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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第二章

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第19話 増えていく旅の手段

 受付へ挨拶をした後、数分もしない内に、作業場から一人の男が走って来た。

 造船ギルドの幹部、三角帽子を被ったヴィルヘルムだ。


「早速来てくれたのか、運び屋の兄さん! それに皆さんも!」

「時間帯の指定は無かったが、こういうのは早い方が良いと思ってな。来て大丈夫だったか?」

「全く問題ねえさ。というか急な誘いだったのに、ありがてえよ。……っと、こんな所で話すのもなんだ。向こうに応接間があるから、ちょっくら案内させて貰って良いかい?」

「ああ、案内頼むわ」


 ヴィルヘルムは受付の女性に一言二言告げた後、歩き始める。

 彼に付いて行くこと数十秒で、俺達はギルドの奥にある応接間に辿りついた。 

 作業場に隣接するように作られた応接間は、綺麗な装飾の付いたテーブルや、触り心地の良いソファーなどが並んでいた。

 

 ただ、作業場の直近だからこそ、金属を叩く音は変わらず聞こえていた。部屋に設けられたガラスの窓からは、作業場で飛ばされる声もいくらか聞こえる。

 それを分かっているからか、応接間で俺たちが座るなり、ヴィルヘルムは苦笑した。


「ようこそ造船ギルドへ。うるさい所ですまねえな」

「いやいや、仕事をしている様子が音として聞こえるのは、それはそれで面白いぞ。珍しい物が見れて、バーゼリアも喜んでいたしな」

「うん! ここって面白い物が一杯あって、楽しいよー」


 俺とバーゼリアの言葉に、ヴィルヘルムが意外そうな表情をした。そして、


「……そう、か。そう言ってくれる人達は初めてだな。ありがてえ話だ」


 と嬉しそうな表情になりながら呟いていると、 


「――船長、茶の方を持ってきました!」


 応接間の奥。開けっ放しになっていたドアから、盆を持った男女が入ってきた。ただ、一人ではない。複数だ。

 それも、彼らの顔には見覚えがあり、

 

「お? もしかして、あの時、氷の道で帰った船員さんか」


 サキの魔法で、港まで歩いて帰った面々だ。

 あのあと、病院に行ったものもいた筈だが、皆、戻ってきているようだ。


「うっす! あの時は本当に、助かりました! ありがとうございます、魔術の勇者様! それに運び屋さん達も!」


 彼ら彼女らは、サキと俺達に順々に頭を下げて来る。


「本当に勇者さんの氷の道が無ければ死ぬかと思いました……」

「サキ様は私たちの命の恩人です!」

 

 などと口々に言っていた。

 

「いえいえ、私はただの付き添いですから」

 

 それに対してサキはいつもの凍り付いたような笑顔で応対していたが、


「そろそろ仕事に戻れお前ら。直々に礼を言いたい気持ちも分かるが、お客さんだ。押しかけるのも程々にしろよー」 

「――っと、了解っす船長! お茶と菓子だけ置いて、退散します!」

 

 ヴィルヘルムの掛け声で、船員たちは茶を置いた後、応接間から出て行った。

 しかし、作業場と繋がる窓からは、ちらちらと相変わらずの視線を感じるばかりか、

 

「あれが、魔術の勇者様か。凄く綺麗な人だな」

「ええ、それに、凛々しいわ。私、実物を見たのは初めてよ……」


 なんて興奮した様な声も聞こえてくる。どうやらサキが来たのは、結構な一大事として見られているようだなあ、と思っていると、

 

「今回の仕事を受けたのはこちらにいるアクセルで、目立つのもアクセルであるべきなのですがね……。何故みんな、私の方を注目するんでしょうね……」


 ニコニコとした表情で、しかし黒い魔力を微妙に出しながらサキが呟いていた。 

 それに対して、ヴィルヘルムが申し訳なさそうに頭を下げる。

  

「失礼な視線をすまねえ。あいつら、運び屋の兄さんにも感謝しているんだけど、それ以上に勇者さんの方にばっかり目が奪われちまってるみたいでな。俺っちからすると、運び屋の兄さんの方もすげえ事をやっていると思うんだけどな……」

「はは、そりゃ仕方がない。サキの魔法は目立つからな。サキは一度見たら忘れないくらい優雅で綺麗な魔法を使うし」


 実際、今回はサキは大活躍した訳だし。印象に残るのも当然だろう。そう思って言うと、サキは頬を染めつつ、しかし唇を尖らせて俺の顔を見て来る。 


「褒めて貰ったのは嬉しいですが、そこで笑って受け入れないでください! 本来ならばアクセルの方が凄いのですから……!!」

「いやあ、皆が助かったんだったら誰が凄いとか、そんな評価はどうでも良いだろう」


 結果的に皆が無事だったのならそれでいいだろう。そう言うと、サキは諦めたように吐息した。

「本当に、アクセルは相変わらずですねえ。そういう所も、好きなのですけども」


 言いながらサキは俺の身体に引っ付いてくる。とりあえず納得した様で、黒い魔力は収まったようだ。

 そう思っていると、ヴィルヘルムは相変わらず申し訳なさそうな表情で、しかしほっとした様な笑みを浮かべていた。

 

