第24話 調査・観察依頼 開始
朝食を終えてしばらくしたあと。
俺達がいた酒場には数人の冒険者たちが集まっていた。
皆、若者であるが、体つきは筋肉質でよく鍛えられている人々である。
「さて、依頼にあった通り、最近、奇妙な岩礁が発見されているって事でね。もしかしたら岩系魔獣かもしれないし、死体の一部が打ち上がっているのかもしれない。魔獣の発生の線も考えられるから、全面的に調査をする事になった。ここにいる皆には、シルベスタ近くの海岸――林地を抜けた先にある岩場を調べてほしい」
そんな冒険者たちにライラックは、地図の書かれた依頼書を渡しながら説明を続けていく。
「ここからだと北西側と北東側にそれぞれ岩場があるが、分かれた方が効率的だからね。北東側は広いから二グループ、北西は狭いから一グループで進んでほしい。また北東グループは人数を多めにする分、岩場から戻ってくる時に、港近辺の海底調査を海事ギルドと共にして貰う事になる。分かったかい?」
「うーっす!」
「任せておいてくれよ、海事ギルドの頭領さん!」
冒険者たち活き活きとした声で返事をしてくる。
かなり士気は高いようだ。その理由は、
「――で、観察兼サポート役として、ここにいる方々が付いてくれることになった。そっち北東側には魔術の勇者であるサキさんと、仲間であるバーゼリアさんが観察役になってくれるそうだ」
「よっしゃあ! マジで勇者様が見てくれるのかよ!!」
「それに、海事ギルドの人たちを助けたっていう、お姉さまもいるわよ! 面倒くさいけど広い方選んでよかったわ!」
サキという勇者がサポートに着いてくれるのが、彼らにとってはとても嬉しい事だったらしい。女性も男性も、どっちの冒険者も、とんでもなくキラキラした目でサキを見ていた。
更にはその横にいるバーゼリアも、先日の沈没船救出で、サキと共に氷の道を渡って人を救助したところが有名になっているらしい。両方とも美女ということもあり、セットで話題になっているようだ。
ただ、それに対して、サキとバーゼリアはともに笑顔であるが青筋を立てており、彼らから見えない位置で互いの手をギリギリと握り合っていた。
「……アクセルと別れるの嫌だったのに、貴女が渋るから、こうなったんですよ。頑固竜……!」
「人の事を棚に上げて良く言えたものだねえ、魔術の勇者……!」
「話は着いたんだから、そこら辺にしておけよ、二人ともー」
北東に二グループが行かなくてはならないということで、先ほど、サキとバーゼリアのどっちが俺とコンビで行くかで微妙に睨み合いが発生した。
話しは平行線で終わりそうになかったので、先んじて俺が北西に向かう事にしたのだ。
というわけで、俺が担当するのは残りの一グループになった。
そして、そのグループを、ライラックは手で指し示した。
「アクセルさんは、この二人と共に北西側を頼む」
そう紹介されたのは、腰に大剣を装備した少年と、長い槍を手にした少女だ。
「デビューしてまだそこそこしか経っていない冒険者だが、戦闘の実力的には中級以上はある。そこそこ安心して見ててもらって大丈夫だよ」
「そうなのか。よろしくな、二人とも」
声を掛けるとまず、槍を手にした少女の方が会釈してきた。
「ええ、よろしくお願いするわ。私《中級槍術士》のセシル。そしてこっちは弟の、《大剣術士》のジョージよ。……ほら、アンタも挨拶しなさいジョージ」
「よろしく……」
セシルと名乗った少女は簡単に挨拶を交わしてくるのだが、少年の方は俺の目を少し見ると、ふいっと顔を逸らしてしまった。
「ご、ごめんなさい。ちょっとふて腐れちゃってて。ほら、ジョージ、戻るわよ」
そしてセシルは俺の前からジョージを引き戻して、冒険者たちの中に戻っていく。
ただ、彼女の言う通り、少年はどうにも不機嫌なようで、
「だって、ずりいじゃねえか。俺達も勇者様に見て欲しかったもんよ……」
というような呟きが、ぼそりと聞こえた。
「ちょっと、ジョージ。そういう事を口にしちゃだめでしょ。アクセルさん、良い運び屋さんだって言うわよ?」
