29話 狭間の間
強風が向かってくる中、龍の体を走ること、少し。
「見つけたぞ……」
俺は、ウロボロスの体の終点を見つけた。
そう。真っ黒な角の生えた八目の、第一頭だ。
口の周りに、黒くよどんだ魔力がにじみ出ているその第一頭は、
「……!!」
自分の体を駆けてくることが分かったのか、八つの目がわずかに細まる。
そして身のくねらせをさらに強くするが、
「首をくねらせた程度で、落ちるわけがないだろう……」
不安定な体の龍には、乗りなれているのだ。
足場が揺れる程度では、何ら問題はない。
そのまま、俺は走りを続行し、
「引きこもりもここまでだウロボロス。鈴を鳴らすぞ……」
第一頭まで数メートルの地点で、ローリエらと約束した通り精霊の呼び鈴を五回鳴らした。
すると、その瞬間、
――ピキリ
と、下方に、光の亀裂が生まれ、岸が見えた。
見覚えのある、精霊界への出口だ。
「ォォ……!!」
第一頭の近くに、精霊界の出口が生まれてしまうことに焦ったのか、ウロボロスはさらに体を波打たせ、暴れる。
「よほど、外には出たくないみたいだな」
けれど、そういうわけにはいかない。
俺は、首を暴れさせるウロボロスから一旦、飛んで離れた。
強風を受け流しながら着地するのは、やや上方に生まれた、精霊道。
そこに足を置き、下方を見た。
ウロボロスと、その奥にある出口を。その体勢から放つのは、
「【竜脚】(ドラゴンキック)からの【竜脚】の二段接続……!」
龍を蹴り飛ばす蹴りだ。
その勢いをもって精霊道を蹴って、下に(・・)飛んだ。そして――
「さあ、そのでかい図体の一部を、向こうの世界に運ぼうか」
その勢いと、さらにスキルの力を重ねて、ウロボロスの首元を蹴り飛ばした。
「――グオオ!?」
それだけで、ウロボロスの頭は下方へと吹き飛ぶ。
そう、精霊姫が形作ってくれた、インボルグへの出口へと。
そして、ウロボロスの頭が出口に激突した瞬間、
――パリン
という音を立てて。
世界が、割れた。
そこから俺の目の前に現れたのは、
「インボルグの上空か……!」
そう。街並みを一望できるほどの高空に、躍り出たのだ。
「親友。この龍、たっけえところに頭を置いていたんだな」
「ああ、こんな空に潜んでいるとは、大胆な奴だ」
言いながら俺は足元の、ウロボロスを見る。
鎌首をもたげ、ひねり、その八つの目をこちらに向けていた。
明らかな殺意と敵意を持った、そんな目で。
「ここからが本番だな。落下中だけど、気を抜くなよ?」
「勿論だぜ、親友!」
ウロボロスの首に乗った状態で、俺は剣を構える。
「さあ、ウロボロス。お前には、この精霊界の空の下で、敗北を運ぼうか」




