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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第二章

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第16話 事後報告と立ち直り

 事故から一晩あけた早朝。

 

 まだ外も薄暗い中、水の都で最も大きな病院の一室にライラックはいた。

 彼女の目の前には、ベッドの上で体を起こすヴィルヘルムがいる。

 

 彼の顔の血色はよく、体調の回復は万全のようである。それを認めた上で、

 

「――で、どういう事が起きたんだい?」


 ライラックはヴィルヘルムに聞く。

 事故後、簡単な報告受けたが大体の情報は船長であるヴィルヘルムが握っているということで、今の今まで待っていたのだ。

 

 ……海事ギルドの幹部として、この水の都を運営する一人として、海難の調査は必要だからね……。

 

 こればかりは、しっかり調べておかねばならない。もしも他国、他都市、他者からの攻撃であれば、即座に対応しなければならないのだから。

 そう思って、僅かな緊張を持ちながら尋ねた。

 

 すると、ヴィルヘルムは首を横に振った。そして、肩を落としながら


「今回は、魔法機関の暴走による事故だな。機関内部の見えない部分が老朽化していたらしくてな。そんな状態で負荷をかけ過ぎたのが濃厚だな」


 ゆっくりを吐き出された言葉に、ライラックが眉を顰める。

 

「何だい人騒がせな。本当にただの事故かい」

「ああ、すまねえなあ。近頃、潮の流れが奇妙だからな。新型魔法機関の実験ついでに調査に出ようとしたら、船底からドカン!だ。頑丈に作った船だのに、一発でお釈迦になっちまった」

「そんなに酷かったのかい?」

「ああ、もうちょい何かの衝撃が加われば砕けてた位だった。運び屋の兄さんが遅れてたら、船もろとも俺っち達も沈んでたぜ」


 ふがいねえ、とヴィルヘルムは頭を掻く。


「やる事ばかりに注目して、テメエらの商売道具を見ないとは、な。今後はチェック要項も増やしていくつもりだ。事故った部分も強化して、改善していく。今回の事故でヤバそうな部分は全部記憶したし、報告書にも仕上げたから、ギルド全体で見直しだ」


 ふう、と疲れたような息を吐く。


「あとは……今回テストした新型魔法機関もそれなりの出来だったし、改良に改良を重ねて行くしかねえ、か。やる事が多くて心が折れそうになるがな」


 そんな力のないセリフにライラックは目をスッと細める。

 造船ギルドの幹部である彼が弱気になるとは。今回の件はよっぽどのことだったらしい。だが、

 

「おいおい、事故と怪我で精神が参っちまってんのかい? 負けん気の強いアンタが」


 だからこそ、煽る様にライラックは言う。

 すると、ヴィルヘルムからは苦笑が漏れた。


「ああ、少しばっかり効いたぜ。でもまあ、運び屋の兄さんのお陰で全員生き残れたことで、気分が落ち込み過ぎることなく、踏み止まれてはいるんだ。そのまま、良い方向に繋げていくつもりだ。で、……直近の予定としては、命の恩人である彼には頭を下げに行きたい所ではある」

「そうだね。アクセルさんたちは旅の途中で、まだこの街に滞在するって話だけど、早ければ早いほどいいだろう」


 彼らは自由に旅をしていると言っていたし、いつこの街から出立するのか分からないのだから。そう伝えると、ヴィルヘルムは一度顔を伏せた。

 そして、


「なあ……ライラック。お前さんはあの兄さんと知り合いみたいなんだが、彼は一体何者なんだ?」


 静かに口を開いて聞いてくるが、首を横に振った。

 

「それは、自分で聞きな。個人の話だ、アタシがペラペラと話すような事じゃないからねえ」


 自分はマリオンから聞いてしまったが、出来れば本人から聞くべきだろう。そっちの方が説得力もあるし、信用も出来るのだから。そう思って返答すると、ヴィルヘルムは頷いた。

 

「……そうだな。本人が近くにいるんだから、本人に聞こう。勇者のお仲間であるってだけで、英雄クラスだって言うのは想像できるけどな……」

「一応言っておくが、失礼はするんじゃないよ? ウチの客人だからさ」

「言われるまでもない。俺っちだけじゃねえ。造船ギルドの可愛い船員たちの命を拾って貰ったんだ。無礼なことは絶対にしねえし、あんな凄い人を無下に扱うなんてことはさせねえ」


 そう言うヴィルヘルムの目は力強い物になっていた。どうやら、意気消沈していた気分も立ち直ってきたようだ。


「そうか。ま、何にせよ、アクセルさんはしばらくウチの宿屋にいるから、歩けるようなら来るといいさ」

「ああ、今晩の治療でしっかり回復したからな。助けて貰ったこの足で行かせてもらうさ」

「はは、その調子なら問題ないね。……それじゃ今はとりあえず、日が昇るまでに、今回の事故だけじゃなくて、潮の流れについての調査報告も聞かせて貰おうかね」

「ああ、そっちはあんまり調べられなかったんだけどな――」


 そうして、病院にて、水の都のギルド幹部の会話は続いていき。病院での時間はあっという間に過ぎて行くのだった。

 

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