014.草原の国
簾さんと西方王国首都ローラントから東へ抜け、トゥースー川を渡る。
この川には橋が架かっているが、橋には西方王国の駐屯地と要塞がある。間違いなく不審者&お尋ね者なので、簾さんが持つ飛行魔法というレアに頼り、人気の無い場所で渡河をする事にした。
川の中には肉食性の魚が大量に居るので船も危ない、いくらステータスが高くても肉食魚による地形ダメージは怖い。いけるかな、いや、死ぬかな、いけ、いや死ぬなあ。
ちなみに今までの私はこの橋を渡る時に守衛と要塞を強行突破していたが、非暴力主義の簾さんに付き合う形で出来るだけ流血は避けている。
川を渡るとウォーデルタ地帯である、デルタ地帯の中心には皇帝城があり、デルタで一番の功績を挙げた者がその玉座に座ることが出来る。その他にも城や要塞や村が点在していて、その地の所有権を巡り3国が争っている形になる。
現在の皇帝城玉座には三国以外の勢力が座っている、実は私です。その事をプレイヤーが加勢していない三国には分からず、玉座は空席だと思われているらしい。それに皇帝城の防衛ギミックはNPC達が突破できる程の難易度ではないので仕方ない。
今回は非戦闘プレイがメインらしいが私の私用も終わったので、簾さんの観光に残りの時間を付き合う事にした。
人気の無いルートを飛行する、時より近隣の村へ近寄る。そこでは実に中世的な田園生活がシミュレートされている。現実もこんな時代があったんかね、と思いをはせる。
その後に今は私の城となっている皇帝城へ入る。出迎えのゴーレムやNPC達が歓待してくれる、ゲーム内時間で数百年も守っているNPC達だ、労いの言葉は必要だろうか。
フラフラと城内を色々見回っていた簾さんが「もう少し人が多いところへ行きたい」とおっしゃるので「OK」と答え、城を出て更に東へ向かう事にした。西方のローラントではお尋ね者になっているだろうし、南の国である森林同盟は人口が少ない(人外種は多い)ので面白味が無い。
東の国境であるヌッティー川だったかを今回はちゃんと橋を使って渡る。重装備な二人の門番が「通行料」と言ってきたので拳で対応、門番が一人大きく吹っ飛んだ、それを見た門番のもう一人が苦笑し「どうぞ」と言って通してくれた。
簾さんが「暴力反対」とむくれるが「この国はあれが挨拶だよ」と返しておく。
東方の草原帝国、ここは強い者が正義と言う分かりやすく、簾さんへ刺激になるであろう地だ。
ローラント王国と草原帝国は表向きに紛争中ではあるが国交もある、その経由で手配書が配られていたらしく、草原帝国の首都デイハンに着くと獣人の重装歩兵達に囲まれた。
デイハンは遊牧民と獣人の都市であり、建物はローラントほど立派ではない。だが、扱われている武装はローラントより良いとされている。
兵士達の中から小柄な猫とうさぎと人間を足して割ったような獣人が二人出て来た、かたや白い毛並み、かたや黒い毛並みの獣人だが双子のように似ている。
黒い方の獣人は言う「私はパノン、そしてこちらがパルシャンです。帝王より神の鞭様をお迎えする様に言われました」
「私達は貴方達の手伝いをする気はないよ、観光が目的だから」と面倒なのでとりあえず突き放す。
パノンが下手に答える「歓待する様にと言われておりますので無茶は言われないと思います。なんとかお越し願えませんか?」
私は簾さんに顔を向けて「どう?」と合図をすると頷いて返した、お邪魔するらしい。
「歓迎に感謝します、服装はもっと良いドレスの方が良いかしら?」
「いえ、そのお召し物でも我が国では高貴な方と分かります、本気で着飾るのは婚礼くらいですよ我が国は」
丁度迎えに来ただろう4頭立ての馬車にパノンとパルシャンが乗り込み「どうぞこちらへ」と肉球の手を差し出す。
私達はそのぷにぷにとした手を取り馬車へ乗り込む、馬車の中はなかなか良い仕立てで揺れも少ないが、「すみません、西方ほど良い馬車は作っていないので少し揺れます」と申し訳なさそうにパノンが言った。
馬車の道中で「所で、パノンさんとパルシャンさんは帝国ではどういう立場なのかしら?」と質問してみた所、パノンが「私達は宮廷魔術師です、信仰魔法とナチュラリストを習得しています。ですが、武を重んじる我が国では魔術師は道化みたいなものです」と答えた。
そこで信仰魔法について尋ねる「貴方達の信仰されている神は国家機密に当たる?」
それもパノンがまめに答えてくれる「私は時空神でパルシャンが狩人の神を信仰しています。役割としては、私が雑多な調査官でパルシャンが偵察隊です。信仰魔法は楽な部類な魔法ですが、この国ではあまり取る人はいません」
簾さんとパルシャンが無口である為に、私とパノンで雑談が進んだ、草原帝国はあまり来たことが無かったので色々新しい事が聞けた。
例えば、三国で戦争はしているも、金は帝国で、銀は同盟で、銅は王国で多く取れるために貿易は打ち切れないとか、西方が強いのは肥沃な大地と後方の魔族と手を結んでいるからとか、森林同盟は防衛と一撃離脱に優れているので国力のわりに強い等である。
私はこのゲームで初心者案内も設定もあまり調べた事が無いので今更ではあるが情報を得ることが出来た。
