9話 ギルドの対応
「倉庫はこの建物から少し離れた場所にあるので。一旦、外に出ます。付いて来て下さい」
ミカエラからそう言われた俺たちは、考古学ギルドの裏手から外にでた。
未だ、紫色の砂嵐が吹いている中だ。直ぐに身体に砂がまとわりつく。
……少し動きづらいな。
半日は最低でも続くと言っていたし、夜までこの状態なのだろう。
「紫嵐で、視界と足場が悪くなっているのでお気を付けを。砂も積もっていますので」
「ああ、確かにな」
外に出てまず違和感を感じたのは足元だった。
一歩ごとに、靴先が埋まるような感触がある。
これは歩行の仕方も上手く考えないと、体力を奪われてしまうだろう。
「視界も良くありませんね」
「全く見えないねー。この中はやっぱり飛びづらいや」
サキやバーゼリアも目を細めている。
砂嵐による魔力の減衰はあまり効果がなくとも、物理的なものは別なようだ。
「そうですね。我々も、この中を歩くときは本当に苦労します。数メートル先も満足に見えないのですから。……突貫的ですが、こういう物を用意して使っているんですしね」
ミカエラが指差したのは、地面に突き立つ、ロープを繋いだ楔だ。
それが数メートルおきに並んでおり、ロープは弛みなく浮かんでいる。
「このロープ沿いに進むとドーム型の倉庫があります。これをガイドにして行きましょう」
俺はミカエラが指差した先を見る。
確かに、奥に向けてロープのガイドラインは繋がっている。そして、
「ドーム型倉庫……っていうと、向こうにあるやつか。確かに砂嵐の中に行くんだとしたら、ガイドがいるかもな」
視線の先にある建物を見ながら言った。
「はい……って……え?」
すると、隣のミカエラは頷いたあと、俺の顔にバッと視線をやってきた。
「あ、あの……アクセルさんは、見えてるんですか? ここから、倉庫が……?」
「ん? まあ、砂嵐で邪魔されてるけど、見えてるぞ。あのドーム型の建物なんて、前には一つしかないからな」
俺の視界には、半円筒の形状を建物が映っている。
砂のせいで、少しはぼんやりとしているけれども。
徒歩数分といった距離にあるのは分かる。砂嵐さえなければ、ロープなんて必要もない位置関係だろう。
「そこまで遠い距離じゃないし、どうにか見えるさ」
ミカエラの問いに答えると、彼女は、目を大きく見開いた。
「い、いえ! ですが、この色のついた砂の嵐の中ですよ? 私たちでも、視界が確保しきれないので、こうして、補助用のロープを張っているのですが……そんな風に視界を確保できますね……」
「まあ、昔に、カラフルな魔法弾が飛んでくる向かい風の中を突き進んだ事が何度もあるからさ。視界が悪い中で周りを見る事に、慣れているのは大きいかも知れないな」
大戦時は、それこそ、爆炎や煙、魔力弾やら何やらがすっ飛んでくる中を、バーゼリアに乗りながら突き進んでいた。
それ故、障害物で視界は妨害されても、どうにか周囲を確認する技術は身に着けている。
今回も、透き通った空気の中に入る時のようにはっきり見えたりはしないのだけれど、移動するのには充分な程だ。
「ご主人は本当に目が良いんだよ。ボクはそういうのが苦手だから、いつもサポートして貰ったりしていたんだー」
「な、なるほど……凄いですね。竜王以上の目とは……。勇者は辞められても、その経験は未だ現役で活用していらっしゃるとは」
「まあ、使い時は限られるものだけどな。ともあれ、場所もはっきりしている事だし、サクっと移動しようか」
砂と風の中を数分歩くと、倉庫へとたどり着いた。
重厚そうな金属製の扉が取り付けられた建物だ。
そして、ミカエラの手によりその扉が開け放たれた。
中にあったのは、
「……凄い数の壺……いや水瓶、か? これは」
蛇口の付いた大きな瓶だ。
それが幾つも並んでいたのだ。
「はい。ここが考古学ギルドの、砂漠探索に最も重要なアイテムの貯蔵庫なんです。さあ、砂を払って中へどうぞ」
