第36話 待ち人到来
サキとバーゼリアによる弾丸砕きは、街に近づいてからも続いていた。
「はい、もう一個壊したー。これで僕は五十本は撃ち落としたよ!」
「あら、少ないですね。私は六十を越えましたよ」
「……あはは、十本くらいで勝ち誇らないでよ。まだまだいけるんだからさ」
「……勝ち誇るような数字ではありませんよ。ええ、これからも増えますから」
お互いに負傷は無い。このまま砕くだけなら体力的にも問題は無い。そう思っていたら、
「す、すげえ……あの二人、喋りながら街に来る石を全部砕いてる……」
背後からそんな声が聞こえた。
ちらりと見れば、住民や、調査船に乗っていた人々は、港にある頑丈そうな壁の影に隠れている。海に落ちたりしている人はおらず、全員、街に避難出来たようだ。
そして、街の人々の声が聞こえているという事は、それだけ玄武公が街に接近しているという事でもあり、
「ふむ、皆さん、どうにか街に戻れたようですし、そろそろ攻撃に移りましょうか。竜王ハイドラ、前に出過ぎないで下さいね」
「言われなくても分かってるよ!」
バーゼリアの返事を聞いた、サキはよろしい、と相槌を打ってから自らが前に出る。
岩石弾を砕く役目はバーゼリアに任せた彼女は、優雅に大きく足を振り上げると、
「【フリーズ・グランフィールド】超広範囲凍結」
言葉と共に、海に足裏を叩きつけた。
瞬間、海が、凍った。
海に氷の道ができるのではなく、彼女の前方にある海その物が氷に覆われた。
海に接していた岩も、防波堤氷で覆われる。勿論、
「――!」
海を渡っていた玄武公も、例外なく凍り付く。
全身を氷で覆われた玄武公の、岩石弾を打ち出してた魔法陣が止まる。
それを見たからか、
「や、やった! 玄武公を倒した……!!」
「……すっ……げえ……規模と威力……」
「これが、勇者様の魔法かよ……」
と、安堵と歓声と感嘆が幾つも飛んでくる。
これで戦闘は終わったと思っているのだろう。だが、
「……いや、これでは足りませんね」
「うん、ちょっと無理だねえ」
サキとバーゼリアは気を抜いていなかった。
「へ……?」
そんな二人を見て、街の人々が声を上げた瞬間、
「――ォ、ォオオオオオオオ!!!」
玄武公の頭部にあった氷が割れた。
そればかりか、甲羅を覆っていた氷も割れ、魔法陣が再起動した。
「そ、そんな! あれでも生きてるのかよ!!!」
悲鳴のような街の人々の言葉を背に、サキは冷静に分析する。
「凍り付いたのは表面だけ。内部まで届いていませんね。精々、これでは足止めという所でしょうか。玄武公という古代種は、甲羅の奥に、コアがあるので、それを砕くまでは止まりませんしね」「な、なんだって……」
サキの言葉に、街の人々の顔に脂汗が浮かぶ。
「つまり甲羅を叩き割らなきゃ、勝てないって事か……」
「ええ。ですので、規模だけではダメで、もっと火力がいるのですよ。あの古代種、少し頑丈ですからね」
「そんな……勇者様でも無理なのに……どうすれば……」
港にいる人々は絶望の表情を浮かべていた。けれど、
「そんな風に、嘆く必要はありませんよ」
「そうだね」
サキとバーゼリアは至って平然としていた。
サキとしては、ここら辺一帯をある程度犠牲にすれば、あの古代種を永久に氷漬けにする手は持っている。だが、そんな被害を出すような事をする必要はない。何故なら、
「勝利を運ぶ彼が、来てくれますから」
「彼……?」
そんな疑問の声が響くと同時、空から人影が振って来た。
それは自分が待ちかねていたヒトで、
「ふふ、やはり、来てくれましたか。――アクセル、待ってましたよ」
「ご主人ー、こっちこっち」
「ああ、待たせたな二人とも……!」
昔のように剣と槍を手にして、しかし昔とは異なり輸送袋を装備したアクセルが、降り立ったのだ。




