第九話 疑念の連鎖
現在の戦況
[多田軍]
[多田義房本隊]
[多田頼方隊]
[多田氏元・多田吉峰隊]
[石田室信隊][寺田真善隊]
vs vs
[牧田利重隊]vs【由利根頼信本隊】 vs[茂山千作隊]
↑ ↑
【由利根頼久隊】
[牧田利成隊] [岩崎寺左衛門・岩崎忠常隊]
vs vs 【田沢義平・田沢義春隊】 【土井義介隊】
↑ ↑ ↑
【久保正繁・門田義満・吉田重治隊】
【由利根軍】
合戦開始から1時間過ぎて古沼原の戦いも中盤戦に入った。
〈中央左〉では 多田軍の牧田利重隊所属の 牧田利成隊 が前進してきた 由利根軍の 田沢義平・田沢義春隊と交戦している。
田沢義平「押し潰せェェ!殿のところまで突き進めい!!」
田沢義春「意地をみせろ者共ォォォ!」
由利根兵「オオォォォォォォ!」バチャバチャッッ!
多田兵「グヒャァ!!」「のおっふ!」ドシャリ!
牧田利成「引くな!引くでないぞ!耐えれば兄の部隊が敵大将の首をとる!それまでの辛抱じゃ!!」
多田兵「オオオオオオオオオォォォウ!」
〈中央右〉では 多田軍茂山千作隊所属の 岩崎忠常・岩崎寺左衛門隊 が 由利根軍 土井義介隊と激突。
(岩崎忠常は久保正繁が初陣で討った岩崎軍左衛門の兄 岩崎寺左衛門は弟である。)
岩崎忠常「押せい!押せぇぇい!」
岩崎寺左衛門「憎き兄の敵の由利根軍を生きて帰すでないぞぉ!」
多田兵「ウワァァァァァァァァア!!」
由利根兵「ウヒィィィ!」「エアァァァ!」ドサッドサッ!
土井義介「おのれい!一族の怨念に憑かれた亡者共め! 引くな者共!!」
〈中央〉では 由利根軍総大将の由利根頼信隊が 左から多田軍の 牧田利重隊 右から 茂山千作隊 前から 石田室信隊、寺田真善隊に囲まれている。それを 久保正繁・門田義満・吉田重治隊が救援に向かい。左から伏兵の由利根頼久隊が 牧田利重隊めがけて出撃した。
由利根頼信「持ちこたえろ!もう少しだ!!」
牧田利重「ふん!援軍がきても無駄だ!この包囲は解けんよ!
ハッハッハハ!」
茂山千作「……何か…臭う…。」
石田室信「どけどけどけぇ! 総大将の首印はオレが貰う!」
寺田真善「いや!俺だ!邪魔するでない!どけい!!!」
由利根兵「グワァ!」「ヌヒャァ!」
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久保正繁「まだ突っ込むな。まだだ、」
門田義満「だが!頼信様がすぐにでも討たれますぞ!このままでは!」
吉田重治「そうじゃ!はやく我らだけでも!」
久保正繁「落ち着け!もう始まる。」
そのとき合戦場に一つの轟音が轟いた。
由利根頼久「今こそ好機!! 牧田隊の脇を破れェェい!!」
由利根兵「ウオオオオオオオオオオオ!!」
ガザガザッッガザガザッッ!
芦の茂みから由利根頼久隊が出てきて牧田利重隊に奇襲をかけたのである。
牧田利重「ん?なんだ?」
多田兵「で、伝令!右手より敵の奇襲!!」
牧田利重「な、なんだと!?包囲を破られるわけにはいかん!防備の兵を回せ!!」
多田兵「ま、間に合いませぬ!敵は目前に!!」
牧田利重「ぐぬぬ、」
由利根頼久「まず狙うは牧田利重の首印ぞ!かかれぇい!!」
由利根兵「ワァァァァァァ!!」
多田兵「グヒャァ!!」「グボエェッ!」
牧田利重「おのれい!!」
由利根頼久「あれは牧田利重の旗印!あそこが陣ぞ! 矢玉撃ちこめい!!」
バババババンッッ!
多田兵「敵の矢玉ァァァ!」「逃げろォォォ!」
牧田利重「引くな!引くでない!者共!」
ズドォォン!!
牧田利重「…ぐ、グボッ…」 鉄砲が牧田利重の腹を撃ち抜いた
多田兵「牧田殿ォォ!」
牧田利重「こ、ここでやられてたまるものか…」
由利根兵「あれが牧田利重だ!討ち取れ!」
多田兵「牧田殿に近寄らせるな!」
牧田利重「なんだ…さっきまで感じなかった… 由利根の唸りは… これは脅威とならん、殿に知らせなけれ…」
由利根兵「牧田利重!覚悟ォォォ」
ザスッ!ザスッ!
