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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第四章

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14話 久々とチャレンジ

病院に担ぎ込まれたエドガーはどうにか回復したと、ミカエラから連絡を受けたのは、救助依頼が終わって翌日の早朝の事だった。そして、


「槍の修理の件で、ご協力できるようになりましたので。良いタイミングで考古学ギルドにお越し頂けますか?」


 そう言われた。

 

 そのタイミングは早朝だったこともあり、サキとバーゼリアはもにゃもにゃと寝ぼけている状態だったが、今回の用件は槍の修理についてだ。

 

「基本的にオレと親友だけで大丈夫だと思うぜ」

「そうか? なら、二人にはゆっくりしていてもらうか。あとから来てくれれば良いからな」


 ということで二人には二度寝の後、考古学ギルドに来てもらう事にして、俺とデイジーはミカエラと一緒に考古学ギルドに向かっていた。

   

 そして、ギルドに入ると直ぐ、一人の男が出迎えてくれた。


「お越しいただき、感謝する、運び屋アクセル殿。そして錬成の勇者デイジー殿。改めて――考古学ギルド探索班の長、エドガー・マイヤーズだ」


 昨日救助されたばかりのエドガーだ。

 脱水と脱魔力によって、かなり消耗していたとのことだが、

 

「エドガー。体はもう平気なのか?」


 聞くと、彼は未だにややこけた頬に触れながら、首を縦に振った。。


「お陰様で。戦闘行動に参加しても問題ない程度には。これでも《トレジャーマスター》という上級職だから、どうにか回復出来た。貴方の救助が早かったからだ。……心から礼をいう、運び屋アクセル殿」「礼は何度も言って貰ったんだから。良いって」


 静かに頭を下げてくるエドガ―に対し、そういうと、彼は頭を上げたのち首を横に振った。

 

「命を救って貰ったのだ。言い過ぎと言う事はないし、やれる事はさせて貰おうと思っている。今回もそのつもりで、ミカエラに貴方達の事を聞いて、ここにお越し頂いたのだ」

「聞いたって言うと、槍の修理についてか」


 言うと、ミカエラが頷いた。


「はい。槍の修理の件で、以前、入る事が出来なかった『保管庫』に、権限を持つエドガーの方から案内をさせて頂くということになっています」

「ああ、その、古代鍛冶場とかがある場所だったな。入れそうなのか」

「はい。……ただその前に、昨日の祝宴で認印を押させていただいた、指輪は持っておられますよね?」


 ミカエラの視線は、俺の手指にあった。

 そこには、俺が各ギルドから判を押された指輪がある。

 

 ……考古学ギルドの印も、昨日貰ったんだよな。


 祝宴の際にミカエラが、押させてほしい、と言ってきたのだ。

 有り難い事なので、そのまま印を貰った訳だけれども、


「ああ。これを、何かに使うのか?」

「はい。これからご案内する場所は、そういったものをお持ちの、ギルドとして信用のおける方でないとお通しできない所ですので。あらかじめ付けさせて頂いたんです」


 ミカエラはそう言ったあと、エドガーの方に向き直る。


「というわけで、アクセルさん達は信用できる方と、既に保証してあります。ですので、後はお願いできますか、エドガー」

「無論、問題ない。ミカエラ殿は、昨日の報告を見つつ、調査計画を立ててくれ」

「ええ。了解です。では、私は一旦失礼します。アクセルさん、デイジーさん、また後程」

「おう、またな」

 

 ミカエラは、受付カウンターの奥へと消えていく。

 そんな彼女と入れ替わるようにして、エドガーが俺たちの前に出た。


「運び屋アクセル殿と錬成の勇者デイジー殿。どうぞこちらへ。ここからはミカエラに変わり、自分が案内を。あちこち連れまわすようで申し訳ないが、どうかもう少しだけご容赦を」

「ああ、大丈夫だ。よろしく頼む」

「では、先導をば」


 俺の言葉に頷くと、エドガーは歩き始めた。

 ギルドの奥まで向かい、そこにある階段をしばらく下り続け、そこから更に少しだけ歩いた。やがてたどり着いたのは、

 

