時ではないのだから、申し訳ないがそれくらいはさせて貰った。

 それを目の前の男は分かっていたらしい。


「記憶がないワタシが、調薬などできっちり優秀な成果を出しているというのに、監視は解かず、更には、呼んでほしくない面倒な奴らまで呼び寄せてくれた。……貴様たちがいなければ、二週間前には、神樹を滅ぼせていたというのに。貴様らが、延命としては最善手ばかり選ぶせいで、錬成の勇者が間に合う始末だ。そればかりか、このような解決に至るとは。憎たらしいほど優秀で運が良かったよ、貴様らは!」


 言葉を吐き捨てるように長々と言った後、ふう、とベインは息を吐く。


「本当に貴様らには手間取った……が、その苦労と苛立ちを、今この手で晴らせると思うと、まあ、今となっては悪くはないな。故に――我が毒を再び喰らえ。【プラークタイガー召喚】」

 

 ベインが手を掲げ、言葉を唱えた瞬間、

 

 ――ボコッ

 

 と、地面から紫色の泡が湧き出た。

 

 ボコボコと泡はどんどん多くなり、集まり、一つの姿を作り上げた。

 巨大な虎の姿を、だ。

 

 それが二匹分生まれた。そして紫色をした虎の目に光が宿り、

 

「グル……」

 

 唸りと共に、動き出していく。



「魔獣を召喚したの……ですか」


 シドニウスはいきなり目の前に現れた獣を見て、推察の結果を呟いた。

 すると、隣のモカが頷いた。


「そうね。でも、そこら辺にいる様な奴じゃないというか、毒の香りがするわね……!」

「無論だ。こやつらは、ワタシが作り上げた特別な存在でな。……それなりに、強力だぞ」


 憑虎君ベインの言葉に押されるようにして、毒の獣は、その眼をこちらに向けた。そして、

 

「グルアッ!」


 一息に、跳びかかってきた。

 人間よりも巨大な虎の、鋭い爪と太い腕による一撃だ。

 

「――ッ!」


 シドニウスはとっさに剣を構えて、その腕を切り落とそうと下。が、


「――ぐ」


 切れない。刃が止まり、攻撃を受け止めた形にされた。


 そして、止めただけで数メートル、押し飛ばされた。


「りょ、膂力が凄まじい……ですね」


 こちらも、鎧を装備していて、それなりの重さがあるというのに。

 軽々と、片腕による一撃だというのに、数メートル分、地面に足を擦ることになった。

 それを見て、ほほう、と憑虎君は笑う。


「流石、騎士団長。受け止められる力があるとは。神樹を回復させるために走り回った疲労があると思ったが、流石は戦争帰り。やるようだ」


 言葉には褒めるというよりも、嘲笑が混じっていた。

 そうだ。こいつはこちらの事を知っているのだ。

 そう言う意味でも厄介だ、と眉をひそめようとした、その瞬間、


「ごほっ……」


 シドニウスは血を吐いた。

 見れば、自分の手には、蠢く紫色の液体が付着して、紋様を作っていた。


「これは……防御したのに毒を、喰らったのか……」


 飛沫さえもあびないようにしたのに。いつの間に。そう思っていると、


「ッ……見せて、シドニウスさん! 【対毒分析】……!」


 こちらの言葉を聞いてモカが駆け寄ってくる。

 そして、スキルを活用して、紫色の紋様を見ただけで、毒を分析した様で、

 

「この毒は……出血性の、細胞を壊す毒ね……。まさかと思っていたけど、あの獣は、近くにいるだけで、毒を感染させてくるみたい……!」


 そんな答えを言ってくる。

 彼女の分析結果を聞いて、楽しそうに憑虎君は笑う。

 

「くく、そうだな、モカ所長。貴様ならそれに気付くよな。ワタシの可愛いのプラークタイガーの毒性について。何せ、神樹の毒に近しいのだから」

「確かにね。でも、これなら解毒ポーションで何とかなりそうな気が――」

 

 そんなモカが言おうとした言葉を上塗りするように、

 

「ぐあああああ」


 叫び声が響いた。

 

 発生源は、もう一匹のプラークタイガーが行った方向だ。

 見れば団員の一人が攻撃を受けきれなかったようで、虎の爪で足を引っかかれていた。

 傷の深さで言えば掠っただけ。しかし、

 

「足が、足の肉が……!」


 布が破けて見えるその肌は爛れて、びくびくと痙攣していた。

 そればかりか、毒が付着した箇所からは煙が出ており、肉が溶けている箇所もある。

 

 そして、付着した毒はじわじわと、今もなお、その足を侵食していた。

 

