第四部 第五章 第一話(終)『古獣覇王牙団』
イーリオ達が天の山に入ってすぐ、微細な振動が彼らの足元から響いてきた。
「……これは?」
「天の山が〝飛んだ〟のさ。元々、飛ぶために姿を見せたんだ。そうじゃなきゃ、丘のまま入り口だけ出してもらって、そっから入りゃいいだけの話だかんな」
「飛んだ――」
鳥の形をしていたのだから、空を飛びもするだろう。それは分からないでもないが、あの巨大さなのだ。どうにも実感が湧かなかったし、とすれば自分達は今空中にいるのだという事になるが、その感覚も一向に湧いてこない。
それに、先ほどから見ている景色だ。
天の山に入ると、そこは隧道のような天井の高くない通路になっていて、いくつかの曲がり角を進む形になっていた。しかしその通路が奇妙なのだ。
壁も床も天井も一面真っ白で、幾何学的な線や模様が僅かに見られるだけ。殺風景と言えばそうだが、ただの白壁なだけではない、無機質さの中に気配のような何かを感じさせる。けれどもそれは勘違いなのかもしれないし、イーリオにはよく分からなかった。
やがてしばらく進むと、ドグが立ち止まって空中を指で叩く。
驚いたのは、何もない宙を叩いたそこに、光のボタンが点いては消えて、まるで鍵盤のように点滅した事だった。
何をしたのかと尋ねる間もなく、今度は三人と二騎の体が、フワリと浮かび上がる。
「!!」
彼らの足元に、光の円盤が出来ていた。それが全員を宙に浮かび上がらせて、そのままゆっくりと空を滑っていったのだ。
「こ――これ……!」
「ああ、最初は驚くよな。俺も前は驚いた。こんなの魔法だぜ、ってよ。まあ、俺は今でもこいつは魔法なんじゃないかって疑ってんだ、正直なとこ。でも魔法じゃねえっつうんだよな。どれもこれも――この天の山も全部、カガクだって言うんだぜ。俺からすりゃあ、こんなの魔法っつうかカミサマの力だって言われた方がしっくりくるんだけど、違うんだってさ。まあこんなのでいちいち驚いてたら、これから先驚くだけで疲れきっちまうぜ」
ハハハと笑うドグは、この霊妙不可思議な全てを、とうに受け容れているのだろう。しかしそれにしても、何もかもが奇異で驚くべき体験ばかりだった。
空を滑る円盤から降りた後も、驚嘆の光景は続く。
暗い中に光る謎の文字に、浮かび上がる幻。
喋る石碑、人が映った輝く窓に、見た事のない図形や動く絵が次々に切り替わる巨大な板。
……いちいち挙げていたらキリがない。目に映る全てが魔法の世界にいるかのよう。
この世のものとは思えぬ数々を、イーリオとレレケは洪水のように次から次へと目にしていった。あまりに新奇で幻妖なものばかりで、二人とも脳内が破裂しそうにさえ感じていたし、クラクラとした眩暈さえ覚えてしまう。
けれどもふと、イーリオは気付く。
「さっきからの景色……。これって思ったんだけど、ゴートの帝都の地下で見た遺跡と、何だか似てる気がする……」
実際に比べれば似ても似つかないものだろうというのは分かっていた。だが、どこがどうと上手く説明出来ないものの、雰囲気というか系統というか、言葉にし辛い何かが、同じようなものだとイーリオは感じ取っていたのだ。
「成る程、イーリオ君のその言葉、当たっているかもしれません。先程ドグ君は、これを科学だと言いました。とすれば帝都の地下で見たものも、この天の山も、同じ科学技術で作られたものなんでしょう。そう考えると腑に落ちる事もあります」
「と言うと?」
「私達が用いる錬獣術も、科学技術そのものです。その根源的な部分は完全に解明されていませんが、例えば病気などが呪いのようなものではなく、目に見えぬ小さな虫が作用している、というのが錬獣術によって分かっているように、その虫の正体も虫を見た人間もいませんが、虫の仕業が一端だとは知っている。錬獣術も同じで、発生の根本原理は分かっていなくても、錬獣術師が鎧獣を創れるのは事実です。でしたらその根源を全て解き明かす事が出来れば、このような巨大な鳥の乗り物や、先ほどからの信じられないものも作れるようになれるのではないでしょうか」