「扉、か。これは」

 

 高さ十数メートルはある、天井まで届く大きな扉の前だ。

 

「ああ。保管庫はこの奥に。認印の付いた指輪をかざしてくれれば、開いてくれる。どうぞ、やってくれ」


 エドガーの説明に従い、俺は指輪をかざした。

 すると、巨大な扉は僅かに発光すると、

 

 ――ギ

 

 と、軋みの音を立てながら、独りでに開いていった。

 

 そして、開いた扉の先。

 そこに見えたのは、高い天井に見合った、広大な地下空間と、


「こんにちは。一日ぶりですね、アクセル・グランツ」


 そこに横たわる大きな白蛇――蛇神の姿だった。




「あれ、どうして、ここに蛇神様がいるんだ? 確か、砂漠の方に住んでいるって聞いたが」


 ミカエラからはそう聞いていたのだけど。

 そんな思いと共に出た疑問に対し、答えをくれたのは蛇神本人だった。


「生まれたのはそこで、塒となる場所もそこにありますが――大抵はこちらにいるのです。この、社に」

「社?」

「ああ。この探索保管庫というのは、魔王大戦が激化した数年前から蛇神様を奉る社としても扱うようになったんだ。安全のためにな」


 その言葉を聞いて、デイジーは頷く。


「通りで。ずっと前は、ただの保管庫だったもんなー」

「今はそうではないでセキュリティを強めてある。土地神である蛇神様がいらっしゃるので、信用できる人材しか入れることが出来ないようになっているのだ。ギルドの職員も同じで、基本的に長くギルドにいる者か、多大な貢献を果たした者しか入れなくなっている」


 見れば、保管庫にも職員の姿は見えるが、大体が、それなりに歳を食っている人たちばかりのように思える。

 エドガーの言う通り、ギルドに長年いた人たちなのだろう。


「そして私はマイヤーズ達の厚意に甘えているというわけです。場所を占拠するのが申し訳ないので、古代遺跡から接収した設備の管理もしているわけなのですが」

「いえ、甘えだなんてそんな。知識を豊富に持つ蛇神様がいてくれると本当に安心なのです」


 その言葉に蛇神は薄く微笑みを見せる。


「人の子にそう言って貰えるのは有り難いですね。……さて、では管理人としての役目を果たさせて貰いますが……アクセルさん。そして錬成の勇者デイジーさん。アナタ達が必要となさっているのは古代鍛冶場、でしたね?」

「ああ。ここにあるんだよな?」

「はい、あちらにありますが『古代鍛冶場』とよばれるものです」」


 蛇神の視線の先、そこには大きな平台が置かれていた。


 赤く、宝石のように輝く綺麗な台だ。

 一見すると、ただの美しいテーブルにしか見られないかもしれない。ただ、

 

「なんか、魔力が渦巻いてるな」


 台の上の空間が僅かに歪んでみた。

 蜃気楼のようなぼやけ方がある。

 

「あー、懐かしいぜ。あの上で錬成する事によって、武器に魔力が宿るんだよなー」


 デイジーも僅かに興奮している様だ。

 どうやら、きちんと目的のモノと出会えたみたいだ、と思っていると、


「それともう一つ、陽鱗がいるとお聞きしましたが。それも合っていますか?」


 蛇神が尋ねてきた。


「ああ。デイジー曰く、必要みたいでな。ここにあるのか?」

「はい。、生み出します」

「生み出すって……どういう……」


 と、こちらが言葉を吐ききるより先に、蛇神は身をくねらせた。

 すると、蛇神の喉元が僅かに光り出す。

 

 その光は、喉にある鱗の部分に宿り、やがて鱗をゆっくりと剥がしていく。

 

 ただし、普通に剥がれるだけではない。

 蛇神の身体から離れていくのに合わせて、形が変容していく。

 

