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第3話 聖剣の勇者と、ビギナー転職者


「いやあ、初転職記念ってことで、王都で美味そうな酒を見繕ってきましたよ」


 聖剣の勇者、ファングは俺が家のリビングに招き入れると、ニコニコとした表情で、懐から酒瓶を取り出してきた


「おお、ちょうど夕飯時だったんで有り難いわ。でも、王都の方で軍の大将をやっているのに、よく星の都に来れたな。結構離れてるってのに。一日くらいかかったろ?」


 そう言うとファングは困った様な笑みを浮かべて頬を掻いた。


「ふふ……大将って言っても軍事顧問に近い形ですからね。意外と暇で、融通が効くんです。それに今回は別件もありましたから。アクセルさんちの隣にある宿屋に一室借りたんです」

「なるほど。国軍所属ってのも色々あって大変そうだなあ」

「いやあ、全然ですよ。オレは勇者としては最後に参加した身なのに、こんなにいい生活を出来ているので、何だか申し訳ないくらいで。今回だって仕事を言い訳にアクセルさんに会いに来れるの、すっごい嬉しいですしね」

 

 そんな事をファングがはにかみながら話していると、

 

「ご主人、料理の温め、終わったよー」


 バーゼリアが鍋と皿を手にやってきた。それを見て、ファングはぺこりと頭を下げる。


「あ、バーゼリアさん。お久しぶりです」

「あ! 聖剣の勇者だ、おひさー。竜神との喧嘩以来だねえ。元気だった?」

「ええ、お陰様で。バーゼリアさんもお元気そうで何よりです」


 ファングは竜騎士時代からの知り合い故に、俺が乗っていたバーゼリアの事も知っている。勇者の中では年若い方なファングにとって、バーゼリアは友達のような感覚みたいだった。

 そして俺とも、気の合う仲間という感じで、それなりに仲は良い方である。だから、という訳じゃないが、

 

「うん、そうだな。今日はシチュー系の料理で、結構多めに作ったからファングも夕飯を食っていくと良い」

「え、良いんですか?」

「一人や二人増えたところで構わないさ。な、バーゼリア」

「うん! 偶にはみんなで食べるのも美味しいしね」


 俺とバーゼリアの言葉に、ファングは心から嬉しそうな顔をする。


「では、お言葉に甘えて。……いや、久々にアクセルさんの料理が食べれると思うと嬉しいですよ! 勇者パーティーを組んでいた時は毎日がご馳走で良かったっけなあ……」

「うん? あの時は『大地の勇者』が採ってきた野菜や、お前が獲って来た肉を、俺が適当な香辛料と薬草を使って、煮込んだり焼いたりしてただけだと思うが」

「だけ、じゃないですよ。アクセルさんの美味しい料理のお陰で、毎日戦っても大丈夫な健康な身体を手に入れられたんですから」

「うんうん。ご主人の料理は本当に癒されるよね……!」


 バーゼリアとファングは二人で頷き合っている。

 そこまで変わった味付けをしていたつもりはないのだが、気に入って貰えているなら何よりだと思う。

 

 そう思いながら、俺はテーブルの上に皿を並べていると、


「あ、そういえば大事なことを聞いてなかったのですが、アクセルさんの転職の方は上手くいったんですか?」


 ファングがそんな事を聞いてきた。

 その表情には少しワクワクしたものが見られた。


「どうにかな。上手い事新しい職業に就いたよ」

「おお、それは良かったです! 何の職業になったんです? 最上級職のアクセルさんだから上級職の《魔法剣士》とか《武闘教官》とか、色々と凄そうな職業に就いたんですかね。それとも、竜騎士とほぼ同格な《ビーストマスター》とかそっち系も適性ありそうだなあって思うんですが! 予想は当たってますかね?」


