最終部 最終章 第八話(終)『闇天』
〝それ〟は欠片だった。
飛び散った竜の細胞――そのほんのひと塊だった。
いずれ洗い落とされるはずの、ただの肉片。戦いの残り滓。
返り血のような〝それ〟は、ディザイロウの毛先に付着し、密かに蠢きつつ時を待っていた。
分かっていたのだ。
為すべき時は、全てが弛緩したこの瞬間だと。勝利に安堵し、武装を解いた今こそ、まさに天地を逆転させるその時だと。
戦いの前、イーリオはアルタートゥム達にある事を確認していた。
かつて黒騎士が見せた肉片からの大再生。
それが装竜騎神に備わっている可能性はあるのかと。もしそんな力が破滅の竜にもあれば、戦い方そのものが変わってくるだろうから。
だがアルタートゥムのロッテは「それはない」と断言した。
「鎧獣騎士と装竜騎神は根本的に全く異なる存在だ。プラナリアのような再生に加えて、魂の蘇生までを装竜騎神のサイズで行うには無理があるし、そもそもあれは異世界への干渉において規約違反になる力なんだよ。どういう事かって? 死から蘇生する事は、霊子の循環に揺らぎを齎す極めて危険な行為になるからだ。だから我らの世界において、蘇生は完全な禁忌にされている。今、黒騎士が戦場に出ていないのも、その規約違反と関係しているんだろうな。だから竜は、倒しさえすればそれで終わりだ。そこは間違いない。安心しろ」
だが――と続けてこうも言った。
「もしも黒騎士がやったような蘇生と完全再生を装竜騎神でも可能にするとしたら、理論上、方法はなくもない。それは複数の魂と複数の肉体を、一個体の中に同時に押し込める事だ。つまり片方の魂が死んでももう片方で蘇生すればいい。まあ、あくまで理論だけの話になるがな。それにこれは、厳密に言えば蘇生とは違う。更にもう一つ言えば、こいつはシエルのように最初からそうなるように創造された人造魂魄でないと不可能な方法だ。どちらにしても、魂を重合するエポスには出来ん。だからいずれにしてもその点は安心しろ」
却説――
アルタートゥムが考えが及ぶ事を、どうしてエポス達も考えつかないと言えるだろうか――。
そしてこの世に顕現させたオプス女神は、そもそも魂を持たぬ人工知能。被造の偽神。しかも受肉体が生み出されたのはつい最近。
つまり――最初からそうなるように仕込む猶予はあったという事。
ここに異なる二つを同居させる事は可能か? 不可能か?
答えは既に出ていた――。
その肉片は、イーリオとディザイロウの体に人知れず付着し、己が出るべき時を凝っと待っていた。
そこに意思はない。原始生物よりも単純な存在だからだ。
けれども魂に刻まれたプログラミングで、待つべき時を〝それ〟は分かっていたのだ。
イーリオがシャルロッタを抱き寄せた瞬間――。
〝それ〟は爆発した。
黒の爆散。
いや―― 一瞬で膨張して呑み込んだ、黒き塊の暴走とでも言おうか。
呑み込まれたのはイーリオ。
シャルロッタも共に――と思われたが、この瞬間、まさに霊狼の名に相応しい神懸かり的な反射で、ディザイロウがシャルロッタを突き飛ばしたのだった。
そうしてイーリオとディザイロウだけが、共に黒い塊に呑み込まれ、引き摺られていく。
「イーリオ! ディザイロウ!」
叫ぶシャルロッタ。
レレケも何が起きたのかまるで理解出来ずに呆然となるも、すぐさま体が動いた。
レンアームを鎧化し、彼女もイーリオとディザイロウの名を叫ぶ。同時に、すぐさま術式を放った。
が、礫を打ったその術は、全て黒い巨大な肉の塊に呑み込まれ、吸収されていく。
そこへ――光が駆け抜けた。
古獣覇王牙団・団長オリヴィア=イオルムガンドだ。
巨大なハサミでもある大剣で黒の塊に斬り付ける。
ところが破滅の竜すら傷を負わせる神の刃が、弾き返されてしまう。
「何だとっ」
