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8話 作戦選択


 深く頭を下げながら言ってきたミカエラに対し、俺はバーゼリアやサキ、デイジーと顔を見合わせた。

 

 どうやら、考古学ギルドの方は、かなり切羽詰まっているみたいだ。

 などと思いながら、仲間達を見ると、

 

「あ、こっちの事は大丈夫だよ、ご主人。ご主人の言いたい事とやりたい事は分かってるから」

「ええ、妻の目からしても、その表情だけではっきり分かります。……ですから、アクセルがやりたいようにするのが良いかと。私は、それに対して全力で協力しますし」

「そうだぜ、親友。どうする、とか聞く必要もないぜ」


 と、言葉を返してきた。

 流石は付き合いの長い仲間達だ。

 僅か数秒で、こっちの意思をくみ取ってくるとは。

 しかも、こっちが返したいと思っている言葉も分かっているらしい。

 

 ……有り難い事だ。

 

 兜を被っていた頃は、表情で相手に感情や考えを伝える事が出来ずに、意思疎通が難しかったから、こうやってこっちの考えをくみ取って貰う事が多かったけれども。

 

 良くも悪くも、その時の感覚が残っていてくれているからだろうか。だとしたら、本当に有り難い仲間に恵まれた。

 

 そう思いながら、俺はミカエラの方に手を掛けて、その体を起こした。

 

「ミカエラさん、そんなに頭を下げなくていいよ。その依頼、受けるから」


 そう返すと、ミカエラは頭を上げたあと、再び礼をしてきた。

 

「あ、ありがとうございます。こんな突然の申し出を受けて頂いて。しかも、皆さんのやりたい事を盾にするような頼み方をしてしまって……」

「そこは気にしなくていいって。……それに、俺たちは既に一個恩を受けているから、それを返したいとも思うんだ」

「え? 恩……ですか?」

「ああ、俺たちが突然ここを訪ねた時、ミカエラさんは俺たちを砂嵐から助けてくれただろう?」「あ……で、でも、別に私が何もしなくても、皆さんの力量であれば、この街内での砂嵐でしたら問題なく耐えられたでしょうし……。助けたというほどでは……」

「それでも、だ。こっちを気遣ってくれたんだ。だったら、目的なんか関係なく、俺はその恩に報いたいと思うよ。……君も言ったじゃないか。助け合うのは当然だと」


 人が困っていて、助けを求めているなら助けたいと思う。

 俺たちを助けてくれた人ならば尚更だ。

 

 だから、その恩を返すためにも、出来る限り手伝いたい、そう思ったのだ。

 

 その気持ちは、バーゼリア達は分かってくれていたようで。 

 

「というわけで、ボクも手伝うよー」

「夫であるアクセルの仕事は私の仕事でもありますから。ええ、やりますとも」

 

 バーゼリアやサキもそう言って、俺が返した言葉に対し、柔らかな笑みと頷きをもって受け入れてくれているようだ。

 

「ミカエラ、オレの親友たちはめっちゃ頼りになるぜ」

 

 そしてミカエラの元々の知り合いであるデイジーも、重ねて言う。

 そういった言葉を聞くと、ミカエラは、僅かに驚いた様な表情の後、微笑した。

 

「ありがとうございます。勇者であり、実力者であらせられる皆さんに、そう言って頂けると、ほっとします」

「まあ、ホッとするのは依頼が終わってからの方が良いと思うがな。……っと、それで確認なんだが、今はどういう状況なんだ? 詳しく現状を教えて貰ってもいいか?」

「勿論です。説明資料を出しますので、少々お待ちください」


 そういうと、ミカエラは、執務室の奥の棚から幾つかのスクロールを持ち出してきた。

 その内の一枚をテーブルの上に広げる。

 

 中に描かれているのは、楕円を数個重ねたような地図だ。

 そして右端には『エニアド』と書かれていた。この地理関係を見るに、

 

「砂漠の地図、か?」 


 言うととミカエラは頷いた。


「はい。既に考古学ギルドの探索班や冒険者を動員して、この地図を用いて捜索中なんです」

「なるほど。……この所々に刻まれている丸はなんだ?」


 地図には幾つかの部分に、赤い円形マークが刻まれていた。 


「これは、負傷して単独帰還が困難になった場合に待機するように決めている地点です。広い砂漠ですから、一応、複数のポイントを作ってあるのです」

「ふむふむ……で、幾つかの丸に人型の模様があるけど、これは?」

「はい。既に人員をやっており、捜索中の場所になります」


 説明を受けながら俺は地図を見る。

 赤い丸は幾つもあるが、そのほとんどに人型のマークも付いている。が、

 