実のところ、イーリオもドグもレレケの言葉はその半分も理解出来ていなかったが、何となく言わんとしている事だけは分かった気がした。
そこへ、声が被さる。
先ほど外で聞いたのと同じ声。同じ若い女性の声だった。
「そこの女、お前なかなかに見どころがある。やはり地上のサイエンティストも連れてきて正解だったな。説明が早く済みそうだ」
今、彼らのいる周囲は、不思議な空間だった。
色のないと言っていいほど彩度の低い立方体が、まるで水中を漂う漂流物のようにふわふわと宙を浮いている部屋。
立方体は大小様々で、どれも何のために浮いているのか、何のためのものか、この空間がどういうものなのかまるで分からなかった。
その立方体の一つに、影が落ちた。
距離があるからか、小さな影。それが立方体ごと、こちらに近付いてくる。
目の前にまで降りてきた時、立方体がかなりの大きさのものであったと気付く。
「女、お前はホーラー・ブクの弟子だな。だったら理解が早いのも納得というものだ」
立方体の上から獣と共に降り立ったのは――
少女だった。
黒髪に黒い瞳。青白い肌。
けれども服装は派手というか扇情的というか、肌の露出は多いし丈の短いスカートといい婀娜っぽいのだが、それとは不釣り合いなほど、幼い容姿の少女がいた。
見たところ年齢は、十三か四といったところだろうか。
しかも容姿と服装のちぐはぐさへ輪をかけるように、腕や腰などに仰々しい刺青が覗いている。
彼女の声は外で聞いたのと同じものだが、言葉の内容や口調を考えると、ちぐはぐすぎる外見だった。
その少女の横には、上顎の犬歯が口部から露出するほどに巨大な牙を持つ、剣歯虎の鎧獣。
少女はともかく、傍らの剣歯虎でイーリオとレレケは判断する。
「貴女が……もしかして……古獣覇王牙団の?」
「ああ、そうだ。ボク様こそ、この天の山の艦長にして主任技師、そして宇宙最高の頭脳を誇る超天才ウルトラマックススーパーグレイトサイエンティストの――ロッテ・ノミだ」
少女は薄い胸板を仰け反らせて、傲然と名乗りをあげた。
しかしイーリオもレレケも、何をどう反応していいのやら。それにウルト――何とかと言ったあたりから、イーリオ達に言葉の意味は伝わっていない。
そこへ今度は、別の声が被さった。
「ロッテちゃあぁ~ん、ちょっと先に行かないでぇ~」
独特の響きを持つ女性の声。
発した方を振り返ると、直後「ぷぎゃ」と聞こえたかと思えば、その場に全力で前のめりに突っ伏している女性がいた。
あまりにも盛大にこけた姿に、イーリオらは呆気に取られてしまう。
「はうぅぅ~ん。痛ぁ~い」
今度の女性も、若い。
しかしロッテと名乗った少女とは違い、大人の容姿をしている。
ただし、華奢なほど痩せているのに実るところはかなり豊かな肢体もあって、とても騎士には見えない。それにロッテと同じく肌の露出があからさまな上着や、丈の短いヒラヒラしたスカートといった服装からは、貴族御用達の上品に着飾った商売女と言われた方が、むしろしっくりくるぐらいであった。
しかし二人目の女性も騎士だと思ったのは、彼女もまた、ロッテとは別種の剣歯虎を連れていたからだった。
「やぁだもう、初対面でこんなの、ニーナ恥ずいぃぃ~」
「恥ずかしいのはお前のドン臭さだろうが。何だそのだらしない体は。無駄にデカい乳袋をぶら下げよって。ボク様達にそういうのは不要だと何回言ったら分かる」
「だぁって、そういう風に〝デザイン〟されたんだもの~。ニーナのせいじゃないよぉ~」
チッと舌打ちを鳴らして、ロッテが腕を組みながら顔を歪める。
「……その……こっちの女性は……?」
空気に耐えかねてイーリオが尋ねると、女性本人が勢いよく立ち上がって名乗りをあげる。ロッテが無駄と吐き捨てた箇所などを激しく揺らしながら。
