第20話 工場見学とちょっと参戦
お待たせして申し訳ございません。
竜騎士、定期連載再開です!
そして書籍化の方、決定いたしました!
ヴィルヘルムから報酬をもらった後、俺は折角だからとヴィルヘルムに造船ギルド内部を案内して貰っていた。
帰る前に、こういったギルドの仕事も知っておけば、今後の運び屋業の役に立つかと思ったからだ。バーゼリアとサキも俺の考えに賛同してくれたらしく、今は造船ギルドの女性陣に色々と話を聞いているようだった。
というか、あの二人は、
『待っててね。ボク、ご主人の役に立ちそうな情報を、一個くらいは集めてくるから』
『では私は、アクセルの為になりそうな話を二つ三つ持ってきますね』
『――うん。ボクは六個くらい集めてこようかな」
『――では私は七つで』
『……』
『……』
と、笑顔でにらみ合った後、競うように話を聞きまくっている。
まあ、色々な情報を貰えるのは有り難いので、このギルドの迷惑にならない程度に話を聞いてもらえればいい。
そんな事を思っていると、
「運び屋の兄さんのパーティーは賑やかだな」
俺の隣を歩くヴィルヘルムが苦笑しながら言ってきた。
「こんなに賑やかになったのは、ここ数日に事なんだけどな。ともあれ、喧しくしたならすまんな」
「いやあ、元々トンドンガンガンうるせえ仕事場だ。この程度、気にする奴なんかいねえさ」
ヴィルヘルムの言う通り、このギルドハウスというべきか、造船所の中で音が鳴りやんだ事は無い。常に金槌をたたく音や、船大工らしき人々の声が聞こえていた。
「あっちこっちも船を作っているみたいだけど、結構ハイペースで船を生産しているんだな」
「そりゃあ、魔王大戦時から作っていく傍からぶっ壊されたからな。今も生産ラインはフル稼働で、修理ラインも同じくフル稼働さ」
そう言いながらヴィルヘルムは、周囲のドッグを指さす。そこには作りかけの船の他、傷ついた船が幾つもあった。
「あれが修理ラインか。戦争でボロボロにされた船を直してるんだな」
「基本的にはな。ただ最近は近海での事故も多くてよ。その修理にてんやわんやになっているけど、新型の開発もしなくちゃいけねえ……って慌ててやった結果が、あのザマさ」
眉をひそめたヴィルヘルムが見る先には、黒い煤にまみれた金属の箱があった。
「あれは?」
「船を動かす心臓部、魔導機関だ。新型艦のな。この前、運び屋の兄さんに運んでもらえた奴だよ」
「ああ、そういや箱っぽいものも一緒に運び出したっけな」
「おかげで事故原因と改良方法もわかって万々歳だったさ。沈んじまったらそれも難しくなるからな。……まあ、ガワの船が沈んじまったからそっちをまず作り直さなきゃってことで、活かすのはもう少し後になるんだけどさ」
「そうなのか。でも、役に立てたようで何よりだ」
「はは、役に立ったというか、兄さんはウチのギルドにとっちゃあ、完全に救世主なんだけどな。心臓部を作り直すとなればすげえ金も時間もかかるし。……ガワだけなら、ほら、もうあそこで形に出来る位にはリカバリーできるんだ」
ヴィルヘルムの目線を追うと、そこには大型の船があった。先日、事故で沈んだのと同じような形をしたものだ。
「おお、この前壊れたばっかりだっていうのに、すごいな。もう出来てるのか」
「半分ほどで、まだまだ作業は残ってるけどな」
俺とヴィルヘルムはそんなことをしゃべりながら、その新造船へと近づいていく。
すると、十数人ほどの男が、新型船の傍に集まっているのが見えた。というか、
「せえの……、せえのッ……!!」
何やら銀色をした、長い柱のようなものを持ち上げようとしていた。
「あれは何をしているんだ?」
「さっきも言った新型艦の作成作業だ。船を頑丈にするために、あの魔石入りの混合金属材を艦艇に仕込もうとしているんだが――」
言葉の途中で、柱を数ミリほど持ち上げていた男たちから絞り上げるような声が響いた。
「ぬおおお……! 上がらねえ……!」
「――だ、ダメだ! 一旦手を離せ!」
その声と共に、わずかに空中に浮いていた柱は、ズズンと音を立てて床に落ちた。
そして、男たちはぜーぜーと荒い息を吐いている。
「持ち上がってないみたいだぞ」
「ああ。本来は筋力強化を使える魔法使いがサポートで入るんだが、先日の事故で大分やられちまったからな……。テメエら、あんま無理するなよー」
ヴィルヘルムが声をかけると男たちはこちらに振り向いた。
そして俺とヴィルヘルムを見た後で、ばつが悪そうに苦笑する。