 数秒もすると、インゴットに近いものになり、そして完全に蛇神の身体から離れて浮かんだ。

 浮かんだ白のインゴットは、こちらの近くにあるテーブルまで浮かんでくると、

  

 ――コトン、

 

 乾いた音を鳴らしつつ、ゆるりとした動きでランディングした。その一連の流れを終えたあと、

「ふう……これがあなた方が求めた『陽鱗』となります。受け取って下さい」


 蛇神は一息つくと共にそう言った。 


「……『陽鱗』ってのは、蛇神様から産出されるものだったのか」


 俺の感想に、エドガーが頷く。


「ただ、貴重な素材で、生み出すためには蛇神様の魔力も体力も必要になるのがネックでありまして。その負担を減らすために、公言はしておりませぬ」

「……オレも初めて知ったぜ。魔王大戦時に、偶に使わせて貰っていたけれどよ……」


 デイジーにとっても初見だったようだ。

 目を見開いて驚いた表情で蛇神を見ていた。

 

「これを、使っていいのか、蛇神様?」

「ええ、勿論ですとも。その為に生み出したのですから。……まあ、使えれば、なのですが……」

 何やら蛇神は口をもごつかせている。

 使うのが難しい素材だから、だろうか。

 

「扱えそうか? デイジー」


 だから扱う張本人に聞いてみると、


「んー、魔力量的に扱えないってことはないぜ。そこだけは安心して貰っていい」


 と、テーブルの上にある陽鱗をぺたぺたと触れながら言う。

 どうやら、使用自体は出来るようだ。

 

「なら、やってみてくれるか?」

「おうよ! 久々に面白い素材と設備を使えるんだしな。気合いを入れて修理に入らせて貰うぜ!」




 俺はやや離れた所から、古代鍛冶場の様子を眺めていた。

 どうやらデイジーと考古学ギルドの職員たちは、何だか楽しそうに武器を弄っているようだ。


 ……とりあえず向こうは任せて、良さそうだな。


 雰囲気も良さそうだしな、と思っていたら、


「少しお時間を頂いても宜しいですか、アクセル・グランツ」


 白い蛇が声を掛けてきた。


「ん? ああ、なんだい、蛇神様」

「改めて、御礼をと思いまして。運び屋アクセル・グランツ、ありがとうございました」

「どういたしまして。何だか昨日からお礼を言われてばっかりな気がするな」


 言われて悪いものではないので受け取るけれども。

 それでも言われ過ぎかとは思ったりする。


「それは申し訳ない。ただ、昨日の祝宴、私は出れていなかったので、言いたかったのです」

「ああまあ、室内だったからな」


 蛇神の身体は非常に大きい。

 輸送袋から出したら、街の大通りが通行止めになるくらいの長さと太さをしているのだ。

 このような広い空間でない限り、室内にはいるのは辛いだろう、とは思う。


「大きいというのも大変だな」

「ええ、本当に。中々難しいものです。……と、すみません。もう少し近くによってお話をさせて頂いてもよろしいですか」

「うん? 別に構わないぞ」

「ありがとうございます。では……」


 そういうと、蛇神は静かにこちらに張って寄ってくる。

 動きは美麗で、そしてどことなく気品すら感じさせるものだった。

 

「よいしょ……ええ。これなら人の子としっかり向き合って話せますね」

 

 そして、手を伸ばせば触れ合える程度の距離まで近づいてきた。

 ただ、この動きは周囲からすると別の意味があったらしく、


「蛇神様がご自分から、近寄るだなんて……」

「研究長や探索長以外に、蛇神様があそこまで接近を許している所は初めて見るぞ……!」


 そんな声が聞こえた。

 何やら周囲がざわついているようだが、


「蛇神様は普段はこうして人に近寄っていかないのか?」


 言うと、彼女は恥ずかしそうに頬を僅かに染めた。


「ええまあ、私はこの体躯ですから。強い人の子でなければ、潰してしまいそうで怖くて近寄れないのです」

「あー。土地神らしい、気遣い屋なんだな」


 土地神は強大な力を持つ代わりに、そういう性格になるらしい。

 そういった統計データが好きな勇者に聞いたことがある。

 蛇神もその例に漏れないようだ。


「人を助けるために力を与えられたようなものですからね。昨日は助けられてしまいましたが。本当に有り難い経験でした。――まさか、噂に聞いていて、ずっと会話をしてみたいと思っていた運び屋が助けてくれるだなんて」


