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銀月の狼 人獣の王たち  作者: 不某逸馬
第四部 第六章「破滅の竜と竜の魔導士」
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序幕〈プロローグ〉

ラストイヤー! 年末年始特別企画 毎日投稿週間 5日目!



 もう打つ手がなかった。


 敗軍を率いて戦場から撤退するクラウス。


 彼にあるのは、傷跡より痛々しい無力感と悔しさだけ。


 二万の角獅虎(サルクス)に攻め込まれた際にも、それと似たような悲壮感を覚えたりもした。

 けれどもそれから一ヶ月半。

 たったそれだけしか経っていないのに、今とは何もかもが違っていた。


 敵の規模も、絶望的な状況も。


 あの時敵を撃退出来たのは、連合の軍師であるブランドの奇策に加え、セリム、ヤン、クリスティオら他国からの助力があったからだ。だから奇跡とも呼べる逆転劇を実現出来た。

 その彼らがいなくなったわけではない。

 いや、援軍となる味方は、むしろ増えてさえいるのだ。数だけでなく戦力そのもので考えても、桁違いになっているのはむしろ自分達の方である。当然ながらその全員が、今も協力してくれていた。彼らはここにいるクラウスと同じように、一軍を率いて別の場所で戦っているはずだ。――今でも生きていれば、だが。


 メルヴィグ王国最強部隊、覇獣騎士団(ジークビースツ)壱号獣隊(ビースツアイン)


 その壱号獣隊(ビースツアイン)主席官(エアスター)にして王国筆頭騎士、総騎士長であるクラウス・フォッケンシュタイナーとこの部隊でも、為す術がなかった。


 敵軍が強い、数が多い―― 一言で言えばそれだけの事。


 ただし、次元が違う。



 クラウスの部隊が、起伏の激しい原野を退がっていく。

 そこへやおら、けたたましい咆哮が、彼らの頭上から降り注いできた。


 空に翳りを齎す、飛竜(ワイバーン)三騎。


 功を先走った愚か者達だろうか。

 いや、あの者らに戦功を競うという思考があるのかどうか。ただ本能の赴くまま、殺戮に走っているだけだろう。


 脱兎に牙を向ける猛獣の如く、こちらを狩りよい獲物だと言わんばかりに、魔獣たちが飛来からの急降下をかけてくる。

 クラウスが空を睨む。

 彼の纏うレオポンの鎧獣騎士(ガルーリッター)〝覇雷獣〟ガルグリムが、異能の号令を発した。



「〝雷神電撃ブリッツリーク〟」



 ライオンとヒョウの混合種ハイブリットレオポン。

 そのライオンのタテガミがにわかに逆立ち、発光した。激しい明滅。

 同時に、魔獣に向かって高く跳躍をかけた。

 ガルグリムそのものが、光の弾丸と化す。


 それは秒もない刹那。


 魔獣たちに、体当たりじみた衝撃が起こった――と思った直後、彼らの視界が暗転した。


 破裂する人竜たち。


 何が起きたのか――。

 それすら分からぬまま、飛竜(ワイバーン)たちは空中で爆散し、血肉の屑切れとなった。


 ガルグリムの第二獣能(デュオ・フィーツァー)

 全身の毛先から発光現象を伴う猛毒を発生させ、それを敵の体表に刺す事で相手を内部破壊させる恐るべき能力。

 今のは跳躍をして体当たりをしただけだが、雷神電撃ブリッツリーク発動時には、それだけで死に至る。

 角獅虎(サルクス)の変じた飛竜(ワイバーン)ですら、これの前には為す術もないという事。それほどまでの威力。光が雷光のようにも見え、それ故の二つ名が〝覇雷獣〟。


 けれどもその覇雷獣ガルグリムですら、こうやって追い縋る敵を払い退けるのが精一杯だった。

 ただ逃げるしか、方途みちはないのだ。


 クラウス=ガルグリムが後方を振り返る。

 背後に見えるのは、黒々とした壁。

 地平を埋め尽くすそれは、大地に連なる長城ではない。



 あの全てが敵。



 かつての二万を遥かに超える大軍。倍どころの数ではない魔獣の群れが、メルヴィグ王国に侵攻をかけていた。


 さすがの仮面軍師ブランドですら、出来る限りの采配をするのが精一杯。何をどう引っ繰り返しても、これを打ち破る策も手段も、皆無にしか思えなかった。


 ――神よ! 願わくば我らに奇跡を……!


 あのクラウスをして、そう願わずにはおれないほどの圧倒的な敵の物量。


 王国そのものが落とされてしまうのも、時間の問題でしかないように思えた――。

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