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銀月の狼 人獣の王たち  作者: 不某逸馬
第四部 第六章「破滅の竜と竜の魔導士」
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第四部 第六章 第五話(4)『破滅到来』

ラストイヤーのゴールデンウイークSP 毎日投稿4日目!



 ニフィルヘム大陸。


 そこにある国々には、共通の伝説が語り継がれていた。




 ――


 太古とも言うべき、遥かいにしえの時。


 それは数千年、数万年――いや、もっともっと遥か昔、超古代であろうか。


 まだ神と人が、自然と幻想が調和していた遠い時代。


 大神エールに叛旗を翻した竜の悪神ヤム=ナハルが、この世を全て破壊する〝煉獄の崩落〟という大災厄を引き起こした。


 大地は海に流され、海は彼方まで干上がって崩れ、再び起きた大雨で新たな大地もまた流される。


 天に注ぐのは雨だけでなく、地を焼く稲妻と数多の雹。

 大地からは噴煙と共に炎が噴き上がり、星々は流れて地に注がれる。


 この世の生き物は全て死滅し、花も木も消え失せた。


 それを見かねた慈悲を持つ一部の神々は憐れと思い、僅かに生き延びた地上の人間と生き物に〝神の眼〟という加護を授け、生き延びさせようとした。


 そして大神エールは自らの手で剣を打ち、息子である嵐の神バールにそれを授け、神獣・月の狼(マーナガルム)と共に竜神を滅ぼすように命じる。


 激しい戦いの末、バールはヤム=ナハルを討ち滅ぼし、災厄の去った大地には新たな命が芽吹き、現在に至るのだ。

 だが竜の神は完全に滅んではおらず、いつか再び蘇りこの世に災厄を齎すという……。



 ――



 このヤム=ナハルが率いた竜神こそ、〝破滅の竜〟〝破滅の魔物〟と呼ばれる存在であるという。


 もしくはヤム=ナハルこそ破滅の竜であり、竜神に力を与えたのは黒衣の女神であった――などと少し異なった神話を伝える国や地方もあった。


 いずれにしても遥か昔、世界は一度竜によって滅ぼされ、それを神と神の獣が退治したという部分はどれも同じ。


 神話というかお伽話にも近かった。


 大陸中で信仰されるエール教でもこれを固く信じられているが、それは末法思想のようなものであろう。


 何よりも、竜という存在。


 近年、ヘクサニア教国の尖兵として異形の魔獣・角獅虎(サルクス)が大陸の各所で侵略行為を働いているが、それが小型の竜に変じる事はよく知られている。

 俗に飛竜(ワイバーン)もどきなどと呼ばれているが、それの巨大化したものが、いわゆる巷間に語られる竜に近いのかもしれない。


 しかしだ。

 そもそも、竜などというものを見た人間などいないのだ。


 いや、竜という生き物自体が、この世に存在するわけがなかった。


 飛竜(ワイバーン)もどきは、複数の生物を合成(キメラ)にした角獅虎(サルクス)が元になっており、その〝もどき〟もまた合成(キメラ)であるのだ。つまり正しい意味での〝竜〟ではなく、擬似的に竜の風貌に近付けた人造生物というのが正しかった。


 では破滅の竜とは、その合成(キメラ)をもっと大規模にしたものなのだろうか。


 いや――

 そうではない。


 そんなものは、竜ではない。


 そもそも――

 竜とは、ドラゴンではないのだ。



 それは空想と幻想のお伽話ではない。




 神話を再現した〝もどき〟でもない。



 竜は――



 竜は、現実に存在する。



 この世に竜は、いたのだ(・・・・)



※※※



 メルヴィグ王都レーヴェンラントの北部。


 主にギオルやカラドリオスをはじめとした空戦、防空部隊が配備された地域。


 そこに、突如としていくつもの竜巻が起こる。

 小さなものではなく、王都に入れば相当規模の災害になりそうな大きなもの。それが四つ、五つと数を増やしていった。




 レーヴェンラント東部。


 今回の戦いでは配備された部隊もほとんどいない、戦場ではない地域。


 しかし王都を貫くケーニヒス川が都から抜け出る河口の一つという事もあり、万が一に備えてそれなりに防備は固められていた。実際、ここには自国だけでなく他国の者も含めた海洋騎士の混成部隊が配備されている。


