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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第一章

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第26話 最後の研修 開始


 その日の朝。俺とバーゼリアは早めに起きた。そして、街へ繰り出したのだが、

 

「寝起きでも感じたが、やっぱり、街中が騒がしいな?」

「そうだねえ。ちょっと浮き足立っている気もするね」


 いつもと街の雰囲気が異なっていた。

 というか、武装している人の姿が増えていた。

 

「どこかで闘いの仕事でも出来たのかなあ」

「多分、そうだろうな。魔王とやり合ってた時も、戦場近隣に行くとこんな感じだったし」


 だとしたら、この街でも何かしらの火種が出来たんだろうか、と思いながらサジタリウスに向かかった。

 そしていつものように、ギルドハウスのドアを開けると、

 

「あれ、ドルトのおっさん?」


 部屋の中央にあるテーブルにはドルトがいた。

 声を掛けると彼は手を振って俺を出迎えた。


「おお、久しぶりだな、アクセル君。そして、いいタイミングで来てくれた」

「良いタイミングって、どういうことだ?」


 俺の疑問に答えたのは、カウフマンの対面に座るマリオンだった。


「今、カウフマンさんから依頼を受けたのよ。アクセルさんがやっている輸送職の最終研修に向いているんじゃないかっていう高難易度の依頼をね」


 最終研修、という単語に俺は再び首を傾げる。


「最終研修……っていうと、俺は輸送職として大体の仕事のケースをやったって事になるのか?」

「ええ、あとは、最高難易度クラスの依頼をやって貰いたかったんだけれども、今回、それが来たからね。恐らく、これで輸送職が行う基本的な仕事は全て経験した事になると思うわ」

「……ワシが紹介して半月と経っていないというのに、殆どの仕事を網羅するとは、改めて聞くと驚異的なペースで仕事をしているな、アクセル君」


 ドルトは冷や汗を額に浮かべながらそんな事を言ってくるけれども、俺としては早く仕事を覚えて、運び屋の仕事感覚をつかみたい一心だったのだから仕方がない。


「しかし、この前、高難易度のをやったばかりなのに、更に難易度が高い仕事を受けても良いのか? 最高難度とか聞くだけで凄そうなんだが。いや、早いうちに色々な仕事を経験できるのは有り難いけどさ」


 運び屋としての細かな技術が求められる、とかそういう依頼だと、成功させられるかどうか分からない。そう思っていたら、マリオンに微笑まれた。


「大丈夫よ。基本的に輸送職依頼の難易度は、行き先の危険性――つまりは戦闘能力の必要度合いによって上がるから。アクセルさんの戦闘能力を考えると、問題は無いわ。それに……この最高難易度の依頼はカウフマンさんがしっかり練ったから、とてもやりやすくてね」


 そう言ってマリオンはテーブルの上にのせていた依頼書を俺にアピールしてくる。そこに書かれているのは、『始原生林に発生した巨大魔獣討伐のため、戦闘職の精鋭部隊に、戦闘サポートとして随伴する事』、というモノだった。

 

「巨大魔獣が出ているって……街が微妙に慌ただしかったのは、このせいか」

「うむ。まあ、星の都としては何度も対応して来たことでな。既に精鋭たちを集めて、あとは討伐に向かうだけとなったわけだが、念のため、そこに戦闘の補佐してくれる役割を入れたいと思ってな。依頼をさせて貰ったのだ」


 確かにパーティーでの戦闘において、サポートを入れる事は珍しいことでは無い。サポートに輸送職を使う事も、良く聞く話だ。

 

「というか、これが輸送職として体験すべき仕事のラストケースなのか」

「そうなるわね。まあ、やる事と言っても、戦闘中にポーションを出したり、武器を出したりと言ったもので、普通の戦闘職に動きを合わせたりするのは大変なんだけれど。今回は、サポートをするメンバーに恵まれているわよ」


 マリオンは喋りながら依頼書を指さす。

 そこには今回の討伐隊メンバーの職業が記載されていて、

 

