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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第一章

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第24話 sideマリオン 夜に集う人々

 夜。マリオンは、酒場・ミーティアの最奥部の部屋にいた。

 大きな円卓の置かれた個室だ。

 円卓に付くマリオンの対面にはドルトがいた。

 そして彼は立ち上がるなり、

  

「では、第107回目のSクラス十二ギルド代表者の連合集会を開かせて貰う! 司会はこのワシ、ドルト・カウフマンが努めよう」


 ハキハキとした声でそう宣言した。


「お願いするわー。と言っても、今回の集会には私しかいないけどね」


 マリオンが拍手と言葉をもって宣言に応えると、ドルトは複雑そうな表情になった。


「ぬう、一人でも集まってくれるのは嬉しいが。一応、この周辺都市の、ひいては国の運営にも関わる集会なのに代理すら寄越さないとは」

「今は降神祭も近いし、皆神様の為にモノを集めようと王都の方に出払っているのよ。それ以上に、今回の議題が殆ど無いのも大きいけど」


 マリオンは机の上に置かれた一枚の紙を見る。

 そこには今回の集会で話すべき議題が前もって書いてあり、事前に手紙として届くのだが、


「今回のメイン議題は、カウフマンさんの商業ギルド・ジェミニアが売る魔石や資源物資の出荷、価格調整についてって……そりゃ、誰も来ないわよ」

「折角街の運営に役立ってワシも儲かる話をしようと思ったのに……。他都市に在住しているSクラスギルドの代表者が多いとはいえ、顔くらいは見せに来て欲しいんだがなあ」


 ふう、とテンションを下げながら、ドルトは円卓の椅子に腰を落ちつかせる。


「まあまあ。いいんじゃないかしら。あとで議事録は向こうに行くんだし、私も届けるし。来てないって事は議題の結果についてはこちらの決定に任せるって事でもあるんだから」

 

 マリオンのセリフに、ドルトは吐息する。


「ふむう……そうだな。いい機会だから少しばかりこちらが儲かる様に、向こうに怒りを抱かせない程度に有利な話にさせて貰おうかね。……最近、魔術ギルドが金を持ちすぎているし、必須としている上級魔石の協定価格を少しだけ値上げしてやろうか」


 ぶつぶつと呟き始めたドルトに対し、今度はマリオンが苦笑しながら息を吐いた。


「喧嘩しない位で、程々にしてよね」

「うむ。分かっておるさ。半分冗談だ。――まあ、ともあれ、この方が、君と個人的な話が出来て嬉しくもあるのだ」


「個人的な話って何のこと?」

「ああ、ウチも出資している魔獣研究所の依頼をこなしてくれた上に、ピンチを救ってくれた件だ。ノノア所長はとても感謝をしていたよ。そしてワシも感謝している。緊急で魔獣の襲撃連絡を受けた時は肝が冷えたからな」


 あの研究所は魔獣研究という重要な役割から、星の都の領主だけではなく、多くのギルドから出資を受けている。その中でもドルトの商業ギルドはかなりの割合を占めていた。

 それだけに、心配も多かったのだろう。

 

「色々と事情を聞いているのね」

「うむ、より多く儲けるために、安全は大事だ。そして……アクセル君が関わっているのだから当然だとも。……それで、どうだろう。その後の彼の調子は」

「凄まじいという一言に尽きるわね。最近は輸送ギルドもめっきり減ってしまったけれども、私も負けてられないと発奮するくらいには、ね」

「そうかそうか。良い影響があるようで何よりだ」


 ドルトは満足そうに頷いている。

 思えば彼の紹介からアクセルに出会ったのだ。

 

 ……そのお陰で様々な物を見れて楽しいけれども、ね。

 