「はじめまして~。貴方たちがドグっちのお友達ね~。ニーナは、ニーナ・ディンガーっていうの。ニーナとか、ニーナちゃんって呼んでね。こっちのロッテちゃんやドグっちと一緒の古獣覇王牙団やってま~す。で、このゼノスミルスていう~剣歯虎のL.E.C.T.――って鎧獣って言った方がいいのかなぁ~? その鎧獣のお名前を~〝セルヴィヌス〟って言いまぁ~す。どうもぉ、よろでぇ~す」
ニーナと名乗った女性は、片方の指で目元にVを横にした形のサインを出して笑顔を向けた。それがどういう意味の敬礼なのかも、分からない。
何とも言えない、間延びした独特の喋り方。
ここに来てからの緊張感や、先ほどまで見た景色の全部が、イーリオの頭から消し飛んでしまうくらい、二人の個性は強烈だった。
聞きたい事、言いたいこと――どちらかと言えば言いたい事が九割だが――は山のようにある。しかしどこからどう突っ込んでいいやら分からないほど、色々なものがイーリオの頭の中で大渋滞をおこしていた。
結局かろうじて口から零れたのは「はぁ」という何とも間の抜けた一言だった。
「えっと……ドグ……」
「言いたい事は分かる」
「この人達……この人達が、その――」
「ああ、突っ込みたくなるよな。尤もだ。分かる、分かるぜ」
「この人達が……ほんとに古獣覇王牙団……?」
むしろドグの方が、まだ立派に騎士らしいと言えるほど、二人の女性はあまりに浮いていた。彼女らが神の騎士団の団員だとは、どう考えても思えない。
しかしドグは、八年の歳月をこんなとこで無駄に感じさせる威厳ある声で、「そうだ」と頷いた。
思わずイーリオとレレケが顔を見合わせる。その後、レレケが咳払いをして何とか気持ちを切り替えようとする。
「ええ……えっと、ニーナ様と、そちらはロッテ様、ですか。私はレナーテ・フォッケンシュタイナーと申します。どうぞレレケとお呼びくださいまし」
「知ってるよぉ~。そっちのイケメン君がイーリオっちだよねぇ。嬉しいなぁ~。ドグっち以来の若い男の子だよ~、ロッテちゃぁん」
「うっさい。お前は脳足りんでマヌケな口を閉じろ。お前が喋ると香水臭くて鼻がヒン曲がる。無駄乳バカオンナ」
「ひどぉ~い。ロッテちゃんひどぉ~い。ニーナ泣いちゃうよぉ」
「泣け。勝手に泣け。お前が泣こうが喚こうがボク様の知った事ではない」
これはイジメなのか嫌がらせなのか、どう反応していいか分からず、挨拶をしたレレケがむしろ戸惑ってしまう。それを見かねてか、ドグが横から割って入ってきた。
「その辺にしといてくださいよ、姐さん達。まずはこっちの聞きたい事を聞いてから、じゃないッスか」
至極真っ当な突っ込みに「む」という顔になるロッテ。
それを逃さず、レレケがここぞとばかりに尋ねる。
「ロッテ様、貴女は先程、ご自身を天の山の艦長だと仰いましたよね。では、貴女が古獣覇王牙団の代表になられるのでしょうか?」
「ん? 艦長と団長は別だ。ボク様は天の山の責任者だが、アルタートゥムの団長はボク様ではない」
その返事に何か言おうとするも、思い出したようにドグが声を出す。
「お、そうだ。〝ドゥーム〟がいねえじゃねえか。何処にいんだよ」
「それなら――」
ロッテが返事をする前に、通りの良い声がそこに被さる。
「オレなら、ずっとここにいる」
低いような高いような、中性的な声。けれども女性の声。
また女性? と思う間もなく、声はイーリオ達の背後から響いてくる。
驚きで咄嗟に二人が振り返ると、ロッテが乗っていたものよりは小振りな立方体が、すぐ真後ろで浮いている。その上に、片足を立てて座る、影。
立方体が音もなく足元に降りると、その女性の影もはっきりとした。
金髪を短くした、成人女性。
瞳も深い金色で、肌はやや浅黒い。
ロッテやニーナもそうだが、この女性もまた顔立ちが非常に整っていた。しかも二人に比べて、とびきりと言うべきだろうか。年齢は二〇代半ばといったところ。胸は豊かで腰回りもしなやか。男女問わず惚れ惚れとしてしまいそうなほど、とても均整のとれた容姿をしている。
「あ、〝ドゥーム〟」
