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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第四章

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11話 前進

霊水を補給して考古学ギルドから出た俺たちは、ミカエラの案内により、エニアドと砂漠を繋ぐ道を歩いていた。

 視線の先には広大な砂地が広がっている。


 砂漠に足を踏み入れたのだ。


「ここがさっき説明で聞いたエニアド名物、古代遺跡の眠る砂漠、ってやつか」

「はい。そして今は、紫嵐がやってくる渇きと死の砂漠です」

「何とも物騒な名前だな。……確認するぞ。ここから俺は真っすぐ、バーゼリアは北、サキは南方向に行く、でいいな」


 先ほど霊水と共に、ミカエラから渡された地図のコピーを見ながら言うと、バーゼリアとサキは頷いた。

 

「水もしっかり持ったし、大丈夫ー」

「問題なし、ですよ、アクセル」

 

 彼女らは腰に付けた、大きなポーチに触れながらいう。

 中には霊水の瓶が入っており、それを飲みながら行くことになっていた。そんな俺達を見て、ミカエラは心配そうに声を掛けてくる。


「皆さまお気をつけて。霊水がなくなりましたら、無理をせずにお戻りください。特に、アクセルさんは、輸送袋に大量に入っているとはいえ、一番遠いところに行かれるので」

「ああ、了解だ。水の残量には気を付けて行こうと思うよ」


 いくら大量に入っているからと言って、慢心する気持ちはない。

 慎重に状態を見極めながら行こう、と思っていると、

 

「――きゃっ」


 隣を歩いていたミカエラが足をもつれさせて、つんのめった。 


「――っと、大丈夫か? ミカエラさん」


 咄嗟だったが、俺が支えるとミカエラは恥ずかしそうに微笑した。


「え、ええ。……お恥ずかしい所をお見せしました。この地に慣れている筈の私が、こんなに足取りがおぼつかない状態だなんて」

「まあ、結構風も強い中だしな。仕方ないさ」


 実際、周りにいる仲間達も歩き方がおかしくなっている。

 

「二人とも大丈夫か」 

「ううーご主人ー、足がさっきよりも砂が細かくて、足が沈みやすいよー」

「街の中と比べると、やっぱり砂地のレベルが違いますね。どうにかはなりますが」


 砂漠に足をぽんぽんと付けながら二人はそう報告を返して来る。

 とりあえずは大丈夫そうだ。

 

 そう思った俺は、胸ポケットにいるデイジーを地面に降ろす。

 

「お、行くのか、親友」

「ああ。待っていてくれデイジー」

「おうよ。親友の顔をまた直ぐに見れるのを楽しみにしてるぜ!」


 そういうと、デイジーは手を挙げてミカエラの方に向かった。

 そして、デイジーを足元に迎えたミカエラは、こちらに向けて一礼をして、声を掛けてくる


「出発前にこんなことを言うのは卑怯かもしれませんが……。動き辛くて速度を出すのも難しいでしょうが、どうぞ同僚を助けるために、お願いします……」

「ああ、了解だ。――まあ、もう大分慣れたから、探索ポイントまではすぐに行けると思うし。そこは心配しないでくれ」



 アクセルの言葉を、一瞬ミカエラは理解できなかった。


「え……」


 だが、その一瞬の思考停止の間に、アクセルは前に行っていた。

 そう、普通に平地を進むような歩き方と速度で。


「アクセルさん……? 先ほどと歩き方が違うような……」 

「ああ。さっきから砂の上を歩いていたからさ。大分慣れてきたし、走り方も掴んだからな」


 アクセルは砂の上をすべるようにして歩き、やがてその足の運びは早くなっていく。


「要するに踏み込みの圧力を逃がさないように、上手く足を運べばいいだけだからな。身体を前に倒せば勝手に砂が運んでくれる形になって、むしろ楽かもしれないな」


 動きはあっという間に走りと呼べるものになった。

 更に、速度も、走りの名にふさわしい――いや、それ以上の速さになって、前へ進む。


「まるで、平地を坂を走る様に……?」

「――んじゃ、行ってくるわー」


 そのまま、突っ走っていった。

 紫嵐の中で、新たな風を作らんばかりの速度でだ。

 

 確かに、あの速度のまま行けば、数時間は掛かるだろう距離も、あっという間に着いてしまうだろう。 


「この砂と風の中で、姿勢を崩すことなく、あんなに軽やかに進めるのですか……」


 驚愕と共に言葉をこぼすと、近くで屈伸運動をしていたバーゼリアが声を返してきた。


「ご主人、ボクに竜騎士スキルなしで、乗れるくらい体の軸が強いからねー。このくらいの風なら、へっちゃらだよ」

「親友は魔王大戦中、肉弾戦をずっとやっていたから。身体の動きと、適応力は凄まじいもんなあ」


 先ほどアクセルの方から降りてこちらの足元までやってきたデイジーもそんな事を言ってくる。


「そうだったのですか……。魔王大戦時代の苛烈極める戦線のお話は何度も聞いていましたが……アクセルさんは勇者としてその最中を駆け抜けてきたんですものね……」


 目の前で桁外れの適応力を見せられて、改めて実感した。

 何の因果か運び屋をやっていても、彼は最前線を潜り抜けていた猛者なのだと。

 そんな風にアクセルが走り去った後を眺めていると、


「さて、お話はこれ位にして私たちも探しに行きますよ、竜王ハイドラ。アクセルよりも移動距離は遥かに短いと言えど、速度差があるのですから。きっちり仕事をこなして、可能であれば早めに戻って、帰りを待ちませんと。まあ、その役目は私だけでも良いですが」

「む、ボクだってご主人を待ちたいんだから、そうはさせないよリズノワール。……って、あー! こっちが話している内にもう出てるし!!」

「お話はこれ位にするといったでしょうに。では、行ってきます」

「くう、ボクだって! ――それじゃあ、行ってくるから、後は宜しくね、コスモス。グレイスー」


 そうして、二人も歩き出して行った。 

 風の中、怯える事も無く、しっかりとした足取りで。

 

「これが、勇者様の……いえ、空飛ぶ運び屋アクセルさんのパーティーですか」

「ああ、そうだぜ、ミカエラ。親友達、凄く良いだろう?」

「ええ。本当に、とても、頼もしいです……!」




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