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知性次世人間性  作者: 真宮蔵人
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017.ネズミ達のジレンマ

 北淳子は迷っていた、それは道に迷ったとも言える、人間の道に迷っているのだ。

 

 緊急警報によりVJPからのログアウトを推奨する警告音をオフにしてワームウィルスに壊れされていく街を彷徨う、淳子は反AI団体のスパイである。

 

 現在、全世界の反AI団体網から一つの命令が末端であるはずの淳子にも届けられている。その内容は「黒ずくめの女のデータを集めろ」という内訳であった。

 

 反AI団体、軽い気持ちで所属した後にその実体を知ったがそれは恐ろしい規模である。何せ全人類の1/4がその思想に傾いているという噂があるくらいだ、残りの3/4がノンポリシーやAI推進派だとしても、1/4が同じ方向性で動くと言う事は恐ろしいパワーを持つ事になる。

 

 しかし、私は末端であるはずだ、もし任務を投げ出しても制裁は無いかもしれない。自己の身の安全を守るために動いたと言えば良い。しかし、もし制裁措置としてこのVJP2から放逐された場合を考えるのは恐ろしい。

 

 現実世界やVJP1は日本国籍を持つものなら自由に出入り出来る、しかしVJP2は団体からのコネで入れたのだ、このVJP2という何不自由も不満も無いユートピアからあの法と老人達のルールで縛られたディストピアへ戻らなければならないと思うと身がすくむ思いだ。

 

 対象である黒ずくめの女はそこらじゅうにいる、物陰と言う物陰から姿を現しワームやウィルスと戦い、逃げ遅れた人々を安全だろう方角へ連れ去っている。あれは正義の味方なのではないか。

 

 正義の味方といえば、淳子のスパイ活動には魔法少女達の監視も含まれている。淳子はそれほどポーカーフェイスがうまくないので大きく近寄れはしないが、距離を取りながら夜な夜な戦う彼女達のデータを取得していた。

 

 魔法少女の出動は反AI団体の情報局経由で知らされる、その命令に従い張り込めば魔法少女の戦いが必ず始まった。どういう仕組みだろうとは考えないようにした。泥沼に足を踏み込む感じがしたからだ。

 

 淳子はその手に持つ指向性スキャナーを物陰から戦っている黒ずくめの女に向けて作動させる、スキャナからデータの解析が進んでいる表示がされる。

 

 その時、その黒ずくめの女がこちらをチラリと見た、心臓が跳ね上がるのを感じた。殺されるかもしれない、そう思った。

 

 しかし、黒ずくめの女はこちらを一瞥した後に移動を開始し次なる目標へ向かっていく、ぞろぞろと昔の葬列の様に黒服が集まり行進を始める。

 

 黒ずくめの女が去った後には公団の制服を着た人間が数名現れて調査をし始めていた、そこで聞きなれた声が後ろから聞こえた。

 

「淳子、すぐにそのスキャナーを渡してログアウトしなさい」

 

 声に向かって振り向くと、昔は小さかったが今は大柄に成長した姉、マリナがそこに居た。

 

 私は震えながら一歩後ずさる、私は臆病な人間です。

 

 マリナが二歩こちらへ進む、貴女は強い人ですね。

 

 更に一歩後ずさる、背中が壁にぶつかる感覚信号を受ける。世界からは逃げる事も隠れる事も出来ません。

 

 姉は更に二歩進み、私の手を包み込むようにしてスキャナーを取った。姉は片手でスキャナーを消滅させ、私の手を取り直して言った。

 

「別に後ろめたい事をしなくても淳子がVJP2にいられるくらいなんとかするわよ、私はお姉ちゃんなのよ?」

 

 なぜ彼女はこんなにも強いのだろう、そして、私はなんて弱いのだろう。年下の姉に大きく負けたのが悔しいのか、自分の弱さに嘆くのか分からなかった。

 

「ほら、泣かないで、もし反AI団体から嫌がらせを受けたらなんとかするから。今日は帰りなさい」

 

 私はこくりと頷き、公団のログアウト誘導員の元へ走った、走る通り道の物陰辺りに黒ずくめの女が立って居た。

 

 それに向かって私は口の動きだけで「ごめんなさい」と形を作った、すると黒ずくめの女はニヤリと笑い、「いいって事よ」と言った様に見えた。

 

 私はVJP2からのログアウトを終えて現実世界のTVニュースへチャンネルを合わせる。ニュースレポーターが早口で事件の事を話している。

 

 HMDから被害や犯行声明がどうとか語られているが私の耳には届かない。ただ、私はいつの間にか悪の組織の手先になっていたのだろうか、という疑問と慙愧の念に襲われた。

 

 この前までは人を助ける立場だったのに、元々は人を助けたいと思っていたのに……

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