第37話 元竜騎士、海を駆ける
凍った海に着地した俺はまず、今まで街を守ってくれていたバーゼリアとサキに会釈をする。
「悪い。怪我人を安全地帯に送っていたら時間食った」
「いえいえ、問題ありません。アクセルが道中人を拾いまくるだろう、というのはは分かっていましたからね」
「ご主人、大体、見つけちゃうもんねえ」
彼女たちは普通に笑って受け入れてくれた。昔ながらの付き合いだけれども本当に有り難いな、と思いつつ、
「で、状況は?」
聞いた。今まで何があって、何をすべきか決めるために。
するとサキは港に近づきつつある玄武公と、背後の街を見比べて、
「見てのとおり、防戦状態です。向こうはこのまま岩石弾を撃ちながら街を砕いて餌にするつもりでしょう。ただ、こちらも、海にいた人々の避難は終わっております。
「なるほど……つまり、あのデカブツを倒すだけか」
俺の言葉に、サキは微笑する。
「――だけ、と言う事は、やはりどうにか出来る火力を持っているのですね」
「まあな。詳しい説明は省くが」
「構いません。アクセルは古龍を倒したという事実があり、尚且つ運び屋というのであれば、何らかの隠し玉は持っているだろうと、ある程度能力を察する事くらいできますので」
サキは頭がいい。割と直情的ではあるモノの、この辺りは理論的である。
「まあ、察しなくとも夫の能力を信じるのは当然なんですが!」
前言撤回。微妙に理論的じゃないなコレ。
「ともあれ、アレを倒すのをお任せして良いですか、アクセル?」
「ああ、任せろ」
俺の答えにサキは心から嬉しそうに頷いた後、
「では、私は以前のようにサポートをさせて頂きますね。露払いはお任せあれ」
そう言って、サキは足裏で二回凍った海を叩き、
「【フリーズ・プリマステージ】」
魔法を使用した。刹那、ビキリ、という音を立てて凍った海に幾本の氷柱が生まれた。それだけではなく、空中に氷上の板が無数に生まれる。
「相変わらずスゲエ規模で凍らせるな、サキは」
「ああ、そう言って頂けると心が蕩けそうになりますね……。ともあれ、どうぞアクセル。足場としても防壁としても、存分に使ってくださいな。貴方の為のステージ(舞台)ですので」
「そうそう。思う存分暴れて来てよ、ご主人! こっちに来る攻撃はボク達が全部何とかするから!」
サキの横で、バーゼリアが炎を纏った両拳を強く握りながら言ってくる。
「そうか。なら、バーゼリア、サキ。吹っ飛んでいくモノは砕いて、皆を守ってくれ。俺はアレを倒しに行ってくる」
「分かったよ、ご主人ー」
「行ってらっしゃいませ、アクセル」
「――過去輸送……【飛竜の突撃】(ドラゴンマニューバ)」
そして、二人からの見送りを受けたアクセルは、スキルで全身を魔力で覆い、氷の舞台を走り出す。
「ああ、久しぶりに、心が震えます。失われてたと思っていたアクセルの本気がまた、見れるなんて……!」
そんな言葉を背に受けながら、俺は玄武公へと突撃する。
●
【飛竜の突撃】は、竜騎士時代に使っていた高速機動用のスキルだ。
主に視覚と脚力を強化するその効果は絶大で、
「――」
例え一つ数メートルを超える岩石弾の雨が襲って来ようと、正確に回避することが可能になる
凍った海面を蹴り、空中の氷に着氷して更に蹴り、鋭い速度を保ったまま玄武公へ向かう。
「……ォオオオオオ!」
その動作を見て、玄武公は更に岩石弾を発射して、攻撃の密度を高めようとするが、同じだ。
この広く凍った海面を使えば、全てが避けられた。
そして、背後からは、岩石を砕く音が聞こえる。
自分の仲間が、街の皆を護る音だ。振り返る必要もなく、それが分かった。
そう、自分がやるべき事はここで振り向く事では無く、
……この魔獣を倒すこと……!
目指すのは、目の前の巨体。その弱点である甲羅に守られたコアだ。
近づけば近づくほどその巨体は威圧を増して来るが、
「デカいが……ここなら、街への被害を考えずに思いっきりやれるから、問題は無いな」
俺は速度を緩めず接近し、岩石の雨を完全に抜ける。
見えてくるのは玄武公の足と頭部だ。
このまま一直線に行けば、その部位を攻撃できるが、脚部や頭部越しに背中の奥底に眠るコアを狙うのは確実性が低い。だから、
「……確実に体を叩き割る一撃を撃ち放つ……!」
言いながら俺は玄武公の目の前でスキルを使う。
「【竜槍跳び】(ドラゴン・ボールト)……!」
凍った海面に槍を突き刺し、しなりの力と地面を蹴る力を合わせて、空へと体を跳ね上げた。
そして、玄武公の頭上、全身を見下ろせる位置まで到達する。
そのまま俺は空中で身体を反転させながら剣を振り上げ、行使するのは竜騎士時代の技の一つ。
「【角龍の装填】(ドラゴン・チャージ)……!」
スキルが発動した瞬間、身体の魔力を一気に剣が吸い上げて、光の刀身を刃の周りに構築していく。
そして、ほんの数舜で、刀身は元の数十倍に長大化した。
「……ッ!」
その剣の輝きに玄武公は目を細め、対抗するように、魔法陣を甲羅に展開した。
敵性魔力に対する生物的な防御反応だろう。
今まで打ち出されていた甲羅の岩石が再装填されたばかりか、二重三重に岩が装填され、身の守りが固くなる。だが、構わない。
「存分に食らうと良い玄武公。竜神の名を持つ一振りを……!」
二種のスキルを複合して撃ち放つのは、本来は大空で振るっていた技。
街中で使う事は躊躇される、広範囲かつ大深度に至る、魔力の巨大刃による斬撃。
「――【竜神の大宝刀】(ドラグニール・ダイブ)……!」
アクセルの全身をしならせて振り落とされた、竜神の尾を幻視するような一刀は、そのまま玄武公の巨体を甲羅ごと叩き割り、
「――グオォォ……!?」
断末魔の叫びを長く挙げさせることもなく、その身をコアごと押し潰すように両断した。
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玄武公の身体が崩れて、海中に沈んでいく様を、街の皆々は見ていた。
そして、玄武公の真上で、剣の様な大光芒を振るった男の姿もまた、見ていた。
「なんだ、あの運び屋さん。空を飛んで、光を運んでるぜ……」
「ああ。あの太陽みてえな光だ。勝利の女神ならぬ、勝利の運び屋さんには、ふさわしいかもな……!」




