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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第二章

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第9話 昔なじみの勇者とのやり取り

 魔術の勇者、サキは俺に抱き着いたまま顔をグリグリと動かしていた。


「うふふ、紛い物じゃない本物のアクセルの匂いですぅー。もう何ヵ月もこうして無かったので充填しないとダメになる所でしたよー」

 

 頬を赤くしつつ、嬉しそうな表情を浮かべながらそんな事を言ってくる。

 昔、竜騎士時代も鎧や、普段着の上からこんなことをされていたなあ、と昔を懐かしく思っていると、

 

「いやあ、兜の力で体がいつも清浄化されているので、匂いも薄くなっていましたが……今はそれが無いんですものね。素晴らしい。はあ……興奮してきました……!」


 顔を押し付けたまま深呼吸をし始めた。更には、


「こ、この勢いで、下着のにおいも確認しなければ……」

「こら、ズボンを降ろそうとするな」

「ひゃん」


 俺のズボンに手をかけてきたので、頭を押さえる事で静止した。


「うう、イケずです……」

「人前で俺を引ん剥こうするからだ。見ろ、周りが対応に戸惑っているだろう」


 周囲を見れば、ライラックは目を白黒とさせているし、マリオンは口を開けて唖然としているし、バーゼリアは柳眉を立てて頬を膨らませている。

 そして三者とも黙っている。明らかに困ったような沈黙だ。

 

「良いんです。私は私の思うままに行動をしているだけですので。アクセル第一ですので」

「ああ、そうかい。昔と変わらないなあ、お前は」


 そんな風に俺が喋っているとようやくマリオンのフリーズが解けたらしい。

 

「あ、あの、濃厚なやり取りをして貰っている所申し訳ないんだけど、その女の子の事を、ご紹介して貰ってもいいかしら、アクセルさん?」

「ああ、うん。変な所を見せてすまんな。こいつは魔術の勇者で、サキっていうんだ」


 俺はサキを自分の身体から引きはがしながらマリオン達に顔を見せる。 

 すると彼女は表情を笑みで凍らせたような顔を向けて、


「どうも。サキ・リズノワールです。アクセルの一番の相棒です。いつも夫がお世話になってます」


 そんな事を言いながらぺこりと頭を下げた。その言葉にまず反応したのはバーゼリアだ。


「はは、冗談が上手いなあ、魔術の勇者リズノワール。ご主人と一番付き合いの長いのはボクだし、ご主人が君の夫になった事なんてないんだからさ」

「うふふ、嫌ですねえ。赤金の竜王ハイドラ。冗談なんて言う訳ないじゃないですか。将来的には全て事実になる事ですし」

「はははは、ツッコミ所がたくさんで本当に面白いなあ」

「うふふふ、ただの真実に面白味はないですよ」


 バーゼリアとサキは二人して笑いあった後に、何やら言い合いを開始していく。

 そんな彼女たちを見届けた後で、俺はマリオンとライラックに向き直り、

 

「――と、まあ、こんな感じで俺たちは旧友なワケだ」


 そう説明したら、マリオンが引きつった笑いを浮かべた。


「あの、確かに知り合いみたいだけど、明らかに火花が散っているように見えるのは気のせい? あと、サキさんは、アクセルさんとただの仲間って間柄には見えないというか……」

「うん、まあ、俺と彼女は色々あって複雑な関係になってはいるけどな。ただ、とりあえず、バーゼリアとのやり合いはその内、収まるさ。――ほら、見てみると良い」


 俺が再びサキ達を見ると、言い合いは粗方終わったようで、

 

「でもまあ、ここまでアクセルを連れてきた事に関しては褒めてあげましょう、竜王ハイドラ」

「はは、褒めてくれてありがとうね、勇者リズノワール!」

 

 お互い笑っているようで笑っていない表情でのにらみ合いに移行していた。


「……仲がいいというか、息は合ってるのね」

「だろう? ……ただまあ、ちょっと今回は興奮しすぎだな」


 俺は周囲にばらまかれた黒い魔力を見る。微かな冷たさを感じるこれは、魔術の勇者がもつスキルの一つだ。感情に合わせて、魔力に冷気や熱を持たせて、周辺の環境を変えるというものだが、


「そろそろこの魔力の発露は抑えた方が良いぞ、サキ。寒がっている人も出て来るからな」


 ここは冷房を効かせるほど暑い店でもない。だからそう言うと、サキは申し訳なさそうに会釈した。


「そうですね。ごめんなさい。嬉しすぎて魔力が爆発してしまいました。まだ感情のコントロールが未熟でした。……ただまあ、仕方がないです。アクセルと会えて、匂いを嗅いだ時点で、コントロールする理性は放棄しましたから」

「自己完結が早いな。ともあれ、今後は、理性の放棄しないようにな」

「最善の努力はします!」


 全く改善しそうにない返事が来たが、この辺りは昔からなので、言い聞かせ続けるとしよう。

 そう思いながら、俺はライラックの方へ向き直る。


「ウチの仲間が迷惑をかけてしまった。悪いな」

「あ、ああ、いや、これ位は良いさ。勇者の仲間達の会話っていう面白いもんも見させて貰ったしね。気にしないでくれ」


 ライラックは俺の言葉に一瞬唖然としたが、すぐに苦笑いと共に首を横に振ってくれた。


「助かるよ、ライラック」

 

 度量の広い人だ、と有り難く思いながら、俺は会釈する。その後で、


「で、サキ。お前はココに何をしに来たんだ? 俺に用があるみたいだが……」

 

 今回の騒動の発端であるサキに、今回の用件を聞いた。すると彼女はキラキラと目を輝かせるような目を俺に向けて来て、


「アクセルに会いに来た以上に理由なんてありませんよ! 魔王を倒した後、匂いも充填できませんでしたから、ずっと苦しかったですし。それに、竜騎士を辞めたと聞いて! 運び屋と言っていますが、恐らくカモフラージュでしょうし。転職神はどんな職業にしたのか、聞きたかったのもありますけど。とにかく、アクセルと会って、沢山お話をしたかったのです!」


 その発言を聞いて俺は、星の都であった勇者の表情を思い出した。そして、落ち着いて話す必要がある、と思った。


「……まあ、話すのは別段構わないんだけどな。ただ……ライラック。この店で話をしても大丈夫か?」


 既に魔力の冷気で迷惑をかけている訳だが、まだ場所を使ってても大丈夫か店主のライラックに聞いてみると、彼女は頬を掻きながら苦笑した。


「まあ、問題ない。というか、奥に個室があるから、内々の話だったらそっちを使ってくれても良いよ。ただ、あの魔力の発露だけは、控えめにお願いしたいところだけどね」

「それは俺も同意だから、言い聞かせておくよ。――それじゃ、お言葉に甘えて、個室の方を使わせて貰うわ。メシとかも、頼んじゃっていいか?」

「構わないよ。というか、勇者さんたちに腕を振るえるのは光栄だからね、任せておきな。話に集中できないくらい美味いメシを出すよ」

「はは、よろしく頼むわ。それじゃ、移動しようぜ、二人とも」


 こうして俺は新しい街で、旧友の勇者との会話に花を咲かせることにしたのだった。

 

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