「魔獣討伐隊の全員が戦闘系上級職なのか」

「ああ、しかも、メンバーは魔王大戦時から戦闘職を続けている歴戦の精鋭たちで、巨大な魔獣の一体や二体なら簡単に屠ってきた経歴もある。基本的にサポート役は手厚く守りながら、討伐を進めていくのでな。そこまで気負うことなく、物事を進められるぞ。それでも勿論、輸送職にもある程度の地力や体力は必要なのだが……アクセル君なら平気だろうと考えたのだ」


 ドルトのセリフに、マリオンも頷く。


「始原生林という場所が場所だけに、提示されている難易度・危険度はとっても高いのだけれど。メンバーが精鋭だから、高難易度依頼としてはとってもやりやすい物になっているのよね。その上、アクセルさんにも戦闘力があるし、最初の依頼にしてはベストかなあと、朝からカウフマンさんと話していたわけなの」

 

 なるほど。つまり今回の依頼は、かなりの好条件で最高難度の仕事を経験できるということか。

 

「まあ、比較的安全ってレベルだから気を抜かれても困るけれど。でも、野良の依頼による最高クラスの依頼よりは、楽が出来る筈よ。……どうかしら、アクセルさん? この依頼、受けてみる?」


 マリオンの問いかけに俺は目を瞑って考える。

 最高難易度なのに楽とはこれいかに、とは思うけれども、条件としては破格だ。

 そんな依頼が存在するのだとしたら、幸運だ。


 ……そうだよなあ。俺がこのサジタリウスに来たのは、運び屋の仕事にどんなケースがあるのかを知る為、だし。

 

 運び屋の仕事をこなしながら気楽な旅をするために、まずは仕事の経験を積みに来たのだ。

 楽な条件で、仕事の感覚を覚えられるのであれば、願ったりかなったりである。

 難しい事案を好条件で行える機会というのは中々に得難いし。断るのは勿体ない。だから、結論は決まった。


「……うん。そうだな。じゃあ、是非その依頼をやらせてくれ」


 俺の決断に、マリオンとドルトは嬉しそうな顔をした。


「ええ、了解よ。カウフマンさんもオーケーよね?」

「勿論だとも! 依頼の受諾、ありがとう、アクセル君」


 そう言いながらドルトは立ち上がって手を差し出してくる。

 俺もその手をぎゅっと掴んで、契約成立の握手とする。


「こちらこそ、俺の事を気遣ってくれて有難うよ。こんな研修の機会を得られてさ、サジタリウスってギルドと、ドルトのおっさんに支援して貰って、本当に良かったよ」


 俺がそう礼を言うと、マリオンとドルトは一瞬驚いたような顔をした後、小さく微笑んだ。


「ふふ、アクセルさんの力になったと言って貰えるとは、有り難いわね」

「うむ、これでワシも少しは恩返し出来たと思う事が出来るよ。……それで、アクセル君やバーゼリア君の出立準備の方はもうできているのかな?」


 ドルトの質問に俺とバーゼリアは顔を見合わせた後頷き合う。


「ああ、問題ない。何時でも出発できるよ」

「ボクも平気ー」

「よしよし。ならば、出発しよう。始原生林に一番近い北門に部隊と荷物は集結させてある。軽い紹介の後、始原生林に向かってくれ」

「おう、了解」

 

 そうしてドルトと共にサジタリウスの店を後にする。そんな俺の背中に、マリオンが声を掛けて来る。


「それじゃあ、行ってらっしゃい、アクセルさん。これがビギナー運び屋卒業の、最終研修だから、――頑張ってね」

「ああ、いい機会を得られたんだ。一端の運び屋になるために経験を積んでくるよ」


 彼女の応援の言葉に手を振って返しながら、俺は最高難易度の依頼を比較的緩く、しかし程々の緊張感と共に開始することにしたのだった。


更新が一日空いてすみません。お盆明けの仕事のピークを抜けたので更新ペースを毎日に戻します。よろしくお願いします。

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