咄嗟に獣能発動の構えを取ったサーベルタイガー。
ティラノサウルスの人竜すら灼き滅ぼしたイオルムガンドの光なら、或いは――
「いいのか? 中のイーリオとディザイロウも、道連れになるぞ」
声が、響いた。
男の声。どこかで――ついさっきにでも聞いたような、覚えのある声。
その声で、オリヴィアの動きに待ったがかかる。
「貴様の力なら、今の状態の俺を灼く事も可能だろう。だがそれは、世界の英雄、この世の救い主、イーリオとディザイロウも道連れにする事になる。しかも俺はまた再生するかもしらん。そうなれば貴様はただ無意味にイーリオだけを殺す事になるだろうな」
笑い声がした。
感情の芯のようなものがごっそりと抜け落ちた、ヘルオプスの冷たい笑いではない。負の感情を心底まで理解した、闇の笑い。
「お前は――この声は――ヘルオプスではない。この声……お前は誰だ!」
オリヴィアが叫ぶ。
肉塊が蠢く。
どんどんそれは膨れ上がり、巨大な小山ほどにも膨張していく。
それはかつてゴート帝国の帝都で起きた、三ツ首の魔獣が出現した時にも似ていた。あの時はエポスの一人、ヘルヴィティスが巨大な肉塊と化した己の鎧獣を操り、エッダを呑み込んで魔獣を産み出したのだ。
またはカイゼルンとの戦いの際に見せた、黒騎士レラジェの復活とも酷似していた。
違うのは、この肉の塊から人間の手足や目玉といった部位が、いくつも突き出しては沈み、また生えては萎れてを繰り返しているところだろう。
おぞましさなら、類似するどんなモノをも上回る気色悪さだった。
やがて肉塊は丸まった姿となり、徐々に状態を安定させていく。そして上半分だけぶくぶくと胎動をはじめ、肉塊の真上、山でいうなら頂上にあたるところより、影が一つ這い出てきた。
まるで泥の海から顔を出すように、肉塊を掻き分けて出てきたのは、紛れもなく人。
その姿を目にした瞬間、誰もが声を失った。
駆けつけたハーラルやレオポルト達も、一体何がどうしたと聞くより先に、目の前の存在に唖然となる。
その姿はヘルオプスではない。
竜人でもない。
紛れもなく人間の男のもの。
けれども皮膚の一部に鱗の見える肌は、ヘルオプスと同じ。
同じでないのは両性具有でない事と、誰もが見知った顔が、そこにあった事だった。
美女と見紛うばかりの美貌は、一度目にしたら忘れられるはずもない。
「どういう……事だ……。何故、お前が……」
最後に見た時よりも、皮膚からは血の気が失せていた。
動く死人のようにさえ見える。いや、実際に彼は死んだはず。
「何が……何が……どうなって……」
その死を、その敗北を――
誰もが目にしている。誰の目にも焼きついている。
なのに何故――
「ファウスト……?」
あらわれたのは間違いなく、ヘクサニア教国初代教王ファウストだった。
一糸纏わぬファウストは、薄い笑みを浮かべて周囲を睥睨する。その後で、己の体を確かめるように見つめた。
「ふむ……。予想よりも完全な形になれたな。実に結構だ」
声もそう――ファウストのもの。
著しい違いといえば、生前の彼に刻印されていたひどい火傷の痕が跡形もなく消えていたのもあるだろう。
だがそれ以上の違和感を、レレケが察知する。
「ファウスト王――のようでそうじゃない。貴方は一体、誰なんですか? 一体、何をしたんですか」
レレケの問いに、ファウストが形のいい唇を三日月型に歪ませた。
「ほう――もう気付くとは、なかなかに勘が鋭い。さすがはエール神より刑獅を授かっただけの事はある」
女神ヘルオプスは、魂なき人工知能を偽りの魂にした存在。そのせいか、一見すると感情を見せるような振る舞いをするが、そのどれもがわざとらしいというか、何もかがどこか虚ろで乾いていた。言うなれば感情らしきものの真似事といったところだったが、目の前のファウストに酷似した男はそれとは正反対。
