3話 日々の活動
俺たちが砂塵都市エニアドに到着して、一週間が経った。
到着してからというもの、俺はこの都市の地理を知る目的を兼ねて、商業ギルドから依頼を受けて輸送の仕事をこなしていた。
……エニアドに来るまでの数週間、戦闘の疲れを癒すために宿場町でゆっくりと過ごしたお蔭で、動きにも問題はないな。
体は全快している。
念のため時間を使って観察したが、体調も問題ない。
急ぐ旅でもなかったし、たっぷり時間を使って休んでよかった、と思いながら俺は砂塵都市の中央部に向かう。
そこには今、自分たちが使っている拠点があった。
元々、魔王大戦時にデイジーが拠点の一つとしていた大きな一軒家だ。
今は自分たちもそこに寝泊まりしていた。
朝の早い時間にいくつかの仕事をして、ギルドの人々から話を聞いて、街を見て回って、明るいうちに帰宅する。そんな日々を過ごしていて、
「ただいまー」
今日も拠点としている一軒家に戻ってきた。
すると、
「お帰りさない、ご主人ー!」
「おかえりなさいませ、アクセル」
そこには、何やら、奇妙な恰好をしたバーゼリアとサキの、二人が揃って出迎えてきた。
「……えっと? なんだ、その恰好は」
色鮮やかな布と、透けて肌が見えるパーツで構成された短いドレスだ。赤い髪をしたバーゼリアと、黒い髪をしたサキで合う色は違ったのだろうか、布の色は異なっているが、同じようなものを着用している。
……水着……とはまた違う感じの薄着だな。
どちらにしても二人が着ているのは派手で目出度そうな感じだが。何かのお祝いでもあったんだろうか。そう思って問うと、
「この地方の《ダンサー》が着る服らしいよ。市場で売ってたから、せっかくだし思って買ってみたんだー。 どうかな、ご主人。感想とかある?」
「感想か。可動域も広くて動きやすそうだし、魔力防護も結構かかってるし……何より似合っててかわいいと思うぞ」
「ホント!? えへへ、よかったー」
率直に見た感想を告げると、バーゼリアは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
ただ、そんなバーゼリアの様子を横で見ていた、サキはやれやれと首を横に振った。
「全く、自らの服をアピールする前にまず、アクセルの労いをするべきではないですか、竜王ハイドラ? アクセルは仕事を終えてきたばかりなのですから」
言われ、バーゼリアは言葉を詰まらせた。
「う、うぐう……た、確かに……」
「アピールなどしなくともアクセルはわかってくれるのですから、急ぎ過ぎです竜王ハイドラ。――こほん、というわけで、お帰りなさいアクセル。ご飯にしますか。お風呂にしますか。それとも私の体の暖かさにおぼれてみますか。いや、おぼれるというのはむしろ、アクセルの体温を感じ取りまくって匂いをくんくんしまくった私の方かもしれませんが! どうでしょうか!!」
「あー……サキは朝っぱらからエンジン掛かってるなあ」
格好は変わっても、そこは変わらないらしい。
むしろちょっと強化されている気もする。
「当然です。私は踊りも嗜んでいますから趣味で買ったのですが――こういった格好をする時はいつも以上に情熱的に、開放的になるというものです」
ふふ、とやや息荒げにサキは言う。ただ、そのあとで、目線をバーゼリアに向けて、
「……惜しむらくは張り合って買ったそこの竜王がいることですが!」
「は、張り合ってないもん! 欲しかったから買っただけだもん!! 傷も治って、綺麗になった体を見せたかっただけだもん!!」
「全く。稚拙な言い訳ですね。……あ、ちなみにアクセル。私の踊り子服姿はどうですか?」
「ん? ああ、もちろん。似合ってるし、きれいだと思うぞ」
「そうですか。ふふ、それはよかった」
「あー、ズルい! ボクにはあんなことを言っといて、自分は、さりげなくご主人にアピールしたな、魔術の勇者!」
「ズルくはありません。物事には順序というものがあるだけです。労ったあとならアピールしてもよい。当然ですね」
「自分ルール過ぎるんじゃないかな、リズノワール……!」
といった感じで、二人はいつもの取っ組み合いを始めた。
……まあ、二人とも、元気なようで何よりだし、放っておくか。
バーゼリアが負傷してしばらく、サキも気遣っていたところがあるし。
……魔人による攻撃は、ただの魔獣の攻撃とは威力も受ける被害も一線を画すからな……。
それを受けて尚、普段どおりが戻ってきているというのは幸いなことだ。
そう思いながら俺は一軒家の一番奥の部屋に向かう。
大きな鉄製のドアが付けられた部屋だ。そのドアをノックしてから、
「デイジー。頼まれていたモノ、商業ギルドの人から受け取ってきたぞ」
俺は部屋の中に声を掛けつつ、入った。
そこには俺の旅の仲間であるカーバンクル、デイジーがいた。
「おお、ありがとう親友! 朝から手間を掛けさせたな」
カーバンクル特有の胸元の宝石をきらめかせながら、デイジーはこちらを向き、そんな言葉をかけてきた。
「気にすることないぞ、デイジー。俺の装備を直すために必要なものなんだから」
言いながら俺は、デイジーに商業ギルドで受け取って来ていた紙袋を渡す。
依頼を受けに行くついでに受け取っていた物だ。
特に時間をかけたわけではないし、手間でも何でもない。それに、
「この街に来てから、殆ど部屋にこもりっぱなしで、修復作業にあたってくれてるんだし。武器の修理は俺には出来ないが、資材を運ぶくらいはさせて貰うさ」
そう。デイジーはこの街に来てからという物、殆ど拠点の一部屋で作業し続けてくれている。
その部屋からは昼夜問わずに物音が聞こえてくる。昨晩から今朝にかけてもそうだった。かなりの労力を払ってくれているのは、それだけで分かっている。
だからこそ、何か入用な物が合ったら自分が用意すると、前々から言っていたのだし、全く問題ない。そう伝えると、
「はは、そう言ってくれるのは親友らしいぜ。そのお陰で、大分修復作業も進んでいるから、完成までもうちょっと待ってくれよ」
「ああ。俺に出来る事があったら、これからも言ってくれよ」
などと、デイジーと会話していると、
――ぐう。
と目の前から、腹の鳴る音が聞こえた。
見れば、デイジーは僅かに恥ずかしそうに顔をうつむかせていた。
「うう……親友が前にいるタイミングでなるとは……割と恥ずかしいぜ……」
「いやいや、恥ずかしがる必要なんてないだろ。昨晩から頑張ってたのは知ってるし、腹が減って当然だ」
「……何と言うか、本当に親友はこっちをよく見てくれてるよなあ……」
そういうと、デイジーは苦笑した。
「まあ、そんな訳でな。商業ギルドに行く際に飯も買ってきたんだ。向こうにいる二人も、朝から取っ組み合いしていい感じに腹も減ってるだろうし。時間帯も良いし、一緒に食べようぜ」
「ああ、そうだな!」
そんな感じで、俺たちは砂塵都市での日々を過ごしていた。
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