「運び屋の兄さんにそう言って貰えると、気が楽になるよ」

「そんなに俺達に気遣う必要はないと思うんだけどな。……っと、そうだ。船員さん達の事で気になったんだけど、もう全員退院したのか?」


 聞くと、ヴィルヘルムは微妙な表情になって頭を掻いた。


「いや、運び屋の兄さんに直接助けられた奴らは結構重傷でな。まだ病院にいるんだ。そいつらも運び屋の兄さんに恩返ししたいそうで、早く退院したい! 酒を奢りに行きたい!とうるさい位、元気ではあるんだがな」

「なるほど。全員、完治した訳じゃないんだな」

「まあな。俺っちは戦闘系の職業である《船長》だし、ある程度の能力とスキルはあったから、早く治っただけって言った方がいいかもな」


 職業やレベルによって、体の修復能力には差が出る。

 それは当然のことだから仕方ないだろう。


「でも、時間の問題だから、地道に待つだけさ。命があればまた海に出られるんだからな。――っと、こっちの状況の話はもう良いか。兄さん達にモノを渡す方が先決だしな」


 そういえば、何か渡したいものがあると言っていた。

 なんだろう、と思っていると、ヴィルヘルムはテーブルの上に革袋を乗せた。その中には札束が入っている。

 

「――お礼としてまず金は当然、お渡しさせて貰う。形式的に依頼したのはライラックだが、俺達が払わせて貰う。後払いになっちまったがな」

「おお、有り難うよ」


 革袋を受け取ると、結構な重さが手に加わった。割とぎっしり詰め込まれているようだ。

 あとで商業ギルドの銀行に預けるのもありだなあ、と金を道具袋に入れていると、


「――それと、こっちが今回の主役でな。兄さんに貰って欲しいんだ」


 ヴィルヘルムは銀色に光る薄い金属のケースを手渡してきた。

 その中には、何やら白っぽい板が入っており、板には文字が刻まれていた。


「イクシス発行の万能乗船券……? なんだこれ?」


 板に書かれた文字を読み上げながら首を傾げると、横でケースを覗き込んでいたサキが口を開いた。


「これは造船ギルドが出している船なら、どの船でも乗れるチケットですね。しかも、これは最上級のチケットなので、高級船も最新船も乗れる筈です」


 サキは目を細めて、何かを思い出すかのような喋り方で言って来る。


「詳しいな、サキ」

「偶に船旅をするモノならば、乗船券売り場で一度は見た事がありますからね。この永久フリーパスは確か、王都の家一つは変えるくらいの金額だった筈で、額縁に飾られていましたから」

「え? 家一つ?」


 マジか、と思いながらヴィルヘルムを見ると、彼は苦笑していた。

  

「まあ、どの港でも使える乗船券というかフリーパスだからな。相応の価格にして貰っているよ」

「家一つって高いな、結構高いな……。というか、そんな物を貰っちまっていいのか?」

「いやいや、命を救って貰っておきながらこの程度しか渡せないんだから、むしろ申し訳なく思っているよ。それに、兄さんだからこそ、貰って欲しいんだ。運び屋の兄さんは旅をしている最中だって、色々な人たちから聞いたからさ。良ければ使ってくれると嬉しいよ」


 確かに、急ぎの旅でもなければ、目的地がきっちり決まっている旅でもない。

 だから、こういった移動手段を得られるのは助かる話だ、と思っていると、

 

「まあ、今回事故を起こしちまったウチを……造船ギルドを信用して貰えるなら、って話だけどさ。二度とこんな醜態は晒さないようにするから、使ってくれるかい、運び屋の兄さん」


 ヴィルヘルムは苦笑した後に、真面目な表情で俺に聞いてくる。

 余程、今回の事故で気合が入ったのだろう。ならば、


「そうだな。水場を渡る機会があった時には有り難く、使わせて頂くよヴィルヘルム」


 そういうと、ヴィルヘルムはほっとした様な、しかし明るい笑みで頷いた。


「ああ! 期限の方も無制限にしておいたから、ガンガン使ってくれ!」

 

 こうして俺は今回の金銭的な報酬に加えて、海での移動手段を手に入れたのだった。


お待たせして申し訳ありませんでした。

10月の残業ループから脱出したので、更新、再開します。


面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価など、よろしくお願いします!


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