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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第6章

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3話 現状の把握

 ローリエからサーブされた、花の香りが芳醇なお茶を飲みながら、俺は詳細な情報を聞いていた。


「さっき、精霊神の泉までは厄介な道のりがあるって言っていたけど、そんなに遠いのか?」

 その言葉に、ローリエは頷き、後ろの本棚に向けて杖を振った。

 すると、そこから、数冊の本が浮かんで、彼女の手元まで降りてくる。

 

「遠いだけじゃないわ。文字通り、困難が襲ってくる道のりよ。精霊神の泉――っていう場所に行くんだから、神が関わってくるしね。ただでさえ山谷あって、自然環境も厳しい中進まなきゃいけないの」


 降りてきた一冊を彼女は開く。

 そこには、精霊都市を中心とした地図が描かれており、 

 

「確かに、精霊都市周辺は、平原と森と山ばかり、だな……」

「でしょう。その上、精霊道が荒れてから、一度も行ってないから。さらに荒れていることが予測出来るし――なにより、精霊神が関わるから特殊な事情も加味されるのよ」

 

 厄介な事よね、と吐息しながらローリエはこちらの目を見てくる。 


「それでも……一緒に来てくれる?」


 その問いに対する答えは、考えるまでもない。


「さっきも言った通り、勿論だ。世話になっている相手が困っているなら、手助けくらいするさ。運び屋の職業者としてもな」

「そう。……有難い人ね、貴方は」


 ローリエはわずかに目を伏せた後、改めてこちらの目を見た。

 

「それじゃあ、一緒に行くに当たって、情報の共有をしましょうか」

「ああ。頼むわ。まず、神が関わる特殊な事情ってなにか、聞いてもいいか?」

「そうね。そこが一番の厄介ポイントだから念入りに話しましょう。……まずね、精霊神の泉はその名の通り、神の訪れる場所でね。簡易的な神域として扱われるの」

「神域……っていうと、神たちの世界か……」

「ええ。神域に入るには、『試練』というものを突破しなければいけない――っていうのは、転職神殿の話で聞いたことがあるかしら?」


 ローリエの説明に、俺は過去を思い返す。


 ……運び屋になったときはともかくとして、竜騎士になったときとかはどうだったっけな……。


「……確かにそんなことを言われた気がするし。……実際に龍神に会いに行ったとき、何かしらやった記憶が……あるな」


 過去を思い出しながら絞った言葉に対し、ローリエは目を見開いた。


「え……もしかして。貴方……神域に入ったことがあるの?!」

 

 テーブルに身を乗り出すようにして聞いてくる。


「ああ……。ちょっと戦時中に必要があって、少しだけな。……とはいえ、その時の記憶は、大分、疲れすぎていたのもあって、殆ど覚えてないんだけど」


 肩に乗っているデイジーが首を横に振る。


「いや、親友。あれは疲れていたっていうか、出血多量過ぎて、肉体と精神がボロボロになっていたからだろう。一人で神域に入るために突っ走っていって、帰って来てみれば、両腕は折れてるわ、足の肉は半分なくなってるわで、意識朦朧としてたし。というか、死にかけてたし」


 ややあきれ顔で言ってくる。

 けれど、本当にその辺りの記憶は自分の中に無くて、


「あー……いや、覚えてないなあ。凄く大変だったような……感じはあるんだが。まあ、記憶を残すのが目的じゃなかったから、仕方ないんだけども」

「親友は目的に向かって進んでいる最中、他の全ては二の次になるもんなあ……」


 そんなことを言って、デイジーはこちらの肩で頷いている。

 デイジーの言い分は大分正しいので、俺としても、だよなあ、としか頷きようがなかったりするのだが。そんなこちらを見て、目の前の二人は唖然としていた。 


「さ、流石は竜騎士の勇者……と言って良いのか分かりませんが、壮絶な過去がありますね……」

「ええ。かなりびっくりしたわよ……」


「うん、なんかまあ、話をずらしてすまんな。話題を戻すが、そんな感じの試練、とやらがあるのか?」

「ま、まあ、程度の差はあるけれど、そこまで壮絶ではない……と思うわ。試練の内容『泉に入るには、特定の決められた道行を行かねばならない』というものだからね」

「特定の道行き?」

「ええ。神様が指定してきたポイントを通って進むの。その道中は泉に入るための儀式、奉納という事になるのよ」

「なるほど……方法は分かったが、指定ってのは、どうやって? というかそもそも、精霊神の泉の場所ってわかってるのか?」


 俺の質問に、ローリエは地図に円を描くように指でなぞった。

 

