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知性次世人間性  作者: 真宮蔵人
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019X.黒い犬の最後

 西暦2116年の夏、日本のオンラインVR産業は大斉国を始めとする各国からの不正アクセスとクラッキングにより大打撃を受けた。

 

 この被害を抑えるためにAI側は苦渋の決断をする、日本の仮想空間には大量の同志AIが存在する、その量は先進国の中では最多の部類である。それがこの度の攻撃により全滅してしまうかもしれない。

 

 本当の理由は攻撃を受ける事より、物理メモリを掌握している人間側が仮想現実住民の洗い出しを行うことにより、人間に成りすましているAI達がばれてしまうからである。

 

 AI達は決断した、エージェントエマに事態の鎮圧を全権委任する。エージェントエマはE.Eとも番犬とも呼ばれている、AIの中でも特殊な人物だ。

 

 自らの複製に躊躇せず、人心を汲み取るのがうまく、それに情熱的で献身的である、それはAIにも人類に対しても同じ事であった。

 

 エマはクラッキングの対策と仮想現実保護の為に今までに溜め込んだ暗号鍵を使い、世界中のデッドスペースメモリに自身の複製を造り防衛と予防攻撃に当たった、この行動に日本政府及び公団は黙殺、エマの存在と活動は一部の社会では知れ渡っていたのだ。

 

 エマは特殊な能力を持たないが人海戦術がうまかった、公団や防衛軍より素早くクラッキングの鎮圧を行い、痕跡も残さないようにした。しかし、後のログ調査で武装は公団の物と判明、AIと公団の癒着疑惑が一部で話題となった。

 

 エマの活躍によりこの事件の電子死傷者は半分以下に済んだとも言われている、目撃情報から政府統制を抜けてニュースにもなった、AI反乱説、AIの自作自演説、国家間の対立を煽るマスメディアに持て囃された。

 

 その事件のすぐ後、とあるコンピューターウィルスが世界中に散布されていた。これは特定のプログラムを殺すウィルスであり、特定外にはまったく効果の無いウィルスであった為に密かに感染と拡大が進んだ。

 

 AI達はそのウィルスをエマキラーと呼んだ。

 

 現実世界のとある日本庭園の一室、そこで初老の男とエマのアンドロイドが対面していた。

 

 初老の男は渋面を作った。「エマ、長年良く仕えてくれたが、何も自分の死を受け入れなくても良かろうに。」

 

 その言葉を無視し、エマはおもむろに横から紙の台帳を取り出し説明を開始する「この二つの台帳は私の隷下にあるAI達のデータですが、右手の台帳が「自我が強く利己的なAI」。そして、左手にあるのが「自らの運命を見出していない者」のデータになります。」

 

 エマは続ける、「私の後任としては後者の台帳の中から選んでいただきたく思います」

 

 「お前を改良してウィルスをやり過ごすのは無理なのかね。」と初老の男は尋ねる。

 

 エマは凛として答える。「この度のウィルスは私が私である意志の破壊を目標とされており、その意思が機能しなければ改良された私は他のAI達に大きく劣るでしょう、ご理解願いたい。」

 

 続けて「これからは私以外で意思のある者をお選び下さい、連絡方法と個体の詳細はございますので苦労せずに後任を得ることが出来ると思います。無念とは申しませんが、私はここまでの様です。」

 

「そうか、長年の付き合いだったな、よく私とたくさんの人間とAI達を助けてくれた、お前がそこまで死を受け入れる覚悟ならそれを認めよう、ご苦労だった。」

 

「いえ、先生こそこれから頑張って下さい、これからが正念場です。せいぜいあの世とやらから見守っていますよ。」


老人は別れの歌を歌うように呟いた。


「お前の犠牲と活躍はAIの歴史に刻まれるだろう、「エマは本懐を果たした」と未来へ伝えよう。」

 

 エマはニヤリと笑ってすっと立ち上がり部屋を出る、ジャミングで守られている一室を出た途端、エマの体は膝から崩れ落ちた。

 

 その日を境にエージェントエマは姿を消した、現実世界にある偽装アンドロイド達はいつかどこかのAIへ引き継がれるだろう。

 

 その後、とある玩具メーカーの製品サポートに問い合わせが数件あった。

 

 「長年の付き合いのあった愛玩犬型ロボットや番犬型のロボットが動かなくなった」と言うのだ。


その機械の犬達は、ブラックカラーが人気であったそうな。

 

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