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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第三章

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第6話 重なる邂逅


「この感触は、懐かしい肌触りだぜ、親友ー!」


 胸元の青い宝石を輝かせながら、こちらの頬にその小さな体躯をこすりつけてくるデイジーに、俺は思わず苦笑する。シルベスタでもこんな感じの事があったなあ、と。


「元気がいいな、デイジー」

「そりゃあ、親友と出会えたからな。元気もよくなるさ! ――って、そっちにいるのは、サキやバーゼ、だよな?」


 どうやら俺の後ろにいた二人にも気付いたらしい。

 そして当然、サキやバーゼリアも、このカーバンクルの姿は見知っているわけで、各々は驚いた様子もなくこちらを見ていた。

 

「さっき鉄の獣は、貴方の得意技でしたから。もしやと思いましたが、コスモス。この街にいたのですね」

「久しぶりだね、錬成の勇者ー」

「おうおう。二人とも懐かしいなあ」


 サキとバーゼリアは目を細めながらデイジーに声を掛ける。そんな彼女たちに、デイジーは前足を上げて、二人に挨拶をしていた。

 昔も、こんな感じで話していたっけ、と思っていたら、


「あの、アクセルさん達? 歓談中に申し訳ないのだけれど、鉄の獣から現れたそちらの方は……もしかして、錬成の勇者様、でよろしいのよね?」


 驚きと疑問、そして少しの高揚を顔に浮かべているセシルが、こちらを窺うようにして尋ねてきた。

 言い方からするに、錬成の勇者としてのデイジーの姿には見覚えがあるのだろうが、この子達からするといきなりの事だから、こんな反応になって当然だろう。

 

 ……昔なじみの勇者と会うたびに毎回、こんな風に周りに素性を説明している気もするな。

 

 とはいえ、昔も似たような事をしていたのだから、慣れているので問題はない。 

 そう思いながら、俺は身体を少し屈め、肩のデイジーを見せる。

 

「君の言うとおり、ここにいるのは、俺の勇者時代に一緒に戦っていた『錬成の勇者』のデイジーだ。さっきの鎧姿じゃなくて、こっちの姿なら見たことあるかもしれないが」

「え、ええ、確かにカーバンクルの勇者様がいたことは知っているし、見たことがあるけれど。この街に来ていた事にビックリしたというか……」

「ああ、俺達がいた時は、錬成の勇者様はいなかったからな……」


 セシルとジョージは目を丸くしている。


「ふむ……親友、この少年少女は?」


 そんな二人にデイジーは目線を送った後、俺に問いかけてきた。

 四肢にはぐっと力が入り、微妙に警戒している感じもする。

 

 ……デイジーはカーバンクルだからなあ。

 

 カーバンクルは、その身に強力な魔力を持った宝石を宿すので、魔獣などに餌として、または上位種への供物として狙われやすい種族だ。

 

 その為、見知らぬものや人に対して用心深くなる。

 

 デイジーにとってもこの姉弟は初顔合わせのようだし。

 故にこの反応は必然だ。

 だったら、軽く説明しておいた方がいいだろう。そう思いながら俺は姉弟を見る。

 

「この子たちは俺の今回の運び屋仕事の依頼者で、優秀な冒険者だ。この街の出身で実家がこの辺にあるから送り届けに来たんだよ。ここまで案内もしてくれた良い子達だぞ」


 俺の声を聞いて、少し信用出来たのか、デイジーの身体から僅かに力が抜ける。


「そうだったのか。依頼を邪魔しちまってすまないな。オレもこの街に来てそう長くないから、元住民か判断出来なかったんだ。まあ、もう止める気はないが、親友ともどもよろしくな、二人とも!」

