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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第6章

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19話 通過

アクセルが鎧の騎士と戦う中、ローリエは、デイジーと共に泉の前にいた。


 戦場の音は聞こえるほどの距離で、しかし、向こうの邪魔にならない程度の位置だ。


「デイジー、私はここで何をすればいいの?」


 ローリエはまず聞いた。

 協力するには何をすればいい、と。

 するとデイジーは泉の水を指さした。

 

「この水に触れてほしいんだ」

「水に? でもそうしたら、変な動きを見せるわよ」


 先ほどのように、弾かれてしまうだろう。

 そういうと、デイジーは、

 

「ああ、それが必要なんだ。この槍を直すには」


 と、こちらを見てきた。

 デイジーが手にしているのは、先程アクセルから投げられた槍。

 穂先が砕けてしまっているが、鱗のようなものが新たに付けられている。

 

「どういうこと?」

「オレたちが触れても水は動かないが、君が触れると動く。つまりローリエが触れた水には、大量の魔力が含まれることになる。俺が普通に水を浸かっても意味が無いんだ」


 言いながら、デイジーは水に触れた。

 何も起こらない。

 魔力が含まれている反応すら見えなかった。


「そこから推論するに、神域の泉を有効活用できる状態に持っていけるのは、精霊種だけなんだろう。だから――ローリエ。君が触れた水が必要なんだよ」

「……それはつまり襲ってくる水で武器を修復するってこと?」


 言うと、デイジーは頷いた。


「そうだ。水に浸して、この槍に魔力を吸収させつつ清める。それで槍の修復は完了するんだ」

「確かに、さっき弾き飛ばされた時に触れて分かったけど、別に固体化してるわけじゃないから。水として使う事は出来るだろうけど……捕えなきゃいけないわよね」


 こちらの言葉に、デイジーは難しそうな表情で頷いた。


「ああ。そこも頼めるか? 槍を直すためにオレは集中しなきゃいけないから、他の事に意識を割けない。少なくとも二分間は動けない。だから、任せることになるけれど……」


 言葉の途中だが、ローリエは頷いていた。


「当然。やるわよ。ここまで付き合って貰ったんだからね」


 そもそも、自分の依頼で来てもらったのだ。

 何もしないで、何も出来ないで見ているだけ、で終わらせる訳にはいかない。

 

 ……自分に出来ることを最大限やるのが、精霊姫の務めよ。

 

 だから、ローリエは立ち上がる。 


「ローリエ、大丈夫なのか?」

「座ってたら、踏ん張りが効かないからね」


 車椅子から降り、杖を突く。

 

 足は曲がらないが、力は入る。


「それに、ちょっと水があれば、精練出来るって訳じゃないんでしょ?」

「あ、ああ。そうだな。大量にあればあるほど、この槍は強くなると思う」

「なら、なおさら降りるわ」


 さっきは、少し手が触れただけで、水が立ち上がり触手が弾いてきた。

 

 ……手が触れた程度であの量が動くなら……


 思い、力任せに足を進め、


「……さあ、来なさい!」

 

 泉に一歩を、踏み入れた。 


 その、瞬間だ。


【天罰覿面・強制排除ペナルティ


 同じような声が響き、


 ――ボコボコッ!


 音を立てて、泉が、動いた(傍点:動いた)。

 

 先ほどとは比べ物にならない太さで、八本の水の柱が、沸き立ったのだ。

 思った通り、沢山の水が動いてくれた。

 

「……しかしこれは、まるで龍ね。ウロボロスを思い出すわ。いえ、今回は首が八本だから八岐大蛇かしら」


 一本一本が、首をもたげるようにして、うねっている。


 そして、これから行われるのは当然、

 

「――!」


 軽率に触れた自分の排除だ。

 水の柱が、鞭のように襲い掛かってくる。

 

 八本すべてがこちらを向いている。だから――


「捕えちゃえば水として使えるでしょう! ――【構築展開 巨獣の首輪】」


 ローリエは杖で思い切り宙を叩いた。

 刹那、その空間に、巨大な光の枷が生まれた。

 

 それは、精霊姫という街一つを管理できる職業者故の強大な魔力に加え、そこから更に鍛え上げたローリエだからこそ、放てる魔法だった。


 その枷は、八本の柱をまとめて捕え、締め上げて、水面に倒した。

 根っこや先端はうねったままだが、締め上げたところは動かすことが出来ないようで、


「これだけの水があれば、充分よね、デイジー!」

「おうよ!!」


 デイジーは背後に、倒れた水の柱に向かって走り出す。そして、


「行くぜ、【錬成:精練強化――神槍】……!!」


 手にしていた槍を突っ込み、呪文の詠唱を始めた。

 

 同時、槍に泡のような青い光が集まっていく。

 穂先から石突までを包み込んでいく。

  