「場所は不定期に変わるわ。統計的にどこを通るのが多いとか、最終的にどこで泉に入れるのか、とかは、記録にあるけれどね。さっきなぞった円くらいの、一か月、普通に歩くと到着できる距離にある事は、ほぼ決まってるみたい」


 こっちの本が記録ね、と手にしていた書物の一冊をテーブルに置いた後、


「そして指定についてだけど、それに関しては、この本が使われるわ」


 先ほどから見せられている地図が描かれた本を、ローリエは指差した。


「これはね。歴代の精霊王が、神々の時代から継いできた『神書』なの。これを使うと、行くべき道が分かるようになるわ」

「ふむ、そんなものがあるのか。というか、歴代のってことは、精霊王は結構、泉に行ってるのか」

「ええ。そもそも代替わりの時には、絶対に一度は行かなきゃいけないのよ。だから、行き方そのものは、精霊王であれば必ず知ることになるわ。この『神書』にはポイント指定の他、ルールとかも記載されてるから。道中では手放せないものね」

「なるほどなあ。この本の他のページは見せて貰えるか?」


 もしも、何かしらヒントがあるなら見ておきたいし。そう思っての提案に、ローリエは快く首を縦に振った。


「構わないわ。とはいえ、私じゃないと開けないの。だから……そっちじゃ見辛いかもだから、こっちに来て」

「おお、そうなのか。了解」


 俺はローリエの椅子の裏手側に行き、彼女の背越しに本を見る。

 そこで、ふと気づいたことがあった。


「さっきから思ってたんだけど、この本、転職神殿で見た事がある気がする……いや気のせいか?」

「その感覚は半分合ってるわよ。この神書って、神界から降ってくる、スキルを記載する紙と同じ材質だからね」

「ああ、なるほど。だからか」


 俺の胸ポケットに入っているスキルやレベルを記載する紙に目をやってから、『神書』を見ると、確かに同じような雰囲気を感じた。

 

「神々から渡された品だしね。共通点が結構あるのよ」


 そう言いながら、ローリエは神書のページをめくっていく。ただ、

 

「あれ? 中は、結構白紙のページが多いな」


 地図があったページ以外は、ほぼ何も描かれていない。

 真っ白なページが続いていた。


「ここに私の魔力を通すことで、神様からの指定や文章が来るって形式だけど、儀式一回ごとに大半が白紙にリセットされるからね」

「そうなのか」

「ええ。リセットされてないのは――ここの共通ルールとかかしら」


 ローリエが指さした先には、

 

・【輸送袋、駕籠を行使しての人員移動は禁ず】


 との、一文が刻み込まれていた。

 

「これが、ルールか?」

「そう。ずっと前の世代が試したことね。運び屋の上位職に《駕籠者》っていうのがいるんだけど、知ってる?」

「ああ、名前だけは」


 星の都で、運び屋として働く中で、そんな名前があるとの話だけは聞いた。あくまで名前だけで詳しくは知らないが。


「そのスキル【駕籠】っていう、生物を、重量無視して運べる袋があるんだけど。それを使って道を進もうとしたら、そもそも道が現れなくてね。その上、このルールが付け足されたって話よ」

「へえ、しっかり神は見てるってことか」

「ええ。今も、見てると思うわよ」


 そう言って、ローリエは、僅かに手に力を籠めた。

 すると、彼女の手からわずかな魔力が光となって発せられる。その光は本に吸い込まれて行き――

 