「となると、まだ人が探していない場所は、三か所、か」


 街から少し離れたところに一つ。それと同距離にもう一つ行ってない箇所があった。


「はい。街の近隣地区は大体、行って貰っているのですが。どうして人数的に、手が回らない所がありまして……特に、危険なのは、ここですね」


 ミカエラが指をさしたのは、街から最も離れたポイントにある赤丸だ。


「ここは、砂漠の奥地であり、移動距離も大きいですから……」

「移動が多くなればなるほど砂嵐によるダメージ蓄積が痛くなってくる、と」

「ええ。そもそも砂漠を歩くのですから、砂嵐がなくとも体力が必要でして。いける人は限られているのです。本来は、探索長がフル装備でなんとかなるような場所ですから……」


 冒険者の方々で、送り込めそうな人材もいなかった、とミカエラは残念そうに吐息する。


「とはいえ、あまり考えたくはないですがここにいる可能性がある以上、行かねばなりません。ただ……やはり、一番遠くて大変な場所でもあるので。機動力ある方に行って頂くのがいいかな、と。皆さんの中で、いけそうな方はいらっしゃいますか?」


 ミカエラの問いかけに、俺は地図を見た後で、サキやバーゼリア達と視線を合わせる。

 先ほどと同じ、というわけではないが、彼女たちが言いたいことは、目を見るだけでなんとくわかっている。だから、


「んー……それなら、俺が行った方がよさそうだな」


 そう言った。すると、


「え……。アクセルさんが、ですか?」


 まずミカエラが意外そうな声を上げた。


「ほかの勇者の方でなく? 運び屋の、アクセルさんが、一番遠い場所に行かれるのですか?」


 改めて問うてくるが、答えは決まっている。

 

「もちろんだ。多分、この中だと一番、適しているだろうからな」

「えっと……理由を、聞かせてもらっても?」

「ああ。まず、バーゼリアは竜となれば一番動けるんだが……砂の中を進むのは、あんまり得意ではないんだ」


 そう言うと、バーゼリアは申し訳なさそうに肩をすぼめた。


「うん。ボクは苦手だからね……。この辺りなら、問題なさそうだけど。竜になって飛ぼうとしたら、色々と弾き飛ばしちゃうだろうし……コントロールがさらに出来なくなると思う」


 竜となったバーゼリアは障害のある空を進むのは、得意ではない。

 下手に竜状態で速度を出したら、制御を失って地面に突っ込んだりするだろうし。そこに救助者がいたら轢いてしまう。


 俺が竜騎士としてサポート出来るのであれば、ある程度は苦手も克服できるけれども、生憎と今の俺は運び屋であり、過去輸送を使ったとしても満足な稼働は難しいだろう。


 ……そう考えると、バーゼリアは人の体で動くことになる。

 

 それで捜索するのであれば、あまり遠くまで行かない方がいいだろう。そう考えて、候補から除外したのだ。


「んで。サキは機動力はあるんだが……水のない乾燥地帯だと、俺の方がまだ動けるっていうのがあるよな」

「ですね。というか、水があろうがなかろうが、アクセルの速度が私に劣るとは思えないのですが……」

「いやまあ、氷の上とかは君の方が得意だろうさ。……まあ、それはともかく、だからサキも街に近いポイントを探してもらった方が確実なんだ。――そして、デイジーは体格的に、遠くまで行くのは得意ではないだろうからな」


 デイジーは俺の声を聴いて、うんうん、と頷いている。


「やはり親友だ。オレのことはよくわかってくれているぜ。というかオレは救助活動に向いてるとはいい難いから。親友が無事に依頼を果たした時のことを考えて、このあとの作業工程をミカエラと話していようと思うぜ」

「――と、こういうわけだ。俺が、行くのが一番向いているっぽいんだよ」


 仲間たちとは長い付き合いだ。お互いの向き不向きもある程度分かっている。

 だからこそ、そういう答えが出たのだ、とミカエラに伝えると、


「そ、そうなのですか……。ええと、では、よろしくお願いします。現地で対象の探索長と蛇神様を見つけた場合は救助を。もしもそれが無理そうな状態であれば、一度帰還して座標を教えて頂ければと思います」

「ああ。了解だ。直ぐに出た方がいいか?」

「あ、いえ、その前に。考古学ギルドの倉庫の方から砂漠探索用の道具をお渡ししますので。少々移動させてください。砂漠に出たら補給が聞きませんから、ここでしっかりお渡しさせて頂きます」

「おお、そんなのがあるのか。それじゃあ、有り難く頂いた後で、出立させて貰うよ」


 そうして俺たちの考古学ギルドでの初仕事は、着々と始まっていくのだった。


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