最終部 最終章 第三話(終)『霊力解放』
トクサンドリア国王レオノール・リンヴルフ。
ゴート帝国ヴォルグ六騎士が一人、ヴェロニカ・ベロヴァ。
同じくヴォルグ六騎士のエゼルウルフ・ヘリング。
アンカラ帝国ソコルル・ファルロフザード大将軍。
彼らの率いるのが――
トクサンドリア王国・東方幻霊騎士団・右翼大隊
ベロヴァ家軍
ヘリング家軍
アンカラ近衛騎士団〝聖獣騎士団〟。
それらが隊列を取り、イーリオ達を見つめていた。
「遅うなってすまん、イーリオ殿!」
大音声をあげたヤンの父、トクサンドリア国王レオノールが、巨大牛に跨って言い放つ。
「各国との連携、不可侵条約並びに諸々の手続きが思いの他大変でしてな。ここまで遅れてしまいました」
「けれどもご安心ください。我らが居ずとも本国は大丈夫です」
「これより我らも、皆様がたと並び戦列に加わります」
レオノールの後に続き、ソコルル大将軍、ヴェロニカ、エゼルウルフの順でそれぞれが告げる。
「待て。もしかしてこれは、ブランドの――」
「はい。大軍師ブランド殿の要請で、我らは参ったのです」
ハーラルは己の不明を悟る。
先ほどの通話でブランドは〝手は打った〟と言った。彼はそれをヤンの投入の事だと思っていたのだが、そうではなかった。
今、ソコルル大将軍は不可侵条約と言った。つまりそれぞれの本国から武力がなくなっても、各国が連携し互いを攻めぬ様、密約を交わしたと言っているのだ。
事実、部隊を率いる彼らの誰もが、本国の守護を任されているはずの者達である。
国王自らが出陣したトクサンドリアは言わずもがな、ゴート帝国もアンカラ帝国も、今やどの国も武力としてはもぬけの殻になっているのだろう。
おそらくブランドは、その調停のために事前に準備を行っていたものと推察出来る。
それが、ブランドの打った〝手〟だったのか。
「さあ、もたもたするな! いくぞ、一同! ――白化!」
数百の騎士達が、一斉に鎧化をする。
ただの騎士ではない。各国でも指折りの猛者達なのだ。
ヤンがあと一人いれば――
先ほどの呟きが、それ以上の形となって実現するなど、誰が予想出来たであろうか。
折れそうになっていた心に、再び力強さが満ちてくる。
だが――
「皆様! イーリオ様もハーラル陛下も、聞いてください!」
臨戦体制に入った一同に、ここでゴート帝国ヴォルグ六騎士のエゼルウルフが待ったをかけた。
「これより皆様は、私の指示通りに動いてください。誰も彼も、皆が皆です」
「エゼルウルフ? もしや――」
「はい。第二獣能を使います」
エゼルウルフの駆るアンデスオオカミの〝ハティ〟は、超異常発達させた五感により、未来予知にも近い戦場の完全予測を行う事が出来る。
これによって彼の率いる部隊は負け知らずと言われており、付いた二つ名が〝戦場の支配者〟。
「例え人智を超えたドラゴンが相手でも、手の内を曝け出したのなら最早それは私の予測の範囲内。敵の数が無限に湧いてこようが、我が盤面では駒の一つにすぎません。私の予知から逃れる事は、不可能。ですからここにいる全員、王も皇帝陛下もイーリオ様も皆、全員が全員、私の〝駒〟となってください。必ず、あの竜に勝利するよう導きますゆえ」
「分かった」
ハーラルが真っ先に頷いた事で、全員が躊躇いなくこれに従った。
「第二獣能――〝禁忌大予知〟!」
