第2話 運び屋のお食事
昼飯を食べた後、俺たちは目的地に向かって再出発した。
食事休憩をした事で、歩きのペースは少し早めになっていたが、
「いやあ、ご主人の野外料理、久々に食べたけどやっぱり美味しかったよー」
「うむ! 旅先であんなに新鮮な食材の料理が食べれるとは。商業ギルドの仕事の際には、常にアクセル君に随伴して貰いたいくらいだよ」
「本当ね。あれだけ美味しい物を食べると体の動きも全然違うわ」
などと談笑しながら歩けるほど、皆、体力的には問題なさそうだった。
「お褒め頂き光栄だ。職業は違ったけど、昔から野外で料理して仲間に振る舞っていたから、その経験が役に立ったよ」
「え、アクセルさんは昔から料理をしていたの? 竜騎士なのに?」
「うん、そーだよー。ご主人は昔っからお料理上手で、ボクたちの面倒を見て来てくれたんだー」「俺以外に料理が出来る奴がいなかったとも言うがな」
大体、味付け無しでも焼けば食えるとか、干せば食えるとか、煮えれば食えるとか、そういう考えをする仲間が多かったから、身に着けただけの技能だ。
本当にどこで役に立つか分からないけれど、慣れておいて良かった。
「やけにお鍋に年季が入っていたのはそのせいだったのね。扱うのも手慣れていたし」
「昔、年寄りのドワーフから貰った鍋だからな。手入れすれば何百年でも使えるって言われたから、有り難く重宝させて貰ってるよ」
「何百年も使える鍋……に、年寄りのドワーフか。あの鍋の色は明らかに鉄では無かったし、商業ギルドの者としてはどんな金属を使っているのか興味があるが……うむ、今回はスルーしておこう。商談のタイミングではないしな」
そんな風に、俺たちは喋りながらハイペースで街道を歩いていくこと、数分。
「あの、少し気になったんだけど。なんだか、さっきから、力がどんどん湧いてくるのは私だけかしら?」
不意にマリオンが首を傾げてそう言った。
「え? 力が湧いてくるって、どんな風に?」
「いや、さっきからね。喋ったり笑ったりしながら歩いている割に、全然息が切れないというか、動きのキレが良いままなのよ」
マリオンの言葉に共に歩くバーゼリアとドルトも肯定の頷きを返して来る。
「ああ、うん、ボクも体がとても軽いって感じがするよ!」
「ワシもだな」
「バーゼリアさんもカウフマンさんもこう言っているし、私だけじゃないのね。アクセルさん、お料理に何か薬効あるポーションや薬草でも入れたのかしら?」
確かに、食材によっては料理で人の能力を上げる事が出来る。ただ、
「今回は薬草とか、そう言うのは使ってないぞ?」
普通の野菜と肉だけだ。
ポーションや、薬草などは使っていない。
でも、確かに自分も、身体がポカポカと温まっているような気がする。
料理を食った後の、体が温まっているのとはまた違う感覚だ。というか、この感じは少しだけ覚えがある。
……これは魔術的な援護をもらった時の感覚に近いな。
昔の話ではあるが魔術の勇者が弱めの魔力強化をかけてくれた時は、こんなふうにポカポカする感覚を得ていた。
懐かしい話ではあるが覚えてるなあ、と過去を思い出していると、
「あ、ご主人。いつものー。お尻のポケットがちょっと光ってる」
バーゼリアが俺の尻ポケットを指さした。
「え? ああ、本当だ」
身体を捻って見れば、ポケットにしまっていたスキル表が光っていた。
最近は折りたたみっぱなしで、上着やらズボンのポケットにしまい続けていたし。
全く見ていなかったなあ、とスキル表を開くと、
【規定移動範囲の突破完了 条件達成――《運び屋》レベルアップ!】
いつもの文字が書いてあって、俺は一段階《運び屋》の職業を持つ者として成長していた。
更にスキル表には、レベルアップしたことで、新たなスキルの名称と効果の補足説明が書き込まれていた。
【スキル開放。素材能力・料理輸送 ――食材に秘められた魔力、栄養、薬効を料理時、減衰なく一〇〇%輸送可能】
そして、それは今回感じていた違和感の正体を示すものの様だった。
「……どうやら、体がポカポカしてきてるのは、このスキルの効果、みたいだな」
「え? 運び屋のスキルで? 何のスキルを覚えたのか、教えて貰ってもいいかしら」
ステータスは基本的に個人の秘密なので明かせないが、職業とスキルを他人に知らせる位は問題ない。だから俺はスキル表に書かれた文字を読み上げると、
「え? なに、そのスキル」
マリオンは目を丸くした。
「うん? 運び屋が覚えるスキルじゃないのか、これ」
「いや……聞いたことがないわね。《食材加工者》や《薬師》が似たようなスキルは持っていたと思うけれど、料理限定で運び屋が覚えるなんて、効いたことが無いわ」
「うむ、ワシもだな」
ドルトにとっても、このスキルは驚きのものだったようだ。
「ただ、このスキルがあれば、今回ワシたちの体が強化された理由は分かるな。ワシが用意しした食材は、魔力が豊富な土地で育てられた、星の都特産の新鮮野菜なのだし。それが調理の過程で失われることなく、全てワシたちの体に輸送されているという事であれば、納得は出来る」
「なるほどな。……というか調理によって魔力って失われるんだな」
俺の言葉にドルトはこっくりと頷く。
「うむ。魔力の種類にはよるけれど、加熱によって減衰するタイプもあるのだ。ポーション用の薬草などはそのタイプで、すり潰すときの熱で魔力が壊れるから、ゆっくり潰さねばならない、という製法の決まりがあるくらいなのだ。だからこそ、商業ギルドで仕入れる際も熱には気を付けているしな」
流石は商業ギルドのサブマスターだ。
他の職業者の事情にも詳しいとは。
確かに星の都の依頼でポーション作りの薬草を運んだとき、暖炉の近くに置かないでくれと言われた事もあったが、その為だったんだな。
「でも、まさかアクセルさんの料理のお陰で元気になっているとはね。こんな輸送スキル、初めて見たわ」
「うむ、料理人が、食材の味を殺さないスキルを持っている事はあるが……まさか運び屋のアクセル君がこんな力を持っているとはな。食糧ギルドにとっては垂涎の能力だぞ。しかも、味に関してはアクセル君自身の、スキルを頼らない腕前で抜群だし」
二人は体が強化されている事もあってか、少し興奮したように言ってくる。
「うーん。ご主人は輸送職だけでなく、料理方面に行っても能力を生かせそうだねえ」
「はは、運び屋として褒められているのかどうか分からない言葉を有り難うよ皆。……ただ、まあ料理の方は、味も性能も好評なようで何よりだな」
正直、こんなスキルを持つとは自分でも驚いている。
だが、この料理輸送は意外と日常的にも役立てられそうで、良いスキルだし問題は無い。
……運び屋というものは、食材の力や栄養も無駄なく輸送が出来るんだな。
普通の料理で回復できるとは得した気分だ、と自分の手や輸送袋を見ながら。
俺は仲間たちと共に、文字通り軽くなった足取りで宿場町へと向かうのだった。