愉悦は心底闇が深く、酷薄さは人の負の側面そのものといった、冥き笑み。
恐怖を弄ぶ表情は、紛れもなく人のそれだった。
「答えろ! さもなくばお前だけを消滅させる事も出来るのだぞ」
「そう急くな、アルタートゥムの団長よ。まずは俺が何者か――だがな」
青白いファウストは、嗤った。
「俺は最後のエポス。この世で唯一残った、ただ一人のエポス」
「何……?」
「かつてはこう呼ばれていた――黒騎士と」
「……!」
「俺はファウストではない。〝はじまりとおわり〟を司る、ヘル・エポスだ」
この瞬間、全員が凍り付いた。
その名を聞けば、誰もが絶望する。誰もが逃げ出す。
黒騎士ヘル・エポス。
だがヘルは、オプス女神の受肉体としてヘレ・エポスと共に母体となって吸収されたのではなかったのか。だからヘルオプス消滅と共に黒騎士ヘルも消えたはず。
オリヴィアが問うと、ヘルは笑って答える。
「いかにも俺は、オプス女神の母体となり、消えた。先ほど消されたオプスの中には、間違いなく俺の魂もある。だが俺は、長い年月をかけて密かに人造魂魄である己の魂を切り分け、別の器に移し替えていたのよ」
「何だと……」
「分からんか? 竜人だ」
竜人。
恐竜人間という進化した人型爬虫類。
黒騎士がずっと器にしてきたもの。その種族。
「竜人は人間ではない。根本的に全くの別種の生き物。だから魂を変容させて切り分けても気付かれなかったのさ。誰にも。同じエポスやオプスにも。そうして神を騙し、兄弟同胞を誑かし、俺は長い長い歳月をかけ、遂に望むべく最高の瞬間を手に入れた。この時をどれだけ待ったか! このためにこそ、俺の千年はあったのだ!」
興奮気味に語るヘルだが、オリヴィアが疑問を言い放つ。
「仲間や神を騙しただと? お前達エポスは意識共有した魂を持つ存在。場合によれば思考すらも管理されていたはずなのに、そんな事が可能だとは思えん」
「深い感情を伴った思考なら、同じエポス間でもある程度までは遮断可能だ。それくらいは千年あれば習得も出来る。――だがそう、貴様が言った通り問題なのは意識と知覚の共有だった。だから俺は、竜人の大量出産をヘレに行わせたのよ」
「恐竜人間は、ヘレを産み腹にしたというのか……!」
「そうだ。それには膨大な力が必要になるため、意識共有のホストであるヘレとの繋がりも切れる事になる。そうすれば考えや企みだけでなく、俺の行動も全く読まれなくなるというわけだ。その間に、俺は全ての準備を整えた」
魂の複製を竜人に行う。
そして己の新たな器として、ファウストの遺体をこれまた竜人に食わせ、体内で再生の準備をさせておく。
ファウストの頭部だけを竜人が食べなかったのも、そのためであった。頭部の再生は可能だが、脳内のニューロンが不具合を起こさないようにするためそのままの形で保存しておいたのである。
最後にこれらの竜人を竜喰らいの王のカンヘルに食わせる事で、自身の復活に備えさせた――。
「オプス女神の器? そのための犠牲? 成る程、エポスとはオプスコーポレーションのためだけに存在する人造魂魄。人ならざる超越した魂と力を持ちながらも、そのためだけに生み出されたただの捨て駒。俺以外の五人は、その事に何の疑いも抱かなかっただろう。いや、疑う事など有り得なかった。――だが、千年前に〝アレ〟を見て、俺は思ったのだ。俺が――この人造魂魄が、世界を左右する存在になって何が悪いのか、とな」
「〝アレ〟……?」
「そうだ。オプスの軛を自ら断ち切り、エポスでありながらエポスをやめた七人目。アート・エポス。貴様らがエッダと呼ぶ女だ」
黒き魔女エッダ。
かつてハーラルを超帝国の祖帝ロムルスの生まれ変わりと信じ、ゴート帝国を揺るがす大事件を起こした張本人。
