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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第二章

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第26話 支える運び屋

「どういう魔獣かしらね。あの兎」


 前方の、こちらに近寄りつつある魔獣を見ながらセシルは言葉を零す。

 それに反応したのは自分たちの後ろにいるアクセルで、


「ああ、あれはジャッカロープだな」

「ジャッカロープ……。確か、道場の魔獣図鑑にも載っていたけど……アクセルさんは、知っていたのね」

「まあ、多少はな。何度か見ているし。それなりに怪我をさせてくる連中だ」

「……でしょうね。図鑑にも書いてあったし、あの図体と牙を持っていれば分かるわ」


 自分の視線の先にいるのは一メートル弱の体躯と牙を持った兎で、下級の魔獣だ。

 頭には二本の角が生えていて、遠くから見る分には可愛らしい姿をしていると図鑑には書いてあったが


「角は、どこかしら?」


 実際可愛らしくもあるが、角が見当たらない。数メートルほどの距離まで近づいてきたが、それらしきものは見えなかった。

 本当にアクセルの言う通り、ジャッカロープという魔獣なのか、と問いかけをしようとした。刹那、


「――!」


 ジャッカロープが一気に加速し、飛び込んできた。

 しかも、頭から二本の鋭利な角を生やしながら。こちらの脇腹をえぐるように。


「っ……角は収納式なの……!?」


 突然の動きに、しかしセシルは反応した。

 脇腹に来た角を槍の柄で打ち払いながら、大きくバックステップを踏む。


「――セシル! 大丈夫か?」

「勿論よジョージ」


 アクセルがくれた情報で、角に対して最低限の警戒は出来ていた。


「――この程度、かすっただけ……よっ!」


 損害は腹部の衣服が破れただけ。それを視線で確認しながら、セシルは打ち払いの動きから流れるように槍を回し、

  

「【唐竹割り】……!」


 スキルを発動させながら、勢いよくジャッカロープの頭めがけて振り下ろした。

 スキルの力も合わさって打ち込まれた一撃は、ジャッカロープの角ごと頭をたたき割る。

 

「うん、この魔獣もイケるわね。そっちはどう、ジョージ」


 血を噴き出しながら倒れるジャッカロープを見てから、セシルはジョージの方を見た。すると、彼も彼で、ジャッカロープの胴体を大剣で豪快にきり飛ばしていて、

 

「こっちも倒した。下級だから弱いな」 


 余裕そうに息を吐いていた。


「そうね。じゃあ……あと六匹くらいだから、さっさと片付けて、この辺りに魔獣を引き付ける魔石があるかどうかの調査をしておきましょう」


 言いながら、セシルが一歩、前に進んだ。すると、ジャッカロープたちはそれを見るや否や、


「――」


 くるりと背を向けて、林の奥の方に走り出した。


「逃げていく……?」

「面倒な……でもあんま速くないし、追うぞ、セシル」

「……そうね。どうせこの先に進むんだから、片づけちゃった方がいいわね」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら離れていくジャッカロープの速度は、それ程でもない。

 再び襲撃されると面倒だし、ここで叩いて片付けてしまうべきだ、とセシルはジョージと共に走り出す。


「――あ、待て待て。こういう奴らは追いかけながら戦うと危ないぞ」


 後ろからアクセルの声が聞こえるが、

 

「はは、心配し過ぎだよ、運び屋さんよ」


 ジョージは微笑みと共に言葉を返す。


「今の動きを見ただろう? 俺達のグランアブル流なら、この程度の魔獣すぐに倒し終わるよ」

「そうね。ちょっと待っててアクセルさん。もしもそのちょっとの間に他の魔獣を見つけちゃったら、後から追って来てくれればいいから」


 セシルもそう言った後に、同行者を必要以上に待たせないために、戦闘職の本気の速度で突き進んでいく。


 ジャッカロープの背中はいまだ目視できる程度の距離だ。これならほんの数十秒で、追いついて切り払って終わる。

 そう思いながらセシルはジョージと共に林地の奥へと走り、


「――ほら、追いついたあ!」


 予想通り、先頭を走るジョージが追いつくまで十秒もかからず。最後尾にいたジャッカロープに大剣を振るった。のだが、


 ――ガン! 


 という音が、大剣の振った先から響いた。


「って……上の枝で剣先がぶれやがった……」


 ジョージの頭上に太い枝が生えており、剣がそこに当たったらしい。とはいえ、勢いよく振るわれた剣はジャッカロープの頭に激突し、血を噴出させていたが。

 

「まあ、いいや。頭蓋を砕いた感触はしたし、これで一匹は片付いた。あと五体――」


 と、ジョージが再び剣を構えようとした瞬間だ。


「――ぐっ?!」

「ジョージ!?」


 彼はいきなり膝をついた。

 見れば、彼の足元。そこには小さな穴があった。

 そしてそこに潜んだジャッカロープが、ジョージの足に角を突き刺していたのだ。


「いつの間に、穴なんか掘ってやがった……!?」

「このっ……!」


 セシルはとっさに、穴に向かって槍を振るおうとした。だが、


 ――ゴッ!