 それ以上に聞きたい事が出来ていた。だからマリオンは、最近思っていたことをドルトに尋ねてみる事にした。


「ねえ、カウフマンさん。一つ、質問があるのだけれど」

「うむ? なにかね?」

「……アクセルさんは、あの(・・)《不可視の竜騎士》アクセル、ご本人という事でいいのかしら?」


 マリオンの問いかけに、ドルトは数秒黙った。

 しかし、その顔に驚きは少ない。


「ふむ……やはり君も、その考えに行きつくか。いつか、その質問は来ると思っていたがな」


 どうやら予想していた質問らしい。

 それならいい機会だ、とマリオンは言葉を続ける。


「まあ、ここまで力を見せられるとね。カウフマンさんが何を知っているのかも聞かなきゃ。彼は、この国を救った勇者様ご本人って、確定しているのかしら?」


 不可視の竜騎士という存在は、アクセルという勇者がいたという事は、この国では既に知られている事だ。

 だが、それだけではマリオンは、《運び屋》のアクセルを《不可視の竜騎士》のアクセルだと判断する事が出来なかった。そして、それはドルトも同じらしい。

 

「ワシとしては恐らく確定だと、思っておる。……ただ、君も知っての通り、不可視の竜騎士の顔の写真も記録も出回っておらん。声から男性だと判別されはいるだけだ。故に名前だけを真似た偽物も多数現れて、各都市で混乱が起きた。その経緯は知っているな?」


 不可視の竜騎士、アクセルの名前は騙るのがとても楽だった。それはもう、魔王との大戦中から、アクセルという名前の者が増えまくるほどに。


「一時期は偽物が出過ぎて、王都の方で数人の勇者がブチ切れて取り締まりまくった事もあったそうね」

「ああ、ワシもその時は王都にいたが、鬼の形相で数人の勇者が偽物をとっ捕まえていたのでな。印象に残ったよ」

「――だけど、あの力は紛れもなく本物よ」


 名前だけを騙る連中とは明らかに違う。

 それだけの強さが《運び屋》のアクセルにはあった。 


「ああ、ワシだってそう考えておるさ。とはいえ、未だに騙る者はいる。ゲン担ぎの意味も込めて、アクセル、という名前を子につけたり、愛称としてアクセルと呼ばせている者もいるからな。本人であるか、最後の一歩を確かめるのに、二の足を踏んでしまうよ」

「でも、同じパーティーの勇者たちの証言をもとに、似顔絵は掛かれていたんじゃなかったっけ?」


 そんな情報を以前聞いた覚えがあったので問いかけてみた。

 すると、ドルトもそれは知っていたらしい。


「うむ。勇者たちからの情報をもとに《画家》職によって書かれてはいるが、《不可視の竜騎士》が持つパッシブスキルの【情報妨害】で、ぼやけた様にしか書けなかったのだ。ワシに写した物を取り寄せたのだがな……これでは全く分からん」


 そう言いながらドルトは懐から一枚の紙を取り出して、見せて来る。

 そこには、『不可視の竜騎士 ご尊顔』という文字と人の顔の輪郭らしき絵が描かれていた。だが、

 

「……確かにこれでは無理ね」

 

 輪郭の中にある顔のパーツが歪んでいるし、抽象的な絵画を見ている気分にさせられるモノだった。

 

「その画家は、『まるで竜騎士の職を与えた神が、その個人を認識させないようにしているみたいだ』なんて言っていたよ」

「……《不可視の竜騎士》は個人識別という事に関しては、巡り合わせが悪いのかしらね」

「ああ。詳しい事は本人にしか分からんのだろうがね。外野としては体格と性別、実力の有無で判断しなければならなくなったというのが事実で、辛い所ではあるな。その上、大事な部分が全く不明なままだからな」


 大事な部分との単語に対し、マリオン不意に頭の中に浮かんできた疑問を口にした。


「それは、彼の様な《竜騎士》が何故、《運び屋》という初級職になったのか、という部分?」

「うむ。何故運び屋になったのか、しかも何故あれほどの戦闘能力があるのかも、分からない。そこの情報が全く掴めなかったのだ。情報屋を使っても全然だ。転職神殿の者からは、当然ながら聞き出せんしな」