「はあ……はあ……すんません、親方ー。お客人の前で不甲斐ないところ見せて」
「人がいないんだから仕方ねえさ。しかし、持てなさそうか? 手が必要なら俺っちもやるが」
ヴィルヘルムの言葉に、男たちは眉を顰める。
「ううん。どうでしょうね。親方の腕力があれば、ギリギリ行けるとは思うんすけど、正直、安定をとるならもう少し欲しいっすね……」
「もう少し、か。周りの作業を空くまで待つのも時間がもったいねえんだが……安全第一だしなあ」
ううむ、と悩みながらヴィルヘルムたちは柱を見下ろす。
困っているが、やる気は万全のようではある。ならば、
「ヴィルヘルム。良ければ、俺が少し手伝おうか?」
「えっ、運び屋の兄さんが、かい?」
「ああ、せっかく業務見学もさせてもらったんだし、乗りかかった船だ。単純な持ち運びくらいなら俺でも手伝えるしさ」
救助依頼を達成しただけで、船の乗り放題チケットを貰ってしまうのも何だし、もう少し彼らに何かお返しをすべきだろう。そう思って提案してみた。すると、
「あ、ありがてえが、良いのか? この魔石が混合された金属材、結構重てえし、素材の関係で輸送袋に入れられると変質するかもしれねえから、そのまま運んで貰いたい品なんだが……」
「ん? ああ、別にいいぞ。普通の持ち手として参加するよ」
輸送袋が使えないなら、普通に持つだけだし。そう思ってヴィルヘルムに言う。
すると、ヴィルヘルムは周りの男たちと目を見合わせた後、頷いてこちらを見た。
「わかった。ありがとう、運び屋の兄さん。でも、無理はしてくれるなよ? 筋力ステータスがC以上のこいつらでもきつかったんだからさ」
「おう? もちろん、無理な持ち方はしないさ」
俺の答えにヴィルヘルムは納得したように頷くと、
「よし、じゃあ、おめえら運ぶぞ! 運び屋の兄さんの心遣い無駄にすんなよ!」
「おう!」
何やら気合の入った男たちが一斉に金属材をつかんだ。
それに合わせて、俺も金属材の端っこをつかむ。
「イチ、ニ、サンで上げるぞ」
「おう!」
「イチ……ニの……」
そんな応答のあとで、男たちの体に力が入り、カウントが始まる。そして、
「サ、ン――!?」
最後のカウントの瞬間、俺は金属材を肩に担いだ。のだが、
「え……?」
「悪い。持ち上げすぎたな」
周りの皆の手を振り払う形で、俺は肩まで持ち上げてしまった。
皆は腰元に手を構えていることから、どうやら持ち方を間違えたらしい。
何人か、力の入れそこなったのか、ひっくり返ってしまっているし。
「肩まで持つんじゃなくて、小脇に抱える感じだったか」
息を合わせるために、最初に聞いておくべきだったなあ、と思っていると、
「いや、待ってくれ、兄さん。運び屋のアンタが、一人で持ってる……だと……!?」
「ん?」
言われてみれば、俺は肩に柱を乗せるような形で担いでしまっている。
そして周りの皆は手を腰元に置いたまま、口をあんぐりと開けて動きを止めていた。
つまり、金属材を手にしているのは俺だけだ。
確かに、やや重たい。重たいが、長大な剣と槍を数本抱えていた竜騎士時代を思えば、まだ楽に持てる部類だ。
「うん、まあ、一人で持ててるな。結構な重さがあって、中々きついけど、意外といけるもんだ」
そんな俺の言葉で、まずヴィルヘルムのフリーズが解けた。
「じゅ、十数人でようやく運べる金属材だぞ……!? あ、兄さん、腕、だ、大丈夫なのか!?
「これくらいなら平気だな。――で、ヴィルヘルム。これをどこに運ぶんだ? 良ければ、このまま俺が運んじまうけど」
「――あ、ああ、こっちだ。でも、歩けるのか、運び屋の兄さん」
「もちろん」
ヴィルヘルムの先導を追うように俺は金属材を担いだまま、歩いていく。すると後ろからざわめくような声が響いた。
「嘘だろ……。空飛ぶ運び屋ってのは、速いだけじゃなくてパワーもあるのか……!?」
「ああ、あの魔術の勇者様と一緒に動いているからタダモンじゃねえと思ったが、実際に見ると本当にやばいな……。あんなの運び屋の筋力じゃ絶対に無理なのに、どうなっちまってんだ……」
そんな声を背にしながら、俺は金属材を船へと運び配置を手伝った後で、バーゼリアやサキと共に帰宅するのだった。
長らくお待たせして申し訳ございませんでした。
体調の方がガタガタだったのを立て直せましたので、更新、再開いたします!
そして、おかげさまで、最強職《竜騎士》の書籍化、決定いたしました! 皆様の応援のお蔭です。本当にありがとうございます!