 デイジーはそれを凝視しながら、呪文を紡ぎ、魔力を込め続けている。

 

 それを二分間。

 

 終わるまで、自分は柱を押さえ続けるだけだ。

 

 やる事は単純だ。

 だけれども、

 

「……く……」

 

 水の触手が暴れはじめた。

 少しでも力を抜けば、光の枷が、弾かれそうなほどに。更には、 

 

【天罰・強制排除ペナルティ!】

【天罰・強制排除ペナルティ!】

【天罰・強制排除ペナルティ!】


 繰り返し虚空から声が響く。

 もはや騒ぐ、といったほうがいいか。

 頭の中で、がなり立ててくる。が、 


「知った事じゃないわよ……!」


 ローリエは歯を食いしばりながら、ドン、と杖を突き、魔力を込め直す。そうだ。

  

「神様がやりたいようにやってくるんだから――こっちだってやりたいようにやってやるわ……!」


 散々ここまで試練だ何だと、こちらに無茶を吹っかけてきたのだ。

 ならば、こちらだって無茶な事をやってやるのだ。

 

「意地の張り合いなら、私の得意分野なんだから……!」


 ぐぐ、と杖を握る手の力が籠る。

 

 その力は、枷に伝わり、水の柱首根っこを抑え込んでいく。けれど、

 

「――!!」

 

 水の柱の暴れ自体は止まらない。そして、前方から、


 ――バキン

 

 という音がした。


 水の柱の中部。

 そこがら暴れて、周囲に体を叩きつけたことで、湖底が割れたのだ。

 

 そして、うねり暴れる水の柱は、割れた岩や砂利にも勢いを与えた。


 その勢いで岩や砂利が、湖上に弾丸として撃ちあがり、吹き飛んでくる。

  

 方向は、自分とデイジーの方。

 

「く……! 【構築展開:光塁」 

 

 ローリエは、咄嗟にデイジーの前に立ちふさがり、光の防壁を張った。

  

 己の魔力で構成された光の壁は、尖った石や、砂利を弾いていく。

 

 しかし、ギリギリだ。

 

 水の柱を抑え込むために魔力のほとんどを回している為、壁が脆くなっているのだ。

 

 それでも、彼女が詠唱している間は、守らねば。

 

 その思いで光の壁を維持していた。その時だ。

 

 ――バアン!

 

 と、これまでで一番大きな音が鳴った。

 

 それは、再び水の柱が暴れた事によるもの。

 

 そして割れたのは湖底であるところと、かけらが吹き飛んでくるまでは同じ。しかし、

 

 ……大きい!

 

 飛んでくる石は、もはやかけらというサイズではなく。

 砲弾のような大きさで、吹き飛んできたのだ。

 

 豪速だ。

  

 ガン、という音が響き、光の壁が打ち抜かれた。

 

 ……このままだと、デイジーの方へ……!

 

 それは、瞬間の判断だった。

 

 光の壁を抜け、俺の胸元の横を通過しようとする石の砲弾。それに、

 

「まだまだあ!」


 ローリエは、己の手のひらを叩きつけた。

 

 構築魔法は使えなかったため、ただ魔力で強化と硬質化を施した、素手だ。

 

 それを石の砲弾の前に立ちふさがらせた。

 

 ――ガッ

 

 という鈍い音と共に、岩と素手が激突した。

 

 直ぐに、皮膚が裂けたことは分かった。

 

 ある程度は硬質化している、結局は皮膚と肉だ。

 尖った石にぶつければ、当然の結果だ。けれど、それでも、

 

 ……素通りなんて、させないわ……!

 

 岩を砕くことに成功した。

 

 鮮血と、石の破片が舞う。

 

 これで、致命的な弾丸ではなくなったはずだ。けれど、  

 

 しかし、僅かな礫としては残ってしまう。だから、

 

「デイジー!」


 注意の為に、声を飛ばした。


 しかし、背後にいるデイジーは動かない。


 群青色の水の中に沈む槍をひたすら見つめ、両手を前に掲げ詠唱を続けていた。


【錬成:神槍の構造強化 精霊魔力:充填強化 神魔力:充填強化――】 


 例え、つぶてがデイジーの額をかすっても。


 血が噴き出ても。

 

 デイジーは、呪文を止めることもなければ、槍から目を離す事もしない。そればかりか、

 

「はは……凄いぞ! 泉の魔力、神の魔力をどんどん吸い込んでいく……!!」

 

 目をきらめかせて、笑っている。

 

 痛みすら感じてないかのように。

 

 ……とんでもない集中力……。

 

 ぞっとするほどの力がその目と、その手には籠っていた。

 そして、数秒。

 

「は……完成だ……!!」


 デイジーの執念と集中力の含まれた呪文の詠唱は終わった。

 

「直ったぞ、親友……!」


 槍が、完成したのだ。

 

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