そしてエポスを抜けながらも千年間、魂を移し替えて生き続けた本物の〝魔女〟。
「愛のためにアレは暴走し、己の望みを叶えるあと一歩のところまで行き着いた。あのエッダと同じく、機械仕掛けの神もどきのためではなく、己のため、人造魂魄である俺こそがこの世界と異世界双方の神となるため、この時を待ったのだ。――己の、俺自身の愛を信じて」
黒き巨大な肉塊は、どんどん膨張している。
一体、イーリオは――ディザイロウは、どうなっているのか。
「愛……?」
「そうだ。俺は俺の愛を見つけた。愛する者を信じ、時に心を砕きながら、俺は愛を貫いた」
「貴方のどこに、愛などと……!」
シャルロッタが、顔を青ざめさせながら叫ぶ。
「何を言っている? 俺はずっと愛のために、愛する者を信じて戦ってきた。文字通り、そう、本当に言葉通り、世界中を敵に回して、な」
黒き肉塊が、肉を引き千切る音を、巨大に響かせた。
厭な――不快な音。
耳にこびりつき、離れなくなるような。
それはどんどん感覚を短くし、遂に肉塊の表面も裂け始めていった。
「敵であるエポスからは出来損ないと見下され、仲間も才能がないと断じ、愛した者も最初は愛ではなく、ただ己の庇護を求めらただけの哀れな存在。誰からも期待されず、誰もが否定もしないかわりに誰も選びはしない――」
肉塊から、頭部が覗いた。
その頭頂部に、ヘルが飛び移る。
「選ばれなかった魂。認められなかった凡庸」
「何を……何を言って……」
「分からんか?! そうだろうな! そうやって誰もが〝普通〟だなどと憐れみであいつを見た。だが俺は違う!」
「まさか――」
「そう! イーリオだ! イーリオこそ、俺が最初から信じ、出会った最初から育て、愛をもって慈しんできた唯一人、俺だけの選ばれし者!」
肉塊の中からあらわれたのは、恐竜。
似ている――というより同じ種別。
同じ竜喰らいの王。
ただ、ところどころが違った。
「誰が最初から、あいつに期待した? あいつに目をかけた? 俺だ! 俺こそがあいつをずっと支えてきた。時に壁となり、障害となり、敵となり、敵であるはずなのに助けもし、導いてきた。決して己の真意を悟られないよう、誰にも――そう、俺の信じたイーリオ自身にすら絶対に気付かれぬようにしながら、俺だけはあいつを片時も疑わなかった。誰もがイーリオを不適合と言った。選ばれない者と。誰もがイーリオは特別でないと目を向けなかった。違うか?! 俺だ。俺だけだ。俺だけは、あいつならきっとやり遂げられると――皆が見ない、皆が無視した存在だからこそ、最高の奇跡を起こせるはずだと信じ抜いた。最初に一目見た時から、俺だけはあいつしかいないと、全てを信じ、あいつに賭けた。では聞くが、最初の最初からあいつが大陸中の人間の心を一つに出来る存在だと見抜いていたのは、誰だ? 分かるか? あいつ唯一人を選んだのは、この俺だけだ。あいつこそ、俺にとっての――俺だけにとっての運命の主人公。俺だけの選ばれし者なのだ!」
おぞましさに、シャルロッタもレレケも吐き気がしそうになった。
これほどに醜悪な愛があろうか。そしてこれほどに反論の余地もない愛もなかった。
言い返せないのだ。
何故なら、どれもがその通りだったから。
でも――と言い返そうにも、今までの黒騎士の行動の奇妙さも、本当に彼がイーリオを信じて育てたのだとしたら、全て辻褄が合ってしまう。
今は誰もがイーリオを信じ、イーリオを崇めている。けれども最初からと言われたら、確かにそうではないと言わざるを得ない。
少なくとも大陸から認められた今のイーリオは、皆が盛り立てたからではなく、彼が自ら切り拓いてきた結果である。
出会いの最初からイーリオを特別だと見ていた者など誰もいない――はずだった。
では、そんな風に誰が導いた?
