013.火遊び
今日は学校が休みである、そんな日であったので私達は盗賊に囲まれていた。
休日はいつもは一穂と観光や買い物やゲームをして過ごすのだが、今日のお供は簾林檎ちゃんである。
今この二人がいる世界には魔法がちゃんとあり、モンスターと呼ばれる種族が日夜人間と戦うファンタジー物であった、マギライゼイション15というゲームらしい。
現在オンライン版がサービスしていて公式プレイができるオンラインゲームなのだが、
元々AI箱庭ゲームとして有名だっただけにユーザーを限定した個人サーバでもプレイが出来る、ここはその五ヶ所さんの個人サーバであった。
せっかくのファンタジー設定なのでプレイするに当たっては「人間プレイ禁止」縛りを設ける事にしている、人間社会はリアルで十分だよ。
簾さんと一緒にこのゲームをするのは初めてだった、簾さんは初プレイらしかったので、私の趣味に付き合わせるのもどうかとは思った。
簾さんは人間半分くらいの背丈で背中に魔法少女時の一穂みたいな羽を生やしたシルフェという種族を選択したらしい。
私は上半身が人間らしくても下半身が植物でうねうねしている種族のマンイーターを選択、アルラウネという種族の上位種らしい。
人類種に見られれば一発でバレる落ち着きの無い無い下半身も今は上等なクリノリンスカートで覆い隠されている。
スタート地点は西方人間国の最南端、南東の森林同盟を川で挟んだ森の中からである、モンスタープレイなので開始地点は辺境森や洞窟から始まる。
二人はとりあえず北へ進む、他の攻撃的なモンスターとも合わず(モンスタープレイなので襲われにくい)その内に森が終わり開けた平地へ出た。
遠めに見ると二人は森の中から出てきた貴婦人と少女といった風に見えたのだろう、
唐突に狩人と原住民と盗賊を兼ねるだろう身なりの悪い集団に囲まれた、森を糧にしている蛮族か野人の類だろう。
「おうおう、姉ちゃん達、命が惜しければ抵抗すんなよ」と言い、弓をつがえながらにじり寄ってくる。
ここで抵抗せずに捕まると不愉快な事になる、マギライゼイションは現在16タイトル出ているが15が未だにサービスしているのには理由がある、このゲームには年齢制限があるのだ。
虜囚の辱めシステムと言った特殊なプレイを出来る業界でも稀有な作品である、捕まるのが嫌なら戦って死に、特定位置で復活する事も出来る、今の二人なら捕まると人間達の見世物小屋送りかしらね。
私は束縛されるのが大嫌いな為に躊躇無く戦う姿勢を取った。
このゲームのAIは結構賢い上にゲームがスキルシーソー制を採用しているので格下に大逆転されたり相性次第で完封されたりする事もある。相手の数は5人、ステータスは高く無いだろうが手を抜かずに戦おう。
敵が最初に近接武器ではなく弓で脅しかけてきた所はAIがよく出来ている証拠だ、弓は低熟練でも射程と威力がある。
スキルシーソー制とは、限られたスキル上限値の内で多種多様なスキル値を上げつつ調整し強さのバランスを取るシステムである。
具体的に言うとトータルで保有可能なスキル上限値が基本(無課金)700であり、そして一つのスキルラインは最大値が100である。
つまり、熟練100のスキルラインを7つ保有するとスキルはもう頭打ちで他のスキルは上がらなくなるのである。
他に欲しいスキルがあったら、今まで上げたスキルを下げてその数値枠でスキルを上げないといけない。
スキルの他にある数値で、HP(体力)やEP(エーテル値)とSP(スタミナ値)は熟練制であるためにスキルシーソーへは含まれない。この3つは被ダメージ受けたりEPやSPの消費をこなす事によって最大値を増やしていく。
現在の我々は開始時点で最大枠内スキルも3つのステータスも上限に設定している、つまり、ノーマルキャラでの格上は存在しない。
あえてあるとしたら敵のボス属性だが、こちらには「神性」や「皇帝」等の一般プレイでは付かない補正が特別に付いているのでとても強い。我々はモンスターなのだからボス属性だと思うのだが、五ヶ所さんが薦めて来たので神性と皇帝を採用した。
ここまで説明すれば分かるだろう、「さあ皆殺しだ!」と私が呟いた時に簾さんが私のドレスのすそを引いて囁いてきた。
「暴力はいけない」え? そういう縛り? むむむ、ならば仕方ない、君が現代ゲームの本質を理解するまで付き合おうじゃないか。
私は溜め息をついた。そして、その動作だけで粗野な男達は倒れ目前の事態は終わりを告げた。簾さんが「暴力?」と訪ねてくる。
「いいえ、これは麻痺の吐息。傷は付けていない、それに麻痺はあまり長く続かないから早く立ち去りましょう」