牧田利重「グ、グハッ!し、知らせなければ、と、殿に…」
由利根兵「牧田利重討ち取ったりぃぃぃ!!」
戦場に咆哮がこだました。
由利根兵「伝令!奇襲に成功し、牧田利重を討ち取ったとのこと!」
久保正繁「よし、上手くいった。決めるぞ!」
門田義満「おう!」
吉田重治「やるか!」
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多田兵「伝令!敵の奇襲により牧田利重殿討ち死に!牧田利重隊壊滅!!」
石川郡楼「な、なんだと!?」
(総大将は囮だったのか!まさかそんな危険な手を…くそ!読み負けだ!)
「敵を止める我らもでるぞ!」
多田兵「伝令!敵中央が石田室信、寺田真善隊に突入!!」
石川郡楼「な、なに!?」
〈前線左翼〉
牧田利成「く、ひ、引くな!」
多田兵「伝令!牧田利重様討ち死にの由!隊も壊滅!」
牧田利成「な、兄貴が!? 馬鹿な!」
田沢義春「敵は動揺している!潰せい!」
田沢義平「いまぞ好機!!横槍いれい!」
横槍で多田兵がにわかに崩れる。
多田兵「牧田殿!お引きを!」
牧田利成「引かぬ!兄の無念を敵に刻んでくれる!」
由利根兵「兜首!敵将と見受ける!覚悟!」
牧田利成「片腹痛い!牧田兄弟ここでは果てぬ!!」「フンンッッ!」
ブルン!ブルン!
由利根兵「グヒャッ!」「ドバハァッ!」
由利根兵「怯むな!突けい!」ドスドスッ!!
牧田利成「グ、、ガハァッ!あ、兄貴…」ドシャッ!!
由利根兵「敵将討ち取ったぁぁぁ!」
由利根兵「ウオオオオオオオオオオオ!!」
〈前線中央〉
多田兵「牧田利重様並びに牧田利成様討ち死に!右翼壊滅とのこと!包囲が解けもうした!」
石田室信「何をしておるのだ情けなし!」
寺田真善「もうよい!我らだけで大将首獲って終わらしてくれよう! どけい雑魚共!!」
由利根兵「ウワァ!」「グヒャァ!!」
久保正繁「石田室信と寺田真善 血気にはやってはおるが本心ではない。一人味方の将が討たれれば疑問が生じる。二人討たれれば動揺となり、それは戦場中に広がる。三人、四人討たれれば…?どうなるか。」
〈前線右翼〉
多田兵「左翼が壊滅したらしい!」「中央も押されてるって!」
「負け戦なのか!」
岩崎忠常「お、落ち着くのだ者共!」
岩崎寺左衛門「左翼が壊滅は本当なのか!?」
岩崎忠常「おそらく…な。だがくそ!敵がその情報を広めてやがる!」
土井義介「ふん これで浮足立つとは…所詮は数だけよのう!敵将を狙え!」
由利根兵「オオオオオオォォォ!」
土井義介「兄弟の敵などと下らんことを戦場に持ち込むなど言語道断! 討ち取れい!」
岩崎忠常「の、ゴフッ!」
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石川郡楼「軍全体に動揺が広がっている…このままでは…」
多田兵「ご注進!岩崎忠常様!岩崎寺左衛門様討ち死に!」
石川郡楼「一番恐れていたことだ…左右の壊滅…」
「殿に…撤退の由を伝える。用意を…」
多田兵「……ハッ」
〈多田軍本陣〉
石川郡楼「殿…お退き下さい。」
多田頼方「…負け…か」
石川郡楼「はい、私めが策を見破れなかった故にございます。
殿軍を務めまする。お退きを…」
多田頼方「相わかった… 退き太鼓を!」
退き太鼓の音が戦場に広がる。由利根の勝利が確定したのだ。
戦場にはざわめきが聞こえる。
〈前線中央〉
石田室信「退き太鼓!? まさか!」
寺田真善「何故じゃ!我らはまだ戦える!」
茂山千作「退くぞ…おそらく左右の隊がやられたな…我ら以外…」
多田義房「まさか退き太鼓…なんという…」
多田吉峰「太鼓が聞こえぬか!早急に撤退する!」
多田軍の撤退が始まった。しかしそれを良しとしない者が二人いた。
それは 石田室信 と 寺田真善 だった。
追撃戦をする由利根家にこの二人が立ち塞がる。