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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第三章

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第2話 道程にて


 世界樹の都へ至る為の街道は、水の都の北東に広がる平野から一直線に通っていた。

 その街道を俺は二人の仲間と二人の依頼者と共に歩いていた。

 

「水の都から結構歩いて来たけれど、もう潮風の匂いがほとんどしなくなったな」

「うん。なんだか土と木の香りの方が多めになって来たね、ご主人」


 仲間の一人であるバーゼリアは、赤い髪の毛をフルフルと揺らしながら俺の声に答えてくる。その隣には、魔術の勇者であるサキがいて、

 

「そちらの姉弟さんの話では、世界樹の都……というか神林都市まではこの平野と丘陵地帯、あとは林を抜けていくそうですから。更に景色が変わっていきそうですね」

「ああ。緑が多そうで、落ち着きそうな道中になりそうだな」


 いつも通りの笑顔を向けながら、少し大きめの声で話しかけてくる。微妙に話しづらそうだが、この道中を行くために組んだ隊列が隊列だけに仕方がない。

 

 そう。今回、俺は、前方にバーゼリアとサキ、隣に双子を置いた状態で歩いていた。というのも、

 

『私が先頭を行きますから、アクセルは横にどうぞ』

『ぬ……ボクの方が先頭にいくから、それでご主人はボクと並ぶといいよ!』

『『……』』

『ふむ、そんなに先頭を行きたいのか。なら、二人とも先に行っていいぞ』

『『えっ?』』

『俺は、後ろで依頼者姉弟のサポートするからさ。気にせず進んでくれ』

『『あっ』』


 そんな会話と経緯があったため、今の隊列になったのだ。

 

「……ああ、もう。アクセルの吐息が聞こえないとは、ハイドラ、貴方が折れないから……!」

「ボクだってご主人の傍で体温を感じたかったのに、リズノワールが抜け駆けしたから……!」


 何やかんや言い合いながら二人でちゃんと歩いている辺り、この隊列で問題はないのだ。


 神林都市までは基本的に平地が続くから、索敵は前の二人の方が向いているし、このまま行くのが良いだろう。

 そう思いながら、顔を姉弟の方に向ける。真横ではなく、やや後ろ気味に、だ。

 

「で、セシルとジョージは大丈夫か? 前の二人が張り合っているから、ちょっと早めのペースで来ているけれど」


 すぐ後ろにいるのは、槍を携えた少女と、大剣を背負った少年――今回の依頼者のセシルとジョージだ。

 やや小走り気味の彼らは、僅かに肩で息をしながら答えてくる。


「え、ええ。全く問題ないけど……アクセルさん達にとっては、これが、ちょっと早め、なのね

「そうだけど……遅いか?」

「い、いや、そんな事全然ないわ! 私たち、昨日、シルベスタを発ってから結構、走っている状態だし。ね、ねえ、ジョージ」

「あ、ああ。道場で地獄の持久走をやっていて良かったと思うぜ、姉ちゃん。今回の旅路はそれ並みにはガッツリ走っているし」


 二人はまだまだ元気だとアピールしてくる。


「んー……二人とも、結構汗かいてるし、もう少しスローダウンするか」


 急ぐ旅ではないし、状態を見てそう提案したら、二人は勢いよく首を横に振った。


「い、いや、別に気にせずとも大丈夫よ、アクセルさん」

「そうっす! 俺達に気を使わないで下さい!」

「気を使うなって……そういう訳にもいかんだろう。君たちを神林都市の実家までに届けるのが依頼なんだから」


 今回の依頼は彼ら二人から受けたものなのだし。心配するのは当然だ。


「それに一応、旅程の半分以上は来ているっぽいんだろう?」

「え、ええ。アクセルさんの仰る通り、もうすぐ神林都市のシンボルである、神樹アルエデンが見えてくるはずよ。青々とした巨大樹だから、凄く目立つと思うわ」

「なら、軽くスローダウンしていっても良いだろう。俺も神林都市は殆ど行ったことが無いから、道中もじっくり見ていくのも楽しいしさ」


 そう言うと、セシルとジョージは、え、と首を傾げた。


「アクセルさん、神林都市に来たことが無かったの?」

「世界中を飛び回って戦う勇者をしてらしたから、魔法科学ギルドあるとか、神林騎士団の総本部があるとか、知っているかと思いましたが……」

「残念ながらその二つがあるっていうのも初耳だ。大体は空に居たからな。こうして平地をゆったり歩くのは中々ないんだよ」


 大体は空をかっとんでいた上に、地表を観察する時間も少なかった。


 ……だから、魔法科学ギルドがあるとか、神林騎士団が何かとか、そういった知らない事について説明を聞きながら歩けるのは有り難いんだよな。

 