 先ほどの大剣と同じように、槍の行き先を樹木と、転がっている大岩が阻んだ。


「く……周りが邪魔だわ……ッ!」


 見れば、周辺には大木が生えているばかりか、大きな岩もそこらかしこに転がっている。

 武器を振るには、障害物が多く窮屈な場所だ。そんな環境で、


「セシル! 右から来てる!」

「――ッ!」


 ジャッカロープたちは攻撃を仕掛けてくる。

 ジョージの叫びに、セシルはとっさに槍を右手側に経てて構えた。するとそこには、鋭利な角でこちらの肩を貫いて来ようとする兎の姿がいて、

 

「――シャァ!」


 兎の叫びと共に来た角が、鎧を貫通し肩を微かに抉る。

 

「っ……!!」


 槍を構えた事で、皮鎧が持っていかれ、服とわずかな皮膚が破ける軽症で済んだ。だが、攻撃はまだ終わらない。

 岩場や木々の陰から、こちらに向かって突っ込んでくる。自分だけではない。ジョージにも攻撃は繰り返される。

  

「っ……道場で鍛錬したけど、こんな場所で戦った事はねえぞ……!」


 向かってくる兎の角をガードしながら、どうにか立ち上がったジョージが言葉をこぼす。

 彼の言う通りだ。

 室内などの閉所を想定した訓練はしていた。

 だがこんな不規則で不安定な環境でやるのは初めてだ。実際に動いてみると、、見通しの悪い環境から突っ込んでくるジャッカロープに反応が遅れる。更には、


 ……動作も、ワンテンポ遅れる……!


 対して、相手の動きは明らかに慣れている。

 大木や岩場の凹凸を巧みに使って、こちらが武器を振り辛い位置から突っ込んでくる。


「まさか、この場所に誘い込まれたの……!?」


 そう、言葉を零した瞬間、


「姉ちゃん! 上!」


 再びジョージの叫びが来た。今までで一番余裕のない声で。

 咄嗟に頭上を見れば、そこにはジャッカロープがいた。

 その角と牙で首を狙ってくる軌道で。


「ァ……!」 

「舐めるな……っ!」


 槍は下段に構えているが、この速度なら最速で動かせば間に合う。そう思い迎え撃つために、セシルは槍を回すように振った。が、

 

 ――ガッ。


 と、柄の一部が、木の幹に当たってしまい、槍の動きが止まった。

 

「そんなっ……」


 だがジャッカロープの突撃は止まらない。

 このまま自分の首から胸元に角が食い込もうとする光景を想像し、反射的に身を竦ませた。その瞬間、


「ここで大振りをするのは良くないな」


 そんな声と共に、止まっていた槍に力が加わった。

 

 強い力に引かれるようにして、槍の柄は幹から剥がされる。

 そしてそのまま、半回転するような動きでジャッカロープの顔面に穂先が叩き込まれ、

 

「――」


 鋭利な角を持った兎は抵抗する暇さえも無く、槍に体を砕かれ、地面を転がった。 

 

「え……?」


 今、自らの手の中にある槍が、どういう動きをしたのか。

 セシルは一瞬、理解できなかった。

 

 なにせ自分の手や腕は硬直して、自分の意思ではまともに動いてくれないのだ。

 だがそれでも、背中にとても暖かな、安らぎすら感じる体温がある事は分かって、

 

「こういう障害物が多い場所では、とりあえず周囲の凸凹に体の動きに合わせて、縦に突くか、振り上げるように切るかを基本にした方が比較的楽に動けるぞ。こんな風にな」


 そんな声が聞こえたと思ったら、また自分の腕と足が、槍に引かれるようにして勝手に動いた。

 

 そして、下段から振り上げるような高速の刺突が、前方でジョージを傷つけようとしていたジャッカロープを仕留めていた。

 明らかに今まで自分が行った中で一番、流麗で無駄の少ないで、だ。


「二人の流派の動きの邪魔をしてたら、申し訳ないんだけどさ」

「え……あ……」

 

 自分が行わされている動作に対し、セシルは驚きを抱きながら、首だけを動かして後ろを見た。そこには、

 

「あ……アクセル……さん……?」


 こちらの背を支えるようにしながら槍を握り、こちらの手足を先導するように動かしてくれるアクセルがいたのだった。

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