 

 転職神殿に所属するモノは、常に神の加護による防護が掛かっており、情報の漏えいが出来ない仕組みになっている。強力な防護と引き換えに、もしも情報を外に漏らそうとしたならば、その行為に及ぼうとした時点で、意識を寸断されるという加護だ。

 だから、転職関係については本人に聞く必要がある。


「何か要因があるってことなら、アクセルさんは隠している素振りは一切ないし、聞けば応えてくれそうな気はするんだけどね」


 アクセルは快活な性格をしている。だから、聞こうと思えば聞ける、とマリオンは判断している。それはドルトも同じらしい。ただ、


「しかしな、藪をつついて蛇を……いや、竜を出すのは避けたいところでな。それをして信用を落としたらたまったものではないし」

「まあ、その点は私も同じよね。もしも何か深い事情があるのなら、そこに軽々しくは触れたくないもの」

「うむ。そもそも、それはワシの恩人にすべき対応ではないし、藪蛇で失礼を為す輩がいたのならばむしろとっちめる所存でもある」


 ドルトは力強い口調で言い切った。

 流石は商人というべきか。黒い事はやるけれど、義理堅い部分は義理堅いようだ。

 

「まあ、私は、アクセルさんが話したくなるタイミングを待とうと思うわ。どんな事情があったのだとしても、どんな過去があったのだとしても、アクセルさんのことはアクセルさんとして見るのは変わらないからね」


 過去には興味があるが、やはり現在が大事だ、とマリオンは思う。

 そして今のアクセルは、自分が燃えてくるほどとても素晴らしい運び屋である。その事実だけは、変わらない。

 そう言うと、ドルトは目を伏せて微笑んだ。

 

「ああ、うん。君がそう言ってくれる人で良かったよ。今後はアクセル君については、彼を交えて酒でも飲みながら話すのがいいのかもな」

「ええ。そうしましょう。美味しいご飯はアクセルさんも好きみたいだしね」


 言いながらマリオンも笑みを浮かべる。

 これから彼について、もっと良くしれればいいな、とそんな思いを抱きながらドルトと喋っていると、


 ――ゴンゴン。

 

 と、個室のドアが強めにノックされた。そして筋肉質な体系をした禿頭の男が入って来た。

 

「む? 君は……研究所の連絡員か? なんだね、まだこの部屋は12ギルドの集会中なのだが?」

 

 訝しむドルトに対し、禿頭の男は慌てて頭を下げた。


「も、申し訳ありません。ドルト様。マリオン様。しかし、魔獣研究所の方から緊急での報告がありまして、どうか12ギルドの集会で取り上げて欲しいとの事です」 

「緊急の報告だと?」


 禿頭の男は、顔に浮かんだ汗を拭いながら頷き、そして言葉を続けた。


「始原生林にいくつもの巨大な穴……というか足跡が確認されました。どうやら幾匹かの魔獣が巨大化しておりまして。その巨大化した魔獣がこの街に近づいてきている姿も、確認されたとの事です……!」


 その言葉に、マリオンは眉をひそめた。

 

「魔獣の巨大化? 魔王が意図的に行った時以来の現象ね」

「ああ。……街に来ると決まった訳ではないが、とりあえず、星の都の領主に警戒と対応を要請せねばな」


 ドルトの表情も真剣なモノへと切り替わる。


「全く、アクセル君の話題で楽しい事が増えていると思ったら、どうにも良くない事態が起きるとはな。巡りあわせが悪いな」

「仕方ないわ。星の都はそういう事が起きやすい都市だし。……ともあれ、魔獣に対する報告と議事録は直ぐに、他のギルドに届ければいいかしら?」

「ああ、助かる。輸送ギルド、サジタリウスとして迅速に頼む。ワシは商業ギルドとして、打てる手を打っておこう」

「ええ、分かっているわ」


 そして二人は、素早く動き出していく。




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