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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第三章

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第14話 樹上の運び屋


「大丈夫か、シドニウス」


 樹上で俺は、少し頭を揺らしながら歩いているシドニウスに声を掛けていた。

 輸送袋から出て、ずっと頭をふらふらさせているのだ。


「乗り心地は悪くなかったですが、一気にここまで上がったのは初めてなせいか、頭の奥が浮いた感じがしますね。アクセル殿は、平気、なのですか?」

「まあ、俺は特に、違和感ないな」


 この位の高さならば、特に体に影響はない。

 竜騎士として戦っていた頃はもうちょっと高い所でやりあっていたのだし。

 きっと慣れもあるんだろう。

 

「いやはや、私がふらふらしていて、アクセル殿がしゃっきりしていると、本当にアクセル殿は運び屋なのかと疑いたくなりますね」

「はは、まあ、この輸送袋を使っているだけで、疑う余地はないと思うけれどな」

「そうですねえ。何とも惜しい事ですが……」


 などと喋りながら、俺たちは樹上の広場を歩き、奥にある研究所に向かっていた。

 すると、その道の途中、


「また駄目だったわね……」

「ですね……」

「ううむ……」


 何やら顔をしかめているモカと、二人の白衣姿があった。

 魔法科学ギルドの職員だろうか。

 何やら三人で、鉄色の箱と、その上に置いた銀色の林檎の様な球体を前にして、首を傾げている。


「どうしたんだモカさん達? こんな所で唸ってて」


 何だろうと思って声を掛けると、まずモカがこちらを向いて、あ、と口を開いた。

 

「アクセルさん。それに騎士団長も。来ていたのね」


 その言葉に合わせるようにして、彼女の近くにいるほか二人の職員も会釈してくる。


「ああ、今さっきな。会議があるっていうもんだからさ」

「あ、そうだったわね。えっと……ちょっと待ってて。今指示を終えちゃうから」


 そしてモカは直ぐに、二人の研究員たちは話し合いに戻る。


「ともあれモカ博士。この果実は、完品でないと成分そのものも抜けて、効果が減衰するって事は確実ですね。だから。現時点でこれ以上、私たちが出来る事はないようです」

「そうねえ。外部から来ている貴方でも知っている位デリケートな素材ですものね。まあ、それなら予定通りに動いてくれると助かるわ」


 モカのセリフに、一人の職員が頷いた。


「了解っす、モカ所長。じゃあ、ベイン。この後は、下に降りて倉庫街組と合流して手伝う事になっているんだから。そっちの仕事に行っちまおう。お前さんは優秀だからそっちの方が動きやすいだろうし」

「はいー。久々の下ですね」

「そういや、お前さんが外部から来て一か月も経ってないけど、確かに久々だな……。まあ、下はあまり案内とかしていなかったから、今日、ついでに色々と紹介しておこうか」

「おお、ありがとうございます」


 そんな会話の後、二人の研究員は連絡通路の縄梯子まで向かっていった。

 それを見て、シドニウスが嬉しそうな笑みを浮かべた。

  

「下へ行ける人も、増えて来ているのですね」

「ええ。そうね。アクセルさんのお陰で、縄梯子が空く時間が多くなったからね」

「あれ、前はそんなに下に行く人はいなかったのか?」

「はい。物資の輸送だけで精一杯でしたから。今は、下へ行くだけなら少しだけ気軽に出来るようになったので、有り難いです」


 荷物を運んで上での活動が活発になっただけではなく、意外と今回の物資輸送は他の事にも影響があったらしい。

 役だったのであれば、何よりだが。

 

 そんな事を思っていると、シドニウスは目線を下にやり、


「しかし、話を聞いていた感じ、また駄目だったようですね、ギルド長。その果実の様子を見ると」

「そうねえ」


 などと話をしていた。

 先ほど職員らとも話していた事のようだが、


「聞きたかったんだけどさ。さっきから見ているコレは、一体なんだ?」


 林檎っぽい球体だが、色は銀色だし。

 球体の半分はぐずぐずに崩れているし。見ただけではよくわからない代物なのだけど。

 そう思って聞くと、モカはその球体を手に取りながら俺に見せたあと、


「ああ、これはね。神樹の頂上にのみ出来る果実なのよ。あっちの方に、今も少しだけ成っているでしょう」


 そんな風に説明してきた。

 更に、彼女の視線は研究所の脇にある太い枝の方に向けられる。そこには確かに、銀色をした果実が幾つか見えた。

 

