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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第三章

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第26話 本性 4



 一歩一歩近づいてくる、目の前の男の雰囲気が変わった事に、ベインは勿論、分かっていた。

  

 ……なんだ、この重圧は……。


 明らかに、先ほどまでとは違う。

 毒を喰らって、勇者達が倒れてから、目の前の男はこちらしか見なくなった。

 

 ずっと、こちらの核である心臓を見ているような、そんな状態だった。


 その眼を見ていると、震えが来る。だが、

 

 ……相手はただの運び屋だぞ……!

 

 元竜騎士だろうと、それは変わらない。

 何を言っても初級職だ。

 毒を打ち込めばいいだけだ、とベインは両手を前に突き出す。


「――行け、【瘴気の弾丸】(マイアズマ)」 


 言葉が放たれると同時、ベインが構えた両手に出現した毒の球体が発射された。 

 勢いは高速。そのまま、アクセルの胴体まで一直線に飛んでいき――

 

「……!」


 当たらなかった。

 激突する前にアクセルが地面を蹴り、弾丸すれすれで回避行動をしながら、こちらへ走ってきたからだ。


 ……見切られたか……!?

 

 ギリギリで掠る事も無く、毒の弾を避けてきた。

 どうやら運び屋は目もいいらしい。しかし、正直、この攻撃はどうでもよかった。

 

「回復すると分かっていて、向かってくるか。くく、一つ覚えだな。まあ、どこでも斬ると良い」

 本命は自分の体を、攻撃させることだ。


 そうだ。自分の体は毒の鎧で守られている。【毒性外殻】(インフェクション・アーマー)というスキルだ。


 相手は自分に攻撃を当てる寸前に、服装として纏っている毒を浴びる事になる。目や耳や鼻、体の各機能を使えなくし、動きすら止める神経毒を。

 対毒スキルがない輩なら一発で殺せる毒だ。故に、

 

「食らえ……」


 槍を振りかぶったアクセルに向かって、ベインは両手を大きく広げた。

 そして最も毒の鎧が濃厚な部分を相手に向けて、


「その前に、存分に浴びろ!」


 相手が槍を振るよりも早く、体から紫の毒を放出した。

 それをもろに、アクセルは浴びた。

 

 ……殺った……!

 

 対毒スキルを持たない相手なら致死量だ。直ぐにでも効果は表れ、自分を攻撃する事も無く、倒れ伏す。そんな予想をしていたベインは、

 

「ぐぉ……!?」


 思い切り、腹を槍でぶん殴られた。


 毒の液体を浴びながら、剣で打撃した手ごたえをアクセルはしっかり感じ取っていた。


「ぐが……」

「ああ。回復すると言っても、打撃の衝撃は通るな」


 口から血を噴き出している憑虎君を見て、ダメージそのものは通っているのだと確信した。


「貴様……動きを止める神経毒の中でも突っ込んでくるとは、対毒スキルを持っているのか……!」


 当然だ。

 過去輸送で既に準備済みだ。そして、目の前の憑虎君と名乗った魔人は、

 

 ……今の打突で吹き飛ぶ重さ、か。 

 

 ならば、やり様は幾らでもある。

 だから、それを試していこうと、


「さて、次だ。」


 俺は再び憑虎君へ向けて、突っ込んでいく。



「……ふん、運び屋のスキルに毒耐性なんてものがあるとは思わなかったが……まあ、いい。対応は余裕だとも!」


 耐毒スキルを貫通する毒は用意できている。

 この十年の修練の成果を、運び屋如きに使うとは思わなったが。しかし、

 

 ……元勇者だというのならば、それはそれでふさわしい!


「貴様もワタシの修練の結果を、更なる毒を喰らうと良い! 【融解の鞭弾】(コラプション)!」


 しなりを持った線状の毒を放つ。

 線での攻撃だ。今度は掠った。けれど、


「この毒も効いていない……?」


 アクセルは動き続けてくる。

 毒を受けたのに、だ。


「新しい耐性スキルか――って、違うな。……貴様、耐えているだけだな?」


 見えたのだ。

 運び屋の腕に爛れの症状があるのが。

 

 ……行けるな。

 

 憑虎君は確信する。 

 自分は毒の鎧をまとっている。

 攻撃すればするほど、相手は毒を勝手に浴びてくれる。


 ……つまり、攻撃されればされるほど、こちらは有利になる。


 故に挑発する。

 相手が頭に血を昇らせて、毒を自発的に浴びさせて弱らせる。

 自分を攻撃すれば毒が解けるなどという種すらも利用して武器とする。


 それでうまくやって来た。

 今の今まで、それだけでも、英雄クラスですら仕留めてこれた。

 