そう考えていると天の声が来た(設定資料集いるけ?)と五ヶ所さんの声が頭に響いてきた。(要らないわ)(そう……)ちょっと残念そうだった。
パノンと短くない雑談をしていると馬車は王宮に辿りついたらしい、王宮は城というよりも大きなテントの延長と言った形であった。
テントの周りは兵舎であろうテントに囲まれている、王国とは違い帝王の周りには大量の兵士が常に居る様だ、馬車を降りるとわざわざ敷物を地面に広げられる、その上をパノンとパルシャンが先導する様に進む。
大きなテントへ入ると奥で玉座に座る大柄な獣人とその手前に6人の騎士らしき人物が直立している、つい癖で体力ゲージを見てしまう。6人の騎士全員が星2のボスで帝王がレイドボスか、これは簾さんの援護が無いと逃げ切るのもつらい、というか帝王強すぎ。
レイドボスとはプレイヤー10人以上で戦うことが推奨される敵である、強さはピンキリであるが、間違いなくノーマルキャラクターの10倍以上は強い。私個人はというと、現在完璧ではないスキル配分に補正込みで精々ノーマルの8倍くらいの強さだ。騎士達と帝王が突然遅い掛かって来たら正直厳しい。
あれこれ対策と考えを巡らせてる間に王座の前へ付いたので一礼する「お招きに預かり光栄です、帝王様」典型的な回答は特に考えずに出せた。簾さんはぺこり挨拶する様にと頭を下げた。
「ようきたのう、神の鞭殿。200年前の万人刺しと先日の宝物庫焼き討ちの話は聞いておる、実に小気味の良い話だ」
「前者に比べて後者の話の規模が小さく恥ずかしい限りです」
「なんの、王国の宝物庫は世界一の鍵がかかっていたはずだ、それを崩すのは万を殺すと同じくらい苦労したろう」
「実は万の兵士を倒すより苦労しました、蹴散らす事にはたいして頭を使いませんもの」
帝王は豪快に笑い「確かにな、わしもデルタ地帯に出向ければ万の兵士を蹴散らそうと思うのだが、後顧の憂いが断ち切れてなくてな、草原を一まとめにする方がデルタ地帯制圧より苦難なのだ」
「帝王ほどのお方も苦労するのですね、三国のバランスが取れている理由がやっと分かりました」
「はは、わし自身の武勇が三国一であろうと、一人で国は立たぬからな。そらパノン、歓迎の席は整ったか?」
「はい帝王、隣の部屋に酒宴の準備を整えてございます。お二方、こちらへどうぞ」
パノンとパルシャンの案内で酒席に着く、様々な料理や飲み物が並んでいる、ふと気になって神へ質問する(五ヶ所さんや、これはDBで楽しめる奴かね、それともフレーバー要素かね)(A.フレーバーだから食べるコマンドだけだね)(そりゃ残念)(DB嗜好品は地位を確立しているからゲームのオマケでは付かないよ)(このゲーム内で食事取ったこと無かったからね)(ゲーム内生産アイテムの料理を教えてなかったからなあ)(確かに生産系はノータッチだったね)
簾さんが料理をつまみ食いしている。「味がしない……」確かに神の言葉通りだったらしい。
味の無い料理と酔わない酒の時間ほど苦しいものは無かった、そこでパノンを呼んで旅の疲労を理由に退席させて貰う事にした。
「神の鞭と呼ばれていても疲れるかわいさがあって安心したわ」と帝王は笑って退席を許してくれた。
客間に着くと丁度神の声が二人に響いた(赤松さんと簾さん、時間大丈夫?)と、感覚ツールで現実の時計を呼び出すと丸一日以上が過ぎていた。
(いくらポット組でも脳疲労は蓄積するからログアウトして休んでね)確かにこのタイミングで魔法少女の手伝いをしろと言われたらまずい疲れが溜まっている。
部屋に案内してくれた後に出て行こうとするパノンを呼び止めて伝える、「待ってパノン、帝王には申し訳ないのだけど。私達は帰らないといけなくなったの」パノンは驚いて尋ねる「帰るって、神の国かまた長い眠りに付かれるのですか?」
「さすがにこの世の者では無い事は知っていたのね?」その質問にパノンは笑いながら答える。
「当たり前じゃないですか、神の鞭様の様な存在は一定期間でパッタリと情報が消えるのですから、神の国へ帰られるという考えが俗説ですよ。それに、長生きしすぎで固体としては強すぎます、誰だって気づきますよ」
「強いといっても、たぶん一対一なら帝王様の方が強いよ」
「あの方は歴史的に珍しい人物です。しかし、寿命もおありでしょうから我々の世代で神の鞭様と再会出来ないと思うと悲しく思います」
「ちょっと神に頼んで次も会える様にして貰うわ、私達は創造主の友人なのよ、それまで元気でね」
「やはり神性な方は出来る事が違いますね、今回は残念ですがお別れを帝王に伝えておきます」
「では色々とありがとう、パノン、パルシャン」「ばいばい」白い光に包まれた後、私達は天界こと雲の上にいる五ヶ所さんの元へ帰った。
二人が戻るのを確認した五ヶ所さんが宣言する「じゃあ、この世界のクロック速度は今回下げておくね」とこの神はプレイヤーのアフターザービスも抜かりない。
ここにきて私は簾さんに始めから抱いていた疑問を投げかける、「所で簾さんが珍しくここに来た理由はなんだった?」と。
「たまには息抜きみたいな事をしないと人間でも人間らしくないってマリナさんと五ヶ所さんが言ってたから……」
確かに簾さんはストイックすぎるからなあ、まぁAIでも人間でももう私にはどっちでもいいんだけどね。