「へえ、こんな果物がなるんだな、この樹」

「ええ。しかも、この実は神樹の成分を凝縮していてね? 解毒に使えそうってのは今までの調べで分かっていて、実際に使えるものだったんだけど……」


 モカはそこまで言って口ごもった。

 解毒に使えるんなら良いと思うんだが、違うんだろうか。

 

「だけど……問題があったのか?」

 

 そう思って尋ねると、モカは頷きながら、


「この果物を解毒に使おうとするとね、とってもデリケートなの。柔らかくて傷つきやすいうえに、少しでも傷がついたら、成分が劣化しちゃうのよ」

「ああ。さっき、完品じゃないとダメっていってたのは、その事か?」

「うん。こういった傷物は今まで何度か手に入っているんだけど、やっぱり抽出できる成分がいくつもダメになっててね。完品のまま手に入れば、解毒研究もかなり進むと思うんだけど……」

「ふむう。そんなに採取が難しいのか、この果物。人の手がふれるだけで、こんなんになっちまうとか」

「あ、いえ。そんなことはありません。枝からもいだ程度では、平気なのです。私も一度取りに行ったことがありますが、採取そのものは楽でした」


 俺の言葉に反応したのは隣にいたシドニウスだった。どうやら彼もこの果物採取にチャレンジしたことがあるようだが、


「え? でも、なら、どうしてこうなっちまうんだ?」


 こうなった原因がわからないぞ。そう思っていたら、


「――アクセルさん。あっちを見て」


 モカが果物が成っている近くの枝を指さしながら、そう言った。


「あそこに、昆虫型の魔獣がいるのは見えるかしら?」


 そこには、角を生やした茶色い甲虫らしきものが見えた。

 大きさは数十センチほどのそいつは、見た覚えがあって、


「あれは……ペネトレイトビートルか?」

「あら、知ってるのね、アクセルさん」

「まあ、多少はな。でも、こんな高いところに棲息しているってのは初めて見たが」


 俺が見たことがあるのは、鬱蒼としている森に棲息している奴らだったし。


「本来はいないのよ? でも、神樹が枯れて穴があいちゃってね。本来は自己修復力で穴は塞がるのだけど、弱っているから、そのまま空きっぱなしで昆虫型の魔獣が巣くうようになってしまって。その一匹があれなのよ」


 なるほど。神樹が枯れている影響は連絡通路だけじゃなくて、頂上付近にも出ていたらしい。


「しかも、あのペネトレイトビートルは、なんだか、おかしくてね。普段はあそこに潜んでいるだけなのに、この果実を持っていこうとすると襲い掛かってくるのよ」

「なんでまた、そんな習性をもってるんだ?」

「さあ、異常事態だから、魔獣にも伝わったのかもしれないわね。とはいえ、この果実は解毒に必要だから持ち帰らなきゃいけないんだけど……裸のまま持ち帰ろうとしたらそれだけであいつらに突撃されて穴だらけにされるのよね」


 ふう、とモカは吐息しながら足元を見た。


「それでも、どうにかしようとして頑丈な箱に入れて帰ろうとしたんだけど……」


 床に置かれているのは金属の小さな箱だ。 

 面の一つにはロープが通されており、背負子として使えるようになっている。


 それを彼女は開いて見せてくる。


 中身はクッションになっていて、球状の果物が収まるスペースも確保されていた。

 これに入れて運ぼうとしたのだろう。けれど、 


「まあ、突撃されて、このザマだったわ」


 金属箱の数十か所にへこみが見られ、数か所には、完全に穴が開いていた。

 ペネトレイトビートルの大きな角は、金属並みの硬度を持つ。

 そして飛行速度もなかなかなので、まともにぶつかれば、こうなるだろう。


「結構な襲われ方をしてるな」

「ええ。金属の箱にすら穴をあけるレベルで突貫してくるの。この箱は特に頑丈に作ったから、中身を貫くまでには行かなかったんだけど……でも、衝撃は別でね。1、2度くらいなら耐えられるんだけど、何度も何度もぶち当たられたせいで、神樹の果実はぐしゃぐしゃになっちゃったの」