【無論 見てるよ by精霊神】


 との一文が新たに加えられた。


「ね」


 その文を見て、ローリエはこちらに視線をやってくる。

 

「この本は神との通信機替わりなのか……」

「まあ、当代の精霊姫しか使えないし、限定的なものだけどね。なんにせよ、ここに書かれているルールは絶対だから、貴方の輸送袋に入るのは無理ってことね」

「なるほど……それ以外の、背負ったり、抱きかかえたりはオーケーなのか?」

「そこは問題ないわ。禁止された例もないし。……まあ、基本的には私は自分で進もうと思うけど」

「進むってローリエは、移動は出来るのか?」


 俺の横で、じっと神書を見ながら考えていたデイジーが言った。

 デイジーの視線の先には、結晶化した足がある。

 

 確かに、彼女は杖を突いていても殆ど歩けない身だけども、どうするんだろうか、と俺が思っていると、


「んー、まあ、今の状態だと足は殆ど動かないけどね。杖を突けば立てる程度だし」

「となると、さっきの動く道を使うのか?」

「いや、あれはこの街――私の管理下にある精霊都市限定の魔法よ。ここを少しでも離れたら使えなくなるわ」


 そう言うと、ローリエは、手にしていた杖の先で目の前の床を叩き、

 

「――でも別の方法があるから」 


 そして自分の座っている椅子を叩いて、言葉を放った。


「構築展開――魔導椅子」


 刹那、杖の中心に光が走った。


 その光は一気に膨らみ、形を変えていき、やがて光が収まったころには、

 

「これは、車椅子、か」 


 車輪の付いた椅子になったのだ。


「ええ。魔力で動く椅子でね。魔導椅子というんだけど、平坦な道ならいけるのよ」


 こんな風にね、とローリエは、魔導椅子に体を映し返した後、椅子を軽く掌で叩いた。

 すると、自動的に前に進み、くるりと、スムーズな一回転を見せた。

 

 更には、部屋の端にある、本棚に使うのであろう可動式の階段の近くに行くと、

 

「こういう所も行けるわ」


 魔導椅子の車輪は、階段に吸い付くように動いた。

 そのまま、登ったり降りたりをこなした。 

 

「おお、凄いな。多少の段差もいけるのか」

「ええ。医療ギルドと魔法研究所で共同開発した道具――というか、魔法でね。多少の悪路も平気なの」

「おー、確かに凄い技術力だなー。錬金術師として調べてみたいくらいだが――神様的に認めてくれてるのか?」


 デイジーの言葉に、ローリエは頷き、神書を開いて見せてくる。

 そこには、


『う――ん……神的にはこの人間的な工夫は認可!』


「だそうでね」

「結構フランクにやり取りしてくるんだな、神様」


 しかもリアルタイムだ。

 分かりやすいのは有難いけれども。


「まあ、その分、これだけじゃ超えられない道のりもあるんだけどね。基本的には決められた道筋をしっかり行けば問題ないわ。……ただ、挑める人数は決められているから、対応が大変なんだけど」


 言いながら、ローリエは共通ルールの部分を再び見せてくる。


「ああ、確かに……試練の参加者は4人以内って書いてあるな」


 更には、


【スタート後、追加ノ参加モ禁ズ】 


 と書かれている。

 

「つまりこれは、外から手助けした時点でやり直しって事か」

「ええ。……これが曲者で、大勢を連れ歩くことが出来なくてね。手持ちの道具と、人材と、道中にあるモノでどうにか進んでいくって感じね。」

「……となると、スタート前の補給が大事だな」

「そういうこと。補給部隊を連れていく事はできないからね。だから、それぞれが出来るだけ物を持つ必要があるから――その輸送袋に詰めるだけ詰めて行って頂戴。どのくらい入るのかは分からないけど、物資はあるだけあって損はないから。必要なものがあったらパルムに言ってくれれば用意するわ」


