第四部 第三章 第七話(2)『疾風断罪』
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メルヴィグ連合王国北方守護の要・マクデブルク城砦は、既にその原型を失っていた。
数百年に渡って北の防衛線を守り抜いてきたこの城を炎で包み、謎の爆破で吹き飛ばしたのは、目の前の業火を操る灰の王。
その王と対峙しているのは、城砦の主、北方守護の総督にして覇獣騎士団・参号獣隊・主席官のイェルクと、彼の駆るジャイアント・チーターの〝ゼフュロス〟だった。
「イェルク主席官!」
イーリオが名前を呼んだ事で、向かい合っていた両騎がこちらに気付く。
片方はどういう事だと言わんばかりに驚き、もう片方はほんの少しの驚きとそれを遥かに上回る興奮と殺意を剥き出しにして。
「イーリオ君?! 何で君がこないなとこにおるんや?」
イェルクから南方訛りの言葉。
彼が纏うゼフュロスの全身は、爆風によって煤けているものの、傷などはそれほど見当たらない。
「仲間と王都に向かう途中なんです。そしたらここが燃えているのが見えて……」
イーリオの語尾を掻き消すように、無遠慮な破壊の残響が重なり、地響きが起こった。崩れていく瓦礫。その向こうから、巨大な影がいくつも姿をあらわす。
五騎、六騎――灰色の巨体を持つヘクサニア教国の破壊の尖兵、角獅虎。
それが次々に煙を縫って姿を見せていた。
ある者は巨大すぎるツノにチーターの鎧獣騎士を貫いたまま。
またある者は大剣の背に同じようなチーターの騎士の半身をぶら下げて。
酸鼻にして惨憺――。
犠牲が参号獣隊の隊員たちなのは言うまでもない。特殊な戦法を得意とする最速の騎士団でも、この魔獣らの前には歯が立たなかったのが一目で明らかになってしまう。
それより少し遅れて、まだ生存している参号獣隊の騎士達も姿を見せるが、見るからに疲弊と消耗が尋常ではなかった。数も少ない。ここには百騎近い数のメルヴィグ騎士がいるはずなのに、視認出来るだけでも指折り数えるほど。恐るべき事に、これが生き残りの総数なのだろう。
イーリオの後ろで、銀月獣士団の仲間達の息を呑む気配がした。
彼らがゴート帝国の帝都から脱出した際も、これとよく似た光景を目にしていたからだ。出来ればそれは思い出したくないし、再びこの目で見たい景色ではなかったのだろう。
だが、問題はそれですらなかった。
それを上回る凶々しさの元凶が、角獅虎らの群れという目の前の恐怖を霞ませたものにしてしまっている。
その恐怖そのものが、興奮を抑えるように声を震わせながら言い放った。
「ここを抑えて待っていれば必ず来る。ヘルの言った通りだな」
「ファウスト……!」
「待ち侘びていたぞ、今日という日を」
ヘクサニア教国教王ファウスト。
国王というだけでなく、同時に教国の筆頭騎士。
身に纏うは非常に大柄な捕食動物の鎧獣騎士。古代絶滅種ヒアエノドン科の仲間、神魔王狼の鎧獣騎士。
燃え盛る怪火を操る、偉大なる頂点捕食獣にして獣の王。〝ベリィ〟であった。
「ここを抑えていればだって……?」
「言ったままの意味だ。貴様を待ち受けるためにこの城を燃やした。貴様は火に誘われた蛾のように、まんまとここに呼び寄せられたという事だ」
「何だと」
「自分のせいでこんな事になってしまった、と思ったか? まあそうだ。貴様のせいなのは間違いないな。だが気に病む事はない。貴様のせいであろうとなかろうと、ここを含めて全ては焼かれる運命にある。我らがオプス女神より賜りしこのベリィの浄化の炎によって、全ては正しき世界へと再生されるのだ」