俺たちが貯蔵庫に入ると、ミカエラはすぐに背後の扉を閉めた。
「お渡ししたいモノはこっちにあります。皆さん。まだ少し薄暗いので、足元にはお気を付け下さい」
貯蔵庫には窓が設けられているが、砂嵐のせいで明かりが少ない。
だから、ミカエラは、庫内の明かりをつけながら奥へと向かっていく。
その後を俺たちは追っていくが、
「うぅー、ちょっと外を歩いただけなのに、なんか唇がピリピリするなぁ……」
「空気中の水分も殆どありませんね、これは。肌も荒れそうです」
「オレの毛もぼさぼさになってきたぜ……」
横では仲間達が、髪や服に付いた砂を払いながら、そんな事を言っていた。
「ふふ、あの中を進んで、それだけの感想で済むというのは流石は勇者様たち、といった感じですね……もしも自分が皆さんと同じ装備で外に居たら、魔力を抜かれ過ぎて、確実に息切れはしていたでしょうから」
「なるほど。それくらい脱魔力の効果は強いんだな」
「はい。ですから、私たちはこういう物を使うのです」
言いながら、ミカエラは水瓶に取り付けられている蛇口のハンドルをひねる。
そして、蛇口から出てきた水をコップに注いで、俺たちに渡してきた。
「さ、こちらの『霊水』をどうぞ。飲んだり、少し体に振りかけたりしてください。元気になりますよ」
「わあい、お水だー。ありがとー」
コップを受け取るなり、バーゼリアがまず一口飲んだ。すると、
「わ、わ。凄いや。美味しいし、肌の乾燥も直っちゃった」
バーゼリアの肌が、目に見えて潤いを取り戻した。
そしてバーゼリアの横ではサキも掌に水をかけて、ふむ、と頷いていて、
「ええ。肌に付けたら、直ぐに吸収されましたし……これは魔力的な回復効果も入っていますね。ということは、これは、ただの水ではないのですね」
興味深そうにコップの水と、自らの手を見比べながら、サキは言う。
「流石は魔術の勇者様。効果も分かるのですね」
「パッと観察した限りでは、ですけれどね」
「それでも初見で見抜けるのは凄いです。この魔法の水瓶から生み出された、魔力の入った霊水について」
「霊水っていうからには、何かあるんだろうとは思っていたが……結構な効果が乗ってる感じがするな」
俺も水を一口飲んで、舌で転がしてみたが、味はともかく、吸収のされ方が普通の水よりも早い気がした。
それこそ、染み渡る、という表現が正しいだろうか。
一気に体中に行き渡る、そんな感覚があった。
その感覚をもとにして、ミカエラに尋ねると、彼女は小さく頷いた。
「はい。この地にふく砂漠の風は、以前から水分を持っていく特性を持っています。それの対策としてこの地に暮らすモノの知恵として、そして、蛇神様から古代魔法の知識を頂き作り出した、受け継がれてきたものです。ただの砂嵐による被害――乾燥程度ならば、ここから生み出されるコップ一杯程度の水で殆ど防げてしまう代物なのです」
「それは凄いな」
「それ故、この地の砂漠の乾燥対策には効果的ですし、実質的には必須アイテムになっているのです。探索隊もこの水を持ち運んで飲みながら砂嵐の中を進んでいます。ですので、探索中の補給用にどうぞ、持てるだけ持っていってください」
「持てるだけ……って良いのか? 貴重なものだったりとかしないのか? この袋に入れて行こうと思うが……そこそこ量が入るんだけど」
俺が輸送袋を手にしながら、聞くと、ミカエラは微笑して首を横に振った。
「この水瓶一つ一つからは自動的に水が湧き出ますから。そういう魔法具ですので、問題はありませんよ」
「おお、それは便利だな」
「そういうわけで。アクセルさんはその輸送袋に入れて頂ければと。入れ物が無い方は硝子のボトルがありますので、そちらに入れてお渡ししますね」
「ああ、ありがとう。お言葉に甘えて、そうさせて貰うよ」
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