004.煉獄からユートピアへ至る道
不思議と動揺は無かった。ただ、衝撃の後には長いのか短いのか分からない闇の中に居て気がついたら視覚と聴覚が戻った。
「おはよう赤松さん、その180度カメラはサービスだ、マイクは安物だが勘弁して欲しい」
カメラ? マイク? ここは何処だ? 何か白いものが見える。
「混乱しているのかな? 本来なら接続時にカウンセラーと立ち会う予定だったのだが、生憎こちらの扱いは良くなくてな、すまんが私が君の現実を伝える役になるよ」
たまに視界のピントが合う、まるで古いカメラの様に。
私は何処にいる?
「私は牧内、これでも一応医者だ。君を無下にするつもりもいじめるつもりもないし、ここは少し変わってはいるが一応病院だ」
白衣を着た、いかにも学者といった人物が一人だけ立っている。手にはペーパーモニタと棒状の、マイク?
「認識反応は良好、まだ慣れないだろうが話だけは聞いて欲しい」
ぼやける視界の中、細目にして視る感覚、白衣の男はモニタを見ながら話している。
白衣の横に白黒の立体画像の物体がある、見ていると不安になるその形へ吸い込まれるようにカメラピントを合わせてしまう。
それはボーリングという大昔に流行ったらしいスポーツで玉に倒されるピンという棒の様な形をしている。
私はなぜ自由に動けない? まばたきすら無い。
「古い映画を見る趣味はあるかな? 大昔の戦争映画で「ジョニーは戦場へ行った」だったかのタイトルだ。そう、実は君がそのジョー(肉塊)と変わらない状況にある」
マキウチの動きはとても技とらしく、相手の反応がグラフでしか現れないからか大げさな振る舞いだ。
「これは弁護士や保険屋さんも交えて話すべきなのだが、君には選択肢が大きく二つある。だがどちらを選んでも君の肉体的四肢欠損と五感欠如したという現実は変わらない」
四肢欠損? この棒状の3D映像が自分か? もしかして騙されているのではないか。しかし、視聴覚は相変わらず安定しないがそれに吐き気を覚えたりしない。
畜生、もう分かったよクソったれ! こんなダルマ(大昔の縁起置物)以下の状態で「俺を殺してくれ!」とモールス信号でも出せばいいのかよ!
「そんなに興奮しないでくれ、メカナリー化や脳改造でのデータリンクは見慣れた者だろう、君はそれらを全て併せ持つだけだよ、前例と段階を踏まずにだがね」
落ち着こう、兎に角落ち着く事と現状確認。拘束されているかそれに近い状態だという事は認めなくてはいけない。
「お、少し落ち着いた様だね。流石PMCのエリートは違うな」
マキウチは溜め息をついて続ける。
「大きいお金と政府が動いたお陰で日本初の手術成功だ、大成功が良かったのか悪かったのか分からない話だが、君達は手術を受けて生き延びた。おめでとう」
「時間はある。しかし、さっき言った選択肢の件だが、君達が元気な時に必ず書く「軍務従事者の遺言状」に解釈の点で問題があってね」
「その判断を君にして欲しい訳だ。いや、死んでないから遺言は無効と言えば無効なのだが、ちょっと話がこじれてな」
医者と名乗った男は横を向きながらマイクへ話しかける。
「今日は話をここまでにするよ。現状を受け入れて欲しい、本来ならオフラインにするべき所をカメラだけこのままにしておく。一日くらい自分とよく向き合うと良い、それがいい」
医者は部屋から出て行った、部屋に残った物は白黒のホログラフと背中を見るようにすると写るのっぺりとした機械だけだった。
私はホログラフと背中の方向を何度か交互に見た、目を閉じられない事に狂いそうだった、やがてじっとホログラフを見つめながら次の時間を待つ事にした。
やがて、この体で眠り現実から少しだけでも逃げる事は出来るだろうかと思い始めた。
次に人が来たのは21時間後だった。
設定
・南海軍備株式会社
日本の企業、西海道以南の国外展開がメインの民間軍事会社(PMC)である。
小型武器や消耗兵器は自前で買い付けているが、 大型の兵器は日本防衛軍の装備を、借りている物が多い。 無論、経営陣は日本防衛軍のOBばかりである。
孤児や親に売られた子供を引き取ってDB手術と教育を施し兵隊にしている。 パイロット採用枠は下は0歳上は8歳までしか採用されない狭き門でもある。無論、彼らのプライドはとても高い。
・90式ドローン空母 日本で西暦2090年に導入されたドローン空母、搭乗者2名、専用ドローン32機搭載可。最高速度1500km/h。ジェットローター採用。綽名はハリセンボン。
・84式防衛ドローン。巡航兵器や弾道弾への迎撃に優れる上コストパフォーマンスも良い。弱点は対空砲や速射砲。綽名は毛針




