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知性次世人間性  作者: 真宮蔵人
9/28

009.暗闘の暗闘

 まどろみの中で突然甲高い警告音が耳元に響く。ホントいつも心臓に悪い音だと思う、もう心臓無いけど。

 

 当直の簾林檎スダレリンゴからの2次警戒呼集だ、私は服装を制服に変更して玄関を抜ける。

 

 草木も眠る丑三つ時、玄関出入りのログは残るがその事について仮想家族から追求を受けた事は無い。

 

 呼集を受けた座標である駅北にあるビルの屋上へ一時的に転移した。

 

 パッシヴボイスチャット起動「こちらケイコ、状況はどうなっている?」と問いかける。

 

「こちら当直スダレ、駅の北側工場で魔法少女とターゲットが展開中、ターゲットへの牽制結果はアクセス権B+まではじかれた、そこそこ強い」

 

「こちらミレイ、戦闘空間の展開準備中、あの子達もうちょっと時間くれないかしら」

 

「こちらマリナ、付近住民の探査と避難誘導開始」

 

「司令部ミドリコ、他のメンバー所定地に着いたのを確認、人損だけは出さないでね」

 

 現場に近くて一番高い建物の上にまた転移し魔法少女達とターゲットである「モンスター」を確認する。

 

「今日はAマイナス以上のドラゴンタイプか、愉快犯か本当のテロリストか分からないわねこれ。A権限で嫌がらせを続けて魔法少女達の動きに合わせるわ」

 

「司令部了解、そちらの手出しでどうぞ」

 

 ボイスチャットから思考チャットへ基本通信を変更する。全員がDBダイレクトブレイン手術を受けている訳では無いので点呼と初動くらいはボイスチャットにしている。

 

 思考チャットは情報が短くなりがちだが伝達速度が早いので私は昔からこちらを使っている。

 

 魔法少女達はじりじりといつものフォーメーションを取りターゲットに仕掛ける構えを取った。

 

 前衛、夜桜さいか。中衛、志和一穂。遊撃、柿崎マリー。後衛、田中雪。といういつもの陣形。

 

 そういえば、さいかちゃんが変身シーンに拘りを持っているらしいけど、見た事無いわね、そんな時間無いからかな。

 

 さいかは黄色のフリルがいっぱい付いたドレス姿でハート型の大きなステッキ(メイス?)を構えターゲットへ真っ直ぐ突き進む。

 

 その黄色い飛翔体は恐ろしい速さでモンスターに肉薄する。

 

 そこへ緑の衣装と木の葉で出来た翼をはためかせながら登場した一穂は拘束権限を「魔法らしく」した「蔦の魔法」でターゲットの動きを鈍らせる。

 

 マリーはその二人の横からターゲットの背後を取ろうと動く。赤いチャイナドレスに中華刀という目立つ格好だが、恐ろしくスニークアタックがうまいリーダーである。

 

 田中は自称「大魔法」の為にアクセス権限の集中と承認申請をしている、田中雪の格好は制服の上にマントとトンガリ帽子と樫の杖といった格好だ。

 

 この「大魔法」はシステム的に見ると「仮想空間運営公団への大量な書類提出と認可待ち」なのだが、本人は「詠唱」と言い張っている。

 

 ターゲットも負けじとブレスを魔法少女へ向かってなぎ払う様に吐く、ブレスの成分は恐らく単純な負荷攻撃とネットで集めたシステムウィルスだと思う。

 

 魔法少女達は各々に強固な監視とプロテクトAIが付与されているので外部要因の攻撃は大体効かない。

 

 マリーが叫ぶ「被害は無いな!?」 各々魔法少女は「大丈夫」と返事をする。

 

 一穂が叫ぶ、恐らく私の出番かな。「畳み掛けるよ! 召喚<ファーフニール>!!」

 

 召喚されるー。私は高台から身を翻しターゲット前へ「変身」しながら転移する。くるりと一回転しながら体が膨れるのを感じる。

 

 感覚が肥大する、情報量が増える。目の前に巨大なドラゴンが居る。でも私も今はそこまで小さくは無い。

 

 ファーフニール(毛玉竜)の外見は90式ドローン空母とうさぎを足して割った見た目で、90式D空母を少し大きくしたサイズだ。

 

 「ティィィィィイイイイ!! !!」と獣が叫ぶ。私の掛け声だ、一昨年くらいに実装したけどまだちょっと恥ずかしい。

 

「ファーフニール、どんどんやっちゃって!」

 

 一穂に従う様にターゲットに対し私は念の為に先行して防衛光弾を10発撃ち出し、それを確認してから攻撃光弾を撃てるだけ敵へ吐き出す。

 