 蛇神の言葉に、俺は疑問を覚えた。


「うん? ってことは、俺の事を前々から知っていたのか?」

「はい。数か月前に、私に血を与えた神から話を聞きまして。『魔王を倒した勇者が、面白い職業に転職された』と。それで、是非お話をしてみたいと思っていたのです」

「そんなことがあったのか」

「ええ。その上、星の都の方から噂が聞こえてきたので。そのタイミングで私の神子が噂の出元だった星の都に向かったのですが……まさか、アナタの方から来てくれるとは思いませんでした」


 ここから星の都までは一本道ではないし、幾つものルートがある。

 となると、途中で、すれ違ったのだろう。


「なるほどなあ。そうまでして話したいと思ってくれるのは有り難いが、特に何か話題を持ってる訳でもないぞ?」


 言うと、蛇神はこちらの顔に首を近づけた。そして、


「竜騎士を辞められて運び屋になられている時点で、結構な話題だとは思いますが……。それと、竜神のいる神域まで足を踏み入れたとも、私に血を与えた神から聞きましたよ。あれは非常に面白かったと」


 目を細めて、そんな事を言ってくる


「面白がられるようなことはしてないんだけどなあ。まあ、転職はそれも普通にやっただけだし、神域に入ったのも、魔王を倒すのに必要だったからやっただけだし」

「……何ともまあ、開けっ広げに話すのですね」

「別に隠すような事でもないしな」

「そのような自由な所が、神々の琴線に触れたのでしょうね……。確かにあなたを見ているだけで、神々は退屈しなさそうですし。神々が注目するのも分かります」

「注目……されているのか?」


 そんな実感はあまりないのだけれども。

 

「少なくとも私に血を与えた神はそう言ってましたよ」

「何ともまあ、不思議なものだな」

「そうですね。神々注目の人物が、ただ巡り巡って目の前にいて、こうして対等に、気楽に話せているといるのは、とても有り難いと思います」

 

 蛇神はそう言って笑った。


「はは、まあ俺としても、土地神と気さくに接する事が出来るのは有り難いよ。それこそ中々ない経験だしな」


 少なくとも兜を取ってからは初めての経験で、何とも面白さがある。

 そうして俺も蛇神も口元を緩ませつつ、蛇神と楽しく話していた。

 そんなときだ。


「うがあああ! 駄目だ――!」


 そんなデイジーの声が聞こえたのは。



いきなり飛び込んできた、デイジーの大きな声に反応して、俺が古代鍛冶場の方を見れば、

 

「どうやっても無理だ……これ……」

 

 頭を抱えて項垂れているデイジーがいた。


 デイジーがそのような仕草をするなんて珍しい。何かあったんだろうか。


「どうしたどうした、デイジー」

「うう、親友。この素材じゃ、駄目みたいなんだよ。槍を、直せないんだ……」


 そう言ってデイジーは鍛冶場の台の上にあるインゴットに手を置いた。

 それは、あれほど求めていた、『陽鱗』という素材だ。

 

 ……何かいけないポイントでもあったのか。

 

 という俺の疑問が口から出る前にデイジーは言葉を零す。


「これじゃあ、魔力の浸透率も、量も全然足りないんだ。というか、オレが使っていた陽鱗は、もっと鮮やかな青色をしていた筈なんだよ……」

「青?」


 デイジーの発言は、目の前にある素材と全く異なっていた。


「いや、これ、どうみても真っ白だぞ?」

「ああ。オレにもそう見えるさ。……最初は生み出されたばかりだからこんな色をしているのかと思ってたんだけど……やっぱり昔使っていたものとは違うみたいなんだよ。物質構成そのものは、同じに見えるんだが……」


