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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第二章

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第4話 違う都市の違う感覚

「あれが、水の都か」


 街の中央に置かれた巨大な錨のモニュメントが目立つ、海と川に面した水の都・シルベスタ。

 それを視野に捉えた段階で、俺はバーゼリアから降りていた。

 そして俺はまず背中に背負っていた輸送袋を地面に降ろして声をかける。

 

「おーい、大丈夫か、マリオン。着いたぞー」

「と、止まった……? で、でも、目が回るわ……ぁ……」


 中からは震えるような声が聞こえてくる。とりあえず、意識はしっかりしているようだ。


「落ち着いたら出て来ると良いぞ、マリオン。出てくればもう水の都は目の前だからな」

 

 と、告げてから俺はぐんと伸びをする。

 潮風のにおいがする。

 海が見えるのだから当然だが、星の都とは全く違う感覚だ。

 本当に毛色の違う都市に来たという実感もある。

 

 運び屋になって初めて、かなりの長距離を移動したが成功してよかったなあ、と思いつつも、

 

「ふう……やはり手足がパンパンになるな」

 

 俺は強張った自分の手足を振る。

 

「騎乗スキル一個だけじゃ、やっぱり乗り続けるのは無理だなあ」


 竜騎士時代は幾つものパッシブスキルがあった為、超速度のバーゼリアに乗り続ける事が出来た。

 だが、運び屋となった今は基本的にステータスの力でしがみ付くのが基本となっている。

 

 過去輸送のお陰で様々なスキルを使用できるようになり、騎乗時間も伸びはした。けれど、やはり時間制限はあるなあ、と己の腕を振りがら思っていると、 

 

「ごめんね、ご主人。もっとボクの動きが調整出来ればいいんだけど……」


 竜から人に戻ったバーゼリアは申し訳無さそうに言ってきた。

 彼女は力が強すぎるために、一度の羽ばたきだけで一気に速度が出てしまう。

 浮遊する際は魔法を使ってゆっくりと上昇出来る物の、前に進むためには羽ばたきが必要になる。なので、仕方がない部分もあるのだが、


「まだまだ練習不足だなあ。やっぱりこういう所を考えるとボクはまだまだ成長が足りないんだね」


 バーゼリアは若干暗い顔をして、苦笑する。

 いつもは大体元気なバーゼリアだが時折、こうなることがある。魔王大戦をしていた時代にもあったことだ。

 だから、久々だなあ、と思いながら俺は彼女の頭を撫でる。


「大丈夫だって、バーゼリア。お前が強くて速い分には文句はないんだ。それにもう、昔のように何もかもを振り落とすこともなくなったし、成長してる。だから落ち込むは必要はないぞ」


 すると、バーゼリアは俺の手に自ら頭を擦りつけるようにして、頷いた。


「うん……。ありがとう、ご主人。じゃあ、今回は落ち込むのこれで終わりにする!」

「よしよし、その意気だ」


 元気を取り戻したバーゼリアを見届けた後、俺は地面に置いた輸送袋を見る。その中からは、既にマリオンが体を出していて、

 

「ほ、本当に、もう、目の前に海が――水の都があるわ……。さっきまで山の向こう側だったのに……」


 なにやら驚愕しながら、海を眺めていた。

 

「だからさっき、着いたって言ったじゃないか」

「い、いや疑っていたわけではないのだけれどね。数日分の距離が一気に無くした事を今更実感して、ドキドキしているというか、揺さぶられて見ている幻覚じゃないかなあって……うん、痛いから夢でもないわね」


 マリオンは自分の頬を抓りながらそんな事をぶつぶつ言っている。若干ふらふらしているが、本当に大丈夫だろうか。

 やはりこの輸送方法だと、降りた直後に気付けポーションをぶっかけるのが一番安全かも知れないなあ。

 

 そんな事を思いつつ、マリオンの足元が定まるのを待ってから、

 

「そ、それじゃ、行きましょうか」

「ああ。水の都・シルベスタ、楽しみだな!」

「うん! どんなものが食べれるのか、今からワクワクだよ、ご主人」

 

 俺たちは水の都へと入っていく。

 


 水の都に入ってすぐ、俺たちは街の中心を訪れていた。というのも、

 

 ……まずは星の都で受注した依頼を果たすべきだからな。

 

 今回の依頼はマリオンを水の都まで送り、ドルトの荷物をこの街の商業ギルド支部に届けるというもの。

 だからいの一番に街の中央を突っ切り、商業ギルドの支部へとやってきていた。

 