 ファングは早口で言ってくる。

 この年下は本当に想像力が豊かだなあ、と思いながら俺は答えを言った。


「どれも違うぞ。俺がなったのは《運び屋》だよ」


 言った瞬間、ファングの動きが止まった。


「……はこ……え? す、すみません、もう一度、良いですかね? ちょっとオレ、聞き間違えたかもしれないんだけど……」

「いや、だから運び屋だって」


 俺がもう一度答えを発したら、ファングの表情も凍った。

 そして数秒後、ファングは表情を固めたまま、喉を震わせた。


「……《運び屋》……というと、初級職である《運び屋》? スキルは便利でも、能力値がとんでもなく低いことで有名な。そんな職業が、アクセルさんに渡された、と」

「おう、その通りだ」


 頷いた瞬間、ファングの目つきが変わった。

 そして、表情も動き出し、目だけが笑っていない笑顔のまま、

 

「……よし分かった。オレ、今から教会に襲撃かけて、転職神を問い詰めてきます」


 ガチャリ、と腰につけていた自分の剣を片手を当てて、立ち上がった。

 今にも外に走り出て、転職神殿の方に向かおうとせんばかりの勢いである。

 

「待て待てファング。どんだけ血の気が多いんだ、お前は。というか問い詰めって何をするつもりだよ」


 だから俺が声で静止すると、ファングは勢いよく振り返ってきた。


「だ、だって、アクセルさん! 最強の竜騎士であったアナタが、そんな初級職のみにしか適性が無かったなんて、おかしいですよ! 他に就ける職業は会ったはずですし!」

「いやあ、そんな事を言われてもな。なっちまったんだから仕方がないだろう」

「転職の神が悪さをした可能性も……。いや、オレはアクセルさんと違って神を殴りに行ける力はないけれど、それでも問い詰める位はしないと――って、あだだ。な、なんで頭を握りしめるんですか、アクセルさん!」


 剣を抜いて再び走り出そうとしたファングの頭を、俺はぎゅっと掴むことで再び制することに成功した。


「少しは落ち着けファング。俺としては《運び屋》って職業でも、結構充実しているんだから」

「充実……? 初級職なのにですか?」

「初級職だから、だよ。レベルアップもしやすいし、スキルも沢山覚えたんだぞ」


 俺の言葉に、ファングはぽかんと口を開けた。


「転職をされたのは今日の筈だったんですよね。……え、まさかアクセルさん、もうレベルを上げたんですか!?」

「おう。上がりやすかったからな。レベル3まで上げたぞ」


 ほら、とスキル表のレベル部分を見せながら言うと、今度はファングの目が見開かれた。

 そして勢いよく首を横に振られた。


「普通は上がりやすいからって転職初日にレベルをいくつも上げませんよ!?」

「いや、だって初級職だぞ? 俺の場合はめっちゃ楽にレベルアップ条件を見つけられたし、ほんの数時間で勝手に上がっていくだろ」

「初級職でもすぐに条件を見つけて、レベルを上げ続ける人はそうそういないですって! 時間単位でレベルを上げるとか、普通はあり得ないですよ」


 ファングは力強く言ってくるが、そんなものなんだろうか。

 竜騎士は確かに時間単位ではなく日や週間単位でレベルを上げた気がするけれども、初級職なんだからその感覚で話すのは間違いじゃないか、と思うんだが。


「まあ、そこの捉え方は置いておくとして。レベル上げしまくれるくらい、俺は《運び屋》生活を充実してるって事なんだよ。転職当日だけどな」

「ううん……奇妙だけど凄い充実のさせ方をしているのは分かりましたが……でも、あのアクセルさんが、低能力のデメリットが酷い《運び屋》になるだなんて。転職神はいったい何を考えているのか。そこは納得し辛いですよ……」


 現状を把握したようだが、ファングの中にはまだ少し燻りがあるようだ。

 ただまあ、もう《運び屋》になっているという事は変わらぬ事実なので、その内納得するだろう、と思っていたら、

 

「すんませーん。グランツさーん。転職神殿の者ですが~。ご在宅ですかねー? 巫女さんの方から預かったお荷物の方をお届けに参りましたっすー」

「む……!? 転職、神殿の者です、と……!?」

「あ」


 タイミングが良いのか悪いのか。話題の関係者が来てしまったようである。


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