 物質構成は同じなのに、素材として違うとはどういうことだろう。

 錬金術師にしか分からない用語で言われてもどうしようもないので、分かりやすい説明を求めた方がいいだろうか。そう思っていたら、


「やはり、駄目でしたか……」


 背後にいた蛇神が、そんな事を口走った。


「やはりって? 蛇神様はこうなる事が予想で来ていたのか? 使えるかどうか分からない、と言っていたけど……」

「当たって欲しくは無かったのですけどね。ただ、はっきりしました。デイジーさんが扱いたかったのは、十全な性能を持った『陽鱗』だったのだ、と」

「――ってことは、この陽鱗は、十全じゃないのか?」


 俺の問いに、蛇神は頷く。

 

「はい。私の鱗から生み出される陽鱗は、古き名を『日の宝玉』といいまして、青空から降り注ぐ光を吸収して特殊な魔力に変換する性質にあります。その魔力が満ち満ちれば、この宝玉は透き通った空の色を見せてくれます。それこそが、十全な性能を発揮する『陽鱗』という素材なのですが――今はごらんの通りです」


 青さなんてどこにもない。

 真っ白なインゴットが、そこにはある。


「紫嵐が起きてからここ数カ月。この周辺には満足な青空が訪れていません」

「天気が悪くなったのは紫嵐のせいなのか?」

「紫色の雲が常に邪魔をしてきますからね。その状態で、陽鱗を生産したため、このような白い色の物が出来上がってしまったのです。これでも、それなりに強力な素材ですから、間に合って欲しかったのですけれどもね……」


 申し訳ない、と蛇神は残念そうな口調で言ってくる。


「いやまあ、それしか出せないってのは仕方ない事だから良いんだけどさ。これは、不完全な素材だったんだな……」


 神林都市でも同じような案件があったな、と俺は少し前の事を重いだす。

 素材によっては少し傷がついただけで性能が下がったり使い物にならなくなったりすると。

 

 今回も、それに近いケースなのだろう。

 

「錬金系ではよくあることで、いつでも付きまとう問題なんだが、まさか神林都市に引き続き、この街でも出くわすとはなあ」

 

 デイジーも、以前の都市を思い出しているようだ。

 とはいえ、過去を懐かしんでばかりいても仕方がない。

 

 性能が十全に発揮できないのは分かった。ならば、


「どうすれば解決できる?」


 対処の方法を聞くべきだ。

 そう思って蛇神に聞くと、彼女はうーん、と少し目を瞑って考えたあと、


「私が日光を浴び続けた上で生産するか、生み出した陽鱗に日光を当て続けるか、ですね。……ただ、陽鱗は私の土地神の加護によって成立している素材なので、この街や、砂漠から離れてしまうと途端に萎れて使い物にならなくなってしまうのです。なので、現在の街の状況ですと……」

「曇り空が邪魔で、難しい……か」


 街の外に出て、適当な日差しを浴びせればいいというのならば、直ぐにその手段を取れた。

 けれども、それでは駄目というのであれば、もっと根本的な解決方法をするしかないのだが。

 

 ……さて、どうすべきか。一つ、強引だがやれる手はあるんだが……

 

 条件的に微妙かも知れない。

 とりあえず聞いてみようか、とそう思った時だ。

 

「お取込み中の所、申し訳ありません」

「ん? ミカエラさん?」


 横合いからミカエラが声を掛けてきた。

 更に、こちらに来たのは、彼女だけではない。


「ご主人ー。遅れてごめんねー」


 バーゼリアも隣にいた。

 