刀身の先端に切先がなく、孤を描く形になっているのがベリィの持つ処刑人の剣の特徴だ。
その先端をイーリオ=ザイロウに向けると、剣先から炎があがった。
鎧獣騎士の異能、獣能とは魔法ではない。超常の力ではなく鎧獣の肉体の超異能化、特殊化によって発現させる能力なのだ。
原理不明の超常現象など起こせるはずもなければ、空を飛んだり水を割ったりなどの奇跡を操れるわけがない。当然、炎を生み出して燃やしたりなど、出来るはずがないのだ。
けれどもベリィは、それを目の前で起こしている。
その恐ろしさを、イーリオは一度直接その身で受けていた。ザイロウの放つ異能の副産物のような幻炎ではない。物理的な、それも超高温の熱量を持つ豪火。
大地に穴を穿つほどの威力を持つのは知っていたが、まさかマクデブルクの城を燃やしてしまうまでの炎であったとは――。
最早それは、魔法――いや、神の力か悪魔の術かと言うべきかもしれない。
予想だにしていなかった状況に、イーリオが圧倒されそうになっていたところ、
「ちょっと待ったらんかいな。勝手に盛り上がるんちゃうで。貴様の相手はボクゥやろ」
手先で器用に短剣を翻らしたジャイアントチーターが、神魔王狼に対して啖呵を切った。
「何だ、死に損ない。貴様にもう用はない。貴様はイーリオの連れと一緒に、角獅虎どもとでも遊んでいろ」
「ハッ、ボクゥも随分舐められたもんやねぇ。言っとくけど、まだ勝負は着いてへんで。確かにアンタは相当に強い。けど、一度だってボクゥに致命傷は当てられてへん。つまりボクゥの〝ゼフュロス〟は捕まえられてへんっちゅう事や。ちゃうか?」
確かにイェルクの言う通り、彼の纏うジャイアントチーター〝ゼフュロス〟の全身に、目立った外傷はない。それらしい跡も。
人呼んで〝疾風ゼフュロス〟。
この大陸で、これより速い騎士などいない。
大陸最速の脚力を持つ、誰にも追いつけない風の覇者。
かつて神聖黒灰騎士団の前身、灰堂騎士団の総長であったゴーダンに後れをとった事もあったが、あれはゴーダンの纏うジャイアント・バイソンの〝バロール〟の特異すぎる異能と防御性能に阻まれたところを狙われたのであって、速度では捕捉されていない。
仮に動きを読まれていたとしても、その予測すら追いつかないほどの速度で相手を上回ればいいだけの事。それを可能にしているのがこのゼフュロスである。
最大の防御にして最大の攻撃。
それこそが〝速さ〟。
その速さの極限にいるのが〝疾風ゼフュロス〟である。
「チョロチョロと走り回るしか能のない野良猫風情が何をほざく。まだ勝負が着いてないだと? 力の差も理解出来ぬとは、名に聞く覇獣騎士団の主席官とやらも、所詮はその程度か」
だがそんなイェルク=ゼフュロスにも、ファウストは侮りと言えるほどの余裕を崩さなかった。
「そっちこそ、ボクゥが本気を出して戦ってるとでも思たん? そら随分と浅い了見やな」
「己の部隊を壊滅させられ、城まで焼かれていながらまだ本気も出してないなど、貴様こそ認識が甘すぎるのではないか? 足の割に思考の遅さは大陸一と見える」
「言うてくれるやないの。せやったら、こっからとくと見せたるわ。ボクゥのマジもんの実力、最速の剣っちゅうのをね」
力強くなる語尾。
その際、ほんの一瞬だけイーリオの方をチラリと見るジャイアントチーターの騎士。
目で何かを訴えるような、そんな風にイーリオは感じた。
何を――?