 ローリエの言葉に対し、パルムが己の胸を叩きながら大きく頷いた。


「何でもおっしゃってください。精霊都市の倉庫は広大ですので。ひと通りの冒険物資はご用意できるかと!」

「了解だ。現状の輸送袋の限界量がどれだけか分からないから、少し調べてから詰めていくよ」

「その辺りは、お願いね。じゃあ、次のルールだけど――」




「――うん。ルールについての打ち合わせはこんなものね」

 

 おおよそ、1時間弱かけて、俺とデイジーは、分かる限りの試練のルールについての確認を終えた。


「ああ、ありがとうローリエ。それで、出発はいつにする? 俺はいつでも行けるぞ」

「オレもだぜー」


 俺とデイジーの言葉に、ローリエもこくりと頷く。


「そうね。思い立ったが吉日というし……今日から動きましょうか」


 決断が早い。

 その辺り、やはりウロボロスとやり合っていた剛の者という感じがあるな、と思っていると、


「――ただ、そう言った手前で、アレなんだけど。数時間ほど待ってくれるかしら? 準備を整えたいのよ」


 ローリエは申し訳なさそうに言ってきた。


「準備っていうと、旅のか? それは俺たちもするけども……」

「ああ、うん。それもするけど、時間が掛かるのは、街の準備の方ね」

「街って、この精霊都市か」

「うん。ちょっと時間がいるのよ。私がこの都市を離れた時用の自動防衛術式とか隠蔽術式とか、色々作動させなきゃいけないから」

「ああ、そういうのがあるのか」


 彼女はこの街を治める姫だ。

 

 そういった防衛装置や術式の権限を持っているのだろう。 


 この精霊都市は平原と森に囲まれているが、外敵がいない訳ではない。

 その辺りは精霊界も人間界と変わらないらしく、守護はいるのだ。 


「一度仕込んでしまえば、私が何日だろうが、何週間だろうが、何か月だろうが、離れていようと大丈夫なんだけど。それだけに、仕込みと起動に、時間は掛かるのよ。申し訳ないわね」「いやいや、必要な事だし、存分にやってきてくれ。俺も旅に備えて、荷造りしなきゃいけないしな」


 こちらも輸送袋の確認をしたり、それなりに準備に時間をかけるつもりだった。だから気にしないように、と言うと、 


「悪いわね。……でも……そうだわ。荷造りが終わったら、貴方達は温泉にでも入って待っててくれるかしら」

「温泉? 精霊界にもあるのか」


 俺の言葉に、ローリエは首を横に振る。


「あるというか、むしろ、こっちのが源泉というべきね。世界を超えて精霊界の魔力が流れて出来たのが、向こうの温泉だから」

「ああ、なるほどなあ」 

「癒しの効果も高いから。ウロボロスの討伐から日が経ったとはいえ、精霊界に長くいるのは初めてだろうし。身体の疲れもあるだろうから。もしくは、不調とは言わないほどの、ちょっとした違和感とかね」


 言われて、肩に座るデイジーが声を発した。


「あー、確かに、向こうとは空気感が違う気もするな。動きには問題ないと思うが。魔力が籠り過ぎている気もするし」

「ふむ。まあ、人間界と感覚が違うのは、何となく分かるな」


 空気が薄い、とか、そういう息苦しくなるようなものではないけれど。

 何となく、呼吸するたびに力が回復しているような、もしくは体が活性化して少し動き過ぎているような、そんな感じだ。


「精霊界は魔力が人間界よりも豊富だからね。その辺りを含めた貴方達の身体の調整は、温泉に入れば出来るはずよ。世界に対する肉体の最適化ってやつね」

「なるほどなあ」


 依頼された仕事をこなすために、肉体の調子を保つのも必要だろう。だから、


「じゃあ……折角だし行ってみるか」

 

「賛成だぜ親友ー」


「ええ。大変な仕事を頼んだ直後でなんだけども、温泉くらいは気楽に楽しんで行って頂戴」


最近、裏サンデーで、「叛逆の血戦術士」という作品の漫画原作を始めています。是非、そちらも読んで頂けると嬉しいです。

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