あとがき
最後の最後まで、この長い長い、途轍もなく長い物語をお読みくださり、本当にありがとうございます。
そしてもし、このあとがきから読み始めた方がいらっしゃったなら、その方々もまた、ご興味を持ってくださりありがとうございます。
作者の、不某逸馬です。
ちなみに、このあとがきから読んだ方のためにもお伝えしますが、この場では重大なネタバレなどは致しません。なので安心してお読みください。
そもそも何故こんなあとがきを最後に付けたのかというと……それは、このお話の正体を知ってもらおうと私が考えたからです。
正体というか動機でしょうか。
作者のコメントなんて読みたくもない! 蛇足だ! とお考えの方もいらっしゃると思います。その事も重々承知の上で、この事を語らなければ、銀月の狼は終われないと考え、筆を取りました。
なので、もしこのあとがきそのものや作者の私のコメントなど不要とお考えの方は、どうぞ読み飛ばしてください。
これを読まなくても、お話は充分に楽しんでいただけた、またはいただけると思いますので。
まずこのお話ですが――
これは私が、自分の子供のために書きはじめた話です。
私には子供がいます。
丁度その子が幼稚園の年長さんの頃でした。
物語に興味を持ちはじめたので、何かお話を買おうかと想い、一緒に本屋さんに行ったのですが、どうもうちの子供の興味を惹く本が見つからない。
私が子供の頃にわくわくしたような、冒険のある、でも子供扱いしていないそんな物語が、その時訪れたいくつかの本屋さんにはなかったのです。じゃあ、自分の読んだ本を与えてはどうかとも思われるでしょう、実際にそれもしました。けれども時代性というか、やっぱり今の子は今の感性のある話にこそシンクロするのでしょう。古い物語が悪いなんて事は微塵もありませんが、今の感性で書かれた話で、うちの子がわくわくするような話が欲しかったのです。けれども、それが見当たらない。
しょんぼりして一緒に帰る子供を見て、
「じゃあ私が書いてあげよう」
と考えたのが、全てのはじまりです。
全てというか無謀のはじまりというか。
その時にはまさかこんな大長編になるとは思ってもいませんでしたし、そもそも完結出来るとも思っていませんでした。正直なところ。
ただ、長い話にはなるなと最初から想定していたので、この子が中学生ぐらいになる頃に、丁度背伸びをして読めるくらいの物語や文体にしようとは考えていました。
なので、当初から児童向けの話にしようとは考えていなかったというか……こんな固い文章やストーリーになったのは、そういった理由です。子供の未来の姿を想像してというか。
なので、この物語の想定読者は、私の子供です。
極論を言えば、自分の子供さえ読んでくれたらいいと、思っていました。
実際は、まだこの話の事は言ってませんが……。
というか、私が小説を書いている事自体、パートナーを含め家族には秘密にしています。
でも書いているうちにどんどん自分が楽しくなっていき、話も膨れ上がって興が乗っていったのも事実です。
この話はとても面白いんじゃないだろうか。
いや、きっと面白いはず!
そんな事を考えて書いていました。
でも実際のところ、書きはじめてから五年間ぐらいは、もう全然見向きもされないし、PVが〇か一なんていうのがザラの、底辺も底辺の作品だったのです。
誰かに見られたい、この話で作家になる、なんて考えはハナからありませんでしたが、それでもあまりに見向きもされないと、心も折れそうになってきます。何度「書くのやめようかな……」と思った事か。
でもそんな中にも応援のコメントをいただけた事もありましたし、それで心が踊ったのは間違いのない事実です。
応援コメントやブクマ、ならびにポイントを入れていただいた皆様、本当にありがとうございます。
皆様の応援も、この物語を最後まで書き上げる事が出来た原動力になりました。
ただ、一番の原動力になったのは、やっぱり自分の子供でした。
ただただ子供の喜ぶ顔が見たい。夢中になってくれたならとてもとても嬉しいし、何かを感じてくれたならもっともっと嬉しい。
そんな想いが原動力のほとんどでした。
だから一度も―― 一度たりとも中断する事なく、毎週決められた日に投稿する事が出来たのです。
どれだけ心が折れそうになっても、これは子供のために書いてるんだからちゃんと書かなくちゃ、という思いがありました。
それがあれば、目立った成功や報酬がなくとも、九年間、三五〇万字だって書けるものです。
ちなみにというかあれですが、この話には自分の子供にだけ分かる仕掛けが、いくつか施してあります。
うちの子供が没頭したり感情移入出来るような仕掛けが。
勿論、他のお子さんや他の方が没頭出来ないわけではありませんので。
キーワードというか隠しコマンドというか……家族にだけ分かる暗号みたいな。
だからこの話は、私が私の子供のために書いた話なのです。
それが、この話の正体でした。
でも同時に、九年間も続けていると色々なものがくっついてきます。
作者である私の想いというか、様々な感情のようなものです。
なので、もしも――もしもの話というか夢物語のようなものですが、もしもこの話が本になるような事があったら、洋書でよくあるように、巻頭にコメントを入れたいな、なんて妄想をしています。
海外の翻訳小説でよくあるあれです。
「愛する妻とミッキーおばさんに。そして僕を支えてくれたジェラルドに」
みたいなやつです。
この物語を、私の愛する子供に。
そして、まだ見ぬ冒険を夢見る、全ての少年少女たちに。
そんな想いにさせてくれた、お話でした。
九年間、本当にありがとうございます。
これにて、『銀月の狼 人獣の王たち』完結とさせていただきます。