誰が彼を最も育てた?
そう問われた時、カイゼルンや数多の名前が挙がるだろう。
だが、それよりももっと前――旅の最初からイーリオの心に深く刻み込まれ、強すぎる影響を与えていったのは誰だと問われれば――そしてその後も常に壁であり、時に助ける存在だった者と言えば――。
「奇妙だとは思わなかったか? どうして最も大切な母の形見を奪って、故郷や家族から断ち切ってみせるような事をしたり、または命を奪うような戦いをしながら、そうかと思えば想い人の婚儀を教えてやったり、処刑されかければ助けたり――。もし本当にその全てが脈絡のない気紛れな行いだとしたら、そいつは真実のイカれ頭だろう」
全てはイーリオを強くするため、イーリオをより高みへ導くため。
「イーリオの性格なら、それを望まない事くらい分かる。だからそうせざるを得ない状況を作り、しかし干渉しすぎないよう、何より同じエポスやこの世の誰にも気付かれないよう振る舞わなくてはならなかった。そのために最も難しく最も重要だったのが、イーリオを信じ抜く事だ。誰もが凡俗で才もないと見限る中、あいつの心の器を見抜き、俺だけは疑わない事。それこそが最も大切だったのだ」
「一体どうして……そこまでしてイーリオを……何のために」
「強くするためだ」
新たに姿を見せた竜喰らいの王は、黒と白ではなく黒のみ。
漆黒の威容。
背中の棘状の突起はより凶悪にそそり立ち、この世の闇という闇を凝らせて竜の形に固めたような姿をしていた。
「あいつの心と挫けない強さがあれば、誰の心にもあいつの優しさが届き、誰もがあいつを信じるだろう。俺があいつを信じたように。そして、俺が望んだものをあいつなら手に入れてくれるはずと、俺は信じた」
「望んだもの……?」
「あいつとディザイロウが見せた〝繋ぐ力〟だ」
闇の竜喰らいの王。
暗黒の竜の神。
肉塊からあらわれたのは、姿を新たにした、漆黒の次元竜神。
「大陸中を〝繋ぎ〟、霊子を収束させ多層世界にすら届く力。黒の女神オプスすら倒す、この世で最も尊い力。それこそが、俺の欲した力だ。そしてあいつは、遂にそれをやり遂げた! まさに俺の信じた通りにだ!」
「まさか……じゃあ……」
「そうだ。今、カンヘルの中にはイーリオとディザイロウが眠っている。繋ぐ力を手に入れた、霊獣の王がな。そしてあいつごと、俺はその力を手に入れた。あいつの心の力と、ディザイロウの力、その全てを俺は手に入れたのだ」
この世界そのものの敵とも言える女神に勝利した。
その余韻に浸る間もなく、全てが回天していく。
誰もが希望を託し、誰もが希望を見出した王を導く王でなき王。
そのイーリオとディザイロウを失い、その力すら奪われ、最もおぞましい愛の戦士が最後にあらわれたのだ。
神すら欺いた、黒き騎士。
神と神殺しの力も宿した、黒き竜の神。
「さあ、これからがはじまりだ。これからが俺の物語だ。俺がこの世の理となる。俺が異世界とこの世界の魂、全てを手に入れる真実の神となる」
漆黒の竜神が頭を振るって、ヘルの体を呑み込んだ。
そして告げられた。
全てを台無しにする、終わりにしてはじまりの言葉が。
「黒化」
闇が、地上に出現した。
この世を変えてしまう、闇が――。