白亜の人狼の両目が、破裂するかのような勢いで真紅に血走る。
目や鼻、口の端からは血の糸が噴きこぼれていた。
同時に、エゼルウルフ=ハティの知覚が広げられ、この戦場一帯全ての情報が、洪水の様に流れ込んできた。
そして発する、第一声。
「ソコルル将軍! 聖獣騎士団で前衛へ!」
キリンの部隊で編成された、アンカラ秘蔵の近衛騎士団。
手にするは首の長さに比例した、長大なロングスピア。
「全員、薙ぎ払え!」
ソコルルの号令で、キリン騎士達が槍を横薙ぎに払った。
キリン騎士の大きさに合わせた槍である。
しかも槍には、聖女シャルロッタの加護――神色鉄の加護が付与されているのだ。長大すぎる槍は、最早ただの突きではなく、面となって軍勢全てを制圧する殲滅兵器と化していた。
「〝四面阿修羅〟!」
古代絶滅種キリン原種・ブラマテリウムの〝ホルシード〟を纏うソコルルが、獣能を放つ。
鹿よりも野太く大きなツノから槍が生み出され、それを長い手足で投擲する。
それも、一槍や二槍ではない。幾本も、何本も。
巨大投槍による貫通攻撃は、如何な無双の装甲を持つ魔獣といえども貫き、押し戻していく。
そこへ満を持して、ヴェロニカ率いるベロヴァ家軍とヘリング家軍が雪崩れ込んだ。
無数に湧いてくる魔獣を前に、誰もが一歩も引かないどころか、これを押し返し始めている。
そこへ――。
天上からの光。
巨大人竜の怪光線・極帝破光。
味方ごと、何もかもを灼き尽くさんと放たれる破壊の矢。
ところが、その光は自らの生み出した角獅虎を灼き殺すばかり。ほとんどの連合騎士が、その光を回避していた。
これらはどれも、エゼルウルフの指揮によるもの。
脳が焼き切れるような激痛を受けながら、それでもあらゆる知覚情報を読み取るハティと、それを取捨選択し指揮として活かすエゼルウルフの〝読み〟は、神にも等しき破滅の竜すら盤上の駒として捉えていたのだ。
誰がどう動き、どこで何をするのか。
細大漏らさず高速演算する彼のイメージを、付き添いの鎧獣術士たちが術によって全員に伝える。
これにより、誰もが己の実力以上の戦闘能力を発揮していたのだ。
しかも通常ならば、エゼルウルフは戦闘をしながらこの異能を使うのであるが、今は指揮にのみ集中していた。指揮にのみ全精力を傾けたとなれば、もう手のつけようがない。
まさに〝戦場の支配者〟。
東方幻霊騎士団の怪力人牛部隊が、力押しで魔獣を押し返していく。それにより、敵軍全てが押し合い状態になり、完全に膠着状態を生み出させた。
斬り裂き、死体の山を築いていくハーラル=ティンガルボーグと銀月獣士団。
その結果、黒々となって先さえ見えなかった敵の津波の先に――道が開ける。
「今です!」
切り札投入。
百獣王すら膂力では敵わぬと言わしめた〝豪牛王〟ヤン=エアレ。
そのヤンの父にして自身もまた豪傑の司祭王レオノール。
その王の駆るのもまた、ヤンの駆るエアレと同系統の古代絶滅種。
古代恐角水牛の〝ダエダルス〟。
翠の豪牛と王の牛とが、並んで突進する。
誰であれ、何者であれ、この巨牛の突進を阻むなど不可能。
「〝怪力乱神〟!」
ヤンが吠える。
エアレの全身の筋肉が超高密度の珪素繊維となり、通常の一〇〇〇倍の力を可能にさせる。
「〝金剛不壊〟!」
レオノールも咆哮した。
