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5話 舞い上がるもの


 昼前。

 拠点を出た俺たちは、エニアドの中央にある大通りを歩いていた。

 この道の突き当りの一角に考古学ギルドがある。

 

 そこを目指して歩いていたのだが、ふと、気になった事があった。 

 

「この時間帯なのに、随分と人が少なくなってるな」

 

 普段であれば、この昼前の時間帯、この大通りには露店が出ていたり、商人が威勢の良い声を上げていたりと賑わいを見せている筈なのに。

 

 ……俺が朝に見た時よりも、更に歩いている人たちが少ないぞ……? 


 というか、今通りを歩いている人は小走りだし、荷馬車を利用して店を出していた商人らしき人は急いで店じまいをしている。

 皆、せわしなく、急いで動いている様子だ。


「うーん。本当だね。雨でも降りそうだから、なのかなー」


 バーゼリアは空を見上げながらそんな事を言う。

 

「ああ……まあ、確かに降りそうな曇り空だけれどもな」


 俺もつられてみると、空は異様に暗い雲に覆われていた。

 紫と黒が混じった、雷雨が来る前のような曇りだ。

 

「ふうむ、この街に来てからずっと曇っていましたが、今は更にどんよりしている感じですね……」


 サキがぽつりとそんな言葉を零す。

 彼女の言う通り、この街に来てから、俺たちは晴れ間というものを、ほぼ見てなかった。

 

 ……ずっと薄い雲が空に掛かっていたからなあ。

 

 とはいえ、真っ暗になる事は殆ど無く、昼と夜の違いもはっきりする程度の光はあったので、特に気にしてなかったのだが。

 

 ……雨も降らなかったしな。

 

 けれど、今の空模様は、今までで一番曇っている。紫色と黒色が混ざった様な、淀んだ雲がかかっている。

 そしてその色の雲に付いて、俺はここ数日の商業ギルドでの仕事で聞いた話を思い出す。

 

「……そういや、商業ギルドの受付さんから、紫色の雲が出たら、気を付けろ。用件があるなら急いで済ませた方が良いとか言われてたっけな」

「へー。なんかこの街特有の、天候が変わる予兆みたいなものかな」


 だとしたら、俺たちも急いだ方がいいだろう、と歩を早めようと思った時だ。

 

 ――ヒュウッ!

 

 と、強い風が吹いた。ただ、風だけじゃない。

 

「うわあ、砂が混じってるよー。口の中ジャリジャリだよ、ご主人ー」

「ああ。結構、砂が巻き込まれてるな」

 

 バーゼリアが涙目で訴えかけてきたように、細かな砂が風の中には含まれている。 

 ピシピシと、体に砂が当たって来て、中々厄介だ。そんな状態になったのは自分だけではなく、

「やばい! もう、砂嵐が来るぞ!」

「だ、だな。ぜえ……はあ……急いで品を仕舞って、家に戻るぞ!」

 

 大通りにいた周りの人たちもだ。

 急ぎの速度が上がっていた。そして、荷馬車の商人がこちらに気付いたらしい。

 荷物を纏めながら声を掛けてくる。

 

「――そ、そこの兄ちゃんたち! あ、アンタたちも、本格的に砂嵐が酷くなる前に急いで避難した方がいいぞ!」

「ぜえ……ぜえ……コイツの言う通りだ。あと十分もしたら、ヤバい砂塵が来るから、急いだ方が……はあ……いいぜ!」


 と、息を切らしながらも、俺たちに向けて声を掛けてきた。

 

「ああ、了解だ。ありがとうよ、おっちゃんたち」

「良いって事よ。……はあ……よし。俺たちも急ぐぞ! そっちの果物も、積めるだけ積んで離脱だ!」

「おう!」

 

 商人たちはそうして、再び荷物のまとめに取り掛かっていた。

 心遣いをしてくれた彼らに対し俺は会釈を返した後、バーゼリア達に向き直る。

 

「降るのは雨じゃなくて、砂だったとはな」

「うう。結構風が強くなってきてるし、もっとジャリジャリになりそう……」

「あとでうがいでもしなさい、ハイドラ。……しかし、このままだと視界が悪くなりそうです」

「ああ。そうなると面倒だし、避難した方が良いって言われているし。――急いでいくか」


 ここから拠点に戻るよりも、考古学ギルドに行ってしまう方が早いだろうし。

 俺以外の三人も、同意してくれたようで、頷きと共に足取りを早めた。


 そうして俺たちが、砂が吹き付けてくる中、進んでいくこと数十秒

 

 想定通り、拠点に戻るよりもずっと早く俺たちは考古学ギルドの前にたどり着いた。

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