第16話 運び屋、更なる飛躍を遂げる
「お、おおお……これが、完全に無傷な果実……なのね……!」
魔法科学ギルドの研究所は入って直ぐに、ロビー型の受付があった。
そこで待っていた、モカに鉄箱を……というか、完品の状態の果実を届けて、まず受けた一声がモカのそれだった。
「なんて……芳醇な香り。もぎ取る前では感じ取れないし……、これは薬効成分がしっかり残っているからなので。これを上手く抽出出来れば、もしや……」
その顔には紅潮が見られ、今まで見た中で一番、興奮しているようだった。
彼女だけじゃない。受付回りで見ていた研究者たちが、物凄くざわざわしていた。
『あの虫たちを切り抜けて持って来れるヒトがいるんだな……!』
『あいつらに何人も病院送りにされたのに、無傷だよ……! すげえよ、あの運び屋さん』
耳に入って来る言葉を総合するに、どうやら、あの甲虫共の被害は結構あったようで。
それだけに、この神樹の果実が届いたことは、そこそこ価値があったみたいだな、と思っていたら、先ほどからぶつぶつ言っていたモカがいきなり大声を上げた。
「――そうよ! これさえあれば、いくつもの止まっていた実験が動かせるもの。神樹から抽出したものを合わせて、毒サンプルへの実験に使って、ええと、ああ、もう出来る事が多すぎて最高ね。何にせよ、有り難う! アクセルさん! これで研究が物凄く進むわ!!」
「お、おお、それは良かったな」
モカは俺の両手をぎゅっと握りながら言って来る。若干、目が震えていて危ない人のように見えるが、まあ、興奮しているだけなので、そのままにしておくのが良いのだろう。
「シドニウスさん! ちょっと、こっちで考えを纏めるから、会議はもうちょっと待って! 先に行ってて準備をしていて! アクセルさんは、少しそこで休んでいてくれると嬉しいわ! お礼をしたいから! というかまず、依頼料を払うから!」
と、興奮のままに何やらテーブルの奥で紙に色々と書き始めた。
「何というか……ウチの街のギルドのトップは、熱が入るとこんな感じになってしまうもので。すみません」
「いやあ、良いと思うぞ」
魔王大戦時、王都での研究者もこんな感じのがいたし。というか、こういうタイプが多かったし。
「ともあれ、私の方からも後程お礼をさせて頂きたいのですが、また、後日お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ、勿論だ」
「良かった。では、私は会議の準備に行ってきます」
そう言ってシドニウスは受付ロビーの奥に消えていった。
……さて、俺も依頼料を受け取ったら下に戻ろうか。
と思っていると、
「話は聞いたぜ、親友―! 神樹の果実を、完品で持ってきたんだってな!」
研究所の奥から、デイジーが走って来て飛びついてきた。
「デイジー? 君も上に来てたのか」
朝から何かやる事があると、ラボにこもりっぱなしだったけど。
「ああ、実験の結果待ち中だから、今までの報告をしにな。時間を掛ければ、一応オレでも昇って来れるし。――って、それはもう終わったから、どうでもよくて、親友、すげえな! 魔法科学ギルドが滅茶苦茶悩んでいた素材問題を一気に、解決しちまうなんて」
「うん? 神樹の果実の事か? そんなに悩みの種だったのか?」
「勿論だぜ! 薬品を作る際には成分量ってのは大事だから。傷がついただけで抽出できる成分が減っちまう素材なんて、とんでもなく面倒なんだけど、それが必要な状況だったからな。だから、親友はめっちゃ助けになってくれたって事なんだよ」
そうだったのか。とりあえずやってみよう、という事で採取に臨んだから、そこまでの事だったとは。
「……うん。まあ、色々な人が助かったんならそれでいいか」
「親友はそういう頓着しない所、相変わらずだよなあ……。いや、だからいいんだけど……って、親友」
話の中で、いきなりデイジーが耳元で声を小さくして話しかけてきた。
なんだろう、と思っていると、
「また、なんか光ってるぞ? ポケットだ」
「あ……マジだ」
つい先日も見たばかりの淡い光が、自らのポケットから漏れていた。
とりあえず、周りに人も少ないので、ロビーの端っこの椅子に行き、俺は光源であろうスキル表を開いた。すると、淡い光は文字となって刻まれていて、
【重要物規定輸送突破完了 条件達成 ――《運び屋》レベルアップ!】
【スキル取得。輸送袋グレードEX2 拡張性200%アップ】
と書かれていた。
「親友、マジでレベルアップが早いな……!」
「まあ、新しい場所で、新しい仕事をするとガンガンあがるみたいだな。……って、まだ続きがあるな」
今回は、何やら光がまだ収まっていなかった。これは、まだ何かがあるんだろうか、と見守っていると、
【規定以上に拡張された事で、過去輸送が三つになりました】
との、説明が追加でなされた。
「おー、なるほど。容量次第では過去を運べる量が増えるってマリオンが言ってたけど、これの事か……」
かつて受けた説明通りに、スキルが成長したようだ。これは有難い、と思っていると、
「過去輸送……って、親友のスキルか? それがパワーアップしたってことか?」
デイジーがそんな事を聞いてきた。
「ああ、結構有用なスキルでな。これが三つになると、色々と出来る事が増えるな」
「そうなのか……! すげえぜ親友……!」
デイジーは自分の事のように喜んでくれているようだ。
……何と言うか、自分の出来る事が増えるのを、喜んでくれる人がいるというのは有り難い事だなあ。
そう思いながら俺はデイジーを撫でながら、ほのかな達成感と、三つの過去輸送で何が出来るのかのワクワク感を得ていくのだった。