今の内に逃げろと言ってくれたのか。いや、そんな生温い相手でない事は、イェルクほどの者が気付かぬわけがない。
大陸最速の騎士がその背をこちらに見せた時、イーリオは直感した。
――自分の戦いを見ておけ。
言葉とは裏腹に、イェルクは炎の王には勝てないと分かっている。自分が立ち向かっても倒す事など出来ないと。しかし一太刀なりとも傷を負わせられれば、後に続くイーリオを少しでも有利に出来るかもしれない。仮にそれが叶わずとも、自分とファウストとの戦いから何か突破口が見出せられればいい。
イェルク=ゼフュロスは自身の背中で、そう自分に語りかけている――。
そんな風にイーリオは感じたのだった。
その両騎のやりとりにあてられたのか、闘争本能が堪え切れなくなったかのように、角獅虎たちが一斉にイーリオ達の方へと襲ってくる。
残存する参号獣隊たちが食い止めようとするも、木の葉のように蹴散らされるだけ。
しかし銀月獣士団の反応は素早かった。
それはイーリオも含め、団の面々が百戦錬磨だったというだけでなく、彼らが対・角獅虎戦に特化した傭兵集団だったからというのもあるだろう。
「ここは我らにお任せを」
真っ先に飛び出したのは副団長代理のユンテ。
古代絶滅種の虎、龍担原始虎の〝雷震子〟を纏う異国の戦士。
双剣を閃かせ、まさに虎そのもののようなしなやかな動きで踊りかかり、魔獣騎士にもまるで怯まない。
彼の実力は銀月団でも一、二を争い、正面からやりあえばイーリオとも互角に渡り合えるものを持っていた。つまり団の中では角獅虎を相手に抗しきれるもう一人の騎士という事になる。
更にユンテに続き、司祭騎士のシーザー、三獣士のゾラとカシュバルも連携を取って陣形を組む。
鎧獣術士であるドリーはイーリオ=ザイロウのすぐ傍らにいるが、彼女も人獣の術士として術を展開している。
全員の調子は、決して十全とは言い難い。疲弊も消耗もそれなりに蓄積されている。けれどもここまでの道のりが彼らを鍛え上げていた。激しい実戦こそ、どのような修練にも勝る経験となりうるのである。
そのお陰もあり、一時は蹴散らされた参号獣隊だったが、超実力派の銀月団と連携を取る事で、何とか角獅虎たちとも拮抗していく。
そしてその間にも、参号獣隊・主席官のイェルクと、教国教王ファウストとの戦いははじまっていた。
生物界最速を有するチーターの中でも、ライオン並の巨大種、それがジャイアントチーターである。速度は現生のチーターと同等で、体格が大きいのもあって全ての身体能力が通常のチーター以上のものを持っていた。
加えて特級以上の性能を持つがゼフュロスなのだ。
姿は既に、捉えきれる領域に存在しない。
音は空気の壁を破り、残像を追うのでさえ精一杯。
チーターの速度は時速八〇マイル(約一三〇キロ)にもなるというが、一般的に鎧獣騎士の身体能力は動物時の三倍ほどになると言われている。
つまり単純計算ならばゼフュロスの最高速度は時速二四〇マイル(約三九〇キロ)という計算になる。
最早生き物とさえ言えるかどうかすら怪しい、超常すぎる速度なのだ。
だからチーターが主体の参号獣隊では、その最速を活かし、突風のようになって先制で相手を倒すという戦法を取る。時速二四〇マイル(約三九〇キロ)の攻撃など、分かっていても防げるものではない。
とはいえそんなチーターにも大きな欠点があり、それは体力が僅かしか保たないという点であった。
チーターが最高速度を出せるのはほんの一〇秒から二〇秒ほど。鎧獣騎士であっても一分保てばいい方なのだ。
だがほとんどの相手ならば、一分もあれば最高速度の波状攻撃で蹴散らせてしまうものである。
しかし角獅虎が相手となるとそうもいかなかった。ましてやその角獅虎すら遥かに凌ぐ魔獣達の王であるファウスト=ベリィともなれば、一分の超速など話にすらならない。それどころか仕掛ければ反対に痛手を負うのは間違いなく攻撃側。