「そりゃ分かるけどさ。でも、勇者様がいるのに、なんでこっちはちょっと有名なだけな、普通の運び屋なんだ。セシルだってそう思っただろ」
「少しだけよ。でも、普通の優秀な運び屋さんで悪くない人なんだから、良いじゃない」
セシルは不機嫌そうなジョージを宥める様に声を掛ける。ただ、彼の声によって冒険者の中にざわめきは発生しており、
「そもそも……なんで勇者様とそのお連れと、有名だけど普通の運び屋さんなんだろうね?」
「ああ、オレ達は運が良かったけどよ……この機会に運び屋なんかに当たっちゃあなあ。や、運び屋さんもすげえ人なのは分かるが、言っちゃ悪いが、天と地ほど差があるぜ」
ぽつりぽつりとそんな声が漏れてくる。
まあ、彼ら彼女らの言う通り勇者と運び屋じゃ、印象が違うかもな、と思っていると、
「アクセル。凍らせてきますね、あの子たち」
笑顔のサキで、黒い冷気を体に纏いながらそんな事を言い始めた。
「おい、サキ。なんで確定系で話すんだ。と言うかマジで冷気を放出するな」
「そうだよ。凍らせちゃだめだよ。ボクがちょっとだけ燃やしたい気分なんだから。ボクが魔術の勇者のお連れって言われたのも腹が立つけど、それ以上にご主人を『なんか』とか言われたらね……」
そしてその隣では、真顔のバーゼリアがオレンジの火の粉を散らしながら小声で言い始めた。
「お前も熱気を漏らすな、バーゼリア。ただの感想を言っているだけだろ」
「……私は私がナメられるのはガマン出来ますが、アクセルが侮られるのは嫌いなので……!」
「癪だけど魔術の勇者と同じく」
二人とも小声だが、放つ気配が宜しくない。若手冒険者たちがまだ気づけない程度には抑えているが、若干怒りも混じっているし。
「怒るなって二人とも。俺をけなす意図はなくて事実を述べているだけだと思うけどな、あの子たちは」
何せ、彼らから残念は感じても、悪意は全く感じられない。
普通に思った事を言っているだけだから仕方ないだろう、と思っていたら、
――ドン!
と、木と重い金属をぶつけあったような音が響いた。
それはライラックが木のテーブルの上に金属の箱を置いたことで発したもので、
「伝え忘れてたけど、もしも、何か文句があるならアタシに言うことだね。ここにいる三人はアタシが信用したからこそ頭を下げて頼んで、観察してくれる事になった人たちだ。――だから気に入らないなら、アタシに言いな。それが筋ってもんだろう」
その言葉で、冒険者たちのざわめきが納まった。
そして彼女は一息つくと俺の方に向き直り、
「ふう……すまないねえ、アクセルさん。なんか騒がせちまって」
「ああ、ライラックまで気にしてたのか。別に大丈夫だぞ。――あと、バーゼリアと、サキもな。気にするな」
「「むう……」」
「……まあ、なんだ。その気持ちだけ受け取っておくよサキ。俺の為に怒ってくれて有難うな」
不満そうにしている二人の頭を撫でながら俺は言う。すると、冷気と火の粉が納まった。
というか、サキの目がトロけた。
「ああ……今ので怒りの気持ちが欲情に切り替わりました。どうしましょうか、アクセル。もう、性的接触を致して良いのでしょうか。というか良いですね」
「だから確定系で話すな。良くないから少し落ち着け」
「ご主人。思うんだけど、褒めると魔術の勇者はエスカレートするから、ある程度は突き放して良いと思うんだ……。ボクは撫でられても気持ちよく受け入れるだけだから良いけどさ」
「ふふ、頬を紅潮させて何を言っているんですかね、このおっぱい駄竜が。話の方向を都合よく動かして、アクセルの手を独り占めしようだなんて、そうはさせませんからね……」
そして今度は、サキとバーゼリアは睨み合い始めた。
忙しい二人だ。
ともあれ、冒険者たちへの怒りは落ち着いたようだから、もう放置しても良いだろう。
俺は、睨み合いと言い合いを開始した二人を唖然とした目で見ているライラックに声を掛ける。
「さて、話題の方は逸れちまったが、とりあえず、今から開始で良いのか?」
「あ、ああ。観察役の方、頼むよ」
「了解。――じゃ、出発するかー」
そうして俺達は調査部隊と共に酒場を出て、指定された調査ポイントへと向かう事にするのだった。




