6話 試練開始
温泉に浸かった後、精霊神の泉への出立準備を整えた俺、デイジー、ローリエは、精霊都市と周辺の草原を繋ぐ、門の前に立っていた。
「姫様、アクセルさん、デイジーさん、お気をつけて」
そんな俺たち三人を見送るように、パルムが声を掛けてくる。
「準備の手伝いだけじゃなくて見送りまで有り難うよ、パルムさん」
「いえ、当然の事です。むしろ、ここまでしか協力できずに済みません」
彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
そんなパルムに対し、魔導椅子に乗ったローリエは首を横に振る。
「何を言ってるのよ。私がいない間、貴方がギルドと都市運営の中核になってくれるんだから。それだけでも十分な協力よ。貴方がいるから、私が自由に動けるんだし」
「姫様……」
ローリエの言葉に、パルムは小さく頷く。
「何かあったら、直ぐにお戻りくださいね」
「分かってるわ。今回はアクセルとデイジーっていう、頼りになる英雄が二人もいるんだから。出来る限りはやってこようと思うけどね」
ローリエは微笑の目で俺と、隣で立つ人間形態のデイジーを見てくる。
「親友。頼りにされちまってるぜ」
「だな。まあ、俺たちとしても、出来るだけのことはしようと思うよ。運び屋としてな」
誰かを、何かを運ぶのが運び屋の仕事だ。
その依頼を受けたのだから、やれるだけのことはやろうと思う。
そう思ってパルムに伝えると、彼女は俺やデイジーの手をぎゅっと握ってきた。
「……はい。アクセルさん。デイジーさん。姫様をどうか、よろしくお願いします」
「了解だ、パルムさん」
「行ってらっしゃいませ……!」
パルムはそう言って手を離した。
彼女見送りを受けた俺はローリエと目を合わせた。
ローリエはこちらの目線に頷きをもって返し、
「さあ、それじゃあ、行きましょうか」
魔導椅子を動かして、平原の方へ体を向け、懐から一冊の本を出した。
『神書』だ。
「二人とも、私の隣に来て」
「あいよ」
俺とデイジーは、ローリエの隣に立つ。それを見てから、ローリエは神書を開いた。
そして――
「【精霊神の神書――起動】」
呪文を唱えた。
彼女が言うには、この呪文そのものも、精霊都市に神々の時代から代々受け継がれてきたものだという。
それが発せられるや否や、
「――」
神書に光が集まり始めた。
そして、本に光の文字が刻まれていく。
「【試練開始――対象者:ローリエ・ニンフィア 参加者:アクセル・グランツ デイジー・コスモス 以上 三名】
光の文字は、そのまま留まることなく、白紙の上を走っていく。
描かれるのは、今回の試練の内容で、
【既定の道を進み、最終地点までたどり着け」
つい先ほど説明された通りのもの――決まった道筋を進むこと――が、刻まれたのだ。
そして光の文字は、以前見せられた地図の上まで進み、
【この道のりを踏破した暁には、精霊神の泉への入場を許可する】
と記載されて、止まった。
「さて、これでもうあとは、進むだけ、ね」
地図のページを見てのローリエの言葉に、俺は頷きを返す。
「ああ。まずは最初のチェックポイントだが、もうわかるか?」
「ええ。この地図の上に光る点があるでしょ。そこを目指すの。今回でいうと――まずはここを直進したところね」
「じゃあ、まずはそこまで行って、試練の感覚がどんなものか掴むとするか」
「そうね。そうして頂戴」
そして、俺たちは進みだす。
精霊都市から出て、神域を目指すための道のりへ一歩を踏み出すのだった。
〇
神書の最終ページに、ほんの数秒だけ刻まれた文章がある。
それは、何のルールでもない、ただの気楽な文章だ。
気楽だからこそ、神はわざわざ見せるように書かないし、読ませるつもりもない、無邪気な文章があった。
【――是非とも、私たちを、楽しませてくれ。精霊の子よ。人の子よ。楽しみこそが、我らの糧だ】」
その文章は、神が望んだ通り、誰に読まれる事もなく消えていく。
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