 こんな風にね、とモカは銀色の果実に触れる。

 その表情は悔しそうだった。


「んー、金属の箱でダメなら、魔法で防具出来る袋に入れたりとかは出来ないのか?」

「それもやってみたんだけどね。この果物、魔法の箱に入れるだけで成分が変性しちゃったのよ……」

「マジか。本当にデリケートだな」


 輸送袋の類も使えないとは。

 

「うん。ポーションとか、薬品みたいに成分が安定していれば、どこに入れても問題ないんだけどね……」


 モカは吐息したあとで、シドニウスを見る。


「前に一度シドニウスさんにも挑戦してもらったけど、かなりキツかったものね」

「そうですね。この箱を使ってやらせて貰いましたが。……小さいがゆえに、強力な突貫力を持った昆虫型の魔獣の中、柔らかで扱いづらい果実を持ち運ぶのは至難の業でしたね……」

「ううん。それでも、シドニウスさんが持ってきた果実が、一番成分が多く残ってたから。それでも、充分研究は進められた方よ。……ただ、そのお蔭で、解毒のためには完品が必要なんじゃないかって結論になって、こうして取りに行くのを再開したわけだけど」

 

 結果がこれじゃあね、とモカは目を伏せた。

 素材を採集するだけでも、結構な苦労があるようだ、と彼女を見ながら思っていると、


「あの、アクセル殿? ちょっと、追加で依頼をしてもよろしいですか?」


 シドニウスが声をかけてきた。


「追加で依頼?」

「はい。今しがた話題に出ていた件についてです」


 そう言う彼に対し、まずモカが目を細めた。


「シドニウスさん、まさか、アクセルさんにやってもらうっていうの? あの虫たちは、かなり危険よ? 果物ばかりを狙ってくるけれど、勢いが良すぎて人間の皮膚にだって突き刺さることはあるんだから……」


 モカのセリフにシドニウスも同意する。


「確かに、リスクはあります。ですが、アクセル殿はあの機動力がありますし……なにより、戦闘に慣れていると娘たちから聞きました。娘たち以上の強いそうで」

「え、シドニウスさんのお子さんたちより?!」


 何やらモカは驚きの視線でこちらを見ている。


「あのガッチガチに鍛えられた子達より強いって……いやまあ、ここまで登ってこれる人だから、当然かもしれないけれど。……でも、それなら。あの機動力に合わせて戦闘能力があるなら、出来るかも……」

「でしょう? 正直、我々よりも可能性はあると思いまして。……どうでしょうか、アクセル殿」

「うん? いやまあ、依頼をされれば、やるだけやってみようと思うけれど。何分、初めて取り扱う物だから、どこまで出来るか分からんぞ。輸送袋も使っちゃダメなんだろう?」

「そう……ね。運んで貰うときは、さっきのと同じ金属製の箱を使ってもらうことになるわ」


 輸送袋に入れてないものを守りながら運ぶ、という仕事はあまり経験が無かったりする。

 これまで何度も依頼を受けているけれど、ここにきてまた慣れの少ない仕事が来るとは。経験を積めるという点ではありがたいので、やれるならやってみたいけれど。


 何事も経験だし。

 

「俺からしてもチャレンジになりそうだけど、それでいいなら、やらせてくれ」


 言うと、シドニウスはモカと顔を見合わせて頷きあった。


「お願いするわ、アクセルさん」

「はい。我々だけでやるよりも遥かに成功が見込めそうですから。勿論、今回は私も護衛補助として参加しますので。ある程度は防御の助けをさせて頂ければと思います」

「ああ、ありがとうシドニウス」


 こうして、二人の会議前の一仕事という形で。

 神樹の果実の輸送依頼は開始された。

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