「ここが、支部か。……結構デカい建物なんだな」


 支部は二階建ての建築物で、潮風に負けないように魔法防護が掛かっている。かなり頑丈そうで、大きな建物だった。


「まあ、カウフマンさんのジェミニアは、王導12ギルドの中でも特に大きいからね。支部もそれなりに大きいし、どこでも賑わっているわよ」

「なるほどなあ……」


 呟きながら、俺はギルドの中へと入る。

 そしてり、受付、と看板の掛かったカウンターに向けて歩いていくのだが、その最中、建物の中に居た人々がちらちらとこちらを見て来るのが分かった。

 

 というか、優し気な視線である。

 

「あの男が持ってるの輸送袋だし……運び屋だよな……?」

「そうね。初級職でここに来るなんて微笑ましいわね」


 ああ、これは星の都でも味わっていた感覚と近いけど、微妙に違うなあ、とある意味新鮮に思いながら、受付のエルフの女性の前に立つ。

 

「こんにちは、お客様。今日は何の御用でしょうか?」

「うん。ちょっと仕事の話だ」


 その言葉に、受付の女性は頬を掻いて困った様な顔をしながら、


「仕事、ですか? 申し訳ありませんが当ギルドでは基本的に、個人の初級輸送職の方に依頼斡旋はしていません。その場合はお隣の冒険者ギルド支部、もしくは造船ギルドがおススメですよ」


 そんな風にアドバイスしてくる。おススメを教えてくれる辺り、初心者に優しいギルドなのかもなあ、と思いつつも、今回はそういう話ではないので俺は輸送袋をカウンターに置いて中身を取り出す。

 

「ええと、この箱と封筒だな。星の都のドルト・カウフマンからの依頼で届けに来たぞ」

「は……?」


 俺の言葉に、一瞬、受付の女性は口をポカーンと開けた。


「え……と、少々お待ちくださいませ……」


 受付の女性は数秒、カウンターの下で、なにやら書類をめくった後、俺が置いた荷物を見る。

 

「この魔法印は……ま、間違いなく、当ギルドサブマスターの印です……い、いやでも! この依頼を出したのは昨日だった筈で、星の都との連絡橋も壊れていたと思うのですが。一体どうやってここまで来られたのですか……!?」


 受付の女性は早口で聞いてくる。

 とはいえ、詳しく説明するのも長くなるので、


「なんというか、空をひとっ飛びしてきたんだよ」


 簡潔に言った。瞬間、受付の女性は僅かにたじろいだ。


「……まさか、貴方は、空飛ぶ運び屋のアクセルさん、でしょうか?」

「うん。そうだけど、星の都で呼ばれていた名前、知られてるんだな」


 俺と返事に、受付の女性は目を見開いて、

 

「――失礼いたしました!」


 いきなり頭を下げてきた。

 

「ええ? どうしたんだ、いきなり」 

「い、いえ、そのお噂はかねがね聞いておりますので。星の都であれほどの実績を為した方にする対応ではありませんでした。謹んでお詫び申し上げます」


 受付の女性はハキハキと言いながら頭をもう一度下げた。

 そして、カウンターの荷物を見てから、俺の顔に視線を移した。 


「そして、今回の依頼をとんでもない速さでこなして頂き、ありがとうございました。まさか橋が落ちた状態にもかかわらず星の都から一日で荷物が来るばかりか、本当に空を飛んでくるとは……とても助かります」


 そんな風に、ハキハキとしながらも、受付の女性の声には驚愕の色が混じっている。また、そんな声を出すのは彼女だけではない。

 俺たちの会話を聞いていたらしい周辺の人々も、だ。


「マジか……。空飛ぶ運び屋なんて眉唾かと思っていたけど、本当にいたんだな。橋が落ちてるのに、こっちまで来るなんてよ」

「え、ええ。今朝、サブマスターは出発したばかりだって聞いたけれど。もう届いてる時点で異常だわ……星降りよりも素早いっていう噂も間違いじゃないのかも」

 

 なんて唖然としたような言葉が聞こえてくる。

 意外と名前は知られていたようだ。若干、噂に尾ひれがつきまくっているようだが。 


「まあ、ともあれ、これで荷物の輸送は完了って事で良いんだよな?」

「勿論です。しっかり受領いたしました。そして――先ほどの非礼には重ね重ね謝罪を」

「いやいや。非礼って程の扱いはされてないから。気にしないでくれよ」


 俺の見た目はただの初級職で、こちらを善意で気遣ってくれたのだろうし。なんら悪い気分は抱いてない、とそう返すと、受付の女性はほっとしたように息を吐く。

 

「ありがとうございます。今後も商業ギルドジェミニアをよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ、よろしく頼むよ」


 こうして今朝請けた長距離輸送の依頼は、問題なく完了したのだった。

 

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