仮に速度を利用した撹乱戦法を取ったところで、ファウストほどの騎士に通用するはずもなかった。
しかし――
「〝旋風脚〟」
ゼフュロスの号令と共に、ジャイアント・チーターの足の形状が大きく変化する。
爪が大きく硬くなり、一段階両足が太くなった。胸も一回りほど膨れ上がったように見える。
気付けば既に、ゼフュロスは一分を超えて走っていた。
その速度は一八六マイル(約三〇〇キロ)を超えているのは間違いないのに、足は止まる事がないのだ。
これこそがゼフュロスの獣能。一分程度しか維持出来ないチーター種の最高速度を長時間に渡って可能にするというもの。
外見上の変化は然程だが、両足のみならず心肺機能を大幅に作り替えているため、ほぼ全身に変化を及ぼしているといっていい異能であった。
こうなるともう、手のつけようがない。何せこの速度に追いつける騎士などこの世にはなく、それが止まらないのだ。
「ふん。さっきと変わらずちょこまかと走るだけか」
それでもファウストの余裕は変わらなかった。
ここでイェルク=ゼフュロスが超速のまま仕掛ける。見る限り、ファウスト=ベリィがこちらを捕捉出来ているようには見えない。
死角に近い左斜め後方からの攻撃。
背後からだと見え透いた攻撃と、見破られてしまうおそれがあったからだ。
ところが――
目にも止まらぬ速度のままでそれを乗せた速さの双剣を閃かせるも、神魔王狼は無造作に上げた片腕でこれを弾いた。
が、そうなると見越した動きで、ゼフュロスが方向転換をする。
攻撃と離脱を繰り返した激しい出入り。息つく暇もなくファウスト=ベリィが剣の雨に晒された。
しかしそのどれもが、ベリィによって悉く捌かれていった。
――やはりな。
イェルクは軽く舌打ちをする。
おそらくは奴の異能によるものだろう。どういう原理かは分からぬものの、あの神魔王狼の人獣騎士は、こちらの攻撃を事前に察知しているようなのだ。これはイーリオ達が来る前の攻防で、既にイェルクが気付いたところでもある。
正確にはそうではないかと当たりをつけたところに、イーリオらがあらわれたというのが正しかった。
最高速を維持する獣能を出したのは、それを確認する意味もあったのだ。その予想が確信になった今、彼の決断に迷いはない。
――せやったら、これならどうや!
激しい出入りをかけながら、イェルクは第二の号令を放つ。
「〝韋駄天〟」
ジャイアントチーターの両足がさらに変形した。元のチーターの形状に近いが、それにしては長く大きい。だがこの際、見た目などどうでもよかった。
問題は速さだ。
速度がもう――超常の域を超えていた。
先ほどよりも、更に増した高速。
ゼフュロスの疾走った後に、何もかもを吹き飛ばした轍が出来るほど。
神風が生む、風の一本道。
突風の象徴である〝西風の神〟の名の通り、生物の知覚を超えた速度であった。
「このゼフュロスの第二獣能を前に、それでも捉える事が出来るんか?」
チーターの鎧獣騎士の最高時速を更に上限突破したその速さは、この時既に時速三一〇マイル(約五〇〇キロ)を超えていた。圧倒的ですらある。
とはいえ、ここで一つの疑問が浮かぶかもしれない。これほどの速さがあるなら、どうしてこの第二獣能をすぐに使わなかったのか? これには、部隊を率いる隊長としての、イェルクなりの理由があった。
第二獣能〝韋駄天〟は尋常ならざる速度を得るのと引き換えに、精力が切れて発動が解除されると、ゼフュロスそのものも動けなくなってしまうのだ。
制限時間が短いというわけではない。〝旋風脚〟も併用しているので、すぐに速度が落ちる事はなかった。しかしいくら最高速を長時間維持出来るといっても、限界はある。そして一度これが力尽き減速してしまえば、かなりの長い時間、鎧獣騎士にすらなれなくなってしまうのだ。
これを、イェルクは懸念した。