「は、はい。よろしくお願いします」


「うわ……すげえ。アクセルさんたちだけじゃなくて、こんなにたくさんの勇者と喋っちまってるよ……」


 何やら二人して感動している。どうにか上手く紹介をこなせたようだ、と思っていたら、 


「しかし、運び屋の依頼に……その輸送袋って。親友が運び屋をやってるって本当だったんだなあー」


 デイジーが肩の上でそんなことを言い始めた。


「あれ、知っていたのか?」


 運び屋になってから会うのは初めてなのだけれど。


「おうよ。親友と同じ名前の、『空飛ぶ運び屋』アクセルの話は聞いていたからな。古龍を討伐したとか、やっていたことも知っているぜ。……っていうか、多分、親友だなこの運び屋って思ってたぜ」


 どうやら神林都市まで空飛ぶ運び屋と、名前だけは届いていたようだ。


「でも、話を聞いただけで、よく俺だって思えたな」

「そりゃあ、龍を倒せる運び屋だなんて異常だって一発でわかるし。当然、眉唾な可能性も疑いはしたが……オレの親友だもん。職が変わっても、そのくらいの実力があって当然だと思うさ!」


 デイジーはこちらの肩をテシテシと叩きながら言ってくる。

 用心深いところがあるのに、この辺りはサキと同じく、俺に関しては理論的な判断と感情的な判断が入り混じっているようだ。まあ、間違っていないので問題はないけど。

 

 ……長年の友人付き合いで、お互いの事は大分分かっているしな。

 

 お陰で説明の手間も省けるし。いいことづくめだ、と思いながら、お礼代わりにデイジーの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 すると、、デイジーは嬉しそうに目を細めた。

 

「あー、これだよこれ。職業が変わってもこの撫でる手は、変わらない。懐かしくて気持ちいいぜ、親友ー」


 撫でたのは久しぶりだったけれど、昔と同じように喜んでくれるのはありがたいな、と思っていたら、


「あれ……なんか、前にも見ていた行動何だけどなあ。やっぱり、ご主人と錬成の勇者とイチャイチャしているのを見るとちょっとジェラシーが湧くなあ。今は兜が無くて生身だから余計に。ボクもあれしたい」

「奇遇ですね。私もあそこまでベタベタ出来たことはないので、コスモスに対して、とても嫉妬心が湧きますね」


 何やら、そんな声と視線がこちらに飛んできた。そんな言葉を聞いたからか、


「……向こうからなんか黒い視線が向かってきてるなあ」


 頭の上でデイジーが動いた。

 それを見たからか、バーゼリアとサキの表情が変わった。


「あ、あのカーバンクル、明らかに勝ち誇った目線をこっちに向けましたね……!」

「『ご主人の頭と肩の上は自分の定位置だ』って顔したよ、あの錬成の勇者……!」

「あはは、俺に対する対応も昔と一緒だー」

「デイジー、あの二人を弄るのは程々にしておけよー。……って、そうじゃなくて。懐かしがっているのもいいんだが、こんな所で君は何をしていたんだ」


 それを聞こうと思っていたのだ。

 途端に動きを止めた。

  

「うーん、親友になら話しても問題ないとは思うが……」


 若干、言いにくそうな雰囲気も出している。


「何かやばいことか?」

「まあ、そこそこな。だから、話すべきかの判断は、オレに出来るかというとなあ……」


 と、俺が肩の上のデイジーと話していると、

 

「――デイジーさん。そこから先は、私の方でお話をさせてください」


 前方からそんな声が響いた。

 見ればそこには、やけに汗だくになっている、中年男性がいた。

 金属と皮を重ねた鎧を着こんでいるが、合間から見える肉体は筋骨隆々としているのがわかる。

 戦士系の職業者っぽく見えるが、一体誰だろうと思っていたら、

 