「ああ、バーゼリアを連れて来てくれたのか」

「え? ああ、バーゼリアさんは、先ほどお越しくださいまして。私もこちらに用件があって丁度良かったので、お呼びさせて貰ったのです」

「そうか。ありがとう、ミカエラさん」

「えへへー、いっぱい寝たから元気いっぱいになったよ。……って、あれ? どしたの? 錬金の勇者が何か萎れてるけど」


 バーゼリアはとことことやってくるなり、デイジーの消沈っぷりに気付いたようで、そんな声を掛けてくる。 


「いやな、バーゼ。これに、日光を当てたいんだが……雲が邪魔でな。何か方法が無いか探していたんだよ」

「雲が邪魔? 何だか分からないけど、雲の上に出るだけなら、僕が運ぼうか?」


 バーゼリアが何気なく言ってきた言葉に、デイジーは目を僅かに輝かせた。


「……なるほど。その手があったか」


 解決方法を思いついた、と言うような目だが、まだそう思うのは早い。

 先ほど、俺が思っていた事と同じだからだ。


 だから、その時に言おうと思っていた疑問を、そのまま蛇神にぶつける事にした。


「蛇神様。曇り空の上ってのは、加護の範囲内に入るのか?」

「と、言いますと?」

「知っていると思うがバーゼリアは竜でな。この子に乗って、雲を突き抜ければ、この陽鱗に、日光は浴びせる事は出来るんだ。な、バーゼリア?」

「え? う、うん。さっきも言ったけど、それ位は普通に出来るよ? 雲を突き抜ける時怖いから、ご主人も一緒に乗って欲しいけど……」

「ああ、分かってる。……そういうわけで、日光を浴びせる事は出来るんだ。ただまあ……雲の上は土地神の加護の範囲内かどうかってのが気になってな。どうなんだろうか?」


 聞くと、蛇神は今までで一番難しそうな表情を取った。


「ちょっと……それは……試したことが無いのでわからないですね……。無理な気もしますが、分かりかねます」


 その言葉に、あ、とバーゼリアは声を上げた。


「な、なんか、余計な期待を持たせることを言っちゃったかな? よくわからないのに口を出して、御免ねご主人……」


 バーゼリアはしゅん、と身を縮めてしまう。

 この子は、こういう所で少し弱気になる所があるよなあ、と思いつつ、俺は首を横に振る。

 

「いいや、アイデアを出してくれたのは有り難い事なんだから、落ち込まなくていいぞ。試してみる価値はあるって事だしな」


 バーゼリアの頭を撫でながら、俺は言う。


「何もしないよりは何かした方がいいし。バーゼリア、久々に高空フライトしようじゃないか」

「え……? い、いいの!? 何だか、上手くいくか分からないって話だけど」

「まあ、俺も今の状態でバーゼリアにどれくらい乗れるか確かめたいからな。良い機会だと思うし、試そうと思うんだ」


 そう言うと、バーゼリアは嬉しそうに両手を挙げた。


「わあい、やったー。久々にご主人と飛べる――!」


 どうやら、元気が戻ったらしい。

 まあ、どうなるかは分からないが、試せる手がひとつ出来上がったのだし。良いとしよう。などと思っていたら、


「あ、すみませんアクセルさん。もしも、今仰られた事をやるのでしたら、少し依頼をしたい事があるのですが……」

「依頼?」

「はい。先ほど言ったお話に関わる事でして。……この砂漠とエニアドから、紫嵐を取り除くための、協力をお願いしたいのです」


 ミカエラの口から、そんな言葉が飛び出してきた。

 自分たちが抱える問題を解決できそうな話が、だ。


「紫嵐を取り除く、か。それは、俺たちにもメリットがありそうな話だな。詳しく話を聞かせてくれ」

「はい。エドガー、蛇神様も聞いて下さい。お二人が集めた情報を集めた結果、紫嵐の原因と、解決方法が見えてきましたので。――この街を悩ませてきた問題を、解決できるかもしれない計画を話させて頂きます」



いつも応援ありがとうございます!

面白いと思って頂けましたら、下のブクマ、評価など、よろしくお願いします!


また、本日、7/19に、竜騎士運び屋の小説4巻とコミックス4巻が同時発売します! 

そちらも、どうぞよろしくお願い致します!

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