 それこそ、今くらいゆっくり、もしくは更にスローペースで行くのも良い経験になるんだ、と伝えたのだが、


「俺達が小走りなのにゆったりって……やっぱり勇者は鍛え方が違うっすね……」

「伝わり方がおかしいな……。というか、今は勇者じゃなくて運び屋だけどな」


 そんな感じで、俺は姉弟と話していた。そんな時だ。


「ご主人ー。なんか前に出たよー」


 バーゼリアから声が来た。


「横にもいますね」


 サキからもだ。

 見れば確かに前方、そして左右に魔獣がいた。


「……グルル……!」


 二つの頭を持った四足の魔獣――双頭の番犬オルトロスの群れだ。

 起立すれば人間大はある体躯と、鋭い牙と爪を持っている彼らは、口から涎と唸り声を漏らしながら、群れの連中はこちらを見ていた。


「っ、こいつら、オルトロスね……!」

「君たちも知っていたのか」

「ええ、以前の道中でもやりあった強い奴らっすから……!」

 

 言いながら二人は、身につけていた武装を構えだす。

 

「その時は冒険者ギルドから手配された人とパーティーを組んでいたけども、何人か負傷したくらい一匹一匹が強かったわね……」

「ああ、今回はその時よりも気合いを入れなきゃな……!」


 戦意がばっちりあるようで何よりだ。けれど、


「二人とも。こいつらは、そこまで気負わなくていいと思うぞ」

「え?」

「比較的、安全に追い払える方法があるからな」


 旅のサポート役としての仕事は、戦闘の補助もそうだが、無駄な戦闘を減らし、依頼者を無事に街まで届ける事、も含まれる。

 故に今回も、その仕事を全うしよう、と俺は彼らの前に出た。


「ガァ……!!」


 それだけで、オルトロスの群れの一部が、横並びになって俺の方に近づいてくる。

 棘の付いた尻尾をいきり立て、襲う気マンマンの威嚇の声を上げて来るが気にせず、

 

「――ちょっとすまんね」


 大股の一歩を踏み込んだ。


「――ッ!?」


 突然の接近だったのか、オルトロスの動きが一瞬、驚きで止まった。そのタイミングを見逃さず、

 

「寝ててくれ」


 真ん中にいた一体の足をけたぐり、ひっくり返した。

 そのまま間髪入れず、仰向けになったオルトロスの腹と顎の上に膝を落とす。


「ギャウッ……!」


 それだけで、そのオルトロスは声を上げて動けなくなった。


「い、一瞬で倒した……!? あいつらかなり重たいのに、すげえ……!」

「で、でも、アクセルさん、まだ魔獣たちがいるのに、その前で動きを止めたら危ない――」


 各々の感想が後ろから聞こえる。

 けれども、周囲の様子を見て、直ぐにその声色は変わった。

 

「――って、あれ……? オルトロスたち、後退していく……?」


 そう、先ほどまで俺達を囲もうとしていたオルトロスが皆、離れていくのだ。更には、


「敵意も無くなっているというか、怯えているみたいだぞ、姉さん……」


 その目や、四肢には震えが見えた。尻尾もしょげており、先ほどに比べて襲う気というものが感じられなくなっている。それらを見て、


「あ、あの、何をしたの、アクセルさん」


 俺の近くまで来たセシルが震えた声で尋ねてきた。

 いい機会だ、と思いながら俺は彼女の問いに答える。

  

「これはオルトロスの特性でな。こいつらは集団で現れるけど、群れの中に必ずいる一匹のリーダーが動けなくなると、そこで怯えて、統制が崩れて、寄って来なくなるんだ。その上……こうしてリーダーをひっくり返して屈服させると、皆逃げ出すんだ」