「一撃でそんなに……解毒ポーションを使え!」


 シドニウスの声に従い、団員の一人が配給している解毒ポーションを負傷者にぶっかけた。

 しかし、


「――き、効かない!?」


 毒の浸食は止まらない。

 足を溶かし続けていた。


「救護部隊員、診てやれ!!」


 即座に団員の中で救護部隊に所属する者達に行かせる。


「駄目です! 呑ませて、浴びせているのに、なんで、消えねえ……!」


 そして出た結論がそれだった。

 何度飲ませても、ポーションでは、治らない。


「ど、どうして……。この毒性なら治る筈なのに……」


 モカは焦りの表情を浮かべていた。

 彼女の毒分析スキルはかなりのものなのに。それを間違うとは、何かがおかしい。


 そう思って、憑虎君を見ると、


「くく、当然だろう。ワタシが健在なのだ。ワタシの影響下で毒は強化される以上、ポーション程度で治せんさ」


 そんな事を言い放ってきた。更には、そうして喋っている間にも、


「うわあああああ!!!」


 騎士団のメンバーは、プラークタイガーの手により、何人もが毒を受け、倒れていた。 

 しかも、猛攻はそれで止まらない。


「調子が良くて何よりだ。追加でもう一匹行こうか」


 憑虎君が指を打ち鳴らす。

 それだけでもう一匹が生まれ、合計、三匹になった。


「ふう……ふ……」


 それを見て、シドニウスは落ち着きの為の呼吸をして、


「モカさん。私が足止めをしますから、ここから離れて、救援要請と救護をお願いします」


 戦力差を分析したうえで、判断して告げた。

 既に騎士団の何人もがやられている以上、自分達だけでどうにかできるとは思っていない。

 

 出来る事と言えば、時間稼ぎ位だろうか。

 だから、他の役割をモカに頼んだ。

 

 すると、彼女は数瞬ためらった後、しかし、

 

「――分かったわ。直ぐに、王都と近隣都市に緊急念文を送るわ! その後で、戦力を集めて、援護に戻るから、絶対に、生きていてよ……!」


 冷静に判断をしてくれたようで。彼女は、この場から走り出した。

 感情的ではなく、正しい行動をしてくれたことに喜びを得つつ、

 

「了解ですとも……!」


 彼女の期待に答える為に、シドニウスは身体に力をみなぎらせる。

 

「ふむ、一人を離脱させるのに犠牲になるか」

「犠牲になるつもりはありませんけどね。しかし、街の為を考えたら、これが一番なので」

「そうか。では、その一番良い方法で、死ぬと良い」


 そんな憑虎君の言葉に従ってか、二体のプラークタイガーが一気に来る。


 全員で、大きな腕を振り上げて、こちらを切り裂こうとしてくる。だが、


「くう……!」


 それら全てを、シドニウスは再び受け止めた。

 

 ……受ける事に徹底すれば、まだやれる……!

 

 攻撃は最小限にし、防御主体に立ち回る。そして隙を見て、どうにか倒せればいい。そう思っていた。

 

「ほう、まだやれるか。本当に素晴らしいな、騎士団長。だが……」

「っ……ふ……?!」


 急にめまいが来て、膝をついた。


「今度のは神経毒も足されているぞ」


 手が震え、剣が握れなくなった。

 視界も、ぶれてくる。


「は……っは……」


 息をするだけで、精一杯だった。

 背後を見れば、起き上がっているのは、自分だけだった。

 

 ここにいた皆は、毒を受けて、倒れ伏している。

 どうやら、耐え切れなかったようだ。

  

「では、この場は終わりにするか。――プラークタイガー、食い殺せ」


 憑虎君の顔から笑みが消え、プラークタイガーの一匹に雑に命令を下した。

 そして、その一匹がこちらに来て、口を大きく開けた。

 その瞬間。

 

「【錬成:大地からの金属杭】!」


 後ろから伸びてきた極太の杭に、毒の獣は貫かれた。

 

 突然の、背後からの攻撃。

 

 何だと思って見れば、そこには、 

 

「え……あ……デイジー殿……?」

「問題が解決したと思ったら、今度はヤバそうな魔獣がいるとはなあ……。結構修羅場だぞ、親友」

「ああ、そうみたいだな」


 デイジーやアクセルを含め、神樹を回復させてくれた勇者達が総出で、そこにいたのだ。

 

明日の11/21に竜騎士運び屋の3巻が発売されます!

今回も書き下ろし、頑張りました! 書店でお見かけの際には、是非お手に取って頂ければ嬉しいです。

↓のリンクから作品ページに飛べます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●新連載作品のお知らせ
 12月に始めたばかりなこちらの連載も、是非、お読み頂ければ頂けると嬉しいです!
《毒使い》の《薬師》が、聖竜、邪竜と共に、薬屋をやって依頼解決したり、無双したりして成り上がる話です!
 無価値と呼ばれた二竜を拾った《薬師》、邪竜と聖竜の主となる~最強暗殺者の《毒使い》、表舞台で《龍の薬師》として信頼されてます
https://ncode.syosetu.com/n2984jv/
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