ダエダルスの異能は、全身の体組織から軟骨状の細胞を発生させる。それにより、おそろしく弾性のある、不倒不屈の体になるというものだった。
両騎の人牛騎士が突進すると、敵は文字通り宙を吹き飛び空を舞った。
止められない、壊せない――。
それはまさしく、破邪の猛牛。
遂に辿り着く、エアレとダエダルス。
巨大すぎる竜の神が、目の前で聳えるように佇んでいた。
すぐ足元に人牛騎士がいるというのに、ミカイールはキリンのような長い首を傾げるだけ。まるで気にする素振りもなかった。
二騎は勢いを殺さず、そのまま体当たりを行う。
凄まじい衝突音が、衝撃波となって一帯を痺れさせた。
「どうだ――?!」
連合騎士から起こる、高揚した声。
見れば巨大竜脚類が巨体をぐらつかせ、体を揺らしていた。
やったのか――。
そんな期待に味方が興奮するも、そこまでだった。
あの最強の膂力を持つ二騎の体当たりで以ってしても、わずかに体を傾かせただけ。人竜は痛みを見せるどころか、小煩いとばかりに山の様に巨大な杖で己の周り全部ごと、吹き飛ばそうとした。
ちなみにこの間も、巨大人竜ミカイールは、足を横に投げ出して座ったまま。立って動こうとさえ、してはいない。
巨大杖が大地を叩いた――かに思えたその時。
大地を割るその直前で、杖がピタリと止められてしまう。
止めたのは、ミカイールからすれば遥かに矮小な、けれども人間からすれば巨人にも等しい翠の人牛。
ヤン=エアレ。
彼が一騎で、この杖を受け止めていたのだ。
味方でさえも、あまりの現実離れした光景に、声さえ出ない。
これが大地をも裏返しにする力。地上最強の筋力。
「〝堅城鉄壁〟!」
杖を受け止めた姿勢のまま、ヤンがエアレの第二獣能を発動させた。
全身の珪素化した筋肉から強力な磁界を発生させ、表皮に磁気による障壁を発生させるというもの。それがエアレの二つ目の異能。
これが生み出す反発力は、膂力と掛け合わせれば神や悪魔ですらも跳ね返す力となる。いわんや破滅の竜ですら、言うに及ばず。
人竜からすれば小粒でさえある人牛が、巨竜の杖を弾き返してしまう。
さすがにこれには、ミカイール――というよりそれを纏うであろうエポスも驚きを隠せなかったようである。僅かに動揺らしき戸惑いを見せ、次に竜脚類から唸り声のようなものが起こった。
不気味で禍々しい、地の底から蘇った魔物そのものと言うべき声。
次の瞬間――
何の予備動作もなく、ミカイールの口から何発もの怪光線が次々に放たれる。
己を侮辱した身の程知らずの愚かな人間に、神の鉄槌をくだしてやろう――。
そんな声が聞こえてきそうな、手当たり次第の破壊行為。
ここまでくると、さすがにエゼルウルフの指揮ですらも意味をなさない――かに思えたが。
黒煙をあげる大地。
灼き尽くし、何も残らないと思えたそこに、全身を黒く煤けさせて佇むのは、翠ではなく茶褐色の体色をした人牛騎士。
レオノール=ダエダルスだった。
エアレが筋力増強の攻撃特化型なら、ダエダルスは防御特化。
全身の骨芽細胞を超強化、増殖させ、骨の鎧と盾を纏わせるというもの。
これを第二獣能・〝国士無双〟と言う。
全身に発生させた軟骨組織と合わさり、それが破壊光線を防ぐ絶対防御となったのである。
そのダエダルスの影から、翠の巨体が飛び出してくる。全身が無傷のまま。
ペロロヴィス・アンティカス、エアレである。
――!