 その王都東部、水路の玄関口にあたる河川に、異変が起きていたのだ。


 何の前触れもなく、川面にいくつもの渦が発生したのである。


 渦は膨張したり荒れ狂ったりを繰り返していったかと思えば、突如巨大な地震が起き、大氾濫による逆流を引き起こしていった。




 そして王都南西部と、王都西部――つまり戦場の中央。


 この二箇所では、人の足では到底立っていられないほどの地揺れが起きていた。


 大地は裂け、或いは隆起し、或いは沈み込み、戦いの場を別の混乱で一変させていく。


 何が起きているのか――。


 敵も味方も、この天変地異に動揺するばかり。


 そこへ今度は、凄まじい音が響き渡る。



 大地が地の底から膨れ上がり、巨大な何かが地面を破っていく。



 それは山だった。



 ヘクアニア軍の背後に、小さな山が出現した。



「何だ?!」

「お、おい、何が起きてるんだ?!」


 十三使徒のサイモンとエドガーが、地震で大地にしがみついた状態で叫ぶ。


 とても立っていられる状態ではない。そのはずなのに、彼らの目の前にはこの巨大な揺れの中で平然と立ったままのロード・イゴー ――いや、アンフェール・エポスがいた。


「ヘクサニアも、灰堂騎士団(ヘクサニア)も、そして神聖黒灰騎士団(ヘキサ・エクェス)灰堂術士団(ヘクサー)も――全ては我ら〝灰導天使衆(ヘクサ・アンゲロス)〟の真似事。使徒も何も、我らが真の力を取り戻すためにこそあった。そしてその目的は、果たされた」


 青白い肌の禿頭の男が、外套を脱ぎ捨てる。

 筋肉質な全身に、ぴたりと吸い付くような衣服があった。

 見た事のない様式。不気味で、異様にさえ見えた。


「この世は全て、我らE.P.O.S.(エポス)のためのもの。この世を、この世界を、永遠の楽園に再創世させる事こそ、我ら〝灰導天使衆(ヘクサ・アンゲロス)〟の悲願」


 サイモンもエドガーも、言っている意味がまるで分からなかった。

 だけれども、自分達十三使徒が用済みになったと言われている事だけは、理解出来た。


「今こそこの異世界を、書き換える時だ」


 ふざけるなと思う。

 何を言っているのかまるで意味不明だが、死体を貪り食われた王のように、こんな形でいらぬと宣言されるなど、人を見下すにもほどがあると思う。

 けれども、何も出来ない。




「我は〝破壊と闘争〟を司るE.P.O.S.(エポス)。第三総長アンフェール」




 アンフェールの背後で、山が動いた。

 黒々とした大地の盛り上がり。それが、振動を起こしていく。




 一方で、王都南西部でも同じ事が起きている。


 そこにいるのは、顔に道化の白塗り化粧をした男。ドン・ファン・デ・ロレンツォ。


 彼は自らをこう呼んだ。




「〝創造と探求〟のE.P.O.S.(エポス)。第五総長アルナール・エポス」




 そのアルナールの後ろでも、大地を割って出現した小山が、激しく揺れている。




 王都北部でも、王都東部でも、これと似た現象が起きつつあった――。


 王都西部にいるロードことアンフェールが告げる。




「今こそ目覚めよ、我が〝黄金竜王(アウラール)〟――竜天使・ジブリールよ!」




 山が裂けた。


 大地が割れた。


 地の底から、それはあらわれる。



 濛々とたつ土煙を縫うように、陽光が照らし出す。


 燻んだ金色。まだらの黒。


 長く太いモノが、真横に振られて風圧を起こす。


「何だ?!」


 サイモンが思わず叫ぶ。


 同時に、凄まじい咆哮が轟いた。

 どの猛獣のそれとも違う、聞き慣れぬ叫び。


 その後、土煙をにゅっと割って、頭部があらわれた。


 裂けた口。大きすぎる牙。

 落ち窪み、獰猛さを隠そうともしない瞳。


 太く巨大な胴体をはじめ、全身のところどころに金色の体毛が見える。

 そして力強さを通り越したような、迫力に満ちた二本の足。

 それとはまるで対照的な、申し訳ばかりに付いた前肢――いや、腕部なのか。


 体長の半分は太く長い尻尾になっており、先ほど空を裂いたのは、この巨大な尻尾であるようだった。


「り……竜……なのか……?」


 エドガーの疑問は尤もだろう。


 ツノはない。ヒゲもなければ翼もないし、長い首もない。

 だがその威容は、どの生き物にも当て嵌まらないし、迫力はまさに〝竜〟そのものに見えた。


 そして不気味さに拍車をかけていたのが、鎧獣(ガルー)のように体のあちこちに見える鎧のような金属状。

 ような、と言ったのは鎧にしては異質だったからだ。


 それは授器(リサイバー)のように装着されているのではなく、皮膚に埋め込まれ、まるで体の一部となっているようにしか見えなかったから。


 未来の知識があれば、半機械の怪物とでも言ったであろうか。



 いや、それよりもこれは竜だが竜ではない、と先に言うはずだ。



 黄金の怪物の前にアンフェールが立ち、高らかに告げる。



「物知らぬ無知なるお前達に教えてやる。これは貴様らも鎧獣ガルーとする古生物の一つ。最も古き古生物にして、現実に存在した〝本物の〟竜。――恐竜と呼ばれる生物だ」




 恐竜ダイナソー――。




 遥か遠い、ずっとずっと何十億年も昔に存在した、巨大生物。


 それを異形へと変化させたもの。


 それこそが〝破滅の竜〟であったというのか――。

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