表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀月の狼 人獣の王たち  作者: 不某逸馬
第四部 第四章「秘事と秘境」
641/743

幕間〈エピローグ〉

2023 夏休み毎日投稿スペシャル最終日!!



「な……! どうして! ここまで来て、我々は着いて行ってはいけないって……どういう事なんですか」


 銀月団の一人、イーリオ達の護衛で随行してきたカシュバルが非難の声をあげる。


「どうしてもこうしてもないよ。最初っから僕たちは、イーリオ君の護衛。天の山(ヒミンビョルグ)まで無事に彼を連れていく事。それが役割だ」

「だったらまだ――」

「その天の山(ヒミンビョルグ)の住人であるドグ君が迎えに来てくれてるんだ。僕らの役目はここで終わりさ」


 ギルベルトはもっともらしく説明するが、今までの経緯もあれば、感情的にも納得が出来ないと三人の団員は不承知の態度を崩さない。


「でも、まだちゃんとその天の山(ヒミンビョルグ)ってとこに着いてはいないじゃないですか。役目というなら、辿り着くまでが役目です」


 ユンテも同じように言い募るが、後からあらわれたユキヒメが、それをやんわりと否定する。


天の山(ヒミンビョルグ)なら、もう辿り着いておる」

「は――?」

「だから私もここにいるのだ。案ずるな、ユンテよ。私がここに来たのはイーリオとの入れ替わりじゃ」

「それって、どういう――」

「私は天の山(ヒミンビョルグ)を降りて、お主らと一緒に王都へ行こう。仔細はその道々で説明してやるゆえな」


 しなやかに――そして以前にも増して艶やかさを増したようなユキヒメの容姿に、ユンテが思わず返す言葉を失う。


「へえ、じゃああれかな。ユキヒメちゃんの修行は――」

「ああ、もう終わった」


 ギルベルトの問いに、ユキヒメが不敵に笑う。


「ハナと私の〝軍荼利グンダリ〟も、もう直に来る頃じゃろう。それ故、我々は離れなければならん。天の山(ヒミンビョルグ)に入山するには、いや、その姿を見れるのは、天の山(ヒミンビョルグ)に認められた者だけだからな。そして一度下山したなら、アルタートゥムでない限り、もう立ち入る事は許されん」


 言葉の後、ユキヒメはイーリオとレレケに視線を送った。

 ギルベルトもユキヒメも、ここからはイーリオとレレケしか進む事は出来ないと言っているのだ。

 どれだけ説明をされようと、どうしても団員ら三名は納得出来なかったが、不承不承であっても、最終的には呑まざるを得なかった。そうしなければ先に進めないと言われてしまえば、頷くしか道はないからだ。


 やがてドグと三人だけになったイーリオは、改めて彼に向き直る。


「聞きたい事がヤマほどあるって顔だな。――ま、そりゃそうだろう。勿論話すよ。ただ、まずは天の山(ヒミンビョルグ)だ。目の前にあるから、そこまで行こうぜ」

「目の前って――さっきもユキヒメさんがそんな事言ってたけど、それっぽいものは何処にもないんだけど……」


 イーリオは辺りを見渡す。

 空は既に星々と満月で闇の明るさになっているが、何かが変わったような様子はない。


 ギルベルトは天の山(ヒミンビョルグ)が〝動く〟ものだと言っていた。しかしそういった何かが移動してあらわれたような気配すらなかった。


 いや――


 と、イーリオはこの時思った。

 そもそもドグもユキヒメも、一体何処からあらわれたのだ。

 誰かが近付いてきたのなら、その気配に気付くはず。

 少なくとも、レレケは先ほどの戦闘時に鎧獣術士(ガルーヘクス)だったのだ。感知に長けた術士である以上、戦いの際にそんな異変があれば気付かぬはずはない。


「へっ――そりゃ見えるわきゃねえよ。何処にあるかなんて、俺たちアルタートゥム以外に分かるヤツなんていねえからな。あ――カイゼルンのおっさんは別だったけどよ」

「ドグ、師匠とももしかして」

「ああ、ちょっとだけな。つい最近も神色鉄(ゴットファルベメタル)を貰いに、天の山(ヒミンビョルグ)に来てたからよ。少しだけ話もしたぜ」


 ドグとカイゼルンに、面識はほとんどないに等しいはずだった。しかしドグは知っている。

 イーリオの知らないところで、カイゼルンとも会っていたなど思ってもしていなかったし、そもそも自分は一体どれだけの事を知らないのか。


 カイゼルンもギルベルトも、あまりに隠し事が多いと思ってしまう。

 何も言ってくれないし、どれだけ尋ねてものらりくらりと躱されるだけ。その事に多少なりとも腹が立たないわけではないが、「まあ許してやれよ」とドグの口から言われると、それ以上は何も言えなくなってしまう。


 何よりも、ドグだ――。


 やはり目を疑う。目の前にいて話しているのに、それでも幻ではないかと思ってしまう。

 八年前のメギスティ黒灰院で、彼は十三使徒の一人に殺されたはず。

 その瞬間も、目にしている。はっきりと。今でも克明にその時の情景を思い出せる。

 けれども歳月相応の加齢はあれど――いや、むしろそれだけに、目の前のドグは紛れもなくドグだと明言出来た。

 何より、イーリオ自身がそうだと断言出来る。

 姿が――会話が――何よりも胸の奥底の魂が――

 ドグが生きていたと告げていた。


 しかもさっきの一言だ。

 ただ生きていたというだけではなく、彼は自分を古獣覇王牙団アルタートゥム・ジーク・ファングだと言ったのだ。


 未だに信じられない気持ちでいっぱいなのに、もはや感動よりも混乱が先立ってしまう。


「じゃあ着いてきてくれ。目の前に、もう天の山(ヒミンビョルグ)は見えてるからよ」


 ドグの向かう先にあるのは、小高い丘が起伏となっているだけの沃野。

 何もない。ただの野原にしか見えない。

 それでもドグの言葉に、イーリオは疑う事もせずに大きく頷いた。


「じゃ、そうだな。まずは俺が死んだ――ってなったあの時から、話していくよ」


 語られる、ドグのこれまで。

 その話にも驚くばかりだったが、実はそれですら、序の口でしかなかった。


 驚きの中、やがて神々の騎士団がいるという地に、近付いていくイーリオとレレケ。


 彼らはこの後、更なる信じられないものを目にする事になる――。



次回からは毎週金曜の夕方から夜の投稿になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