「そっちで呼ぶなと言ってるだろう、ドグ。また朝まで搾り取ってやるぞ」
「いや、それは勘弁を……」
立方体から降りて地に立つと、イーリオと並ぶほどに身長が高いのが分かる。
それに服装がまた、ロッテやニーナ以上に扇情的な恰好をしていた。ほとんど下着ではないかと思えるくらい、胸元だけが隠れて腹部も両腕や足の大半も剥き出しだ。
ただ一つ、ドグもそうだが全員が袖なしの同じ羽織りを着ているのが、彼女らが同じ所属だという事を示していた。しかもその羽織には白地に同じ模様の金縁があり、それが覇獣騎士団の隊服にある模様と酷似している。
しかしそれ以外は、服装も何もてんでバラバラだった。
「こちらの女性も――」
女性にはぴったりと寄り添うように、他とは別種の剣歯虎が絡みついている。ドグを含めた三人の剣歯虎とも、かなり違う。乗馬以上はありそうなほど、きわめて巨大な体格をしていたのだ。
だが何よりも奇妙というか目をひいたのが、体毛にある模様だった。
虎の縦縞でも豹の斑点でもない、まるで人工的な形にも見える模様。
しかもその模様が――
光を放っている。
――そんな風に見えた。
「ああ。はじめましてだ、イーリオ・ヴェクセルバルグに、レナーテ・フォッケンシュタイナー。オレが古獣覇王牙団の団長オリヴィア・シュナイダーという」
見た目はともかく、言動は残りの二人より一番まともそうに見え、少しほっとするイーリオとレレケ。
「オレ、ロッテ、ニーナ、ドグ――。この四人が古獣覇王牙団だ」
「――え? 四人? 四人って……四人だけ、ですか?」
「そうだ。四人だけの騎士団にして、最強最悪の騎士団。全員が狂気の剣歯虎を使う、最古の牙。それがオレ達、古獣覇王牙団だ」
オリヴィアが連れるのはスミロドン・ポプラトル。
別名〝刀剣虎〟と呼ばれる剣歯虎。
ロッテの牙はホモテリウム・ラティデンス。
または〝三日月刀虎〟。
ニーナは先ほども自分で言ったように、ゼノスミルス。
通称〝斬砕豹〟。
そしてドグの駆るのがマカイロドゥス。
またの名を〝大剣牙虎〟。
四人だけというのは驚きだったが、サーベルタイガーの鎧獣がここまで並ぶと、その迫力というか圧力に圧倒されてしまう。
けれどもそれより呆気に取られたのが、ドグを除く三人が、個性の塊のような女性ばかりという点だ。
全員が美女、または美少女なのはともかく、三人ともに見た目だけならおよそ騎士らしさは微塵もうかがえないというのも異様だった。
いや、異様異質と言うなら、ここに来てから異様すぎる体験しかしていない。今更全員が女性の騎士団というくらいの事を知らされても、それほど動じるものではないはずなのだが……。
しかしそれは――ここまでだった。
「で、この団長のオリヴィアが、おめえらもよく知る、カイゼルンのおっさんの母親ってワケだ」
ドグの説明に、しばしきょとんとなるイーリオとレレケ。
ははあ、この美女がカイゼルン師匠がババアと言ってた母親。成る程、成る程――。
「――って何で?!」
思わず声に出すイーリオ。
「いや、母親?! そんなわけないでしょ? 師匠は五〇を超えてたんだよ?! どう見たってこの人、二十代じゃないの?!」
「いいねえ。いい反応だ」
「ふむ、実に良い突っ込みだな。分かりやすすぎて話が早い」
イーリオの突っ込みに、ドグとロッテがうんうんと頷いている。頷けないのはイーリオとレレケだ。
「ちょ……もうほんと、意味が分かんない……」
頭を抱えるイーリオに、オリヴィアが肩に腕を回して微笑む。途端に香るいい匂いと柔らかな感触に、イーリオは顔を赤らめてドキっとする。
「オレがあのクソガキを産んだのは本当だ。信じられないのも分かるがな、そもそもオレ達は、お前らの言う人間とは違う」
「もしかしてそれは、ヘクサニアの魔導士〝エポス〟と同じ――という意味でしょうか」
「鋭いな、レレケ。厳密にはエポスとオレ達は系統が異なる存在だが、お前らからすれば同じ類いの〝バケモノ〟には違いない」