「お、お父さん!」

「親父!」


 俺の背後からした、姉弟の声でそれが分かった。

 彼女たちから父と呼ばれた中年男性は、俺の背後に目をやって、穏やかにほほ笑む。


「久しぶりですね、二人とも。お帰りなさい」  

 そのまま姉弟からデイジーに視線を移すなり軽い会釈をする。

「デイジー殿。お忙しい中、見回りを代行して頂き有り難う御座います」

「気にするなって、シドニウス。薬品の効果実験中は、結果が出るまで、割と暇だからな。いい気分転換にもなるんだから」


 デイジーの言葉に、シドニウスと呼ばれた男性はほっと息を吐く。


「そう言って貰えると助かります。そして……そちらの方は、もしかすると、運び屋のアクセル殿、で宜しいでしょうか?」


 シドニウスは俺の顔を見ながら尋ねてきた。


「そうだけど……シドニウスさん。俺、どこかで話した事があったっけか?」


 あいにくと自分はシドニウスの顔も名前も知らなかった。

 だから、名前を知られているなんて少し驚きだ。


 ……もしかしてさっきまでの、デイジーとの会話を聞いていたのかもしれないが……。


 そう思いながら聞き返すと、シドニウスは嬉しそうにしながら、しかし首を横に振った。

 

「いえ、こうして言葉を交わすのは初めてですが……『空飛ぶ運び屋』殿のお噂はかねがね聞いておりまして。かつて竜騎士のパートナーだった竜の少女と、魔術の勇者と共にいる、アクセルという素晴らしい運び屋がいると。まさか、その空飛ぶ運び屋殿が我が子と共にいるとは思いもしませんでしたが……」


 そこまで言って、シドニウスは、あ、と声を上げて、


「すみません。自己紹介もせずに、興奮して話をしてしまって。申し遅れました。私、現在の神林騎士団で騎士団長を務めております、シドニウスと申します。今後ともよろしくお願いします」


「ああ、どうも、改めてよろしく。運び屋のアクセルだ」

 と、そこまで話してから、今しがた言われた自己紹介の単語が気になった。

 

「ん? セシルとジョージの親御さんが、騎士団長さん?」

「ええ。というか話してなかったのですか? その子たちは」

「初耳だ」

「なるほど……立場を知らずとも仕事をして下さるという噂は本当のようだ。……お会い出来て光栄です、アクセル殿……!」  


 言いながら手を差し出してきた。  握手をすると、語調と同じくらい力強い握り返しが来た。

「かつて貴殿が『不可視の竜騎士アクセル』として戦場を駆け巡っているのを、地表から見上げていた時から、ずっとこうして会話出来る機会を待ち望んでおりました」


 その言葉に、俺は首を傾げた。


「ん? シドニウスさんは、俺が元竜騎士だって事も分かってるのか?」

 先ほどの運び屋と同じように、それも噂になっているのだろうか。

「いえ、分かっている、というのは正確ではありません。推測です。ここにいらっしゃる勇者の方々の接し方で察する事は出来ます。また纏っている雰囲気などでも、何となくも。……合ってますよね?」

 シドニウスは、いつの間にか俺に引っ付いている二人と一匹に視線を送りながら、尋ねてくる。

 こうして最初から分かる人は珍しいな、と思いながら、俺も頷きで返す。


「ああ、勇者をやっていた元竜騎士のアクセルであることは間違いないな。シドニウスさんが想像する奴かどうかは分からんが」


「そうですか……本当に、竜騎士、なのですね」


 俺の言葉に、シドニウスは少しだけ残念そうな表情を浮かべた。


「あれ、何か、合ってたら不味かったか?」 

「い、いえ、そんな事はありません! ……改めて、お目に書かれて光栄です……! そして、ここからは、私の権限を持って、錬成の勇者殿を呼んだ経緯を含めて、説明させて頂きたく思います」

「いいのか? 俺、この街に来たばかりだけど」  


 デイジーでも言うのを渋っていた事なのだが。そんなに軽く話すことを決めてしまっていいのだろうか。そう問うと、

 

「軽い判断ではありませんよ。既に、その指輪に見える王導十二ギルドの認定印でアクセル殿の信用が出来ますから。……何より、とても手が掛かる性格の我が子たちが、アクセル殿を信頼の瞳で見ている。それだけで、私個人として信用する事が出来ていますので」


 そう言った後で、シドニウスは、神樹の方を手で指し示した。

 

 「それでは、こちらへお越しください。神樹の入り口に案内します。なにぶん内密な事なので、人目につかない場所で、慎重に説明させて頂きます」

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