私は簾さんの手を引いて北へ向かった。暴力が駄目なら人間社会に潜むくらいしか平和な過ごし方は無い。それでもこの世界は暴力とは無縁ではない、なぜなら現代の現実やVJPの生活にはあまりにも暴力が無い為にその反動が娯楽へ出ているのだから。家庭内暴力はまだあるらしいけどね。
確かに今まで私はこのゲームプレイで暴虐の限りを尽くしたけど、こういう縛りは考えてなかった。
西方人間国首都のローラントへ私達は向かった。今回のプレイには少し目的があり、ローラントにはその目的がある、具体的に言うと王城の宝物庫にだが。
道中、山賊の様な人間に襲われても同じ方法で解決した。途中で見つけたキャラバンの馬車に乗せて貰う、旅は順調に進んだ。
ローラントは西方王国中央から南東よりにあり、他の2国へ一番近い首都と言われている。東には3国間で奪い合いを続けているウォーデルタ地帯がトゥースー川越しに広がる、更にローラントはNPC密集率がゲーム一高い土地でもある。
人の出入りが多い為に道中で変装する事を覚えた二人を見咎める守衛はいなかった。
街の人並みは騒がしい。私は前回来たときに泊まった宿が残っていたのでそこに部屋を取り、自分の目標を簾さんへ告げる。
「この国の宝物庫に私のスキル反応があるの、それを消しに行きたい」
事の発端は何回か前のログインの時に起こった人間達と私の戦いであった。私は辻斬りをしていたら段々と人間達が増えてきたので自身の能力の全てを用いてそれも惨殺し尽くした、その時に使用したスキルが恐らく敵に奪われたのだと思う。
「あれは火に弱いだろうからいざとなったら宝物庫に火を放つくらいはしたいの。暇なら付き合う?」
簾さんはこくりと頷いた。行動の開始まで私達はNPC達の営みを見てして過ごした。
その日の夜、隠密行動はあまり得意ではない二人であったが簾さんの飛行魔法で城内へ侵入し宝物庫に繋がる壁を3枚、私の魔法で侵食し穴を開けながら進む、守衛は生命探知の魔法で位置がわかるので危ないときは地や壁に潜りやり過ごす。
宝物庫は頑丈な扉と魔法鍵によって守られているが、今回は解錠可能なスキル構成できたので開ける事が出来る、その分戦闘力が落ちているが、逃げる分には十分な性能だ。
宝物庫が開くとアラームが鳴る、このアラーム機能は正式な手続きで入室しても鳴る仕掛けなので無視して対象の発見を急ぐ事にする。
ざっと見回すと、武器の区分と思われる場所に探し物はあった、一本の槍に見えるそれは、この国では「ペネトルート」と呼ばれているらしい。
五ヶ所さんの観察によるとペネトルートとは人間と私の戦いの時に私が防御無視の広範囲貫通スキルである「串刺拷殺」を発動した時、世界で一番硬いと言われるエルチウムの鎧に身を固めた戦士をも貫いた、その後落ち武者狩りがその戦士の鎧よりも串刺しにした木の根に着目し、火を使い根元から削り取り槍に加工したのが生まれらしい。
つまりペネトルートは私の足の一本なのだ、スキル発動から根の消滅までは相手の死亡判定まで続くので、この戦士以外の根は回収出来ていないはずだ。貫かれた戦士はNPCにしては強かったと記憶している。
落ち武者狩りによる根の取り出し作業も時間ギリギリであったろう。
それを見つけるとその周辺へ魔法で出現させた油をまき散らかし火を放つ、ペネトルートは私と同じで火に弱い、じきに崩れ去るだろう。
持ち帰って処分しても良いのだが、この後でNPC側に負ける可能性を考慮してさっさと焼いておく選択肢を選んだ。
宝物庫へ足音が殺到してくる、私は簾さんを連れて宝物庫を出る前に召喚魔法を唱えゴーレムを大量に呼び出す、媒体は宝物庫の金や宝石、魔法の装備なのでなかなか良いゴーレムが数多く造れた。
扉を抜けると同時にゴーレム達を人間の兵士達へぶつける、高級ゴーレム突進の前には並みの守衛役兵士では相手にならない。その間に侵入した時の通路を使い外へ抜ける。
外には満月とそれを背にした竜が飛んでいた、その竜の首元に人間が跨っている、竜騎兵か。
竜騎兵は叫ぶ「待てい、そこの賊は宝物を盗まず火を放った理由を死ぬ前に答えよ」
しょうがないので付き合ってやる。「盗られた物を処分しただけ、悪意はあんまりないわ」
ぬううと竜騎兵は唸り「あの宝物庫の中にはペネトルートがあった、我はそれを欲して武勇を鍛えた、それを灰燼に帰するとは許せぬ」と言った。
すかさず竜騎兵は突撃の構えを取った。
「ペネトルートとやらは私の物だったから、念入りに燃やしたよ。あれは人間が持って良い力ではない」
「私の物!? とすると貴様は200年前に万人刺しを行った悪魔「神の鞭」であるか! 相手にとって不足は無い!」