 いくら毒に対して耐性をもっていようと、完全に遮断する事は不可能だ。


「はは、そうだ! ワシには、大地からの力がある以上。貴様は弱るのみ! ここで私は殺すことは不可能だ!」



 確かに、憑虎君の言う通りだ。

 毒耐性のスキルだけでは、完全にノーダメージというわけにはいかなかった。


 このまま、ここで戦っていては、よろしくない。

 だから決めた。


「憑虎君。お前は、俺の戦場に、連れて行ってやる……!」

「ぬ……!?」


 俺は憑虎君に向かって走りながら、過去輸送を使用する。


「【竜脚ドラゴン・キック】、【飛竜の突撃】(ドラゴン・マニューバ)までの二連接続コンボ……!」


 瞬間、俺は地面を踏み割るほどの勢いで、突進した。


「なっ――!?」


 白い蒸気の爆発が背後で起きるほどの速度。

 それに憑虎君が反応するよりも早く、その胴体に、槍を突き刺した。


「ぐ……!」


 しかし、それだけでは止まらない。それが技の接続コンボだ。

 

「……!!」

 

 突撃の速度を維持したまま、俺は突き進む。

 立ち並ぶ倉庫の壁を、幾つも幾つも突き抜けながら、ひたすらに。


 倉庫の壁がぶち当たるたびに、憑虎君の体は傷ついていく。が、


「こ、この程度で……ワタシの再生は止まんぞ!」


 彼の言う通り、倉庫の壁で切り裂かれようがひしゃげようが、直ぐに治っていく。

 そんなのは見れば分かる。やる前から分かっている。だから――


「――今からしばし、大地とお別れだ、憑虎君」

「っ……!?」


 やがて神樹が見えた瞬間、俺はそのスキルを発動する。

 神樹が回復したからこそ、頑丈さを取り戻したからこそ、安心して使える、そのスキルを。


昇竜ドラゴン・ドライブ


 そして。俺は地面を蹴り。空中を蹴り。

 地から天へと駆け上る。

 

● 

 

「お……おおお……!?」


 憑虎君は、槍を突き立てられながら、アクセルと共に上昇していた。

 

 凄まじい速度で、神樹の外皮を蹴り、空へと打ち上がっていく。

 

 ……どこからこんな推力が出ている……!?


 その答えは、自分を攻撃する者の光を纏った体、と背後を見れば分かった。

 

 ……こいつは……神樹の魔力を吸い取って、加速している……!?

 

 そう。まるで、神樹をレールとしているかのように。

 アクセルは空中で更に加速し、己の身体ごと、こちらを空へ運ぼうとしてくる。そんな事をする狙いは、一つだ。

 

「……どこまで行けば、お前の回復は、無くなるのかな……!」


 向こうもそれを分かっているからか、笑い、言葉を零して来る。


「く……この、悪あがきを……!!」


 叫び、憑虎君は毒の弾丸を自分の腕の周囲に生み出して、アクセルにぶち当てる。

 

 至近距離だ。確実に当たる。事実、アクセルの体と両腕が毒に浸された。

 けれど、勢いは止まない。


「ご……お……」 

 

 上昇の勢いに、まず憑虎君の腕がへし折れた。

 更には、徐々に肉が千切れていく。

 

「こ、この程度でワタシの回復は止まらん……!」


 自分のスキル【大地搾取再生】が発動している限り、負った傷は、すぐさま治る。

 実際に、煙を上げながら今も治っていく。だが、

 

 ……完治、できない……!?


 今回は、今までと違った。 

 所々に割けて、散らばった肉が戻らない。

 腕の完全再生が、出来ていない。


「ああ、良いじゃないか。どんどん再生力が弱まっている」


 それを見て、アクセルは笑ってくる。


「く……う……き、貴様もただでは済まぬというのに……」」


 そうだ。笑っているアクセル自身の腕の肉も削げている。


 スキルが強力すぎるのに加え、毒で弱っているのを我慢しているだけの体だ。

 こんな勢いで上昇すれば、傷つくのも当然だ。


 ……そも、本来は強力なスキルを使う場合、自分の身を保護するスキルを使うのが常套だ。

 

 けれど、この男はそれをしていない。あるいは出来ないのかもしれない。

 その反動が、目に見えて現れている。

 けれど、そんな事を気もしていないで、こちらへの圧力をかけ続けている。

 

「何で動きが止まらない……!!」

「? お前が生きている限り、足を止める理由は無いだろう……?」


 口元だけの笑みと共に呟かれた、恐らく本心からの疑問。

 その言葉に、ぞっと、背筋が凍った。

 

 毒を扱う自分にとって接近される事は、有り難い事だ。が、突撃される事は好まない。

 突撃によって自分を大地から突き放してくる輩が最も面倒だからだ。

 

