第18話 運び屋の知名度
俺はサキとバーゼリアを起こして朝飯を食べて貰った後、造船ギルドのある港方面に向かった。
「朝から付き合わせて悪いな」
「全然平気だよー、ご主人」
「ええ、悪い事なんてありませんよ。ふふ……アクセルに起こしてもらった上にお出かけとは、朝から素晴らしい一日になりそうな予感がしますからね……!」
とりあえず二人とも元気なようで、足取り軽く俺の両隣を歩いている。
眠るのは遅くなったみたいだが、体力回復は出来ているようで何よりだと思いながら歩いていると、
「あ、ご主人ー、このでっかいマストの刺さった建物が造船ギルドでいいんだよね」
バーゼリアが前方を指さした。そこには巨大なマストが突き刺さった円筒型の建物がある。
ここから割と遠い宿屋の窓からですら視認できた程のマストは、近くに寄ってみると更に大きく見えた。
「そうらしいな。というか、普通に書いてあるな」
看板替わりなのか、マストには『造船ギルド・イクシス本部』との文字も描かれている。
そんなマストが突き刺さっている建物もまた大きく、中からは木や金属を叩いているような音が聞こえてくる。
……これまで幾つかギルドに入ったけれども、一番特徴的で、分かりやすいギルドかもしれないな……。
などと思いながら、俺たちは建物の中に入る。
巨大な外見に反して、中は他のギルドとはだいぶ変わった内装をしていた。
イスとテーブルが並んでおり、カウンターがあり、掲示板があるのは他のギルドと同じだ。
ただ、カウンターの向こうには巨大な広間があった。
そちらは作業場になっているのか、様々な機械が稼働していた。その上、工具を持った人たちが忙しそうに動いている。
「わあ、向こうに色々な機械がいっぱいあるよ、ご主人!」
「ああ、危ないからあんまりふらふらしないようにな」
作業場の方を興味深そうに見つめる、バーゼリアに言いながら、俺はギルドのカウンターへと向かう。
受付、との文字板が置かれたそこには一人の女性が座っていた。
「こんにちは。ちょっといいかい?」
「はい。なんのご用でしょう……か?」
カウンターの前に俺が経つと女性はまず腰元の輸送袋に目をやり、僅かに戸惑った様な表情を浮かべた。
やはり初級職の運び屋がこういう場所に来ると訝しまれるのか、と一瞬思ったが
「あ……!」
女性は俺の顔を見て声を上げた。更に、俺の背後でウロウロしているバーゼリアと、隣りにいるサキに視線を向けて、その上で俺の手に付けた指輪を目にすると、一度ゆっくりと頷いた。
「ええと、貴方様は運び屋のアクセル様ですよね? 先日、そちらの金髪の女性と、魔術の勇者様を連れて、ヴィルヘルム船長を助けて頂いた」
「うん? ああ、まあ、そうだな。知っているのか」
聞くと、受付の女性は今度こそ大きく頷いた。
「は、はい! 我が造船ギルドの大切なメンバーを救って頂いた、恩人の方々でギルドにお呼びしたと、ヴィルヘルム船長が仰られておりました。そしてお越しになり次第、こちらに繋いでくれ、とも」
「おお、そうなのか。話が早くて助かるな。それじゃあ連絡の方、よろしく頼めるか?」
「はい! 少々お待ち下さい」
そう言って、受付の女性は、作業場の方に走って行った。
その間、カウンターの前で待っていたのだが、
「なあ、あれ運び屋だよな……」
周りにいる人々は俺の腰元に付けた輸送袋に目をやってくる。
やはり輸送袋を持ってこういうギルドに入ると目立つのかもしれないが、ただ、今回はいつもと違い、
「ああ、あの顔は見覚えがある。……昨日、船を救ってくれた救世主の、空飛ぶ運び屋だな」
「だよな。やっぱり。綺麗な女性と魔術の勇者様と一緒にいるし」
と言った声が聞こえてきた。
意外と、あの事件の目撃者は、結構多かったのかもしれない。
俺の事を知っている人もいるようだ。
「なんというか、生身の顔でこういう反応をされるのは新鮮だなあ」
星の都ではそれなりに動いて来たけれども、新しい街でもこういう反応になるとは少し驚きでもあるが。
そう呟くと、隣にいたサキが力強く頷いた。
「私は、アクセルがアクセル本人として認識されることは、とても嬉しいですけどね。ええ、あれだけの活躍をして、竜騎士としての姿だけを覚えられてきた過去を思うと、本当に……!」
サキはわずかに体を震わせ、冷気を零しながら言う。
「おいおい、落ち着けサキ。そんなに興奮するような事か?」
「興奮しますとも。ええ、昔のアクセルは顔を一切覚えられていませんでしたからね!」
「あの兜を被っている時は、それはそれで認識されていたぞ?」
「不可視の竜騎士という称号で、ですけどね」
サキの声からはわずかに怒りも感じられた。
「それが不満だったのです。アクセルはアクセルとしてはっきり認識されるべきだと思っていましたから。今は少しだけ改善されたようですが。……まだまだ、私や竜王ハイドラを見てアクセルを認識している気配があるので、そこは不満でもありますけど……!」
「そこは気にしなくても良いと思うんだけどな」
とはいえ、生身の顔を覚えて貰えると、やり取りがスムーズになって有り難いと、そんな事を思うのだった。
というわけで新たなギルドにやってきました。水の都編も中盤ですがよろしくお願いします。




