第32話 過去にあったモノ
「さて、とりあえず気絶している内に、縛って輸送袋に押し込んで、と」
俺は、魔獣を操る男の意識を刈り取った後、ロープで縛って、輸送袋に放り込んでいたのだが、
「そ、そんな、拘束方法が、出来るのね」
それを見て、傷の男が持っていた袋や、周囲に散らばった装備品を集めていたセシルが驚きを露わに聞いてきた。
「うん? 輸送袋に入れたものは持ち主の許可が無いと出てこれないから、拘束具としても使いやすいと思うんだが。意外とポピュラーな使い方じゃないのか?」
「人を入れられる容量を持った輸送袋というのはあまり聞かないから……」
「へえ。そんなものなんだな。でも、こっちの方が安全に運べていいだろう」
そう簡単に目を覚ますような殴り方はしていないが、時限式の気付け魔法などを自分の体に仕掛けていたら面倒だし。
「ま、まあ、そうだけど。……っと、そうだ。これで、あの男が持っていた物よ」
「あ、こっちにもあるぜ、アクセルさん。全部で三つだ」
言いながらセシルとジョージは大きな革袋を渡してきた。
「ジョージと一緒に探し回ったけど、他に人工物は無かったわ。袋の中身は、その紫色の粉と奇妙な色をした石だったわね。何に使うか分からないものだけど……魔人を名乗った奴の物だから慎重に集めたわ」
「そうか。ありがとうよ」
俺は彼女から受け取った袋も輸送袋の中に入れていく。
内容物は相互で不干渉なため、例え魔人を名乗る男が目覚めたとしても、使う事は出来ないし、これで一安心ではあるが、
「とりあえず、男の拘束と何かやらかしていた物は回収できたとはいえ……魔人衆……魔人、ねえ。良い言葉じゃないんだが、なんでそんなのを名乗ってたんだろうな」
「えっと、魔人って、魔王戦争時に向こう側に加担した人たち、でいいのよね?」
「ああ、魔獣と一緒に街々を荒らしていた奴らだな」
「なるほど……というか話しぶり的に、魔人について詳しいんすね、アクセルさん」
「まあ、多少はな。戦争に関わってた頃、身近な所で被害を出してくれたもんだから、割と注意はしてるんだ」
それもあって、今回は即座に意識を刈り取ったのだ。
「そんな危ない人がここにいたなんて。そもそも『衆』ってことは、そんな人たちの集まりがあるって事なのかしら?」
「かもな。戦争時には、魔人衆だなんて名前は聞いた事は無かったから、ブラフの可能性も捨てきれないが」
魔人は個々人の思惑で動くもので、徒党を組むことも殆どなかった。
だからもう少し、この男から話を聞いて、情報を集めておくべきだろう。
……戦争後、魔人はほぼ倒しきったと、調査系職業の神から言われてもいるんだけどなあ。
それを今になって名乗る辺り、怪しさ抜群だ。ただ、魔人云々がブラフだったとしても
「魔人を名乗った奴がばら撒いていた、魔石の粉らしきモノは実在している訳で。気になるしな」
俺は輸送袋の中に詰め込んだ革袋を見る。その中身は禍々しさすら感じさせる紫色をした粉が入っている。
「……これの正体も調べたいし。しばらく傷の男も目は覚まさないと思うが、さっさと街に戻るか。宝珠の反応も、もう無いんだろ?」
「あ、そうね。もう、この辺りに魔石で出来た物は無いみたいだから、調査終了ということで、帰還しましょう」
「うっす。了解だ姉さん、アクセルさん!」
こうして、ひとまず調査を終えた俺達は、街へと急ぎ足で戻るのだった。
ちょっと短めなので続きは早めに。