「ゥゥ……」


 俺のひざ下に倒れるリーダーの弱った様な声に影響されるようにして、周りのオルトロスはどんどん遠のいていく。


「本当だわ……。で、でも、どうやってリーダーを見分けたの?」

「ん? ああ、リーダーの目印はここだよ。目の色。ほら、他の奴らは目が青いけど、こいつだけ四つとも、瞳の中心が赤いだろう?」

「あ……確かに……」


 足元にいるリーダーの顔を見せて説明すると、二人は納得してくれたように頷いた。


 リーダーは一番多く餌を食って魔力を溜めるからか、こういった眼球の色の変化がみられるそうだ。このお陰で、他の魔獣よりも対処がしやすいと言える。


「でも、アクセルさん、こ、こんな小さいのを直ぐに見分けたの?」

「あの集団の中から……すげえ……!」


 二人は何やらわなわなと震えているが、これはただの、知識の差でしかないと思う。


「いや、慣れればすぐ君たちでも出来るさ。出会った時に目を見ればいいだけなんだから。こういうのは知識だけ詰めておけば利用できるしな」


 彼女の言う通り目は小さいけれど。見ようと思えば見える程度の小ささでしかないし。

 知っておくだけで無駄な戦闘は避けられる。そう思いながら、


「ほら、行け」


 俺はひざ下に置いていたリーダーオルトロスの拘束を解いた。

 すると、リーダーはよろよろと立ち上がり、群れへと戻っていく。


「え、あ、あの。逃がして良いんですか?」

「ん? ああ。これで、あのオルトロスの群れは、人や人の財産を襲わない習性を持つんだ。そして、その修正は子世代に代々続くようになる上に、人を襲う群れに人を襲わないようにしてくれるんだよ」

「そ、そうなんすか?」

「アイツら自身が強くて、屈服させるのはそこそこ大変だから、あんまり知られてないけどな」


 とはいえ、王都の魔獣研究所では事実とされていた事だ。


「だから倒してしまっても問題はないけど、頑張って追いかけて討伐しようとするよりかは、こうした方が、人にとって安全な奴らが増える事になるんだ」


 言うと、ジョージは、なるほど、と納得したように頷く。


「……確かに、そうっすね。オルトロスとまともに戦ったらこっちもただじゃ済まないし、例え滅ぼすまで戦っても、あいつらが滅びたら、より危険な魔獣が来るかもしれないですし。人を襲う奴らを倒し過ぎたら生態系が崩れて、もっと危なくて対処が難しい奴らが来たって話は割と聞きます」

「そうそう。学習すれば人を襲わなくなる辺り、比較的、幻魔生物に近いんだろうし。だったら、あいつらが人を襲わなくなった方がまだ良いだろう」

「幻魔生物……?」

 

 俺の言葉にジョージは首を傾げたが、代わりにセシルが声を返してきた。


「えっと……幻魔生物というと、バーゼリアさんみたいな竜種など、身体構造は魔獣に類似しているけれど、理性があって人間に友好的な方々の事よね?」

「おー、セシルは知っていたか。まあ、分類方法は色々あるけれど、概ねそんな感じでな。あいつらも、これでちょっとは安全になって、人に近づかなくなるはずだ」


 俺の視線の先では、まだリーダーオルトロスがおり、仲間達に囲まれている。ただ、こちらが少し動くと、彼らは振り向くなり、ぺこっと頭を下げて逃げ去って行った。

 それだけで、オルトロスたちの姿は視界から無くなる。

 どうやら退散し切ったらしい。


「言われた通りに散っていくぜ、姉さん……」

「ええ。アクセルさんは、魔獣について、そんな知識まで、知っているのね……」

「とはいえ、あくまで特性と習性の話で例外はあり得るし、過信はいけないから、警戒は必要だけどな。……バーゼリア、サキ。周りは大丈夫そうか」


 俺と同じく気を抜いていないであろう、前方の二人に声を掛ける。

 すると彼女たちは振り向き、手を振ってきた。

 

「見える範囲に気配はないよー」

「足裏の振動で感知していますが、地中にも敵はいませんね」


 問題なく、今回の戦闘は乗り切れたようだ。


「オッケーだ。それじゃあまあ、何だかんだ一戦交えて追い払った事だし、ちょっと休憩してから向かうとするか」

「休憩……って、い、いいのかしら? まだアクセルさんたちにの体力には余裕がありそうだけど……」

「勿論。俺達ばかり余裕があっても仕方がない。それに、俺の料理は多少、体を回復させたり強める効果があるらしいし。適当に作るから、それを食ってから、また世界樹の都を目指そうぜ」


 言うと、セシルは嬉しそうに礼をしてきた。


「は、はい! ありがとうございます」

「アクセルの手料理……! これは妻として味わわなければなりませんね」

「何か変な事を言っているリズノワールがいるけど、何にせよ、ご主人のお料理、楽しみだなー

「はは、まあ、簡単に出来る物だけどな。ちゃちゃっと作るわ」


 皆からの返事を受け取った後、俺は料理を開始した。そして、


「なんというか、ジョージ。私たち、幸運ね」

「ああ。こんな……経験豊富で頼りがいある人達と一緒に旅が出来るなんて、最高だな、姉さん……」


 そんな姉弟の声を追加で背中に受けたりしながら、俺達の神林都市への道程は進んでいく。


いつも応援ありがとうございます!

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