そう言うや否や竜騎兵の突撃は素早かった、単純に飛竜の突進速度に繰り出す槍の速度が乗っているので回避は難しい、身代わりか、盾や武器で受け流すか、槍は刺突属性なので魔法では防ぎにくく、攻撃を逸らす魔法はこの突進力の前には有効ではない。
私はその目にも留まらぬ速さの槍撃を素直に受け止めた、私の体力ゲージが1割削れる、順当かな。
体力ゲージは敵対する相手にも見える、これは古いゲームの習慣である。ダメージでキャラクターの動きが鈍ったり苦痛に顔を歪めたりして被害を強調する作品は過去にいくつもあったが、どれも不評だったらしいのでゲームのHPゲージ制は100年以上も続いている。
プレイヤーキャラに痛みがフィードバックされるゲームが全然流行らなかったのが大きな理由だろう。
竜騎兵は激しく困惑している「なぜ防衛職でもないお前がこの運針の一撃で倒れぬのだ!?」と。
「んー、相性?」
答えは、私の持っている「神性」被ダメージ全てを半減及び即死無効、「皇帝」最大HPと自然回復速度を4倍にする、「アルラウネ」刺突と大地属性耐性、火と氷に弱いを持っているからである。
「神性」は一部の神NPCとゲームマスターが持ち、「皇帝」はウォーデルタ地帯でウォーポイントを一定期間の間にトップ数値を稼ぐと取得できる、公式サーバではまず取れない能力だ。
アルラウネの耐性は種族スキルを上げれば取得される。弱点は初期状態からあるので種族スキル上げは必須だろう。
刺突耐性のみだと体力の6割以上は持って行かれただろう所に反則的な補正が2つ加わっているので1割程度のダメージに収まる。
「回復するまでも無いダメージね、ではこちらも反撃させて貰うよ。罠、大地、合成術「スパイクボール」」
私がそう唱えると地面からトゲだらけの土球が竜騎兵の乗っている竜へ集中的に向かう。狙いは乗り物、逃げ切るにはあれを先に潰さなければいけない。
竜は激しいダメージを受けよろめくがまだ倒れてはいない、竜とに星2つ騎乗者に星3つのボス属性が付いている為に体力が多いのだ。
騎乗者は叫ぶ「なんのこれしき、このヴァーハートをなめるな。もう一度我が槍を食らえ!」
ヴァーハートと名乗った男はもう一度、騎竜突撃を繰り出す。私の体力が更に1割削れる。
私は勝負を切り上げる為に動く 「バニラだったら私も負けていたかもしれないわね、せめて貴方が後4人いればいい勝負だったでしょうに」
私は人差し指を竜の方へ向けて唱える、これも公式にはないMODスキルである「科学、レールライフル。ばーん」
私の指先から火線が光り、竜騎兵の騎乗している竜の右羽が爆ぜた、これで竜は飛べない。しかし、「まだまだぁ!」とヴァーハートもそれに怯まず最後になる一撃を私に向かい走り、繰り出す。
私の体力が更に削られ残り7割になるが、そこへ私は絶望を与える。「ほい、アルラウネスキル自己再生」私の体力が全回復した。
私の体力ゲージが満タンになるのを見たヴァーハートは地面に膝を付き「そんなのありかよ」と呟いた。
「ごめんね、次の機会は火と斬撃メインで攻めてどうぞ。では、ごきげんよう」
私は横でぼーっと戦いを見守っていた簾さんの手を引いて飛行魔法を使ってもらい城を抜ける。
ヴァーハート君には神性と皇帝無しだったらソロで初見負けしただろうな。と思いながら私達はローラントの町並みを見下ろしつつ東へ抜けて進んだ。
追撃の竜騎兵や魔術兵は一人も来なかった。
設定
・マギライゼイションシリーズ
本作品は2026年よりVRMMORPGとして一作目が始まり、MMO、MO、シミュレーション等の紆余曲折を経て2116年までには16タイトルが発売されている。
本ゲームは最先端な技術を人気不人気を問わず取り入れたためにあまり売れなかったタイトルも多くある。このブランドを取り扱い吸収合併された会社や開発チームは数知れない。
対応HMDで匂いを出すシステムやプレイヤーの表情をライブカメラで読み込みキャラクターに反映するシステムや、視界がリアルに暗転やぼやけるといった生々しいゲームをコンセプトともされている。
本作品の12タイトル以後はNPCのAIもよく出来ており、彼らは生産活動だけではなく、歴史を刻むという事も出来るAIを搭載した。友好関係もへたな愛玩ロボットより築けて、個体識別も可能、社会性も持つといった要素をこれでもかと入れたら容量が大きくなりすぎてスタンドアローン版も動かせる環境が大きく限られてしまっていたという顛末がある。
なお現在もサービスされている15作目はR18指定で、16作目は全年齢対象である。