「バケモノ……」
「オレらもエポスも、お前らの言う〝神〟が造った人間。そうだな、神造人間というべき存在だ」
聞き慣れぬ単語に、絶句するレレケ。
オリヴィアは続けた。
「神話で言う、神が人間を創ったのとは意味が異なる。あれは社会が生み出した物語。オレ達は本当の意味で、〝神〟的存在が直接その手で創造した生命体。だから歳も取らないし、意図的に死ななければ死ぬ事もない」
「不老不死……ですか」
「だが便利とか羨むようなものではないぞ。人間とは異なる存在だからな。似て非なる別の生き物と考えてくれ。それにオレ達は、〝神〟との規約で人間の世界にあまり介入出来んというのもある」
山より巨大な金属の鳥を見たと思えば、魔法の国のような人智を超えた風景に、想像の斜め上どころか遥か何百マイルも彼方にぶっ飛んでいた神の騎士団。そしてカイゼルンの母と名乗る若い美女と不老不死。
ここまで来ると、あまりの飛躍に息切れまで起こしそうになる。
「お前達からすれば、理解出来ない話だろう。混乱するのも当然だ。――だからまずは、お前ら三人に、この世界の成り立ちや、この世の全てを、聞いてもらう」
イーリオの肩に腕を回したまま、オリヴィアが通りの良い声で告げた。それに頷いていたドグだったが、今の言葉を思わず聞き咎める。
「――ん? 三人? 三人って、まさか俺も……?」
「当然だろう。お前はジルニードルの駆り手だが、オレ達三人とは違い、少々体をイジられただけの〝人間〟だ。人間として、ここから最後までお前も付き合う義務がある」
「それにお前、前に少し説明しただけで分からんとか言って聞かなかったではないか、このハナクソ脳ミソのオロカスガキンちょ。わざわざ〝ドゥーム〟やボク様達も説明してやるんだぞ。そこは土下座して喜ぶべきだろうが、ドマヌケ」
「ニーナもいるからね~。だから心配いらないよぉ、ドグちん」
次々に美女に迫られ、凄腕の迫力を持っていたはずのドグが、頬を引き攣らせてたじろいでいる。
一体、この八年間、ドグはこの女性達とどんな過ごし方をしていたのやら。聞きたいような聞きたくないような――そんな風に、イーリオは思った。
「まあ、この世の全てと言ってもかいつまんだものだから安心しろ。それにこれは、お前のザイロウを蘇らせるのにも必要な事だ」
「ザイロウの――?! 蘇るって……蘇るんですか! ザイロウが、本当に!」
「ああ。ただ、お前の言う蘇るというのとは、かなり異なるがな」
「え……?」
深く鋭い金色の瞳を、オリヴィアは向けた。
その色が、どことなくザイロウに似ているような気がして、イーリオは背筋に寒さを覚えるのだった。
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★オリヴィア〝ドゥーム〟・シュナイダー
古獣覇王牙団の団長。
そして六代目カイゼルンの産みの母。
外見は二〇代半ばだが実年齢は千歳を超える。
性格は男勝りというか、ある種男女不詳なところがあり一人称は「オレ」。
尚、アルタートゥムの女性三人は全員性欲が強い。
彼女はアルタートゥムの中でも特殊な立ち位置にある存在。
カイゼルンを〝産めた〟理由もそこにあると言える。
※全身絵は後に掲載予定。
★ロッテ・ノミ
古獣覇王牙団の一人。
天の山の艦長。
彼女も実年齢は千歳を超えるが外見は一〇代。
タトゥーやゴスっぽい服装はただの趣味。
一人称は「ボク様」で己を天才と嘯く。
アルタートゥムの鎧獣は彼女が手がけたもの。
覇獣騎士団のギルベルトに錬獣術の手解きをしたのは彼女である。
※全身絵は後に掲載予定。
★ニーナ・ディンガー
古獣覇王牙団の一人。
彼女も実年齢は千歳を超えるが、外見は一〇代後半か二〇代前半にしか見えない。
フワフワした外見通り口調も何もかもおっとりとしている。
とても騎士には見えない。
しかし実はアルタートゥムで〝ある意味〟一番恐ろしいのが彼女でもある……。
※全身絵は後に掲載予定。