 だからこそ、何度も突撃をさせないために、毒で弱らせる。

 そうするために、強力な毒を調合し練りに練っている。それが対策だ。

 

 生物である以上、毒が効けば、いずれ弱る。

 お陰で、生物相手には、常に優位でいられるのだ。

 

 だのに、目の前の男は、毒を喰らっているのに、構わず前に来る。


「イカれてやがる……!」

 

 喰らえば確実に弱る。

 少なくとも怯みはする。

 それが自分の毒だ。

 修練と鍛錬と研鑽の果てにたどり着いた攻撃だ。効かない訳がない。

 

 ……効果は、出ているのだ!

 

 絶対に、毒によるダメージは入っている。

 

 腕の肉は一部溶け落ち、今は骨だって見えている。

 いくら怒りに満ち満ちた顔をしていても、激痛はある筈だし、生物として反射的な、防衛的な行動だってすべきなのに。

 

「ォ……!」

 

 この運び屋は、それすらなく、止まらない。

 

「き、貴様は、生物として、イカれてやがるっ……!」

「それが……俺がお前を殺すのを止める理由になるのか……?」

「っ……!」


 間違いない。

 こいつは、異常だ。

 

 ……ワタシを殺すという目的しか、見ていない……!

 

 そして目的を定めたら、生物の反応すらも抑えて突き進むだなんて。

 

 ……化物め……!

 

 そう思ったのもつかの間、


「さあ、到着だ、憑虎君ベイン」


 その言葉と共に、体に受けていた圧力が急激に少なくなった。

 アクセルの動きが、止まったのか。

 

 ……いや、これは……違う。


 目の前の男は自分を引き連れて、登り切ったのだ。

 神樹アルエデンの最頂上に、自分はいた。


「どうだ憑虎君ベイン。俺の戦場は。遥か下に大地や街並みが見えて、奇麗だとは思わないか? ……ほら、あそこでは、サキが全ての虎を氷漬けにしている所も見えるぞ」

「き、貴様……!」


 声を出そうにも、喉元の負傷で上手く発声出来ない。

 体の再生が、全く、出来なくなった。

 それを見て、アクセルは笑った。


「ああ、再生の範囲から、離れたみたいで何よりだ」




「終いにしようか、憑虎君」

 

 神林都市を、神樹アルエデンを一望できるほどの上空で。

 俺は槍を握りしめる。

 上昇の勢いが残る最中、落下に移るよりも早く身を回し、大きく振りかぶる。


「ぐ……こ、この程度で……真なる魔人を、舐めるな……!!!」


 だが、目の前の憑虎君も諦めを見せない。

 再生が無くなり、体から血を零しながらも両の爪を構えた。


「おお……【死病虎爪撃】(デッドリー・タイガーストライク)……!!」


 そして生み出されるのは、紫色の光を放つ巨大な爪。

 その一撃が、こちらを引き裂かんと迫ってくる。


 しかし、そんな行動はどうでも良い。


「憑虎君ベイン。お前は、街から見える星屑の一つとして散っていけ」


 既に、こちらも、相手を倒せる技を打ち放てるのだから。

 

「【竜神の天下槍】(ドラグニール・エクリプス)……!」


 言葉を放った瞬間、俺の周囲にはいくつもの魔法陣が浮かび上がり、そして槍の先端に集中する。

 そして、魔法陣に纏った穂先から生み出されるのは、強大な光で出来た三又の角。

 周囲の大気すら切り裂くそれを発生させた段階で、槍そのものは、威力に耐え切れず、穂先を自壊させる。

 しかし、その破壊を代償に、

 

「――!!」

 

 槍の突き出しと同時に、威力は放たれた。

 竜神の角は、その巨大さを保ったまま、一直線に憑虎苦に向けて突き進む。そして――


「こんな、馬鹿な……運び屋ごときに……ぃ……」


 憑虎君は大空で、声だけを残して、その身の一片たりともを残さず消滅するのだった。



【規定条件達成。運び屋レベルアップ!】

【スキル取得。――神域輸送機能・認可・追加授与。『神の世界に踏み入れても、輸送中は少しだけ耐えられるようになります』】

 

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●新連載作品のお知らせ
 12月に始めたばかりなこちらの連載も、是非、お読み頂ければ頂けると嬉しいです!
《毒使い》の《薬師》が、聖竜、邪竜と共に、薬屋をやって依頼解決したり、無双したりして成り上がる話です!
 無価値と呼ばれた二竜を拾った《薬師》、邪竜と聖竜の主となる~最強暗殺者の《毒使い》、表舞台で《龍の薬師》として信頼されてます
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