竜の破壊光線、極帝破光は放つ前にほんの少しだけ〝溜め〟を必要としていた。それは連射可能なミカイールでさえも同じであった。
その隙をつき、ヤン=エアレが神殺しの一撃を放つ。
強化した筋力と、電磁気を纏う全身が生み出す、大地をも穿つ地上最強の斥力。
――〝幻霊の鎚〟。
凄まじい音が大気を穿ち、見えざる大砲となって人竜の体を貫く。
ゴヘッ――。
耳慣れぬ奇妙な音が、響き渡る。
いくら破滅の竜とて、あの一撃を受ければもう――。
そんな期待が浮かんだ直後。
全員が見る。エアレの一撃を、両方の腕を交差して完全に防いだミカイールの姿を。
角獅虎を生み出す異能、その大元を叩くのがヤン達の狙いのようだった。
それは子宮――つまり人竜の下腹部。
そこさえ潰せば、魔獣はもう生み出されない。そこを狙われている事は、当然ながら敵も気付く。
つまり攻撃される場所が分かっていれば、対処のしようはあるという事だ。
ミカイールの口の端が、確かに吊り上がったように見えた。
勝ったな――そんな声が聞こえてきそうだった。
「む」
ヤンが唸る。しかし通訳の出来るイーリオは、その場にいなかった。
いないから、敵にも味方にも――レオノール王以外――何を言ったのか伝わってなかった。もしミカイールにもヤンの言わんとした事が伝わったのだとしたら、きっとこう聞こえたであろう。
終わりだ――と。
「〝戦神姿――火霊〟」
声は、上空から聞こえてきた。
人竜が鎌首を、咄嗟にもたげる。
ミカイールより遥か高い頭上、氷色をした煌めきが宙を踊っていた。
片腕に持つ円月刀に、炎の光を纏わせて。
ミカイールが気付くのと、ティンガルボーグが火霊を放ったのが同時だった。破壊音が宙で弾け、高い空に閃光が走る。
ヤン=エアレが先ほど放った必殺の一撃。
あれが防がれるのを、〝戦場の支配者エゼルウルフは読んでいたのである。
だから彼は、人竜の子宮を狙う様にみせかけて、ハーラルを上空高く〝弾き飛ばす〟ようヤンに指示を出したのだ。
結果、恐るべき力で空高く弾き飛ばされたハーラル=ティンガルボーグは、敵に一切気付かれる事なくその頭上を奪ったのであった。
けれどもティンガルボーグ必殺の一撃を受けても、ミカイールの傷は僅か。
これでも――
ここまでしてもまだ――
一瞬、誰の目にも絶望が浮かびそうになる。
「ん」
そこへ、ヤンの唸り声。
彼はこう言っていた。「頭を下げたな」と。
そう、ティンガルボーグの一撃で、巨大人竜の頭部が、下にまで傾いでいたのだ。
そこはもう、エアレの拳が届く距離。
「むぅ!」
再びの〝幻霊の鎚〟。
今度は子宮ではない。
先ほどは被弾出来ずに防がれたが、おそらく直撃しても人竜の分厚すぎる表皮と下腹周りを覆う鎧で威力は相当に減殺されるだろう。その事も、エゼルウルフの〝読み〟の範疇。
だから彼の、そしてヤンの狙いも、最初からそこではなかった。
今度こそ直撃する、エアレ最強の一撃。
それは頭部の一箇所に狙い定めたもの。
額部分にある膨らみ。即ち竜の神之眼であるドラコナイト。
それが砕かれた。
立て続けの事に、ミカイールも驚きを隠せない。
しかし、だ。
ドラコナイトも鎧獣の神之眼と同様、再生は早い。いくらこんなところを破壊してもまるで無駄。
そう吐き捨てるように見えるほど、人竜に戸惑いはなかった。
「ああ、そうだ。すぐに再生されてしまうだろう。だが、それでいいんだ」
相手の思考すら読み切ったエゼルウルフが、離れた位置から一人ほくそ笑む。
「俺たちは最初から、俺たちだけで貴様をどうにか出来るなど、思ってなかったんだよ」
軍師のブランドが、アルタートゥムのオリヴィアから頼まれた内容。
連合の騎士達だけで、ミカイールを倒してくれ――というもの。
ブランドはそれを聞かされた時、すぐさま考えた。どうして連合騎士だけなのか。それは言うまでもなく、竜に対処出来るはずのアルタートゥムがそこにまで手が回らないし、イーリオの力も封じられるからである。何より当初は、アルタートゥムの力までも弱体させられると想定していたからだが。
つまりその弱体化さえどうにか出来れば、連合騎士だけという不可能が、そうではなくなるのではないか?
