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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第二章

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第3話 飲み会の話と実体験は結構違う。


 俺たちは宿場町へ予想よりもかなり早い時間でたどり着いた。

 というのも、料理で身体が強化された効果もあってか、徒歩が小走りの様な速度になっていたからだ。

 

「まさか昼をちょっと過ぎた位で到着するとはな。結構近かったなあ」

「……アクセル君。星の都を朝に徒歩で出発したら、到着は夜になるのが普通なのだぞ?」

「ええ。今回はアクセルさんのお料理パワーのお陰だからね。ほぼ走ってるようなペースで移動しても全然疲れてないし」


 俺たちの息は全く乱れていなかった。魔力の強化はいまだに続いているらしい。


「とはいえ、この強化がいつ切れるか分からないし、早く着けたのは良い事だな」

「確かにな。明るいうちに宿場町の中を動けるから、商談や情報収集もやり易くて、ワシとしては非常に有り難い」

「商談? ……って、そうか。ドルトのおっさんは、この宿場町で物資を買ってくんだっけ?」

「うむ、この宿場町は、都市間の中継地点として使われているが、宿屋以外にも多様な店が並んでいるからな。ギルドの支部もあって、便利な場所なのだ」


 ドルトはそう言いながら、街の中心にある大きな建物を指さした。

 頑丈そうな石壁が目立つ建造物だ。 


「例えば、あそこには水の都のギルドが所有している倉庫があってな。水の都経由の品がそれなりに置かれている。風の都での仕入れと合わせれば、ここでの物資調達で十分事足りるという訳だ」「なるほどなあ。ってことは、ドルトのおっさんはここで商談して星の都に帰るってことか」

「ああ。だからワシはここで離脱するでな。とはいえ、最後まで見送りはさせて貰うが――む?」


 言葉の途中で、ドルトは目を細めた。

 目線の先には、こちらに手を振る軽装鎧姿の男が一人いた。


「あれはドルトのおっさんの知り合いか?」

「先んじて派遣していたギルド職員だが……何か話があるようだな。行ってくるので少し待っていてくれ。ついでに水の都関連で何か面白そうな情報は持っているか情報を仕入れて来るのでな」

「おう、了解ー」


 そうして手を振る男の下に向かったドルトを見送った後で、俺は隣にいるマリオンに顔を向ける。

 

「それで、マリオンはどうするんだ? 水の都に行くって事でいいのか?」

「ええ、私は水の都の水産系ギルドの本部に用があるからね。そこまでは一緒に行かせて貰うわ」

「水産系ギルドねえ。水の都にはそういうのもあるんだな」


 星の都では輸送や商業ギルドの本部があって、魔術ギルドの支部などもあったけれども、水産系は見なかった。


「ええ、水の都は川と海にも面しているから。水産・漁業ギルドや造船系の本部があるわね。あとちょっと風変わりなもので海賊ギルドとかも存在しているわ」

「海賊って本当に風変りだな。というか都市によって様々なんだなあ」


 竜騎士時代は特にギルドを気にした事が無かったが、驚くべき多様性だ。


「その土地に合った、職業者の集まりによってなされるのがギルドだからね。特色が出るわよ。因みに魚介の美味しい店も知っているから、着いたら紹介するわね」

「お、そりゃ助かる」

「わあい、いきなり美味しい所が分かるー。ありがとうマリオンー」

「ふふ、お店の紹介程度、いくらでもするから、どんどん聞いてよ」


 そんな風に俺が水の都についてマリオンから聞いていると、向こうからドルトが戻って来た。

 やけに渋い顔をしているが、商談の雲行きでも怪しくなっているのか、と思っていたら、

  

「――アクセル君。この先で少し不味い事が起きたみたいだ」


 戻って来て開口一番に、そんな言葉を吐いて来た。


「この先で不味い事? なにか大きな魔獣でも出たのか?」

「魔獣ではないのだが、最近、不可思議な増水がこの先の谷で起きたらしくてな。掛かっている橋が落ちたとのことだ。復旧まで十数日はかかるとの知らせも来た」

 ドルトの言葉に、マリオンは即座に反応して眉をひそめた。


「え? それはきついわよ、カウフマンさん。水の都に行くには、山を越えたあと谷を渡って数日歩く必要があるけど、そのルートを潰されるだなんて……」

「とはいえ、橋が落ちたというのは間違いない情報だ。遠回りになる別のルートもあるが……そちらは魔獣も多くて、安全は保証しきれてはいない、という事も言われたよ」

「なるほど、ねえ。出来れば安全なルートで行きたいところなんだけれど……」


 と、マリオンとドルトは困り顔を浮かべている。


 確かに、都市間における重要な道が使えなくなったたのは不味い話ではあるけれど。

 ただ、俺としては、特に問題を感じていなかった。何故なら、


「その位なら問題ないぞ二人とも。――元から、この宿場町から飛んでいくつもりだったからな」

 

 俺がそう言うと、ドルトとマリオンは同時に俺の顔を見てきた。そしてはっとしたように気付いたらしい。


「……そっか。アクセルさんは元竜騎士で、そしてバーゼリアさんは竜だった、わね。乗ろうと思えば乗れるのよね」

「そうそう。元々ここからバーゼリアに乗っていくつもりではあったんだよ」


 徒歩でこの宿場町まで移動する計画を立てたのは、最も確実に水の都までたどり着く方法だったからだ。


 ……俺がバーゼリアに捕まっていられる時間は、過去輸送で竜騎士のスキルを使う事により増やせるようになった。


 しかし、それでも長々と空を飛び続けられるわけではない。

 星の都から直接、飛んでいければ楽ではあったけれども、確実に水の都まで行けるかは怪しい。

 