 白い獣の口からドラゴンブレスに負けじと光弾が飛び、敵のブレスと相殺する。

 

 敵のブレスが思ったよりしっかりとしている。<光弾担当、大丈夫? >と思考チャットを送る。

 

 <……> 返答が無いので忙しいか大丈夫かのどちらかだろう、攻撃光弾管理の安手いるかは基本的に喋らない子だし。アンナは余裕が無い子だ。

 

 それに今日は松本さんもいるので不測の事態はまずないだろう。

 

 基本的には敵の範囲攻撃をファーフニールが受け持つ形となる。

 

 ファーフニールが使われる前は先代の魔法少女でバリアを張る子がいたらしいが、今はもう居ない。

 

 魔法少女達の攻撃により、敵ドラゴンはじりじりとその攻撃データ量を減らしている、

 

「司令部より、雪ちゃんの大魔法の準備が整ったみたい」

 

 大魔法さんに拘り過ぎて時間が掛かっている様に思えるが演出も大事にしないと受けが良くないと聞いている。

 

 私は思考チャットを本部へ送る。<了解、ファーフニール突撃する。>

 

 ファーフニールの武装にはドローンやミサイルの良いトコ取りな攻撃と防衛の「誘導光弾」のほかに、体毛の全てがリアクティブニードルとなっている。

 

 リアクティブ系の装甲はスイッチを入れたり敵の攻撃を受けると自動的にはじけ飛ぶ装甲で、貫通性の高い敵の攻撃に対し有効である。

 

 余談ではあるが、実世界の90式ドローン空母にもコイル式リアクティブアーマーのアタッチメントはあるが使われている所はまず無い、高いし重いからだ。

 

 ファーフニールはVR世界でしか実現出来ない兵器である、電子データのみの存在とは言え運用AIとソフト更新代も馬鹿にならないが。

 

 他には、魔法少女達はダメージを受けると多少の痛みを感じるらしいが、ファーフニール(私)に痛みは無い。

 

 光弾を吐き出しつつ敵へ全速力で突っ込む、体当たりの状態になる。右から敵へぶつかりリアクティブニードルを最大出力で発射する。

 

 結構な爆発力である、攻撃情報は「キック」系に当たり、恐ろしく多段な攻撃なので衝撃が強い。

 

 ニードルの衝撃でよろめく敵へ今度は左側の表面を向けるように転換、すかさずもう一方のニードルを全て発射する。

 

 「雪ちゃん、今」と一穂が叫ぶ。このタイミングを逃すと泥仕合になる、頼んだぞ。

 

 田中雪の周りには大きな魔方陣とやらが展開されていた。そして、歌うように叫ぶ「世の凪ぎ!」。

 

 一筋の光線が田中雪の詠唱位置の前から放たれる。雪ちゃんは最近和名の魔法に凝ってるらしい。

 

 その光線は地面を削りながら下から敵ドラゴンを切り上げる様に放たれた。

 

 ドラゴンは真っ二つとなり壊れたモニタの様な色を出して崩れるように消えた。

 

 光線は地面を裂きながら地平線もなぎ払い天を斜めに突き抜けた。無論、光線を受けた地形データは地も建物も空をも崩す。

 

 アンナはガッツポーズを取り呟く「やった、お仕事だ」。みれいが相槌を付く「公共事業の発生を見た」。

 

 「巻き込まれたら大赤字だわあれ、気をつけてね」と緑子が言う。

 

 案の定、田中雪は敵の背後から責めるという魔法少女リーダーのマリーからお叱りを受けている。

 

「雪ちゃん、もうちょっとピンポイントに敵だけ狙えないかしら、味方に当てないで地形も壊さずに」

 

 田中雪は涙目になりながら「あそこまで大きくなると思わなかった」と自己弁護している。

 

 私は知っている、ウチ側のチーム関係者の何人かがわざと物損データ戦闘被害をかさ増ししようとしている。

 

 魔法少女の通常攻撃や大魔法の補助には我々も関与している。AIの改良や効率化、最新ウィルスデータの把握と対策。

 

 とはいえ魔法少女達の方が個々の処理速度も権限も遥かに上なので、あくまでバックアップである。

 

 魔法少女なしで日々凶悪に洗練されるモンスターを対処するのは時間がかかる上にお遊びで済まない組織が介入してくる。

 

 ファーフニールである私はもう魔法少女達の会話中に消えている。

 

 転移先のビルの屋上で魔法少女達を見下ろす。

 

 魔法少女達は各々に「じゃあ、おやすみなさい」と挨拶し解散した様だ、それを見届ける。

 

 しかし、我々AI応用部主体のメンバーはこれから部室へ学校を通さない経路で転移し集合する。

 

 裏方はメインスターより忙しいのだ。

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