第五話 渦の中で
勝鬨をあげてから六時間後の昼、久保正繁と門田義満は無事に由利根家の本拠地の天舞城に帰還し、由利根頼信へ合戦結果の報告を行なっていた。
久保正繁「と、いう合戦結果でした。殿」
由利根頼信「まさか本当に岩又砦を落として来るとは!あっぱれじゃ!さらに岩崎軍座右衛門を討ち取るとは真の武士ぞ!」
大層機嫌が良い由利根頼信 無理もない岩又砦が無くなったことにより国境での多田家の圧力が弱まり、内政に集中できるようになるからだ。
久保正繁「有り難き幸せ!」
由利根頼信「門田!重臣として久保正繁を迎える!異論は無いな!」
門田義満「…ええ 初陣であれだけの采配を見せられたら何も異論もありませぬ。」
こうして久保正繁は重臣の一員として由利根家に正式に仕えることとなった。
しかしその背景で新たな渦が巻き起こっていた。
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多田家の本拠地 女潟城 にて ある評定が開かれていた。
多田家家臣が全員集まっている。そしてある男が口を開く。
それは 多田義房 だった
多田義房は 多田家の十二代目当主であり、由利根家の最大のライバル
さらに場には
多田家一門の 多田氏元 多田吉峰 多田頼方 や
譜代家臣の 石川郡楼 牧田利重 牧田利成 茂山千作
さらに知勇に優れた三人衆の岩崎軍座右衛門を除いたあとの二人
石田室信 寺田真善
岩崎軍座右衛門の弟の 岩崎寺左衛門
同じく兄の 岩崎忠常
などが出席しており。まさに多田家総動員の評定であった。
多田義房「皆も知ってると思うが昨日の夜中、岩又砦が襲撃された。そして砦が焼失し守将の岩崎軍座右衛門も討たれた。」
「まさか岩崎軍座右衛門が討たれるとはワシも思っていなかった。不覚だった。しかし一つ興味深い情報を得た。」
一同「興味深い情報……?」
多田義房「ああ、それは岩又砦を攻めた大将の名前が久保正繁という者だという情報だ。」
家臣達「久保正繁??」 「聞いたことないな」
「久保ってまさか…」
多田義房「そう、気づいた奴もおるかもしれんが久保正繁は我らの軍を撃退し続けてる男 久保定頼の子供じゃ。」
家臣達「ほう…息子?」「なぜ息子が戦いに…?」「まさか!」
多田義房「考えられる可能性は一つじゃ 例の久保定頼暗殺計画が成功したということだ!」
家臣達「!!!」
「しかし送ったものからの連絡がないのでは!?」
多田義房「ああ、確かに連絡してくるはずだ。 生きていればな。」
石川郡楼「なるほど…捕まった可能性ですかな」
多田義房「そうじゃ」
石川郡楼「久保定頼を失ってしまったがそれをワシらに知られるのはまずいということで始末したか監禁していて、そして措置として息子の久保正繁を早急に当主に据え、昨日に初陣を終えた…と?」
多田義房「そういうことだ。」
石川郡楼「久保定頼が死んだかどうかは定かではないですが…家督を相続したのは事実でしょうな。そして出陣できない状況にあるというのも。」
家臣達「さすれば!」「由利根家を攻めるのは!」
多田義房「そう、今しかない。」
家臣達「では!出陣をすぐにでも!!」
多田義房「ああ!全軍招集せよ!由利根家に今こそ引導を渡す!!」
家臣達「オォォォォォォォオォォォォォォォ!!!」
多田家対由利根家 過去最大の激戦が繰り広げられようとしていた。