いや、言葉にすれば単純だが、そんな風に上手くいくはずはない。神にも等しい存在の特殊能力を封じるなど、倒す事と同じくらい無茶な話だと言えるだろう。
しかしだ――。
もしもその能力の発生源や敵の構造全てが把握出来れば?
それを破壊するための道筋が、余す所なく完全に読み取る事が出来れば?
エゼルウルフは、まさにそのために呼ばれたのである。
彼の真の目的は、戦場を完全予知し指揮を取る事ではない。
言った様に、ハティの〝禁忌大予知〟とは、一定範囲のあらゆる情報を完全把握するというもの。つまり破滅の竜そのものですら、手の内を――異能を出した後ならば――それは読み取り可能な対象となるのである。
竜の額。砕いた巨大結石。
それこそがミカイールの竜異能〝信仰〟の発生源。
空を覆う暗い天幕は、ドラコナイトによる異能だったのである。それを、エゼルウルフ=ハティは突き止めたのだ。
つまりこの瞬間、このほんの僅かな間だけ、空の暗幕は消え、晴れ間が広がっていたのである。
それの意味するところは――
「霊力解放」
人竜の視線の先。
足元すぐ目の前。いつ、そこに辿り着いていたのか。
光り輝く剣を持つ、光を帯びた白銀と黄金の人狼がいた。
――!
いつからと言われれば、最初からと言えるかもしれない。
破滅の竜との戦いの前、千疋狼によって感知した戦場の違和感。それこそがこの場に接近していたエゼルウルフ達だったからだ。
イーリオのみ、新たな援軍が来る事に勘付いていたのだ。そして集結した彼らを呼んだのがブランドだと知った時、イーリオはその作戦をおおよそ理解していた。
ならば己に課せられた役割が如何なるものなのか。
告げられなくとも分かっている。
だから突撃開始と同時に、ディザイロウの能力がか細くなっていくのも厭わず、彼も密かにミカイールへ接近していたのである。仲間の全てを信じて。
ディザイロウの全身から、光が満ちている。
「〝巨狼化〟」
光が、巨大な柱となっていた。
それは天を貫き、光の巨人を現出させる。
巨大化した、ディザイロウ。
全身が高密度のエネルギーで覆い尽くされ、まさに人狼の巨神となって、巨大人竜に対峙する。
目にした瞬間、思わずハーラルに過去の記憶が蘇った。
九年前、あの時は人狼ではなく狼の姿によって――色も青や紫がかったもので――ハーラルは手痛い深傷を負わされたのだから。
けれどもあの時とは、姿形も違えば、放たれる雰囲気、何もかもが異なっていた。何よりその巨人からは、イーリオによって完全に制御された、理知の輝きが溢れていた。
これがザイロウでは出せなかった、巨狼化の真の姿。
竜に対する二つ目の力。
即ち――〝立ち向かう力〟。
光の巨神が、剣を振るう。
「あれは――!」
巨体で放ったそれは、獣騎術の極地の一つ。
獣王合技・〝心臓抜き〟。
イーリオが最初に覚えた、獣王合技である。
貫かれ、巨体に穿たれた空洞。
遠く彼方から、音が響いてくる。
おそらく吹き飛んだ子宮が、大地に衝突した音だろう。
巨竜が吠えた。
額のドラコナイトは、もう治りかけていた。おそらく〝信仰〟を発動しようというのだろう。けれどもそんなものは間に合わない。
ディザイロウの剣が、巨大化した光の剣が――
山の様な巨体の人竜を、両断する。
これこそが軍師ブランドの言った、彼の打った〝手〟。
ヤンの投入でもなければ、レオノール王らによる援軍でもない。
それら全部が布石。
弱体化の消滅。そして、イーリオ=ディザイロウという最強の存在の復活。
そのブランドの策が、全て嵌まった瞬間だった。
アルタートゥムの力を借りず、連合だけで破滅の竜の一体を打ち破る――。
同時にそれは、超科学を持たない〝人間〟が、異世界の超科学を上回った瞬間でもあった。