 そう思ったから地図を見て、現状飛行可能な時間で、余裕を持って確実に水の都までたどり着けるであろう位置――この宿場町まで来たのだ。


「夕方着だと、空が暗くなるから、ここで一泊していこうかと思ったんだけどな。今からなら空も明るいし、このまま行っちまおうと思うんだ。ただ……マリオンは体調の方は大丈夫か?」

「大丈夫って、ええと、どういう意味かしら?」

「いや、竜に乗ると結構揺れるから、体調が良くないなら休憩して行っても良いと思ってな」


 宿場町に入った理由の一つに、体調確認する、というものもあった。

 流石に具合の悪い人間を揺れの激しいバーゼリアに乗せる訳には行かないし。そう思っていたら、

 

「そ、それはもちろん、大丈夫よ? さっきも言ったけれどアクセルさんのお陰で体力は残ってるから……」


 マリオンは平気だと返事をくれた。

 これなら問題なく連れて行けるだろう。


「うん。オーケーだ。……それじゃ、ちょっと忙しないけれど、俺たちは行くよ、ドルトのおっさん」


 先ほどまで唖然としていたドルトではあったが、俺がマリオンと喋っている間に気を取り直したようで、


「う、うむ。そうか。確かに急だが……また会うのだから名残惜しい位がちょうどいい。離陸まではしっかり見送らせて貰うとするよ」

「おう。離陸は街中から少し離れた場所でやるから、着いてきてくれ」


 そうして、俺たちは宿場町から出て、人気の少ない草原へと足を踏み入れる。


「よし、バーゼリア。竜になってくれ」

「はいはーい。【変身】ー」


 そしてバーゼリアは赤と金の綺麗な鱗が煌めく竜へと姿を変えて、地面に臥せた。

 

「これがバーゼリア君の竜形態か。久々に見たが、綺麗な物だな」

「わあい、ご主人が磨いてくれた鱗、褒められたよー! やったね!」

「はは、まあ、バーゼリアはそのままでも綺麗だとは思うけれどな」


 パタパタと尻尾を動かすバーゼリアに声を掛けつつ、俺は背中をさする。この背中に乗る……というか掴まれば移動は可能なのだが、その前にマリオンには輸送袋に入って貰わなければ。

 

 そう思って、輸送袋の口を開き、マリオンに向けようとすると、

 

「なんだか嬉しそうだな」


 マリオンが少しだけ口元をにやけさせているのが分かった。

 俺の勘違いでなければ、嬉しそうな興奮をしているようにも見える。だから聞いたら、


「ええ。嬉しいというか、ワクワクしているわ。竜に乗せて貰う機会なんて早々ないからね……!」


 そんな風に、好奇心溢れる目を向けてきた。

 

「スターライトの人たちにも話を聞いたけどね、輸送袋の中に入っていても、こんな機会を得られるのは有り難いと思って」

「竜に乗るのって、そんなに珍しい事なのか?」

「当然よ! アクセルさんは竜騎士だからマヒしているのかもしれないけれど、魔法生物としてとんでもなく強い竜に乗れるって凄い事なのよ?」


 力強く言い切られてしまった。

 俺は最初から竜騎士で、竜に乗るのは職業柄普通にやっていたことであるので、そういった考えには至らなかったけれども、彼女たちにとってはそういうものらしい。


「まあ、ワクワクするのは良いけれど、移動中は気を付けてくれよ。さっきも言ったけど、結構揺れるんだ」

「そう言えば、スターライトの人たちに乗っている時の感想を聞こうとしたら愛想笑いで『乗ってみれば分かる……』って誤魔化されたけど。馬車よりもかなり揺れるって事かしらね」

「大分な。それでも、輸送袋の中からも声は通じるからさ。もしもヤバそうだったらギブアップって言ってくれれば止まるから。安心してくれ」

「分かったわ」


 にっこりと笑みと共に返答しながら、マリオンは輸送袋の中に入っていく。

 しっかり全身が入ったことを確認して、俺は輸送袋を背負い直してバーゼリアの背中に乗って掴まった。


「じゃ、浮かんでくれ、バーゼリア」

「はーい!」


 そしてバーゼリアに声をかけると、彼女はばさっと翼を広げた。

 それだけで、竜は浮力を得て、空へと浮かび上がる。


「居心地はどうだ、マリオン」


 聞くと、輸送袋の中から声が聞こえてくる。


「え、ええ。結構揺れるけど、この程度なら、どうにかなるわ」


 マリオンの声には若干震えが混じっていたが、どうにかなるというのであれば、問題は無いんだろう。だから、


「そうか。じゃあ、これから加速に入ってもっと揺れるから気をしっかり持ってくれよ?」


 そう言ったら、輸送袋からの声が数秒止まった。そして、


「え……? これ以上にまだ、揺れるの……!?」

「そりゃな。あと、輸送袋で多少は速度による圧力も緩和されるけど、それも結構きついみたいだから、気を付けてな」

「え、え? 圧力って、これ以上の揺れって――」

「――じゃ。発進」

「了解、ご主人……!」


 俺の指示によって、バーゼリアの羽ばたく。

 同時、俺たちは一気に加速した。


「きゃ、きゃあああああ-―――!?」

「これが……竜王の、バーゼリア君の羽ばたきか。改めて見ると、途轍もない速度だな……」

 

 マリオンの悲鳴とドルトの呟きを背後に置き去りにして、俺たちは空を駆け抜けていく。

 そして本来数日分は掛かる移動距離をあっという間にゼロにしたのだった。

 

お陰様で四半期総合ランキング2位に入りました! 本当に、どうもありがとうございます!

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