仮にこの力でベリィを退けたとしても、角獅虎の大軍がまだ残っている。そして参号獣隊では、これに対し返り討ちにあってしまう可能性があった。
しかし今はイーリオ達の登場により、その心配はなくなった。
彼ら銀月獣士団がいれば、例え自分が動けなくなったとしても後は何とかなるだろう、と。ならば心置きなく全てを出し切れるというものだった。
時速三一〇マイル(約五〇〇キロ)が駆ける――。
音速の半分の速度を出す生き物など、この地上にゼフュロス以外にいるはずがない。それを捕捉出来る生物も。
いかなる方法で感知を試みたとしても、生物が反応可能な領域ではなかった。それが鎧獣騎士であってもだ――。
風を超えた速さのまま、イェルク=ゼフュロスは神速の剣を放つ。
レーヴェン流の奥義〝曲操剣〟。
高速移動のまま体を左右に揺さぶり、己の武器の出どころを分からなくしてから斬りつけるという高等技。相手はいつどうやって斬られたか分からぬまま、一瞬で仕留めるというもの。
知覚不可能な速度の上に、幻惑の高等技の掛け合わせである。これをあえて、正面から放つ。むしろ真正面の方が幻惑にかかりやすいというものだ。
ファウストは反応など出来るはずがない。そもそも見えているはずがないのだ。回避も不可であれば反応も不可能。
そのはず――だった。
ゼフュロスが必殺の剣を振るう。
剣が相手の殺傷圏内に入った――その直後。
火炎が噴き出した。
ゼフュロスの剣が腕ごと、真紅の炎に包まれたのだ。
――何?!
そんな風に思う間もない。
炎が魔物の舌のように両腕を舐めると、激しい爆発が起こった。
衝撃が逆風となり、一帯に荒れ狂うつむじ風が生じる。あまりの攻防の速さに、見ていたイーリオは何が起きたのかまるで理解出来ていなかった。
凄まじい爆風が瓦礫の上に更なる瓦礫を生み、重層的な土煙のカーテンで視界を覆う。
やがてその土煙が晴れていくと、そこには横たわるイェルク=ゼフュロスの姿。
両腕が、煙を上げながら真っ黒になっていた。
火が着いて燃えているというのではない。火傷で爛れてもいない。驚くべき事にそれらを通り越し、両方の腕は既に炭化をしていた。
一体どれほどの高熱を浴びれば、一瞬で消し炭に近くなるのか。あの爆発も、あまりの一瞬で超高熱を発生させたために生じたものだろうか。
腕の鎧部分や双剣ですら、焦げて黒くなっていた。
体に残る高熱と炎の残滓のせいか、ジャイアントチーターの全身からも、肉の焦げる匂いと煙が立ち昇っている。腕があまりにひどいためそこばかり目立つが、おそらく全身の細胞が沸騰しているような感覚に陥っているのだろう。
当然の事ながら、その煙に混じって別の白煙も徐々に発生しつつあった。
強制解除のしるしである。
両腕は完全に〝死〟に、立つ事さえ覚束ない。
ゼフュロスが攻撃を仕掛けてから、まだ数分ほどしか立っていなかった。だがほんの数分であろうとも目まぐるしい攻防があり、勝利は灰色の教王が易々と手にしたのであった。
この時やっと、ファウスト=ベリィが動く。
ゆっくりとした足取りで、イェルク=ゼフュロスが倒れる方へと近付いていった。
手に待つ処刑人の剣を、肩に担ぐようにして。
「ベリィの炎は俺の怒りそのもの。足がどれだけ速かろうが、そんなものは怒りの炎の前にまるで無意味。俺の怒りに触れる者は、悉く灼きつくされるまでだ」
ゼフュロスに近付いたベリィの口から、暗く低い怒りが溢れ出す。
翳される剣。
灰色の体毛と項の紅いタテガミが、自身の放つ熱のせいか逆立っている。
「今、首級を落としてやろう」
処刑人の剣が、閃いた。
まさに咎人を断罪するかのように、ジャイアントチーターの首が斬り落とされる――かに思えた刹那。
凄まじい金属音をあげ、処刑人の剣を受け止める者がいた。
白銀の体毛が、震えている。
「そうはさせない」
銀毛の大狼。
イーリオ=ザイロウが、教王の剣を止めていた。




